二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 33章 不器用な優しさ ( No.68 )
日時: 2020/08/24 20:41
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「ハァ、ハァ……今度こそ捕まえようと思ったのに!」

逃げたサパスを追って走ったが、言葉通りサパスは本当に逃げ足が速く、人混みに紛れて
あっという間に姿を消してしまった。
膝に手を付いて息を整えるリオの傍を、人々は不思議そうな(半分邪魔そうな)目で見ながら通り過ぎて行く。
リオは腕に抱えていたおむつ形の骨を置くと、拳を固めて地面を強く殴った。

(ごめん、アキラ。偉そうな事を言っといて、逃げられちゃった……)

リオは暫し俯いて、やがて息を長く吐いて立ち上がった。

「……サパスに逃げられたのは悔しいけど、この骨を渡しに行かなきゃ」

抱え直したおむつ形の骨を見て空を見上げる。
爽やかな水色だった空は、今はオレンジ色に染まっていた。

「お昼、食べ損ねちゃったわね」

物足りないお腹を擦りながら、リオはバルチャイが待つポケモンセンターへ急いだ。


「バルチャイ!貴女の大切な物、見付かったわよ!」

ポケモンセンターに戻ると、リオは真っ先に取り返した骨を椅子の上に置いた。
バルチャイはおむつ形の骸骨を見て、触れて確認すると、空いていた穴に足を入れた。

『チャイ!』

どうやら破損も無く、ピッタリのようだ。
嬉しそうに短い翼をばたつかせて飛び跳ねた後に頭を下げたバルチャイに、リオは顔を綻ばせる。

(良かった……でも、寂しいわね。これでこの子とお別れなんて)

バルチャイの大切な物は見付かった。
しかしそれと同時に、バルチャイがここに留まる理由も無くなったのだ。

『チャイ、チャチャイ!』
『モシシ!?モシ、シモモ!』

しんみりするリオの前で、ヒトモシとバルチャイが何かを話している。

(何を話してるのかしら?)

首を傾げるリオ。
すると突然ヒトモシがリオのリュックに飛び乗り、中を漁り始めた。

「ちょっ、ヒトモシ何やって」

ヒトモシはリュックから降りると、バルチャイの前に何かを置いた。
置かれたそれは、空のモンスターボールだった。

「——バルチャイ?」
『……』

バルチャイは無言でリオを見つめている。
目をぱちくりさせるリオの隣に一部始終を見守っていたジョーイさんが立った。

「きっとバルチャイはリオさんの事を好きになったんですね」
「え?」
「だって貴女が居なくなったら、途端に元気を無くしたんですよ」

ジョーイさんは微笑んでリオとバルチャイを見遣る。

「リオさん。貴女さえよければ、この子を連れて行ってあげて下さい」
「バルチャイ……本当に私で良いの?」
『チャイ!』
「〜〜〜っ、ありがとう!私達と一緒に、世界を旅しましょ!」

バルチャイは大きく頷くと、嘴でモンスターボールのボタンを押した。
カタカタと揺れていたボールはやがて止まり、リオはバルチャイが入ったボールを手に取る。

「これからよろしくね、バルチャイ」
『モシ♪』

新たな仲間に出会えた喜びを共有するリオとヒトモシ。
そんな2人に近付く影が1つ。

「ゲットおめでとう。まさか、本当に見付けて来るなんてね」

瑠璃色の髪を揺らして近付いて来た綺麗な少年に、リオは腕を組む。

「私はポケモンと交わした約束は、最後までちゃんと守るわ」

そう言ってモンスターボールを愛おしそうに見るリオに、彼は「あ」と声を漏らし指差した。

「……ほっぺ」
「ほっぺ?」

頭に疑問符を浮かべて復唱する。

「怪我してる」

驚いて頬に手をやると、指先にうっすらと血が付いた。

「あ。ホントだ」

(多分、バトルの時に降って来たコンクリートの破片で切れたのね)

手を見つめて微動だにしないリオに、少年は呆れた眼差しを向ける。

「何?野生のポケモンと引っ掻き合いでもした?君、野蛮そうだしね」
「ジョーイさん、回復お願いします」

後ろから聞こえて来る言葉の数々を無視し、リオはヒトモシ達のボールをジョーイさんに渡す。

「早く絆創膏貼りなよ」
「貴方に言われなくたって貼るわよ」

リオは背負っていたリュックを下ろしてリュックの中に手を突っ込む。
しかし、いくら探してもお目当ての物は見つからない。
リュックを逆様にして中身を全部出そうかと思った所で、手がピタリと止まる。

(……そうだ。確か絆創膏切らしちゃって、この街で買おうとしてたんだった)

固まるリオに少年はクツクツと笑う。

「君ってさ、偉そうな事を言う割にケッコー抜けてるよね」
「ほっといて。……痛っ!」

突然訪れた、痺れる様な痛み。
目を少年の方に向けると、少年はリオの頬に消毒液を付けたハンカチを当てていた。

「ちょ、ちょっと!良いってば!」

リオはハンカチを退けようと手を伸ばす──が、勢い良く押し付けられたハンカチによって
力無く腕を下ろす。

「ヒトの厚意ぐらい、素直に受け取ったら?」
「〜〜〜っ!」

少年の楽しそうな顔に、リオはただ唸るしかなかった。


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「はい、終わり」

(やっと……終わった…………!)

リオは安堵の溜め息を吐いて、頬に貼られた大きめの絆創膏に触れる。

「言っておくけど、1日中ソレ貼りっぱなしは止めなよ。不衛生だから」
「分かってるわよ。その……ありがとう」

薬が染みる度に顔を歪めていた自分を、目を細めて心底面白そうに眺めていた少年は、
完全にリオの中でドSのレッテルが貼られたが、手当てをしてくれた事に変わりはない。

目を逸らしてお礼を言うと、溜め息を吐かれた。

「君、素直じゃないよね」
「む……名前を教えてくれない貴方にだけは言われたくないわ」
「レイド」
「え」

リオはポカン、と少年──レイドを見つめる。

「何?間抜けな顔して」
「レイド、それが貴方の名前?」
「それ以外に何があるの」
「だって、最初に会った時は名前を教えるの嫌がってたじゃない」
「それは君がいかにも弱そうだったから。僕、弱いヒトには名乗らない主義だし」

レイドの言葉にリオは喜んで良いのか迷った。
つまり最初に会った時、自分は彼に弱い人間として見られていたという事で。

(名前を知れたのは嬉しいけど、何かしら、この微妙な気持ちは……)

「絶対見付からないと思っていたバルチャイの骨を取って来たから、ほんの少しだけ見直した。
 だから名前を教えた、何か文句ある?」
「文句は無いけど……あ、そうだ!」

そこでリオはパン、と手を叩いた。

「ねぇ、私とバトルしてくれる?」
「………は?」


突然のリオの誘いにレイドはポカン、と口を開けるのだった。