二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 36章 リオvsアーティ② ( No.71 )
日時: 2020/08/28 15:15
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

「出て来て、バルチャイ!」

リオが次に繰り出したのは、昨日仲間になったバルチャイだ。
ふわり、とフィールドに降り立ったバルチャイにアーティは目を丸くする。

「バルチャイ?この辺りには居ないポケモンだけど……」
「はい。【スカイアローブリッジ】で出会って、色々あって私と友達になってくれたんです」
『チャイッ!』

(リオちゃんは本当にポケモンが好きなんだな。そしてポケモン達もまた、そんな彼女に惹かれて
共に在りたいと思う)

微笑み合うリオとバルチャイに、アーティも自然と笑顔になる。

「それじゃあ、今日のボクとのバトルがバルチャイのデビュー戦になるというわけだね。
 でも、だからと言って手加減はしないよ」

柔らかい笑顔をしていたのはほんの数秒。
直ぐにアーティは目を細め、挑戦者を見極めんとするジムリーダーの目になる。
そんな彼の切り替えの速さにリオは息を呑むが、瞬きをした後には口許が弧を描いていた。

「はい。手加減されて勝っても、私も……私のポケモン達も嬉しくありませんし、
 バッジも受け取れません。全力でお願いします」
「うん。キミならそう言ってくれると思っていたよ──フシデ、《転がる》!」

指示を受け、バルチャイへと転がって行くフシデ。
回転の速さは先程の比ではなく、あっという間にバルチャイとの距離を縮めた。

「上昇して!」

しかし迫り来るフシデに物怖じせず、バルチャイは翼を広げ飛翔する。
踏切台になりそうな障害物も無いので、フシデの攻撃はいとも簡単に躱される。
そして躱されたと同時にフシデの回転も止まった。

「……良かった」

ほっと息を吐いたリオにアーティは「もしかして、」と呟く。

「リオちゃんはこの技を見た事があるのかい?」

アーティの素朴な疑問にリオは頭を振る。

「いいえ、初めてです。でも最初の時よりもパワーも、スピードも上がってる気がして……
 これ以上当たり続けたら危険かなって。まぁ野生の勘なんですけどね」

照れ臭そうに笑うリオにアーティは苦笑する。

「正解だよリオちゃん。《転がる》は攻撃が当たる度に威力が倍になる技なんだ。
 外すまで攻撃が止まらないのが痛いけどねえ」
「やっぱりそうだったんですね」
「負け惜しみかもしれないけど、攻撃を躱されたお蔭で漸く別の技を出せるよ。
 フシデ!《ポイズンテール》!」

フシデは飛び上がり、毒の尻尾をバルチャイへと叩き付ける。
しかし距離が足りなかったのか尻尾が当たったのは硬い骸骨、バルチャイは少し顔色を変えたくらいで
ダメージは少なそうだ。

「お返しです!バルチャイ《乱れ突き》!」

バルチャイは攻撃を終えて無防備なフシデを嘴で突つく。
3回突ついた所でバルチャイは攻撃を止める。

「《毒針》!」
「《風起こし》!」

フシデは着地すると直ぐさま触覚から毒の針を飛ばす。
しかしバルチャイは翼を羽撃かせ強力な風を巻き起こし、飛んで来た針を風で巻き込んでそのまま
風と一緒にフシデにお返しする。
足を地面に食い込ませて自ら放った《毒針》と《風起こし》に耐えるフシデ。

『フシ、』

しかしとうとう耐え切れなくなり、フシデはアーティの横を通り壁に叩き付けられた。

「フシデ!」
「フシデ、戦闘不能!バルチャイの勝ち!」
「よっし!」

リオは拳を固める。
《転がる》という脅威となる技を持つフシデを倒せたのだから、喜ぶのは当然だろう。

「……良く頑張ったフシデ。キミの根性ハート、確と見させて貰ったよ」

アーティは労いの言葉をフシデが入ったモンスターボールに掛け、2個目のボールを取り出す。

「喜ぶのはまだ早いよリオちゃん。虫ポケモンの本当の凄さはこれからだよ」
「はい!」
「行くよ。ボクの2体目は──出ておいで、イシズマイ!」

アーティがフシデの次に繰り出したのは、石を背負ったヤドカリの様な外見をした石宿ポケモンの
イシズマイだ。

「イシズマイは確か、虫・岩タイプのポケモン」

リオはイシズマイを見た後に羽撃いているバルチャイを見る。

(そんなに傷は負ってないけど、相性ではバルチャイが不利)

「戻って、バルチャイ」

リオは1度バルチャイを戻し、別のボールを手に取る。

「苦しいけど……もう1度お願い、チラーミィ!」

リオは再びチラーミィを繰り出す。
大分呼吸は落ち着いていたが、毒の影響で体力が残り少ない事に変わりはない。

(小細工無しに、速攻で決めるしかない!)

「チラーミィ、《アクアテール》!」

チラーミィはジャンプしてイシズマイの頭上を取る。
そして尻尾を震わせ、水を渦状に纏わせた尻尾を鞭の様に振るう。
重い石を背負っていて動きが遅いイシズマイだ、チラーミィの素早さならこの攻撃は命中して、
大きなダメージを与えられると、リオは確信した。


「《撃ち落とす》!」
『イ〜……マイッ!!』

しかしイシズマイは一瞬でソフトボール程の大きさの石を作り出し、チラーミィに投げ付けた。

「!叩き落としてっ」
『ミ、ミミィ!』

チラーミィは攻撃の対象をイシズマイから、目の前の石に変更する。
水と尻尾の力で石は音を立てて砕け散る。
飛び散った水は雨の様に降り注ぎ、フィールドとリオ達を濡らす。

「もう1度《撃ち落とす》」

いつ移動したのかなんて分からない。

気付いた時には、イシズマイはチラーミィの後ろを取っていて

チラーミィが振り返った時には、イシズマイが大きな石を作り出していて

リオが言葉を発しようと口を開けた時には、大きな石がチラーミィに向けて発射されていた。


ドオォン!


轟音と地響きがジムを揺らす。

「チラーミィ!!」

リオは砂煙が起こった方へと走る。
砂が目と口に入り涙が出るが、リオは無我夢中で突き進む。
そして辿り着いた先には、石と共に倒れているチラーミィが居た。

「チラーミィ、戦闘不能。イシズマイの勝ち!」
「……ありがとうチラーミィ。ゆっくり休んで」

ボロボロになった小さな身体を抱き上げ、体に付いた砂を払ってボールに戻す。

「イシズマイが、あんなに速く動けるなんて……!」

リオは声を振り絞る。
小さな呟きに答えたのはアーティだった。

「ボクのイシズマイが背負っている石は特殊でね。見た目に反してとても軽いんだ。
 だから素早く、美しく攻撃出来るのさ」
「そんな事って……」

目を見開くリオにアーティは言葉を続ける。

「言っただろう?虫ポケモンの本当の凄さはこれからだってね」


リオの希望は、チラーミィの様に儚く撃ち落とされたのだった。