二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄—
- 日時: 2010/12/30 15:16
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
初めまして。
お久しぶりです。
学園アリスを書いていた時計屋と申します。
今回はテイルズシリーズ唯一プレー経験のあるテイルズ・オブ・ジ・アビスを書きたいと思います。
なお、自分はご都合主義なので赤毛二人とも生存しております。それと、設定が未来となっておりまして子供が主役です。
色々、矛盾点があると思われますがスルーして頂ければ幸いです。
では、オリキャラ達を紹介します。
人物紹介
ローラン(女)
『唄われる音』
年齢 15ぐらい
性格 天然
容姿 白のロング 栗色の瞳
その他
ローレライに創り出された存在。一時期ユリア達に預けられていたが、ダアト裏切り時にユリアの手によってローレライの元へと返される。その為、ユリアを裏切ったオリジナルをとても憎んでおり、侮辱する事もしばしば。存在が似ているレプリカ達には寛容で優しく、酷い扱われ方をしているレプリカを見ると後先考えず喧嘩を売ってしまう。現在の社会情勢には疎く、スコールに教わりながら日々勉強している。口調が少し可笑しいユリア大好きっ子。
台詞集
「それに何の問題が有りけるの。」「お前は、嫌いだ。」「失せろと言うのが分からぬか?」「願いは叶わぬのが私という存在なのだから。」
スコール・フォン・ファブレ(男)
『闇を照らす光』
年齢 16
性格 温厚
容姿 朱色の短髪 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの息子。ファブレ家の長男であり、リルカの兄。家を継ぐ気はあるが、一人旅をしてみたいという夢も持っている。ルークとティアから訓練は受け、実戦経験も豊富なため戦闘は強いが本人はあまり好きではない。勉強は好きだが、事実を確かめたいと外に遊びに行く事も。ユリアの譜歌も歌える第七音譜師。
台詞集
「世界は外に広がってるんだ。」「お前が犠牲になる世界が本当に正しいのかよ!!」「信頼しなくても良いから信じろ。」「お前が好きだよ。」
ギルフォード・レア・キムラスカ・ランバルディア(男)
『守り通す者』
年齢 17
性格 冷静沈着
容姿 紅の長髪 蒼の瞳
その他
アッシュとナタリアの息子。キムラスカ王国の王位正当後継者でリルカの婚約者。頭が良く物事を判断する能力に長けている。戦闘訓練を受けているため、スコールと同等の腕前を持つ。幼馴染みのスコールとリルカに振り回され頭を抱えながらも、自由な彼を尊敬もしている。表情は豊かだが、演技力抜群。リルカと結婚し国を支える事が目標。常識人な第七音譜師。
台詞集
「お前らは考えて行動しろよ。」「この国を誇りに思ってくれる人が一人でも多くいて欲しいんだ。」「俺は守りたいんだ。大切な奴らを。」「ほんと馬鹿だよな。救われるけどさ。」
リルカ・アウラ・ファブレ(女)
『清らかなる旋律』
年齢 14
性格 世話好き
容姿 栗色のロング 翡翠の瞳
その他
ルークとティアの娘。ギルフォードの婚約者でスコールの妹。何かに付けてサボろうとする兄を叱るのが日課。自立心は高く王家に連なる者としての自覚もあるため、日々民に尽くしている。ヒーラーとしての腕が高く、医療施設に泊まり込みで働くのが好き。将来はギルフォードと結婚し、国のために役立つのが夢。スコールと一緒にギルフォードを込まらせる事もある。
台詞集
「お兄様!!サボりはいけません!!」「いつか私と結婚してくださいね?」「こんなに傷ついて、平気なわけ無いでしょ!!」「精一杯お役に立ちます。」
もう少し出て来ますが、一応主要キャラです。
- Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.13 )
- 日時: 2011/05/29 16:50
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十二幕〜Shall we dance?〜
キムラスカ城。
王族が住まうその城で、生還祭最大の催し物。舞踏会が開かれていた。
煌びやかな飾りが施され招待客もそれぞれに着飾り、普段厳粛な謁見の間はその影が霞む程に華やかな空気に包まれていた。
