二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 学園アリス 【道標を貴方に】
- 日時: 2011/02/05 16:15
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
こんにちは時計屋です。
また、学園アリスの小説を書きたいと思います。
登場人物
名前 白崎榎音[しらさきかのん]
年齢 13歳
アリス 夢のアリス
『リペア』の一員。比較的温厚だが、後先考えず突っ走る傾向有り。自身が原因で一族が殺されたため自己犠牲精神が強く、他人のために命を落としそうになる事もある。アリスを使い人の夢の中を行き来し、情報収集や仲介役のような事もしている。安積柚香とは面識があり、蜜柑達の事を気に掛けている。口調は常に敬語。
名前 蔵人久志[くろうどひさし]
年齢 15歳
アリス 水のアリス
『リペア』の一員。面倒見が良く、組織内での兄貴分で榎音のストッパー役兼お世話係。陽炎に対しては素っ気なく接する事もあるが、何だかんだで一番の理解者だったりする。銃の扱いが上手いため、戦闘時は前衛。
名前 陽炎[かげろう]
年齢 ??(外見年齢高校生)
アリス 不老不死のアリス 変化のアリス
『リペア』のボス。何事にも動じず、物腰柔らかに物事を見定めている。外見は子供だが、実年齢は誰も知らない。学園の事に詳しく、柚香達とも知り合いらしい。
もしかしたら増えるかもしれません。
設定やその他に対しての疑問は深く考えず、「そんなもん」と受け入れて貰えますと嬉しいです。
これから宜しくお願いします。
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.19 )
- 日時: 2011/05/14 12:06
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十二章【耐えることこそに意義がある】
深夜。闇が支配する中で、唯一灯される蝋燭の光を浴びる男は明らかに異質であった。
「こんな遅くにどうしたんですか?久志。」
来る事が分かっていたかのような振る舞いをする男に現れた青年_久志は隠すことなく舌打ちをした。炎が揺れるたび映し出される影は、久志の反応すら楽しんでいる。久志はゾクリ と背筋に悪寒が走りながらも、それを見せず男に近寄る。けれど虚しくも男には通じず、久志の強がりは更に男を楽しませるものにしか成り得なかった。
「何を考えている。あんな話をするなんて俺は聞いてねぇぞ。」
初めて発した声は重く、慣れ親しんでいる振る舞い方さえ鬱陶しく感じられる。
「彼らに嘘は言っていませんが?」
「あぁ。お前は嘘は言わなかった。けど、本当の事も言っていなかっただろぉが。」
全く罪悪感を感じさせない男は流石だとも思うが問題はそこではない。苛立つ気持ちを抑えるため頭を掻く。
「嘘を吐かなきゃいいって話じゃねぇだろうが。分かってんのか?結果誰が傷つくのか。」
「・・・十分すぎる程に理解をしていますよ。」
「なら何であんなことを言った。あいつを苦しめたいのかよ!!!」
普段穏やかな久志は声を荒上げる事など、殆どと言っていい程ない。それだけ今回男が言った事は我慢ならかったのだろう。男もそれを知っているからこそ、反論は最小限に止めるべきと判断を下した。
「俺はあんたの決めた事に対して基本とやかく言うつもりはねぇよ。この組織を創ったのはあんただし、俺は賛同したから此処にいる。けどなあの事が絡んでんなら話は別だ。俺はあいつをこれ以上苦しめたくない。」
「私も同意見です。彼女は苦しみすぎた。もう悲しい思いをする必要はありません。」
「だったら何で日向棗達に本当の事を言わない!!!そうすれば・・・・」
