二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

  Pure love 君とずっと君と  (テニプリ) 
日時: 2011/04/04 13:56
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
参照:  嘘とか嫌なんだ、つまんないこと言わないでね。

 


 扉と申します。ちょっと前(?)まで亮でした^^
 知ってる方いらっしゃったら、是非声を掛けてくださいなv
 知らんわボケという方は、是非お友達に!!

 受験という忌々しいモノを乗り越えたので、今度こそ長編を挫けず書きたいと思います。
 すんごい駄文で、見るに堪えないモノですが←
 どうかどうか、生暖かい瞳で見守ってくださいなb

 題名は、純愛、という意味になるのですが。
 スレ主は十八番が死ネタや狂愛なので、爽やかなものは期待しないでくださいね(ニコリ。
 そして、扉の今までの小説のキャラが、総出演、てかんじですww←

 というわけで。(どういうワケで?!
 呼んでやるよこの野郎!!、という方は、どうぞー。











































 繋いでいた筈の手は、いつのまにかほどけていて。
 後ろにいたはずの君は、振り向けばいなかった。








 Characters

  氷帝学園 
       ▼小南 美波 ・・・・・・ >>002
       
       ▼小南 隼人 ・・・・・・ >>003

       ▼黒鳥 左京 ・・・・・・ >>004

       ▼春名 操緒 ・・・・・・ >>005

  立海大附属
       ▼如月 棗 ・・・・・・>>033

  青春学園
       ▼日向 葵 ・・・・・・>>008
       ▼一ノ瀬 香澄 ・・・・・・>>032   
  
  その他 ▼織原 リサ
       ▼リカ  



 Introductory chapter    ・・・・・・ >>001

 Chapter 1  思い出は儚く消え去る 
         >>009>>014>>015>>019>>021>>036>>043>>051>>055>>060
















You only have to be gone. It is thought that it thinks so.

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33



Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.157 )
日時: 2011/10/09 17:36
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)


「隼人に連絡入れておくか……」


 調理場を離れ、氷帝メンバーのいるロッジへ戻った跡部は、棗の提案も有り、兄であり唯一美波と近くにいる家族である、小南隼人宛てにメールを作成する。
 跡部という男の拙い言葉では、現状はあまり伝わらないだろうと、後ろで見ていた忍足侑士は、補足をするため自分もメール画面を開いた。

「何や、元気そうやないか。跡部?」
「煩ぇよ、忍足」

 岳人や慈郎の軽快な笑い声と、苦笑する滝に、軽口を叩く左京に怒鳴る宍戸、宥める鳳。それらを眺める樺地。ここに美波が戻って来れば、完成するのだ。氷帝学園の在るべき姿が。

「なぁ、忍足?」
「何や?」
「俺は…… 少し先走っていたのかもしれねぇ」

 跡部は伏し目がちにそう言った。
 珍しく、弱気な発言に、侑士は目を丸くする。

(確かに、“あれ”は美波を困らすだけやったからな……)

 約5時間ほど前の事を、思い出しながら、侑士は少しだけ微笑んだ。
 ブン太との再会に、動揺を隠せなかった美波に向かって、跡部は苛立った。
 小南と跡部が互いの未来のためにつながりを持つべきだと、美波も跡部も、それぞれの祖父・両親から伝えられ、彼らは正式に婚約することが決まった。美波も跡部に尽くすと言った。その気持ちに嘘は無かったとは言え、目の前に現れたブン太を見て、冷静でいられるほど、美波は大人ではなかったらしい。
 オドオドして、まともに跡部と目を合わせようとしない。おまけに、「触らないで」とまで言われれば、跡部だって黙っちゃいないだろう。……だが、跡部は言ってはいけない事を言った。
 侑士は鼻で笑った。