その中でも一際目を引く黒と朱の髪を持った二人の少年は、王族の気品と愛想の良い笑顔で媚びへつらう来賓の相手におわれている。ローランはため息を吐くとドレスを翻し、人集りを避けるようにバルコニーへと足を向けた。
闇が一層濃くなり、月は輝いてる。町の街灯にも火が灯され、淡く道を照らすその光景は美しくバルコニーから見つめていたローランは少なからず感嘆し、同時に自身の感情の変化に戸惑いを感じたが温かくもあるそれを無下にする事もせず、恥ずかしそうに微笑んだ。そんな自分を素直に受け止められたのは明らかに、ホールの中央で招待客と嬉しそうに談笑している少年のお陰なのだが、その事を素直に礼を言える程のかわいげは残念ながら持ち合わせては居なかった。
あの時式典が終わりを告げる鐘を朧気に聞きながら落ち着きを取り戻し、自らの失態を詫びるローランに気にするなとスコールは笑いかけ、ローランの頭を撫でた。恥ずかしくもあり懐かしいそれに子供扱いをするなと怒れば普段と変わらないスコールの接し方が嬉しかった。
人ではなく、レプリカですらない曖昧な自身の存在。オリジナルを憎み、卑下する事でしか保てなかった悲しい存在。その全てを話せば大抵の人は異物を見るような目を向けるだろう。実際ユリアの元で暮らしていた数年間で嫌という程味わってきた。良くて哀れみ、酷い者なら人として認識すらしない。何年経とうと変わらずもう期待すら起きては来なかった。
「・・・・筈だったんだがな・・・・」
期待などしていなかった。それは間違いない。
オリジナルは何年経とうと変わらない。それは確信を持って今なお言える。
けれど、全て話した後のスコールが見せた感情はそんな軽蔑するようなものではなかった。真っ直ぐに向けられたのは純粋な怒り。訳が分からなかった。得体の知れない存在で在る自分にあれ程優しく怒れるものなのかと。出会ってそれほど経っていないはずの、赤の他人に彼は『側にいると』確かに云った。
期待などしていない。 けれど何処かで信じていた。
オリジナルは何年経とうと変わらない。 彼なら受け止めてくれると。
ぐちゃぐちゃになりそうな心は苦しくもあり、とても嬉しかった。
これが何という感情なのかローランに知る術はない。それでも、温かいこの気持ちに自然と笑みが零れた。
次々と来る来賓とお祝いの言葉。正直鬱陶しい とスコールは内心悪態を吐くが、表面は穏やかな笑みを保つ。ひっきりなしに紹介される女性達はあわよくば公爵夫人に とでも狙っているのか、己を最大限誇示しつつ気品を失わない程度に媚びてくる。鬱陶しい。鬱陶しいが此処で投げ出しては後でローランをダンスに誘えなくなってしまうのは明白。それだけは何としても避けねばならない。
何回目かになるため息を気付かれないように吐くと、丁度英雄達が前へ進み玉座に座していたアッシュが立ち上がる。
「皆様よくお越し下さった。再び今日という日を迎えられた事深くお礼申し上げる。」
一旦区切り恭しく礼をするとその場にいた英雄達もそれに習った。
「さぁ堅苦しい事は此処までとし、今までの日々とこれからの未来の平和を願い存分に楽しんで貰いたい。」
それを合図に音楽が流れる。アッシュとルークがそれぞれナタリアとティアを連れ添いホールの中央まで進み、音に合わせ優雅に踊り始めた。その美しさに来賓からは時々息が漏れる。
最後のステップを踏み、また優雅に一礼をし玉座へと戻る。
「皆様のこれからも変わらぬ幸福を祈る。」
拍手が挙がり答えるように礼をすると、それぞれパートナーを誘いホールに進み出た。
スコールもローランを誘うべく女性の誘いを丁重に断りながら辺りを見回すが深紅のドレスの彼女が見あたらず首を傾げたとき、男性に囲まれた白い髪が揺れるのが見えた。それを見つけた瞬間自分の中に何かどろどろとした黒い感情があふれてきた。それを隠すように深くため息を吐き輪の中を抜けその人集りに近づいた。
「私と踊って下さいませんか?」
「いえ僕と踊って下さい。」
次々と申し込まれる誘いにローランは唯首を振るしか出来ず困り果てていた。嫌だと言っているにも関わらず、話しかけてくる男に一瞬真剣に蹴りを入れてやろうかとも考えたが、仮にも此処は城で相手は貴族。問題を起こすのは得策ではないと考えを改める。が、そろそろ我慢の限界になってきた。ドレスがはだけるのも厭わず蹴り上げようと足に力を入れたとき、ずっつと待っていた気配に気が付いた。