「真実が必ずしも希望に成り得る訳ではありません。たった一言の言葉すら絶望に突き落とす結果になる場合も在ります。」
久志は言葉を噤んだ。何処までも優しく穏やかな子供にしか見えない外見を持つ男。しかし一切の反論を赦そうとはしないその存在感はあどけなさが残る幼子が持っていて良いはずのない代物に他ならない。嫌悪感すら感じられる気配に呑まれそうになったその刹那、柔らかく包み込むような温かい気配を隣に感じそちらに目を向けると、当たり前のように榎音はそこに佇んでいた。
向けられる笑顔は年相応のもので、吐き気するこの空間とは似ても似つかない程優しい。
「榎音・・・・お前・・・」
聞いてたのかと聞く前に榎音は首を縦に振り頷くと、少し頬を赤らめて何かを呟くが、それを聞き取れなかった久志は疑問符の浮かんだ顔を見せ再度訊ねる。しかしその問いに榎音は答えず、何でもないよと笑った。
「・・・今日はもう休みなさい。榎音、久志を頼みますよ。」
「分かりました。久志行きましょう。」
突然切り上げられ久志は抗議するよう男を睨むが、榎音は心得たように久志を引っ張る。これでは立場が逆ですねと男が苦笑を漏らし呆れたように久志を見やるが瞬間悲しそうに目を細め、榎音を呼び止めた。
「榎音。私を恨みますか?」
「何故です?」
苦しそうに重々しく紡ぐ男とは正反対にさらりと出た榎音の疑問。目を見張り咎めるように名を呼ぶ久志を尻目に、何ら変わることなく榎音は続ける。
「陽炎様は私を救って下さいました。居場所を与えて下さいました。生きる理由を与えて下さいました。これ程のご恩を受け、何故あなた様を恨めましょう?」
「榎音。」
「もし、今回の事で私が苦しむような事があってもそれは私が決めた事。陽炎様が気に病む事でも有りません。」
強がりでも言い訳でもないそれは紛れもない榎音自身の本心。曇りのない真っ直ぐなその意志は、強さと同時に危うさが垣間見える。久志は抱きしめ言葉を終わらせたい衝動に駆られるが、それを榎音は認めなかった。
「死ぬ可能性も無いとは言えません。否、死ぬ確率の方が高い。それでも変わりませんか?」
「私が倒れても、意志は継がれます。久志や蜜柑様達が居られる限り私が死ぬ事はありません。」
懺悔にも似たその言葉にすら榎音は笑って答える。
けれど、その意味をこの少女は本当に理解などしていないと久志は思う。怒りたい。叱ってお前は何も分かってないと、見えてないと怒鳴りたい。しかし、それでは、その方が意味はない。気付くべきは榎音であって俺ではないのだから。
耐えるように握りしめた手に血が滲む。その姿を陽炎は悲しそうに見つめるだけだった。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.20 )
- 日時: 2011/05/28 12:28
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十二章【偶然はときにして必然となりうる】
暗闇を赤々と燃え上がる炎が照らしている。怒声と銃声が静寂なる夜に木霊し、森の住人達をその場から遠ざけている。
「これで依頼終了ですね。」
「捕まってた人はどうしたん?」
この場には似つかわしくない少女二人が燃え上がる建物を横目に談笑していた。
「久志が連れて行きましたよ。親元が判明していない方以外はもう既に。」
「預かり確定の子達は?」
「先程協力者の方が。そろそろ本部に到着予定ですわ。」
「なら安心や。」
二人の声は内容にしては軽くまるで些細な出来事のように明るい。一般人が日常とは感じられないこの現状も、彼女たちからすれば日頃の出来事と何ら変わりはない。
ぴたりと音が止み未だに燃え続ける炎を二人は揃って見上げていると、嘗てドアだった木片が吹っ飛び中から少年が鬱陶しそうに前髪を掻き上げ歩いてきた。
「棗!!」
