二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 26章 リベンジ・マッチ!vsアロエ! ( No.51 )
日時: 2020/08/12 22:47
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

ポケモンセンターで治療を受けて無事にフシデの毒が抜けたリオは、ポケモン達を回復させて
アキラの勝敗を知る為に博物館へと向かっていた。
因みに「病み上がりだから心配」と言って、アーティはリオの左側に寄り添う形で歩いている。

何故そこまで密着しているのかと言うと、毒をジョーイさんに抜いて貰ったとは言えど
リオが未だ腫れている右足を庇い左足に重心を置いて歩いているので、何かの拍子に左足を挫いて
バランスを崩し、そのまま転倒して怪我を負う事を危惧したアーティが、バランスが崩れても
すぐに支えて助けられる様にとリオの腰に手を回してバランスを取っているからだ。

下心は一切無く、親切心から来る行動だと理解している。
しかし、事情を知るのはごく僅かの人間だけだ。
故に——

「アーティさん……やっぱり恥ずかしいです。さっきからすれ違う人にジロジロ見られて
 時々ヒソヒソ声も聞こえるし」
「でもねーこれしか良い方法が思い浮かばなかったんだ。リオちゃんの状態を知っているのは
 ボクとジョーイさんだけで、ジョーイさんは仕事で忙しいからキミを助けられるのは
 ボクだけだ。それを知っていながら帰る程、ボクは薄情じゃないよ」

優しい眼差しを向けるアーティの言葉に嘘偽りは無い。
だからこそ、これ以上優しい彼が何も知らない第三者に変な目で見られるのは耐えられない。
アーティのお蔭でバランス感覚も取り戻しつつあるし、遅くなってしまったが1人で歩こうと
リオは身を捩りアーティから離れようとするが、長い腕に阻止されて更に密着する羽目になった。

「このままだとアーティさんに変な噂が」
「平気だよ。あ、そこ石があるから気を付けて」
「……おんぶされた時も思いましたけど、アーティさんって過保護ですよね」
「リオちゃんこそ。往生際が悪いと言うか、結構頑固だよねえ」
「そんな事は無いです。ここまでありがとうございました、アーティさん。アーティさんのお蔭で
 何だか足も完全に治ったみたいです。ここからは私1人で……」
「だーめ。嘘だってバレバレだし離さないよ」
「意外にキレ者!」

その後も何度かあの手この手でアーティから離れようとするリオだったが、アーティの方が色々な
意味で何枚も上手で、最後にはリオの方が「参りました」と白旗を上げた。
長きに亘る戦い(大袈裟に言っているが数分の戦いである)に終止符を打ち、リオが羞恥心と
罪悪感と疲労感が入り混じった表情で前方を、アーティが慈愛に満ちた表情でリオを見ながら
ゆっくり歩いていると、博物館前で身長差のある男女が話をしているのが見えた。

男子の足元に居るイーブイが逸早くリオに気付いて、嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らした。
イーブイの愛らしい反応にリオの頬が緩む。

「見付けた」
「ん?……キミの会いたかった幼馴染って男の子だったんだ」
「はい。アキラは私の幼馴染で親友で、1番のライバルなんです」

緩んだ頬をそのままに、博物館前で女性——アロエと話しているアキラを見つめたまま
答えるリオにアーティは目を細める。
リオの視線に気付いたのか、アキラが走って、アロエが歩いてこちらに向かって来る。
アーティはリオの腰に回していた手をそっと離した。