「失礼。彼女は私の相手なのですが。」
ローランの目に白が広がり上から声が落ちてきた。柔らかくもあるそれは、有無を言わせない響きを持ち男達を威嚇する。
「彼女に何かご用ですか?」
「い、いえ!!!ファブレ家の方のお相手とは露知らずご無礼を!!」
「それでは。」
畏縮する男達を尻目に余裕の笑みを広め、スコールはローランを引っ張りバルコニーへ連れて行く。
「・・・怒っているのか?」
「別に。」
不機嫌そうに顔を顰めるスコールは、ローランの方を振り向きもしない。
「私が・・・何かしたか・・・?」
「違う。」
何故スコールが起こっているのか見当も付かないローランは自分が悪いと思いこみ、今までの行動を顔を蒼白にして思い起こしている。
「・・・勝手に外へ出たのがいけなかったのか?それとも、彼奴らをけろうとした事か?いや・・それ以外に・・・」
「だぁー!!違うんだよ!!俺の機嫌が悪いのは!!」
「悪いのは?」
「・・・・からだ。」
「えっ?」
「だから!!お前が声掛けられていたからだよ!!俺が行く前に男と話してたから・・・・」
段々と小さくなる声に比例して、顔の赤みが増していく。恥ずかしすぎてローランが見られない。
「・・・話は・・・していなかったぞ?」
「は?」
「確かに声は掛けられたが私は何も言わなかった。」
首を傾げ疑問に答えるローランに、先程の黒い感情は何処へやら。笑いが込み上げる。突然笑い出したスコールに未だ首を傾げるローランの手を取り、甲に軽くキスを贈る。
「昼間の約束、お願い出来ますか?」
「・・・喜んで。」
赤くなりながら今度はきちんと答えてくれたローランに零れる笑みは隠さず、ホールへと進み出た。
つづく
- Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.14 )
- 日時: 2011/05/30 19:49
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十三幕〜全てを知らず〜
進み出たホールでは既にギルフォードがリルカの手を取り優雅に踊っている。端から見てもお似合いの二人にスコールはそっと笑った。
「俺たちも行くか。」
強引ではあるが曲が途切れたのを見計らい、ローランを引っ張り一番目立つ場所で踊り始める。いきなり出て来た公爵子息に始めにいた貴族達は困惑しつつも場所を空け、一人また一人と抜けていく。最終的に残ったのは王族組とスコール達の四人だけだった。
「遅かったな。」
「悪い。害虫駆除してたもんで。」
近づくたびに交わされる男二人の会話を聞くリルカは呆れつつも、優しく顔を綻ばせる。反対のローランは話しについて行けず疑問ぎみの顔であったが。
流れる音はゆったりとした曲で踊りやすいものだったが、初心者同然のローランは着慣れないドレスも重なり、付いていくだけで四苦八苦している。それでも目立った失敗がないのは偏にスコールのリードが上手いからだろう。転けそうになればその前に持ち直し、ステップを間違えればそれに合わせて踊ってくれた。それだけでなく、ローランが踊りやすい様所々のフォローも忘れない。流石と云うかやはりと云うか、公爵子息の名は伊達ではないらしい。
取り囲むようにその光景を見ていた観客達の間から、うっとりとしたため息が漏れる。深紅のドレスを纏うローランはステップを踏むたび長く艶やかな髪が、まるで純白の天使の翼のように広がり、神聖な印象を持たせる。共に踊るスコールも白の礼服に気品溢れる姿。微笑ましいその二人だが、快く思わないの所々にかあからさまな嫉妬向ける来賓客を見つけギルバートはこっそりとため息を吐いた。
「全く・・・下らない。」
「その通りですわね。」
独り言のつもりだったのだが、リルカにはしっかりと届いたのか困ったような呆れたような呟きが返された。
いつの間に進展したのか、スコールのロ−ランを見つめる瞳がとても優しくなっていたのはここに来た時にはもう分かっていた。式典を抜けだし、ローランを連れ共に帰ってきた二人は何処か変わっていて。一言で言えば恋人に成り立ての男女と云った具合に、温かいものだった。その事には別段と驚いた記憶はない。スコールがローランを慕っていた事は一目瞭然だったし、ローランにしても嫌っていたという印象は見受けられなかった。強いて云えばローランがスコールの想いを受け止めたのかという事だったが、驚いたというか違和感が消えたといった方が正しいかもしれない。それでも彼女が幼馴染みの想いを受け止めたという事は彼としても嬉しい事には変わらず、何かと他人を優先してしまう幼馴染みにも幸せが来たんだと肩の荷が下りる思いだった。