下ろされた髪を揺らしながら、棗に駆け寄り蜜柑は抱きつく。その衝撃に怪我をした脇腹が痛み顔を顰めた棗だったが、それは一瞬の事で抱きつく蜜柑には気付かれずに済んだ。
「どうした?」
「心配した。」
微かに震えていた蜜柑の体を抱きしめながら問うと、か細くも優しい答えが返り抱きしめた腕に力を込めた。
「悪い。」
「ええよ。無事なら。」
「心配しすぎだ。」
「・・・うん。」
やっと安心したのか、体を離せば、頬を少し赤らめた太陽のような笑顔を棗に向ける。微笑ましいその光景は、しかし、余りにも現状とかけ離れているが、不思議と違和感がない。
「お二方とも、そろそろ戻りましょう。」
自然とこぼれる笑みを隠す事もなく榎音は空間を本部と繋げ穴の中に恐れなく飛び込み、榎音に見られたと照れる蜜柑を引っ張り棗が後に続く。
後には、燃え上がる古城と静かな夜が残されていた。
「お帰りなさい。」
帰還した三人を迎え入れた陽炎の側には、今回の一件で新たに加わった子供達と、どことなく不機嫌そうな久志の姿があった。
「どうかなさいました?」
首を傾げる榎音に苦虫を噛みつぶしたように顔を顰める久志を、陽炎が面白そうに笑いを漏らす。現状が掴めず説明を求める三人に子供達を使用人に任せ、書斎へと招き入れた。
各々好きなように用意されていた椅子に座るのを確認すると、陽炎はまずと前置きをする。
「今回はお疲れ様でした。あちらの組織はほぼ壊滅状態と言ってよろしいでしょう。学園が動き出す前に潰せたのは幸運でした。」
「別に。礼を言われる筋合いはない。」
「棗ったら・・。」
棗の悪態に気分を害した様子もなく、逆に浮かべていた笑みを深くした。
「失礼いたしました。それでは、今後についてお話しいたしましょう。彼を止める手筈が整いました。」
さらりと言われた言葉に棗が目を見開き、陽炎を凝視する。その隣で蜜柑は不安そうに棗の服を掴んだ。
「落ち着いて下さい。手筈は整いましたが、今はまだ動く時ではありません。」
「な!!!」
「落ち着けよ棗。下手したら蜜柑が危なくなるんだぜ。」
抗議を挙げた棗だったが、蜜柑の名前が久志から出ると口を噤み何も言わず繋いでいた蜜柑の手を握りしめる。それを確認し、陽炎は続けた。
「手筈は整いましたが、心許ないのが正直なところです。」
「何か足りないのか?」
「えぇ。学園に近づくためには内部へと潜入する方が手っ取り早い。その事については話も着いていますし支障はないのですが。」
「協力者、か?」
久志の答えに陽炎は頷き、嫌な予感がすると久志はため息を吐いた。
「本来なら潜入先に協力者を潜り込ませる筈でした。しかし、いつ整うかも分からないこの作戦に関しては別です。手筈が整う前に卒業してしまっては話にならない。しかし、協力者の居ない状況はリスクが大きすぎる。」
「だから、棗達に作らせる訳か?」
「その通りです。」
「巫山戯るなよ。んな危険なことこいつらにさせようってか。」
「危険度は状況によります。今回は当てがない訳ではない。彼らでも十分出来るはずです。」
胸ぐらを掴みそうな勢いの久志を榎音が押しとどめる。
棗達がこの組織に来てから半年。その間、此処へ連れてきた負い目や元々の久志の性格も重なり何かと面倒を見る久志と榎音に蜜柑は懐き蜜柑が懐けば必然的に棗と過ごす時間も多くなる。結果として、この半年久志達は棗と蜜柑の殆どの時間を共有していた。そんな仲間思いの久志にとって陽炎の提案は、受け入れられない。
「可能性だろ。100%安全な訳じゃない。」
「絶対など在りません。それは貴方が良くお解りでは?」
ぐっ と呻き静かになった久志を呆れた目線を投げる。
「うちらに出来る事って?」
話題の渦中にありながら、今まで入り込めなかった蜜柑がここぞとばかりに陽炎へと話題を元に戻すと、驚いたような怒ったような表情をした久志を榎音が宥めようとしている。
