二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 41章 劔と少女 ( No.79 )
- 日時: 2018/02/13 16:16
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
ヒウンシティ・南ゲート。
そこで、奇妙な追い掛けっこが繰り広げられていた。
「はぁ、はぁ…かっ、返して下さいよぉ〜!」
眼鏡を掛け、長い黒髪を後ろで1つに縛った青年はよれよれの白衣をはためかせ、
前を走る人物を追い掛ける。
途中、通行人にぶつかり嫌な顔をされるが、彼にそれを気にする余裕は無い。
「……。」
人を避けながらもスピードは落とさず、数十m先を走る少女。
しかし疲れたのか、この追い掛けっこに飽きたのか…足を止めて青年を振り返る。
光が差し込まない深海のように青く冷たい目が、青年を射貫く。
感情の無い目に青年は小さく悲鳴を上げるが、勇気を振り絞り、恐る恐る口を開く。
「そ、その子は、ぼぼぼ僕の大切な子なんです!か、返して、下さいっ……」
懇願する青年に、少女は青年から奪ったモンスターボールを見て僅かに眉を動かす。
「…ピーピー五月蝿い。五月蝿いのは、嫌い。」
無表情で、機械のように淡々と言葉を並べる少女。
「イコール、力尽くで黙らせる。」
少女は袖の中からモンスターボールを取り出し、空へと投げる。
光が消え、現れたのは全身が刃物で出来たポケモン──刃物ポケモンのコマタナだ。
「コマタナ。追って来ないように、足を切り落として。」
青年の顔から血の気が引いた。
恐怖で足が竦み、青年はその場にへたり込む。
ゆっくりと近付いて来るコマタナに、青年は手を使って後ろに下がる事しか出来ない。
「足の次は、歯を全て抜く。そうすれば少しは静かになる。」
欠伸をしながら言う少女に、青年の額から汗が垂れる。
助けを求め視線を彷徨わせるが、道を歩く人は皆、目を逸らして足早に去って行く。
関われば、己にも危険が及ぶからだ。
青年は視線を眼前のコマタナに移し、力無く笑った。
「…やっぱり、この世は無情なんですね。知ってましたけど……」
コマタナが刃の付いた腕を上げる。
後ろは海、前にはコマタナ、もう逃げ場は無い。
青年は次に来るであろう痛みに、目をギュッ、と瞑る。
「シビシラス、電磁波!」
コマタナが腕を振り下ろそうとした、その時──突然動きが止まった。
「丸腰の相手に攻撃するなんて、随分と酷い事するわね」
「…誰。」
少女が眉根を寄せ、後ろに立っている人物を睨む。
「生憎、貴女みたいな物騒な人に名前は教えたくないの」
そう笑ってリオは少女の横を通り、頭を抱えて震えている青年に手を伸ばす。
「…大丈夫ですか?」
「!き、君は…?」
「ここだと落ち着かないんで、場所を移動しましょう。シビシラス、もう1度、電磁波!」
シビシラスは今度はトレーナーである少女に微弱な電気を飛ばし、痺れさせる。
その際に、持っていた青年のボールが落ちる。
転がって来たボールを手に取り、リオは青年の手を引く。
「あっ!?」
「行きますよ!こーゆー時は逃げるが勝ちです!」
走り去って行くリオと青年を、少女は無表情で見つめる。
『コマッタ?』
「…五月蝿い。目的は、もう果たしたから良いの。」
コマタナを戻し、痺れていたのがまるで〈嘘〉のように、少女は走って人混みの中へと消えていった。
「いやぁ〜!あそこで君が来てくれて助かりました!僕って、昔っから運だけはあるんですよね〜」
「はぁ…」
(立ち直り早いわね、この人)
一方ポケモンセンターに逃げ込んだリオは、青年のテンションの高さに呆然としていた。
少し前まで恐怖からか身体を震わせていたのに、中々追って来ない少女に「助かった」と確信してから、
ずっとこの調子だ。
「おっとっと。僕ばっかりお喋りしてすみません。そういえば、自己紹介がまだでしたね」
ポカン、としてるリオに気付き、青年は咳払いをして白衣を正す。
「僕はパイソン。しがない研究員です」
「私はリオっていいます」
簡単な自己紹介を終えた2人は、互いに握手を交わす。
パイソンはへらり、と頼りない笑みを浮かべる。
「リオさん…君は命の恩人です。何か、お礼をさせて下さい」
「いや、いいですよ、そんn「むむっ?それは…ライブキャスターですか?」え?あー…はい。
なんだかさっきから調子が悪くて」
リオの話を聞いたパイソンの眼鏡がキラーン!と光った。
「それならば、僕がコレを完っ壁に直しましょう!勿論リオさんは恩人だから、お金なんていりません!
大丈夫です!こう見えて機械には強いんで、任せて下さい!」
「あ、あの…パイソン、さん…?」
左手にライブキャスターを、右手にドライバーやペンチを持って興奮気味に口を動かすパイソン。
(はっきり言って不安しかない…!)
そんなリオの心情など露知らず、パイソンはライブキャスターの修理に取り掛かる。
「ふむふむ…最近、液体状の何かにライブキャスターを落としたりしてませんか?」
「液体……」
リオはヒウンジムの、ハチミツの壁を思い出す。
「恐らく、液体の一部が僅かな隙間に入って故障しちゃったんでしょうね〜」
拡大鏡を覗き込みながら手を動かすパイソン。
カチャカチャと独特な音がする中、ジョーイさんが歩いて来た。
「お疲れ様です、パイソンさん」
「有り難うございますジョーイさん。もう少しテーブルをお借りしますね〜あと少しで直るんで」
「ええ」
ジョーイさんから受け取ったコーヒーを一口飲み、再度手に道具を持つ。
そんなパイソンの背中を見ながら、ジョーイさんはリオに耳打ちする。
「パイソンさん…普段は頼りないけど、機械が故障したらよく修理しに来てくれるんです。
腕は確かだから安心して大丈夫ですよ」
にっこりと笑うジョーイさんに、リオも笑って頷く。
「直りました〜!」
その直後に聞こえた嬉しそうな声に、リオ達はパイソンの元へ駆け寄る。
「映像も良し、音も良し、データも消えてない。修理完了で〜す!」
リオはパイソンからライブキャスターを受け取り、1つ1つ確認する。
最初の時より画像も音もよくなったライブキャスターに、リオは顔を緩め、パイソンに向き直る。
「パイソンさん、ありがとうございます!」
「どういたしまして。いやぁ〜…やっぱり、お礼を言われるのは照れますね〜」
頭を下げるリオに照れ笑いを浮かべるパイソン、そんな2人を交互に見て微笑むジョーイさん。
和やかな雰囲気が漂う中、ポケモンセンターの扉が開いた。
勢いよく入って来たのは、清掃員の格好をした(手にはデッキブラシを持っている)男の人だ。
「パイソンさん!ああ、やっぱりここに居たか…うちのパソコンが調子悪いんだ、
ちょっと見てくれるかい?」
「分かりました〜それでは僕はこれで…リオさん、本当に有り難うございました!」
「はい。こちらこそ、ありがとうございます!」
清掃員のおじさんの背中を追い、パイソンはポケモンセンターを出て行った。
「…あ!ヒトモシを迎えに行かなきゃ!」
そしてリオもまた、ヒトモシが待つ【アトリエヒウン】に向かうのだった。