そんな訳で、ギルフォードとしても色々と疑念は在るがそれも引っくるめて彼女を選んだスコールと受け入れてくれたであろうローランに対し、悪意を込めた感情を向けるのは馬鹿馬鹿しいにも程がある。本来なら援護射撃でも何でもしたいところだが、如何せん今はダンスの途中で共に踊るのは愛しいリルカ。この幸せな時間を擲ってまで威嚇するのも、それこそ時間の無駄である。それに、この視線にも気付かない程スコールも間抜けではないし対処も出来ない程落ちぶれてもいない。この場は任せるのが吉と答えを出したギルフォードは、純粋にリルカとのダンスを楽しもうと考える事を止めた。
「スコール。どうかしたのか?」
「ん〜。ローランが気にする事じゃないよ。」
微妙な変化にも気付いてくれるローランを嬉しく思い、強張った彼女を安心させる為スコールは笑い掛ける。それに真っ赤になりながら納得しそれ以上追及をせず、再びステップに集中するローランにまた愛おしさが込み上げてくる。幸いにもローランは観客から向けられる悪意には気付かなかったようだ。その事に安堵するが同時に視線の主に言いようのない怒りと呆れが膨らむ。
向けられる主な感情は嫉妬。公爵子息である自分が、ローランと云う何処の誰かも分からない娘と踊っているのが許せないのだろ。自分の方が相応しい傲慢にも思っている女性はもしかしたら居るかもしれない。
「全く・・・下らない。」
隣から聞こえてきた呟きにスコールは内心大いに共感した。
本当に下らない。肩書きや生まれでしか人を判断せず、その事を当然だと疑わない。だから貴族は苦手だった。肩書きが何だというのだ。確かに自身を貫く為に権力も無いよりはいいとは思うしそれについて異論は述べまい。本来ならそんな事はないと云いたいが、現状からして在った方が便利であるのは事実だ。しかし、その程度の事を人の判断材料に使うのは馬鹿げている。
「これだから貴族社会は嫌なんだよ・・・・・。」
その言葉をどう受け止めたのか、ローランは複雑に顔を歪めながら悲しそうに笑った。
「・・・同じ事を言うんだな・・・・。」
誰の事を言っているのか聞き返そうと顔を覗き込んだ時、大きな爆発音の後に入り口近くにいた来賓客から悲鳴が上がる。ピタリと流れていた音が止み、その場にいた全員が悲鳴が上がった方を振り向いた。
「我々は預言を無視し侮辱したもの達へローレライとユリアに代わり罰を下すものである!!!!」
それは歯車が回り出す合図。
これからの未来を暗示するように男の声は不気味に響き渡った。
つづく
- Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.15 )
- 日時: 2011/05/30 22:22
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十四章〜全ては分からず〜
華やかであった舞踏会の場は一時騒然となった。攻めてきたテロリストとも言えるマントの集団は、皆一様に杖を握りプラネットストームが停止した今、弱体化した譜術もある程度の威力で使いこなせるようだ。しかし、それでも実力はルーク達の方が数段上で在るのは変わらない。畏縮する貴族達とは違い、英雄と呼ばれる七人とスコール達四人は悠然と倍以上も居る数の敵と対峙している。
「・・・この戦力差でそれだけの余裕。流石は七英雄と謳われるだけの事はある。」
「ご託はいい。目的は何だ。」
低いアッシュの声にも恐れる素振りは見せず、リーダーと思われる一人の男は一歩、また一歩と静寂なホール内をゆっくりと歩み近づく。
「我らの目的はただ一つ。世界を在るべき姿に戻す事。」
「在るべき姿だど?」
その問いに満足そうに頷くと、歩みを止め仰々しく両腕を広げた。まるで、演説を行う王のようなその姿は不思議な程板に付いている。
「左様。この世界は貴公等の行動によって在るべき姿より外れてしまった。その事を嘆く事もなくまた顧みる事もなく、あろう事か祝うなど在ってはならない。それは正にユリアとローレライへの侮辱に値する!!」