「うちにも出来る事ならやりたい。」
「良いのか蜜柑?」
「うん。此処で黙ってるよりはマシな筈やろ?せやから、そう心配そうな顔せんで、棗。」
分かったと頷く棗にありがとうと蜜柑が礼を言う。満足げに封筒を取りだした陽炎は棗に渡し、中の資料を見るよう促す。
「この人物に接触して下さい。」
資料の一番上には写真が貼付されており、その横に『安藤翼』と印刷されていた。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.21 )
- 日時: 2011/05/30 17:15
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十三章【黄昏の鳥は優しく唄う】
太陽が沈みかけ、反対の空は薄暗くなりつつある夕暮れ時。
未だ完全な夜は現れないにしても、昼時すら薄暗いこの森は闇が支配している。その中を棗と蜜柑の二人は周りの気配に気を配りながら、陽炎の指定したポイントまで淀みなく進んでいた。
「うぅ〜・・・・お化けなんて出てこうへんよね?」
「知るか。怖いなら安請け合いすんなよ馬鹿が。」
「だって・・・・役に立ちたいやん!!!」
「だから馬鹿なんだよ。」
「なんやてぇ〜!!!」
何処か楽しそうな雰囲気のままじゃれ合うように言い合いをする二人は、最早暗闇に対しての恐怖心は感じられない。
極限まで足音を殺し吐いた場所は、木々が開け見通しの良い湖畔だった。時計を確認し待ちあわせまでは未だ五分程の余裕があり辺りを見回しても目的の人物は現れていない。情報収集をかねて散策をと伝えようと棗は蜜柑を振り向くが、蜜柑の目は湖畔に向けられ微動だにしていない。その様子から瞬時に何を思ったのか察し、同じように棗も目を向けた。
「ここ似てるな。」
「覚えてて・・・・くれたん?」
独り言同然の小さな呟きだったがそれを拾った蜜柑は満面の笑みを棗に向けた。輝くようなそれは、あの時とは比べものにならない程綺麗で、照れ隠しの意味合いも合いなり顔を背けた。
がさり と何かを踏みつぶす音と共に人の気配を感じた棗は、瞬間警戒態勢に入った。それを感じ取った蜜柑も棗に習い、支援出来るよう数歩後ろに下がる。段々と近づいてくる音に集中力を高め、ほのぼのとした雰囲気は一瞬の間に殺伐としたものへと豹変する。
「あれ・・・?お前らは・・・」
雲が動き、いつの間にか現れていた満月の光がその人物を照らし出した。
黒髪に頬の罰則印。記憶より幾分か背は伸びていたが纏う中等部の制服は相も変わらず着崩されていた。
「翼先輩!!!!」
「うお!!って、蜜柑か!!」
半年ぶりの再会に蜜柑は感極まり激突するように飛びつく。一瞬怯んだものの持ち前の運動神経で持ち直し、しっかりと受け止める。
「久しぶりやー!!元気しとったぁー!!」
「いや元気だけどもよ。何でお前が此処に??Zに誘拐され経った聞いたけど・・・・」
「んなのガセだ。俺たちは今違う組織にいる。」
「棗!!お前も一緒だったんだな!!」
見るからに不機嫌な棗は、蜜柑を引き離しながら事の顛末を掻い摘んで翼に説明した。予め粗方の蜜柑の状況を知っていた翼は不審がる事もなくすんなりと現状を把握したように頷く。
「要するに、だ。お前達が初校長を失脚させられるよう手引きしろってことだな?」
「簡潔に言えばな。俺たちも細かい作戦内容はまだ伝えられていないから詳しくは言えないけどな。」
「ふ〜ん。所でさその陽炎って奴信用できんのか?何か怪しくね?」
「翼先輩までぇ〜!!そんな人ちゃうもん!!!」
「けどな蜜柑。事が事だぜ?死ぬ確率だってゼロじゃぁねぇんだ。捕まればまた監禁される事になるかもしれない。」
真面目な顔で諭すように可能性を上げていく翼は、自分よりも蜜柑達の心配をしていた。