「よぉリオ。……もう大丈夫みてぇだな」
「うん。ごめんね、アキラの試合、見に行けなくて」
「気にすんな。苦戦したが、何とか勝てたからな」

リオの頭を撫で、アキラは微笑む。

「そっか。おめでとう、アキラ」
「サンキュ。次はお前の番だ、リオ。どんな事が起ころうと、最後まで俺が見届けてやる。
 だから、絶対に勝てよ」
「ええ!」

リオは頷くと、アロエへと向き直り頭を下げる。

「アロエさん!もう1度ジムに挑戦させて下さい!」
「勿論良いよ。あたしも、アンタとのバトルを楽しみに待っていたからね!」

豪快に笑って背中を叩くアロエに、リオも笑顔になる。
そんな微笑ましい女性陣を余所に——

「…………ところでアンタ、誰?リオと一緒に来たけど」
「ボクはアーティ。リオちゃんとは……まあ、色々縁があってね。ボクが勝手について来たんだ」
「へーぇ?てっきり変なカッコした、タチ悪ぃ変態かと思った。10歳の女の子の腰に手を回すとか
 何考えてんすかね?」
「リオちゃんを思ってした事だよ。彼女も顔や口では恥ずかしがっていたけど、最終的にボクに
 体を預けてくれたから何も問題無いさ」
「……リオはジム戦後に怪我か何かで足を悪くして、アーティさんは偶然その場に居合わせた。
 治療を終えたばかりなのに、いきなり1人で歩こうと無茶をするリオを心配して付き添いで
 ここまで来た。こんな所っすか?」
「驚いた。凄いね、合ってる」
「俺の代わりにリオの面倒を見てくれた事に関しては本当に感謝してます。でも、親切心から
 やった事だとしても密着し過ぎっす。ああ見えてリオは必要以上に目立つのを好まないし、
 親身になってくれた相手が悪く言われるのを当人以上に嫌う質なんで、道中は相当キツかったと
 思いますよ」
「そうか、だからあんなに……うん、分かった。次からは気を付けるよ。同じ失敗をして
 リオちゃんに嫌われるのは避けたいし」
「大丈夫っす、次なんて一生来ないんで」
「手厳しいねえ。一生来ないなんて事、それこそ一生来ないんじゃないかな?」

アキラとアーティの間で火花が(一方的に)散っている様子をアロエは楽しそうに見ていたが、
リベンジに燃えるリオは全く気付かなかった。


地下の階段を下りると、広いフィールドがリオ達を出迎えた。

「アーティとアキラは観客席で見学してな」
「分かった、アロエ姐さん」
「はい」

(「ねえさん」は、アロエさんの事だったのね)

謎が解けたリオはフィールドの端へと歩いて行くアロエを見ると、ヒトモシをボールから出して
抱き上げる。

「アキラ、ヒトモシの事お願い」
「別に構わねぇけど本当に良いのか?アロエさんは強敵だぞ?」
「分かってる」

見つめ合う2人の間に沈黙が流れる。
暫くしてアキラが徐に口を開こうとした──その時、今まで話を黙って聞いていたヒトモシが
リオの袖を引っ張った。

『モシ……!』
「大丈夫よ。貴女には……恐いと思うけど、私達のバトルを最後まで見てて欲しいな」

リオは屈んで、安心させる様にヒトモシのもう片方の小さな手を優しく握った。
最後に頭を撫でて、リオはフィールドに向かって歩き出す。

『モッ……』

自然とヒトモシの手が、リオの袖から離れる。
ヒトモシは遠くなっていくリオを、金縛りにあった様に、ただ呆然と見つめていた。

「それでは審判はわたくし、キダチがしましょう」

キダチは表情を引き締め、フィールドに立つ両者を見遣る。

「これよりシッポウジム、ジム戦を始めます。使用ポケモンは2体。先に2体が戦闘不能になった方が
 負けとなります。ではママ……じゃない。ジムリーダーとリオちゃ……じゃない。挑戦者は、
 ポケモンを出して下さい!」
「出て来な、ハーデリア!」

アロエが最初に繰り出したのは、忠犬ポケモンのハーデリアだ。

「最初に戦った時と同じね。でも、私はこの子で行くわ!チラーミィ!」

ハーデリアに対してリオが繰り出したのはシビシラス──ではなく、新メンバーのチラーミィだ。

「おや?そのチラーミィ、新顔だね」
「はい。【ヤグルマの森】で生まれたんです」
「そうかい。でも、生まれたばかりのポケモンで挑んで勝てる程、あたしのポケモンは甘くないよ!」
「確かにこの子は生まれて間もない上にジム戦は初めてです。でも、私はこの子に救われました。
 それに森で沢山戦って、いっぱい経験を積んで強くなりました。アロエさんこそ、この子を
 甘く見てると痛い目に遭いますよ!」