勝利宣言のように揺るがないその声を指示するかのように、集団は杖を掲げ雄叫びを上げた。その大きさと強さに、貴族達は更に畏縮し青ざめた顔で自らを守るように蹲る。
「黙れ・・・・」
地を這うような鋭く暗い声は、目の前にいる英雄達のものではなかった。わなわなと震える手で堅く拳を作り、今にも殺せる程の殺気を含んだ目で睨みつけているのはスコールに守られるように対峙しているローランのもの。
「おい、ローラン・・・・」
「貴女も我々を否定するのか?」
宥めようと呼ぶスコールの声に男の声が重なる。殺気に気付いていないのか、それとも少女だと油断しているのか男はまた大げさな態度で首を振った。
「何故否定なさる?預言を成就させれば繁栄を得られそれがユリアの願いだろに。」
それを聞いた瞬間ローランの中の何かが弾けた。抑えられない程の怒りとオリジナルに対する憎しみが溢れてくる。
「ユリアはこの世界の繁栄を願い・・・・・」
「貴様はそれ以上口を開くな。」
今まで聞いた事のない程冷たいその声にスコールは直感的にまずいと感じた。しかし、制止させる間もなくローランから淡い光が男目掛けて真っ直ぐに奔る。
え と男の呟きが聞こえた。
光は咄嗟に構えた男の杖にぶつかり、キーンと高い音を残して消えた。見ると男の手には構えられていたはずの杖が跡形もなく消え去り、男も信じられないと云う顔でローランを凝視した。ローランは男の視線に気が付くと微笑をその顔に湛えスコールの横を抜け男の前へと進み出た。
「あっ・・・あああああああ・・・・」
「どうした?杖がなければ何も出来ないのか?」
優しいけれど凍り付くようなその声に向けられた男は、後ろに控えている仲間へ何かの合図を送る。二人の遣り取りを呆然と見つめていた集団が我に返り、一斉に譜術の呪文を唱えた。
「喰らえ!!!」
「危ない!!!」
悲鳴のように叫ばれた誰かの声にも耳を向けず、放たれた譜術を一瞥しふっと笑った。
「何だ?この程度なのか?」
徐に手を伸ばす。その顔に焦りなど見受けられない。
「 」
ローランは何かを呟いた。それは言葉ですらなく音にしか聞こえない。けれど確かに意味の在るそれは向かってくる攻撃を残さず相殺してしまった。詰まらないと云うようにため息を吐き驚きと恐怖で何も言えず座り込んでいる男を見下ろした。
「この程度しか力を持たない貴様等がよくユリアの名を口に出来たな。」
「あ・・・あああ・・・・」
「ん?言葉も扱えないのか?愚かなものだ。しかし、案ずるな今すぐ消してやる。」
言うや否や手を淡く光らせるローランを絶望を見る目で見つめる。
「痛みはない。安らかに逝くといい。あぁ、仲間も後で送ってやろう。」
既に男は何も言えず、唯ローランを見つめるだけ。にっこりと笑うその顔は魂を奪う死神に見えた。精一杯の力を込め一層光が増した時その手をスコールが掴む。
「止めろ。」
「離せ。此奴を殺せば直ぐ終わる。」
体力を光に吸われるように消耗していくローランを見つめスコールは言葉を発さず、首を横に振る。
「何故?お前も此奴の敵だろう?何故庇う?」
「敵だとしてもだ。」
「そ・・・そうだ・・・」
スコールとローランの遣り取りを見て、今まで黙っていた男がしゃべり出す。
「我々は世界の為に行動している!!何故我々の・・・・」
救世主と云わんばかりにスコールを見上げ、体制を整えようとする男の足下へ鬱陶しそうに剣を突き立てた。キン と音を立てるそれは装飾品ではあるが剣には変わりなく力加減を間違えば人など簡単に切り裂けるであろう。
「お前・・・ちょと黙ってろ・・・」
静かだが明らかに怒りを含んだその声で、騒がしくなりつつあったその場がまた静かになった。
「ローラン。ここは手を出すな。」
「巫山戯るな。この男はユリアを語りマスターまでも侮辱した。死を持って償うべきだ。」
一向に引かないローランに諦めたようにため息を吐き、刺した剣を引き抜く。
「なら俺がやる。お前が手を汚す位なら俺が此奴を殺す。それなら文句ないだろ?」
「お兄様!!何を仰ってますの!!!」
「いいから。・・・どうだローラン?」
選択権を委ねられたローランはスコールから男へと視線をずらす。懇願するように見つめるその男はとても弱くそれ故憐れに思えた。
ローランは毒気が抜けたように力を抜きスコールを見つめた。
「失せた。・・・・勝手にしろ。」
「そっか。じゃぁ、兵士達!!此奴等全員牢屋へぶち込んどけ!!」
兵を呼びつけ、戦闘意欲を既に失っている男を引き渡した。
つづく
- Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.16 )
- 日時: 2011/06/04 16:33
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十五幕〜信じること〜
護る為なら犠牲は厭わないと思っていた
信じる為なら痛みは厭わないと思っていた
護りたくて
信じたくて
側にいたくて
離してなんてやれなくて
身勝手な想いだと知っていたけど それでも一緒にいたかったんだ
スコールの命令でわらわ等と控えていた兵士が、全員を連れて行く。
その様子を疲れ切った顔で青ざめながらも気丈に振る舞い眺めていたローランが急に糸が切れたように倒れ込んだ。
「ローラン!!!!」
床に落ちる寸前スコールが抱き留め、駆け寄るリルカに預ける。元々白い肌が疲労の為か蒼白になっており、息をしていなければ死体と見分けが付かない。荒々しい息づかいにスコールは締め付けられるような胸の痛みを覚え、過ぎった不吉な想像を消し去るように頭を振る。
リルカが治癒術を掛け多少は持ち直すのを確認し、安堵のため息を吐くと連行される男が振り向きローランを睨んで居るのに気が付き、庇うように前へ立つ。
「何故分からない。我々の行動が唯一ユリアの願いを叶えられるという事を・・・」
「貴様が・・・・・語る・・・な。何も知らないくせに・・・・」
「化け物が・・・何を・・・」
今までの姿が嘘のように弱々しく呟くローランに男が悪態を吐く。それを聞いた瞬間スコールが男の胸ぐらを掴んだ。
「もう一度言ってみろ。今度はその首落としてやるぞ。」
突き飛ばすように男を離し、連れてけと短く命じる。唸る男を視界から外し、意識が消えかけているローランを抱きかかえた。
「ふん・・・・いつか分かるさ。我ら如きを退けたとて、信念は消えまい。ユリアとローレライの願いを叶える為、世界を繁栄に導く為、我らの同士は行動を起こし続ける・・・・・」
苦し紛れの捨てぜりふと一蹴出来ない危うさを感じ、外した視線を男へと向ける。膝を突くもその瞳には強い光が戻っていた。にたりと歪んだ笑顔を貼り付ける男には狂気すら感じられる。
「我らの意志も語り継がれよう。預言を否定した憐れな英雄達が集うこの場所で・・・人々は在るべき姿を思い出す。」
唄うように続ける男は、拘束していたはずの兵士の腕を力を振り絞り突き飛ばすと、スコールに抱えられているローランを睨みつける。
「化け物は・・・帰すべき所へ還るがいい!!!!」
「堅固たる守り手の調べ・・・『クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レイ ネゥ リュオ ズェ』」
まずいと一瞬で判断を下したスコールは、咄嗟に譜歌を口にする。
嘗て世界を愛した女性が残した契約の唄。
星の記憶との二千年の時を経て果たされた約束は対価が多すぎて。止まったままだった彼女の子孫の時間が動き出したときも共にあった唄。受け継がれた旋律は調べに乗り意味を持つ。
「・・・フォースフィールド!!」
「くらえぇぇぇぇぇ!!!」
男の繰り出す譜術は辺りの被害を考えもせず襲いかかる。それが一方方向なら未だ庇いようもあったのだが、なけなしの力を扱えもしない巨大な譜術に変換したツケか現れた炎は制御を失い四方八方へと好き勝手に暴れまくる。しかし、一瞬の差で譜歌が勝り男の差し向けた炎を無効と化した。包む光が消え抱くローランの無事を確認し、無意識の内に安堵のため息が零れる。
「くぅぅぅぅぅ・・・」
勝敗は見え勝てる確率は万の一つもないこの状況にも関わらず、引く気配もない男に呆れではなく賞賛を与えたくなる。しかし、命を粗末にすると同義の譜術は百歩の譲歩でも補えない。
「死に急ぐ事はないだろう。仲間も殺しはしない。今のような譜術を繰り返せばお前は・・・・」
「世界の繁栄を!!ユリアの加護を我らに!!!!ひゃはははは!!」
懇親の術を無効にされそれでも喚く男は既に理性を手放し、先程感じた狂気を余すことなくさらけ出している。
「これで!!!!全てが終わりだ!!!!」
「まずい!!!」
男が懐から小さい筒を取り出すのを見ていた誰の声が届き、反射的にローランを庇う姿勢を取る。
「全て!!すべてぇぇぇ!!!」
「スコー・・・ル・・・少し・・・・離れていろ・・・・」