一度でも反抗した生徒をあの校長が簡単に赦す可能性は少ない。まして、反抗したのは蜜柑と棗だ。そのアリスが目的の校長が舞い戻ってきた獲物に逃げられる立場を与えるかどうか。悪ければ今後蜜柑は一切日の光を浴びる事も出来ない状況に置かれかねない。その事を蜜柑も棗もよく知っているはずだ。
「けど、このまま校長を放っておく事なんてうちには出来ひん!!!止めなあかん!!」
「また危険な目に遭うかもしれないんだぞ!!!」
「それでも、うちは学園を校長から守りたいんよ!!!うちが出来るのならやりたい!!!」
揺るがない蜜柑に翼は暫く考え込み、今度は棗に目を向けた。
「棗。お前は止めないのか?」
「此奴がやるって云うなら俺は此奴を守るだけだ。」
「いいのか?」
「あぁ。」
「翼先輩!!!」
懇願するように名を呼ぶ蜜柑に翼は少しだけ眉を顰めたが、すぐ諦めたように大きなため息を吐き頭を掻く。
「あ〜!!もう分かったよ!!!!手伝ってやる!!!正し!!」
びしっと差された指を食い入るように見つめる蜜柑は喜びに染めた顔を困惑の表情に変えた。
「無理はするな!!俺も出来るだけサポートするからやばいと思ったら即逃げるんだぞ!!!」
「うん!!!先輩大好き!!!!」
再び飛びつこうとする蜜柑を棗が阻み、それを翼が苦笑した。
あの頃の普段の光景だったそれは、今はとても懐かしく感じる。誘拐されたと聞いた時は心配もしたしZに怒りも抱いた。危力系に所属しZと交戦機会もある自分が助け出そうとも考えていた。しかしそれとは裏腹に半分ほっとしている自分もいて。学園に残っても蜜柑は校長から逃れられない。ならいっそZとしても外に出た方が蜜柑の為になるんじゃないか?どんな形にせよ外に出られたならもう学園に関わらない方がいいと勝手に思い込んでいた。蜜柑は学園を救いたいと必死に戦っていたのに。
「・・・・ごめんな蜜柑。」
「何で先輩が謝るん?変やん。」
「いいんだよ。」
不思議がる蜜柑の頭を誤魔化すようにがしがしと撫でる。擽ったがる蜜柑に笑みが零れた。
いいんだ分からなくて。本当なら全部話した方が良いのかもしれないけど。云って謝った方が良いのかもしれないけど。だけど、今は云うべきじゃないと思うから。全て終わった時その時にちゃんと全部伝える。
「じゃぁ、俺から姉さんと流架ぴょんには話とくな。二人とも心配してたし。」
「頼む。転校する時はこっちから伝える。」
「了解。じゃ俺行くわ。」
「またなぁ〜翼先輩〜」
ん〜 と手を振り翼はこの場を去る。
いつでもどんなときでも楽しそうに笑っていられる二人だから。
だから守りたい。全てを賭けても。
月は未だ輝きを失わず、二人を照らしていた。
つづく
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.22 )
- 日時: 2011/06/04 12:01
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十四章【止まり木はかくも優しく語りかけ】
くるくる回る 世界は回る
おいてけぼりの 鳥一羽
くるくる走る 季節は走る
おいてけぼりの 葉が二枚
くるくる流れ 夢さえ流れ
おいてけぼりの 幻三人
回る世界と走る季節に流れる夢は
くるくるくるくる全てをおいて逝く
翼が去った後を心配そうに見つめる蜜柑は、目的が達成された後も一向に動こうとしない。
今回、翼と会う為用意された事件はZ絡みのものだった。陽炎が偽の情報を学園側に漏らす事で危険能力系に属している翼を前線に出させるのが目的で、実際はZの姿すら見受けられない。榎音と久志が出動してきた危力系の撃退を開始してはいるが、殺傷能力のない攻撃程度で何処まで足止め出来るかは分からない。つまり、ここに留まる事自体に危険性がある。
「蜜柑。もう行くぞ。」
いつもより少し強めの口調で促すと、漸く蜜柑も動き出した。が、未だ視線は森の奥へと向けられている。