そう告げて不敵に笑ったリオに、アロエはポカン、とするが、すぐに楽しそうに笑う。

「はははっ!このあたしの言葉を、そのままソックリ返す挑戦者が現れるなんてね!」

アロエはそこで笑うのを止め、目を細める。

「リオ、アンタのポケモンへの愛情……もっともっと見せて貰うよ!」
「……勿論です!」
「試合開始っ!!」
「行くよハーデリア!《噛み付く》!」

開始早々に、ハーデリアは牙を剥き出してチラーミィに襲い掛かる。

「チラーミィ、右に避けて!」

しかし《噛み付く》は今までのジム戦で分かる様に、少し軌道をずらせば割と簡単に避けられる技だ。
現にチラーミィが右にジャンプすると、ハーデリアの攻撃は未遂に終わった。

「《往復ビンタ》!」

チラーミィはハーデリアの目の前まで移動すると、両頬を連続して叩く。
次々と繰り出される強烈なビンタと音に、観客席に座るアキラは息を呑んだ。
ヒトモシは瞳を揺らしてフィールドを見つめ、隣に静かに座るイーブイはヒトモシを横目で見た。

「反撃だ、ハーデリア!《突進》!」

ハーデリアは激しいビンタを振り解くと、頭からチラーミィに突っ込む。
お腹に攻撃を喰らったチラーミィだったが、スピードが出ていなかった為に技の入りが浅く、
それほどダメージを受けずに済んだ。

「《くすぐる》!」

チラーミィはハーデリアの後ろに回り込むと、手と尻尾を動かしてハーデリアをくすぐる。

「チラーミィを引き剥がすんだ!」

ハーデリアは腰が砕けそうになりながらも、尻尾を銜えチラーミィを引き剥がす。
尻尾を咥えられて逆様でぶら下がっていたチラーミィだったが、反動をつけて回転して
ハーデリアの鼻先を踏み付けた。
その痛みでハーデリアは尻尾を口から吐き出してチラーミィを解放する。

「このままじゃ埒が明かないね……ここは大技で逆転するよ!《ギガインパクト》!!」

ハーデリアは持てる全ての力を使い、向かって来る。
その速度、威力は見ただけで《突進》とはケタ違いだとリオは思った。
チラーミィも肌でそれを感じるのか、冷や汗を垂らして不安気にリオを振り返る。

しかし

「大丈夫よ、チラーミィ」

リオに焦っている様子はなかった。
それどころか笑って自分を見つめるリオに、チラーミィも覚悟を決めて猛スピードで迫り来る
ハーデリアに向き直る。

「《アクアテール》!」

チラーミィは尻尾に纏った水を鞭の様に振るうと、ハーデリアに叩き込む。
そのうちの1発…横腹への攻撃に、進撃していたハーデリアの動きが鈍った。

「くっ……!」
「チャンスよ!もう1度《アクアテール》!」

チラーミィは高くジャンプすると、押さえ付ける様に上から水を纏った尻尾を振り下ろした。
砂煙と水飛沫が舞い起こり、視界を悪くする。

そして煙が晴れた先に居たのは、地面にめり込んで目を回しているハーデリアだった。

「ハーデリア、戦闘不能。チラーミィの勝ち!」
「良く頑張ったね、ハーデリア。後は任せて、ゆっくり休みな」

アロエはハーデリアの頭を撫でボールに戻す。

「良く分かったね、ハーデリアの技の〝弱点〟に」
「《噛み付く》に《突進》……そして《ギガインパクト》。確かにどの技も強力ですけど、
 相手に軌道をずらされたり、横から攻撃されると対応出来ない。それが弱点、ですね?」
「正解。大抵のトレーナーは技の見た目とか、迫力に怖じ気づいて弱点には気付かないんだけどね……
 とことん、アンタはあたしの予想の斜め上を行くね、リオ」


アロエは悔しそうに、しかし口許に笑みを浮かべて小さな挑戦者を見るのだった。