腕の中から聞こえた弱々しい声に体を少し離すとその間からローランの白い腕が男へと伸ばされた。
「ローラン・・・」
何かが外れた音とキーンとする高い音、そして男の断末魔のような声が同時に響いた。目を開けられない光の中男の何処か安堵するような表情をスコールは微かに捉えられた気がした。
木霊する音が消え、漸く目を開けられるようになると男の姿は何処にもなかった。
「一体何が・・・」
状況把握が追いつかないギルフォードは、騒動の渦中にいた二人を睨む形で見つめている。抱えられているローランはリルカのお陰で持ち直したにも関わらず、その顔は蒼白に染まり容態が悪化している事は一目瞭然だった。苦しそうな息づかいと時折呼ばれる彼女の名が猶予のなさを物語っていた。
「ローラン!!しっかりしろよ!!おい!!返事しろって!!ろーらん!!ローラン!!」
「おい。落ち着け。今医者を・・・・・!!!!」
見たこともないほど狼狽える幼馴染みを落ち着けようと医者を呼ぶ声が途切れた。信じられないものを見るかのような目線の先は輝いているローランの左腕に注がれている。緑色に薄れては元の白い腕に戻る事を繰り返し瞬いているようにも見えるその現状を少年達は前に一度だけ耳にした事があった。
「乖離・・・・」
ギルフォードの言葉に必要以上の反応を見せたスコールは、止めるかのようにローランを強く抱く。どうすればいいのかなど頭になく、唯留まるように。
「ローラン・・・・ローラン・・・・」
「スコール。大丈夫だ。」
薄らと涙を湛えためで力強く届いた声の持ち主を振り返る。自身の瞳とよく似たそれが優しく和らぐのを見て、強張った体と心が解れていく。
「ジェイド!!!今すぐベルケンドに連絡してあの時の俺のデータと照合するようにって伝えてくれ!!ガイはアルビオールの準備を頼む!!バチカル港に着けて発進準備をしておいてくれ!!ティア、ローランを屋敷へ連れて行くから使用人達に口止めしといて!!アニスには今回の犯人達を頼むぜ!!」
ルークの指示で謁見の間は一段と騒がしくなり始めた。それぞれが自分の役割を果たす為に奔走し始める。
「さぁ、スコール行きましょう。」
ティアに促されるように力なく立ち上がるスコールだが、ローランを落とすなどと云う失態は犯さない。
「大丈夫よ。」
ルークから心配するなと云われたとしても、腕が消えかけるという事実を目の前に楽観視はできない。それでも、自分には信じる事しかできないから。
腕に込められる力に答えるかのようにローランが零した笑みをスコールは知るよしもなかった。
つづく
- Re: テイルズ オブ ジ アビス —誰が為の唄— ( No.17 )
- 日時: 2011/06/05 14:17
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十六幕〜語る過去〜
城からローランをファブレ邸に移し、全ての準備が整ったのは夜明け前。それでも、通常では考えられない程のスピードでもたらされる情報量にギルフォードとリルカは唖然としていた。
「流石はお父様達ですわ・・・・」
リルカの尊敬の念が隣にいてこれでもかと伝わり、ギルフォードは頷くしかなかった。
「けれど・・・幾ら父上達の顔が利くと云っても・・・・まさかこれ程だったとは・・・」
あの騒然とした事件の後、ものの数十分と掛からず大方の資料と移動手段であるアルビオールは既に手配済みと返ってきた。気づけば残されたのは来賓客と犯人達の問題だけとなりしかし、ナタリアのお陰で大した騒ぎ気もなら来賓客達はずすんなりと岐路に立ち、犯人達に至っては面白い位自白してくれるとアニスが嬉々として報告が降りてきていた。
流石と云うだけでは物足りない程の手腕の良さに改めて自身等の両親がどれだけの人だと思い知らされた。そして、この人達か護り続ける国をいずれ背負う事になる重圧に、不思議な程震えてしまう。
「俺は・・・この国を護って行けるのかな・・・」
弱音を吐くギルフォードはとても珍しい。
彼の両親もそうだが、王族として次期国王として彼は心内を仕舞い込む悪い癖があるとリルカは常々感じ、それを悲しく思っていた。確かに王はあまり本音を云えない。国の為に決断をする時は自身を後回しにしてしまう事もある。リルカ自身は特に王としての教育は受けていないが、それくらいなら分かる。けれどそれが、分かっていても自分位には伝えて欲しいと思う。