「・・・・翼先輩大丈夫やろうか・・・・」
「平気だろ。・・・急ぐぞ。」
蜜柑の意識が他の男へと向けられている事に少し苛つきながら、棗は与えられていた逃走経路へ蜜柑を引っ張りながら走り出した。
真夜中からかそれとも別の理由か、北の森のベアの小屋付近はとても鈴まり帰っていた。月明かりが照らす中、今井蛍は乃木流架と共にここへ呼び出した張本人を待っている。夏とは云っても秋が近づきつつあるこの季節、夜中の森は肌寒い。用意させた紅茶を飲み、苛立ちを交えて時計を見ていた蛍はため息を漏らす。
「・・・遅いわ。あの影何をやってるのかしら。」
既に待ちあわせの時刻は過ぎていた。相手の事を考えればそれも仕方のない事だが、蛍の気持ちも分からなく無い流架は苦笑し、ベアの入れた紅茶に口を付ける。
「仕方がないよ。確か今日も招集掛けられてたみたいだし。」
「『今すぐ帰るからいつもの場所で』なんて電話寄こしたのはあいつからよ。」
「それもそうだけど・・・。もう少し待ってみようよ。何か新しい情報が分かったかもしれないし。」
今にも帰りそうな蛍を宥め、三十分は待つと流架が約束を取り付けたとき、ベアが新しいカップに紅茶を注ぐと丁度翼が現れ用意されていた椅子に腰掛けた。瞬間蛍の目がキラリと光りそれに気がつい足るかが止めるのも間に合わず、手に填められていたバカン砲から弾が翼目掛け発射された。
「うわ!!!!・・・姉さんもうちょとお手柔らかに・・・」
「五月蝿いわよ。この私をいつまで待たせる気?」
至近距離から発射されたにも関わらず、持ち前の運動能力でそれをかわした翼を蛍が睨みつけた。
「それについては謝るって。だから・・・」
「五月蝿い。問答無用よ。」
「・・・って、おい!!」
「蛍。その位にしとこうよ。」
いつまでも続く二人の攻防に見かねた流架がストップを掛けた。未だ不満をを残しながらも、流架に従いバカン砲を下げる蛍に安心したのか翼も盾が割にしていた椅子を下ろしそれに座った。
「所で、こんな時間に呼び出してどうしたの?何か進展あった?」
「・・・あぁ・・」
戸惑いがちに肯定する翼に再度蛍がバカン砲を向けると分かったと一言言ってから紅茶を飲む。
「単刀直入に云うと、今日蜜柑達に会ってきた。」
「・・・・は?」
「俺が本部から招集を受けて、外に出掛けた事は知ってるよな?」
「えぇ。電話で知ったけど。」
「招集理由はZの捕縛だった。Zの部隊が展開しているってんで危力系の数人が出てったんだけど、実際はガセだったみたいで散策して帰ろうとしたらさ女の子が来たんだよ。」
「ん〜ここもはずれか?敵がいないなら直ぐ帰れっかな。」
徐に取りだした携帯から、原田美咲のメモリーを見つけ電話を掛ける。
『・・・はい。』
数回のコールの後眠たそうな聞き慣れた声が届いた。もう寝ていると思っていた翼は一瞬反応が遅れた。
『翼?どうかしたの?』
「・・・あ、いや。何でもねぇよ。」
『それならいいけど。無理すんなよ。』
「分かってる。」
『本当かよ。』
いつもの変わらない会話。見られる筈はないが、心配そうな顔をしているで在ろう恋人の姿が浮かび顔がにやけてしまう。
ふと、気になった。この時間、既に深夜と云ってもいい位遅い時間。美咲は何故起きているのか。いつもなら寝ている筈なのに。一度気になるともやもやが消えない。
『翼?』
会話が途絶えたのを不審に思った美咲の声は今までの明るさが態を潜めた声色で届く。その声であらぬ方向へと考えを飛ばしていた翼の思考は戻された。
「お前よく起きてたな。寝てんだろこの時間。」
『あんたが任務行くって聞いたからな。』
「・・・・心配、してくれてるのか?」
『!!!!当たり前だろ!!!!仮にも・・・その・・・こ・・恋人・・・なんだから・・・・』