「はは、珍しい事言うな、跡部」
「からかってんじゃねぇよ」
「すまんすまん。……で、何でそう想うん?」

 跡部はため息を付いた。

「言えない事もあるらしいからな。俺は待つだけだ」



——————



「お、メール…… げ、跡部……って、はぁ?!行方不明?!美波が?!……はぁ?! うぉ、侑士から、だ、何んだって… はぁ?!崖から落ちたぁ?!」

「隼人煩い。点滴中」
「あ、はい」


 小南隼人は、落ち着きを取り戻し、ベットに横になる。ふーっと長い息を吐き、もう1度、ふたりの後輩から送られてきたメールを読み返した。
 そこには、合宿で美波の身に起こったことが、大まかに書かれた物と事細かに書かれた物の2通がある。とりあえず、言葉も優しい忍足侑士からのメールだけを相手にすることにした。
 隣で、隼人を見守っている少女、織原リサは、突然騒ぎ出した隼人にため息をつき、事情を聞いた。

「行方不明って、」
「何か、崖から落ちて、そっからいなくなったらしい」
「えぇ?!」

 普段は気丈に振る舞うリサも、今回ばかりは声を荒げずにはいられない。

「そ、それ大丈夫なの…?」
「あー… 侑士曰く、榊監督の島らしいから、そんなに危ないところはねぇって」
「そんないい加減な、」

 リサは全く納得出来ていない感じの返答だったが、隼人は割と納得したらしく、「まぁ大丈夫だろ」と笑う。根拠は特にないが、侑士のメールの最後には“丸井ブン太も一緒や”と書かれていたことが、大丈夫と言える最大の理由だろう。
 妹と彼の事を、1番よく知っているからこそであり。彼らを引き離した張本人だからこそ、言える台詞だ。絆っていう物を持つあのふたりなら、大丈夫だと言える。
 そう言えば、リサも多少は落ち着いた。セミロングの黒い髪を耳にかけた。

「なぁ、リサ?」

 外はもう真っ暗で、出てきた月の明かりが当たりを照らしている。

「……何?」

 今リサが座っている席は、つい3時間ほど前まで、忌々しいオヤジが、苛立ちを覚える笑顔を浮かべて座っていた。そんな苛立つほどすがすがしい笑顔も、自分の一言を以てすれば一発で、どこか虚空へ消えてしまったのだが。
 ただ許せなくて、隼人は心にも無い台詞……、否、心のままに言葉を発した。


「俺、たまに夢見るんだ」

「へぇ、どんな?」

「よっく解らんねぇんだけど… どっか森の中に立ってんだよ、俺。そこは薄暗くて、周りに人とかいるはずなのによく見えなくて。初めは降ってなかったのに、だんだんアメが降ってきて強くなって」