「すまない。変な事を云った。」
自嘲気味に笑うギルフォードはとても痛々しくて。独りで抱え込もうとする姿は哀しい。
「私が!!!一緒にいますわ!!!ですから・・・そのような・・・こと・・・」
伝わって欲しい。届いて欲しい。全てを独りで背負う事など無いと。
それなのに、言葉が続かない自分が酷く悔しいく、唇を噛みしめる。
「二人ともそんなところに立っていないで中に入ればいいのに。」
場所も考えず大声を出していたからか、ローランの寝室前で佇む二人にティアは不思議そうにけれど穏やかに声を掛ける。
優しく細められる蒼の瞳にどう説明すればいいか戸惑う二人に、理由を察したのか苦笑が口から零れた。
「スコールが中にいるから、開けて貰いましょう?いいでしょ?スコール。」
両手に持つ水を張った盆を片手に持ち替え、ティアが流れるように扉を叩くと少し間を置いて了承の声が返ってきた。驚く二人は顔を見合わせる。何度か声を掛けても反応がなかった。筈なのに・・・。流石は母親。
中は休みやすいように淡い灯り以外光はなかった。大元の電気を付けようとリルカが手を伸ばすが、それをティアが遮り盆を枕元に置く。
「様子は落ち着いたようだし、明日にはベルケンドに行けるわ。」
心配そうに手を握りしめる我が子へ安心を与えるかのような温かい声は、俯いていたスコールの顔を上げさせた。
「・・・スコール、ルークが事情を説明して欲しいって。貴方は何か知ってる?」
「・・・はい。」
微笑むティアに一度だけ頷き、また俯いてしまう。
「そう。・・・少し話して貰えないかしら?今回の事もローランの事も知っておきたいの。」
「俺が・・・勝手に話していいのか分かりません。」
まるで、辛い事でも思い起こすかのようにスコールの声は沈んでいた。ローランを見つめ、手を握る姿は何かを耐えている。
「確かに俺はローランから彼女の事を聞きました。それを伝える義務もあると知っています。でも、俺が話していいと思えません。」
「スコール・・・」
「かま・・・・わ・・ない。」
「ローラン!!!!」
寝ていたと思いこんでいた筈のローランが苦しそうに、しかしはっきりと強い瞳を向ける。
「私は・・・・いい・・・。スコールから・・・伝えてくれ・・・」
「いいのか?」
「決めた・・・・から・・・お前・・・いや、貴方を・・・信じると・・」
「いいんだな?」
真剣な眼差しに答えたローランは、見たこともないほど優しく微笑んでいたが強く輝く瞳はそれを失ってはいない。折れたのはスコールの方だった。
「分かった。父上達には俺から話すよ。ローランは休んでろ。」
不器用に、それでも出来るだけ優しくローランの頭を撫でる。気持ちよさそうに微睡むローランは穏やかな笑顔を浮かべている。零れるのは笑みしかない。覚悟を決めスコールはティアに向き直った。
「・・・母上。知っている事全て話します。」
「お願い。応接間にみんなを呼んでいるわ。」
ティアが扉を開け廊下に出る。それに続こうとしたリルカをスコールが呼び止めた。
「リルカ。お前はここでローランに付いていてくれないか?」
「お兄様?」
「途中で起きた時側に誰かが居てやらないとさ。」
誤魔化すようなスコールに仕方がないと云わんばかりのため息を吐き、了承すると何か言いたげなギルフォードの背を無理矢理に押し頼むと残して部屋から出て行った。
「まったく・・・私はそれ程弱くありませんのに・・・」
兄の真意に気付きながらもそれを受け止めるのが自身の役目だと知っているリルカは、穏やかに眠るローランにスコールと同じく笑みを落とした。
応接間は緊張の空気に包まれていた。その事に何処か納得したように、スコールは自身の席に着く。
「説明してくれるよな?」
重苦しい空気を始めに破ったのはルークだった。主が座るべき椅子に腰掛けながら口調とは裏腹な鋭い目付きでスコールを捉える。言い訳も隠し事も赦さないその目は幼い頃から慣れてはいるが、今程苦しくなる記憶はない。落ち着けるように一度息を吐き、真っ直ぐにルークを見据えスコールは自身の知っている全てを話し始める。
その間口を挟む者は居なかったが殆どが一様に信じられないと云った表情で話に聞き入っている。ルークだけが何処か哀しそうな面持ちながらも見守るような温かさを向けている事にスコールは気が付いていた。
つづく
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