予想外の返答は、先程浮かんだ想像を全て吹っ飛ばしてしまった。真っ赤になりながらそれでも、精一杯の気持ちを伝えてくれる恋人はなんて愛おしいのだろ。
電話を握る手に力が入る。
「美咲・・・」
『ん?』
「直ぐ帰るから。寝ないで待ってろよ。」
『・・・分かった。待ってるから速く帰って来いよ。』
ぷつ と通話が切れる音がしてまた辺りは静まりかえった。
「んじゃ、帰っかな。」
「・・・・・あの・・・」
大きく伸びをしいざ、と意気込みを入れると後ろから突然現れた声に、勢いよく振り向くと少女が怯えもなく佇んでいた。
つづく
すみません。短いですがここで一旦切ります。
- Re: 学園アリス 【道標を貴方に】 ( No.23 )
- 日時: 2011/06/19 11:57
- 名前: 時計屋 (ID: klLmhm9D)
第十五章【満月は神々しく見下ろした】
薄暗い森の中翼は突然現れた来訪者に警戒した面持ちで対峙する。
長くはないがそれ程短いとも云えない時間を、危力系として任務に就いていた。流石に棗のようにとは云わないが、そこそこ人の気配を読む事に慣れつつある。しかし、目の前に佇む未だ幼さを隠し切れていない少女に、声を掛けられるまでその気配が感じ取れなかった。元々影が薄い子なのか。それとも、自らの意志で気配を絶っていたのか。冷たい汗が頬を流れ、警報が頭の隅で鳴り響く。
「安藤翼様ですよね?」
鈴を転がすようなか細く弱々しい声だが、それはよく響いた。否定も肯定もせず打開策を練る翼に少女は待っていましたとばかりに満面の笑みを浮かべ躊躇する暇もなく翼の手を取る。
「こちらへ。お二人がお待ちです。」
「いや・・・ちょっおいって!!!」
翼の抗議も無視し、少女は止まることなく森の奥へと進む。最初は勿論警戒していた翼も必死な少女の姿に、幾分か警戒を解き空を仰ぎ見る。
今は月が浮かぶ時間帯。光が届きにくい事も有ってか森の中は暗く、気を張らなければ足下さえ覚束ない。それでも少女の歩くペースは変わらず、普段より速い速度で駆け抜けるように進む。
と突然少女が止まり、翼の方へ振り向いた。
「この先にお二人が。お話が終わりました此処に空ける穴へ飛び込んで下さい。」
優雅にお辞儀する少女は、自らが空けた穴へ飛び込む。何が何だか分からない翼は兎も角言われた通りに指された方向へと進んだ。
幸いな事に開かれたその空間は月明かりで見やすく、転ぶ事はなかった。
「たく・・・何なんだ一体・・・」
案内されるまま付いてきたため、現在地すら掴めない。が、取り敢えずの危険は無いように感じられ一先ず息を吐き緊張を解こうとした時、奥で人の動く気配を感じた。息を殺し近づこうと足を滑らしたが、運悪く茂みに当たってしまい がさ と大きな音を立てた。相手が警戒するのを感じ知られずに近づくのを諦め、わざと音を立てながら相手が見える場所へと移動する。
雲が移動し影になっていた相手の顔が徐々にはっきりと見え、驚きに動きが止まる。
「あれ・・・?お前等は・・・・」
「・・って訳だ。」
「そう・・・二人は無事だったのね・・・。」
想像よりも驚いていない蛍に翼は疑問が浮かぶ。
翼を含む蜜柑と棗に縁の深い者達へ学園側から言い渡された回答は『Zによる誘拐』。以前からZは戦闘能力が高い棗と無効化のアリスを保持する蜜柑を狙ってはいた。しかし、蜜柑が初校長の手に落ちてしまった数年はその兆候も見せず最早蜜柑を諦めたのかとも噂されていたが、半年前その強固な幽閉場所から蜜柑が姿を消し鳴海先生や他の教師陣が何度も説明を求めた結果、『誘拐』と返答が来たのだ。その時は信じられないと思う以上にそれ程の力を持つ伏兵がZ側に存在していた事実に危機感を覚えたのだ。それでも、蜜柑が初校長の手から逃れられたことに安堵したが。