「うん」

「そんで、睨まれてんの。俺」

「……誰に?」


 隼人は軽快に嗤った。


「知らない子。色の白い、ショートボブの女の子」

「詳しいね」

「だって、その子だけ、やけにはっきり見えるんだもん」

「ふーん?」

「それでね、その子俺に向かって、何て言ったと想う?」

「さぁ」


 隼人は悲しく嗤った。


「返してって、言うんだ」


 リサは、言葉を失う。


「何を……って想って、自分の手のひらを見下ろすんだけど」


 隼人は夢でやったのと同じように、自分の手のひらを眺めた。


「血まみれなんだ、手。真っ赤に染まってて、なんか生暖かくて、どろっとしてて。悲しいくらい、紅[アカ]」


 隼人は薄い嗤いを浮かべた。



「俺、あの子の何を奪ったんだろう———」



 リサはどうして良いか分からず、ただ衝動的に、ベットに横になったままの隼人にしがみついた。抱きつく、という表現は似合わない抱きつき方だ。


「きっと、ろくでもない男だったんだろうなって、前世ではきっと悪魔みたいな人間だったんだろうなぁ、はは。今もそうだけど」


 妹から大切な人といる時間を、空間を奪って。
 大事な後輩からテニスをする力を奪って。
 父親から、持ち前の笑顔を奪った。

 軽い笑い声に混じって、小さな雫が1粒だけ垂れた。それ以上は、リサの腕には滴らなかった。


「元を突き放したのって間違いだったのかな」


 あえて、“親父”とは呼ばないし“父さん”とも言わない。


「そんなの、私には解らないよ、」

「だよな」


 今リサが座っていたところにいた男——— 小南元。
 
 何事もなかったかのように、まるで毎週見舞いに来ているかのように、爽やかに清々しくにこやかに、満足気に笑った父と呼ぶべき男は、「ただいま」と言った。
 驚いて何も言えなかった隼人に、元は「ただいま」と言った。
 気の利かない男だから、手みやげの1つも持たないで病室に来た。左京の様にスナック菓子を出されても困るが…。ただ男は、父は、笑っていたのだ。

 隼人が、「帰れよ」というその時まで。絶え間なく会話を続け、笑っていた。

 その笑顔の中に、愛しい妹をみつけた自分が許せなかった。


「元が莫迦なことくらい、知ってんだよ、俺……」


 リサは小さく頷いた。


「だから、許してやれないこともない、けど」


 隼人は、開いていた手をぐっと握った。


「意地って、怖ぇな」


 静かに、眠りに落ちた。


*

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.158 )
日時: 2011/10/09 18:21
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)



———3時間前。




(会えるかな、会えねぇかなぁ……)


 この弾む心を、どうにかして欲しい。この駆け出しそうになる足を、誰か落ち着かせて欲しい。

(会えるのか、俺……!)

 四十路目前の親父が、こんなにも楽しそうだと、周りからは気持ち悪く見えるのだろうか。だけど、楽しい物は仕方がない。
 この町並みも、日本ならではのこの空気も、全てが懐かしい。幼い子供たちと公園で戯れる父親を見て、かつての自分を重ねたくもなるが、残念なことに、砂場で小山を一緒に作ってやったことはない。勿論ブランコを一緒にこいだ事もない。
 ただ、隣のストリートテニス場で、心行きすぎて飽きるまで、スマッシュを教え込んだり、サーブを打たせたりした。それが、息子のためだと想って。息子も楽しんでいると信じて。実際、楽しそうだった。
 見ていた娘も。

 いつの間に、壊れてしまったのか。

 アメリカに渡る時、子供達は反対しなかった。妻も反対しなかった。
 反対したのは、忌々しい小南家当主にして、父である玄海。厳しい顔付きで、話もろくに聞かないまま、突き放されたのをよく覚えている。
 家の存続とか、跡継ぎとか、そういう柵をぶちこわしたくて必死だった。
 結果的に、壊したのは柵だけじゃなくて、大切な糸も含めたつながりだったのだが。


「まずは、何て言おうか」


 自然と零れる笑みを抑えきれない。

(花、俺はちゃんと、お前のところに帰るからな)

 果たせてない約束を胸に、小南元は、金井総合病院へと向かったのだ。



——————



「たっだいまっ」


 誰だっけ。
 それが最初の感想で。


「隼人、元気してたか?! ……あ、入院中か… 」

「細くなったなぁ、お前。昔から俺に似てスマートだったけど?」


 そうなんだよ。俺はどこまでもお前とそっくりで。
 その背格好も、この顔も、スタイルもプレーもフォームも、全部全部。何もかも、真似したわけでもないのに、まるでコピーしたかのように。


「想ったより顔色良いな。はは、身体弱いのは母さん似か」


 その母さんを苦しめたのはお前だ。


「あー、これ、お見舞いか。あ”、しまった、俺何も持ってきてねぇわ… 悪いな」


 別にいらねぇよ。


「どうした? さっきから、黙って」


 俺はお前を、何て呼べば良いんだっけ?



