二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 38章 リオvsアーティ④ ( No.75 )
- 日時: 2018/02/13 16:02
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
「キミの屈強な姿…見させてもらったよ。ゆっくり休んでくれ」
アーティは目を回してひっくり返っているイシズマイをボールに戻す。
(煙でヒトモシの姿が見えなかったあの時──ヒトモシは《目覚めるパワー》を天井に撃っていたのか。
天井の水滴を凍らせ、直ぐに《弾ける炎》の熱で氷を溶かし水を落とす。わざわざ凍らせたのは、
炎で水が蒸発するのを避けるためだな…そして岩に水が染み込めば、その分イシズマイは遅くなる。
水が当たらなくても、水を苦手とするイシズマイの動きは必然的に制限される、というわけか)
「倒したチラーミィの技が、こんな形でキミ達を助けるとはね」
天井を見上げ、アーティは目を細める。
窓から差し込む日の光に反射して、初めて確認出来た微量な水滴に苦笑する。
(色が付いてるなら兎も角、無色透明の、あんな高い位置に付着している水滴を肉眼で確認出来るなんてね)
目の前の少女の驚異的な静止視力に、ただただ感服する。
「ボクはリオちゃん──キミを侮っていたようだ」
「え?」
アーティの口から出た言葉にリオは目を剥く。
彼は自分を馬鹿にしたり、見下す素振りは一切見せていない。
それは、ここまで戦ったリオが1番よく分かっていた。
しかしそれを否定するように、アーティは静かに頭を振る。
「正直、ボクはキミの手持ちを見た時、イシズマイで完封出来ると思ったんだ。戦う前から
そんな事を思うなんて……ジムリーダー失格だ」
「?何でですか?」
「酷い」とか「最低」だと、怒るかと思った。
それなのに逆に首を傾げて聞かれてしまい、アーティは返答に困った。
「バルチャイとヒトモシは岩タイプが苦手、自分のポケモンはチラーミィに勝るスピードと《守る》を持つ
イシズマイ…アーティさんが勝利を確信するのは普通の事だと思います。それにそう思えるって事は、
それだけ自分のポケモンを信頼してるって事ですよね?それって簡単なようで…
凄く、難しい事だと思います」
負けるのは恐い──だから完全に自分のポケモンを信じるのは難しい。
それをリオはシッポウシティで痛感した。
「…ごめん。ありがとう、リオちゃん」
「いえ。…バトルの続き、お願いします!」
「ああ!では、ボクのエースポケモンを紹介しよう。出よ、聖なる守護神ハハコモリ!」
アーティの最後のポケモンは、細身の女性的な姿をした、子育てポケモンのハハコモリだ。
「ハハコモリ?クルマユじゃなくて…?」
リオは初めて見るポケモンに目を瞬かせる。
「ハハコモリはね、クルマユが進化した姿なんだ」
「!じゃあ、あの時のクルマユが進化したんですね?おめでとうございますっ」
「ははっ、ありがとう」
自分の事のように嬉しそうな顔をする少女に、こちらまで嬉しくなる。
(ボクがフシデをゲットした時も、今みたいに祝福してくれたな)
アーティは目を細め、リオを見る。
「…今まで何人ものトレーナーがハハコモリに挑戦したけど、結局ボクのハハコモリを倒すトレーナーは
現れなかった」
「それなら、私がハハコモリを倒す初めてのトレーナーになります!」
拳を固めるリオにアーティは口許に弧を描く。
「それは楽しみだ。じゃあ早速始めるとしよう!ハハコモリ、葉っぱカッター!」
ハハコモリは無数の葉っぱをヒトモシに飛ばす。
不意をつかれ全ての攻撃が命中したが、草タイプの技は炎タイプであるヒトモシには効果は今一つだ。
(でも塵も積もれば山になる…これ以上攻撃を受けるわけにはいかないわね)
「鬼火!」
ヒトモシは紫色の火の玉を発射する。
ハハコモリの攻撃力を下げ、バトルの流れを掴むために。
「天井に向かって、糸を吐く!」
『ハッハハ〜ン☆』
「Σえぇぇぇっ!?」
しかしハハコモリは飛んで来た火の玉を、口から出した糸を天井に付けると、ターザンのような動きで躱す。
(心なしかハハコモリも楽しそうに見えた)
ハハコモリの糸がそこまで伸びるとは思ってなかったリオは、予想外の動きに驚く。
「…って、ショックを受けてる場合じゃない!弾ける炎!」
ヒトモシは火花を帯びた炎でハハコモリを攻撃する。
不規則な動きをしているせいで足に少し当たった程度だが、それでも効果は抜群だ。
「やっぱりあの糸が邪魔ね…目覚めるパワー!」
水色の冷気を帯びた球体を数個自分の周りに生み出す。
両手を振り上げると、球体が一斉に糸に向かって飛んで行く。
「させないよ!葉っぱカッター!」
しかしハハコモリはぶら下がりながら葉っぱを飛ばして《目覚めるパワー》を防ぎ、
ヒトモシの体に傷をつける。
「負けないでヒトモシ!弾ける炎!」
「ハハコモリ、虫の抵抗!」
ヒトモシよりも先にハハコモリが動いた。
ハハコモリが片腕を上げると、腕に付いている葉の陰から小さな虫の大群が飛び出した。
『!?』
小さな伏兵達にヒトモシは押し潰される。
「1匹1匹の力が弱くても、力を合わせれば何十倍も大きい相手も倒す事が出来る。
虫の絆はそれだけ強く、美しい」
「スモッグ!」
胸に手を当て酔い痴れるアーティを無視して(酷い)、ヒトモシに指示を出す。
幸運にも口は塞がれてなかったヒトモシは頷くと、口から黒い煙を出す。
煙に驚き、体に纏わりついていた虫達が離れて行く。
(煙でこっちの姿が確認出来ていない今がチャンス!)
「弾ける炎!!」
煙の中から火花を纏った炎を放つ。
《スモッグ》も取り込んだ炎は大きさを増し、ハハコモリに命中した──
…ように見えたが、
「た、立ってる…」
ハハコモリはフィールドに立っていた。
驚いてそれ以上言葉が出て来ないリオの代わりに、アーティが口を開いた。
「《虫の抵抗》は相手の特攻を確実に下げる技なんだ。それに虫達が出す僅かな周波数で、
ハハコモリは攻撃が放たれる前にヒトモシの居場所を察知した。
だから擦り傷程度で済んだんだ」
アーティは息を吐き、前を見据える。
「それでは、今度はこちらの番だ。リーフブレード!」
腕に付いた葉を刀のように伸ばし、ハハコモリが駆ける。
その姿はまるで刀を片手に戦場を駆ける武士のようだ。
「ヒトモシ、躱し……っ!」
言葉は途中で途切れた。
リオが指示を出そうとした頃には既にハハコモリの剣がヒトモシを斬りつけていたから。
『モ、シ…』
ヒトモシは悲しそうに笑って、前のめりに倒れた。