その頃からだっただろうか。流架と蛍の二人に言いようのない不信感を抱いたのは。蜜柑が誘拐されたと言われ、表面上は悲しみZへ悪態を吐いていた。しかし、そのどれもが何処か演技に見える。その事を殿内や美咲にも確認し、確信をを持てたのはそんなに遅くはなかった。何かを隠している。それは十中八九蜜柑に関する事で、翼達にすら言えない事だろう。無理に聞く事はしなかったが、今回真実を知った以上首を突っ込まずには居られない。
「姉さん達知ってたのか?蜜柑と棗はZに捕まったんじゃないって。」
俯く流架が肯定を意味する事を翼は知っていた。途端に脱力感が翼を襲う。
「なんだよ・・・それ・・・」
呆れや戸惑いや困惑。色々な感情が翼の内でぶつかる。なんだよ ともう一度呟き、蛍を見やると若干目を細めた蛍が淋しそうに見えた。
「・・・私だって止めたわよ。なのにあの馬鹿、学園に居たらみんなに迷惑掛けるって・・。そんなのどうでも良いのに・・・迷惑なんて思わないのに・・・・・」
段々と弱々しくなっていく蛍の声。今までどんな思いを堪えていたのか。
「・・・・付いて行きたかったわよ。やっと逢えたのよ。離れるなんて冗談じゃないって思ったわ。けど・・・・」
「棗が云ったんだ。学園を頼むって。蜜柑は俺が護るから心配するなって。」
消えてしまいそうなか細い声を繋げたのは流架だった。その時の情景を思い出したのか辛そうに、しかし強く棗の願いを口にする。
それはこの二人にとってどれ程の辛さだったのだろう。強く懇願すれば棗達とて拒否出来ずに、きっと四人で消えてしまった筈。あの二人が、特に蜜柑が蛍の必死さを受け入れない筈がないのだから。
「・・・けど、行きたかったんじゃないのか?」
「二人に付いて行けば・・・きっとこんなに不安に成らなかったかもしれない。でも、二人に付いて行ったら・・・きっと後悔すると思ったから。」
四人で行けばきっと残してきた学園を想って蜜柑は泣いただろう。それを間近で見た自分たちにどれ程の後悔が襲うか棗は知っていたのだろう。だから、託すだけで共に行く事は許さなかった。
「それに、俺たちはそんなに強くないから。付いて行っても足手まといになるだけだと思う。そんなんじゃ一緒に行く意味ないだろ?」
切なそうに語る流架は、小さく笑う。
一緒にいたくて。でも力がなくて。それを知ってるから見送るしかない自分。
一緒にいたくて。でも危険に晒したくなくて。それが分かっているから託すしかない自分。
あぁ、そうかだらこいつ等はこんなにも強いんだ。だから俺はこんなにも淋しいんだ。
理解してしまえば簡単な事。気付いてしまえば本当に些細な事。
強すぎて優しすぎる後輩達は決して庇護されるだけに甘んじはしない。自分に出来る限りの力でお互いを護っている。それは、凄い事だろうけど年長者としてはもっと頼っても良いんじゃないか?とも思う訳で。
「・・・格好悪ぃ・・・」
小さく小さく呟いた声は幸いにも届かなかった様で。
簡単だ。俺は・・・・頼られなかったのが淋しかったんだ・・・・。
いつだって何か有れば云ってきた。困った顔をして仕方がないと受けていたが本当は凄く嬉しくて。巻き込まれて正直辛い状況に追いやられては居たけど、迷惑だなんてこれっぽちも浮かばなかった。
だけどいつの間にか成長して自分たちだけで行動する様になって、淋しかったんだ。
けど・・・だけどさ・・・
「・・・仕様がないか!!」
「何よ?」
気合いと切り替えを込めて叫べば予想以上に何だかすっきりした。怪訝そうに見る二人に翼は笑顔を向ける。
「いや〜蜜柑達が来るまで色々と準備があるからなぁ〜。まずは、殿と美咲に報告か?」
これからの行動を大体で想定する。先程の叫びは気にしない事にしたのか蛍と流架も翼の提案に頷く。
「んじゃ、よろしくな。」
勢いよく立ち上がり伸びをする空に、綺麗な満月が浮かんでいた。
つづく
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