「———帰れよ」



 それが、隼人が発した最初の言葉だった。
 酷い言葉だと解っていたのに、言ってはいけないと感じていたのに、ただその言葉しか浮かばなくて。椅子に腰掛けたばかりの父に、冷たい目と声を浴びせた。
 冷水でもかぶったみたいに、男は目を丸くして表情を失った。

「……厳しい、な」
「帰れ」
「そう言うなよ。父さん、お前に会いたかっ、た……」

 たぶん、この男は、隼人の頭をわしゃわしゃと撫でたかったのだろう。昔のように。
 それなのに少年は、拒んだ。
 軽い音が病室に嫌に響いて、男の手が少しだけ赤くなった。

「帰れっての」

 自分が駄目なことくらい自覚していた。

「隼人」
「お前が、全部壊したんだろ、全部全部、くだらないプライドと勝負のために、全部捨てて、全部壊したっ」

 吐き捨てるように、隼人は言った。


「俺から、家族を奪った」


 英国へ、母親と妹が旅立った理由。
 それは、父親のアメリカ行きを拒む祖父を、母が説得するためだった。

「母さんは、玄海さんに嫌われて、美波は、屋敷にもいれてもらえず帰国」

 忌々しい、1人きりの半年。

「お前のアメリカ行き、何で許可されたかしってか?」

 いつもより厳しくなる口調。


「日本に残った母さんの生活費の援助を止める代わりに、許可されたんだよ」


 残酷な事。
 絶対に言うな、と母が言っていた。

「それから、母さんがどんだけ働いて、どんだけ苦労して、美波を手放して俺の前から消えて、」

 でも、決して泣かなくて。
 

「どんだけ苦しんだと想ってんだよ」


 抑揚のない声。だけど確かに、恨みが映る。

「そんな時お前は、」

 いつだったか。テレビをつけた時、何とも言えない虚無感に襲われた。


「楽しそうにテニスしてやがった」


 サムライと呼ばれるライバルと。


「お前が奪って、お前が壊したんだ」


 
「俺は許さない」


 あぁ、また、誰かから何かを奪うのか。



「もう1度言う。帰れ」



 だけど仕方ない。俺だって、失った。



——————



 保留

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.159 )
日時: 2011/10/15 15:02
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)



「ブン太に、言わなきゃいけないこと、があるの」


 美波は遠慮がちに切り出した。
 恥ずかしいくらい、お互いに泣きはらしたふたりは、少しずつ落ち着きを取り戻す。まだ目の充血は引かないが、涙はどうにか引いてくれた。
 ブン太は珍しく畏まる美波に、違和感を覚えつつも、特に口には出さずに、美波の言葉を待った。

「言わなくても良いやって、思ってたの。美波はもう、ブン太に嫌われちゃったんだと思ってたから」

 一人称が、“私”から“美波”に変わった。
 昔から、上手に使い分けていたのを、ブン太は知っている。大勢の大人の前では私、自分や棗の前では美波、他の学校の友達の前では私、兄の前では美波。無意識か故意にかは解らない。たぶん、理由なんて本人にとっても曖昧なものでしかないのではないだろうか。
 
「……ブン太?大丈夫?」

 美波がきょとんとした表情で、ブン太を覗き込む。

「え、あぁ、悪ぃ」
「大丈夫なら、良いんだけど」

 美波は、これまでで1番優しく笑った。

「それで?言わなきゃなんねぇことって、何だよ?」
「あ、あぁ…」

 息を呑む音が聞こえた。
 心臓の音までも聞こえてきそうで、だんだんと手が汗ばむ。こんな緊張感は苦手だ。テニスの試合とは、また違った緊張。


「……小南家、のこと、知ってるよね」


 消え入りそうな声に、ブン太は小さく頷いた。
 全部を知っている訳ではない。だけど、全く知らないわけでもない。
 古くから続く、何処ぞの財閥や企業にも顔の利く名家で、現在は美波の祖父である、小南玄海が当主を務めている。家を継ぐはずだった父親の小南元は、どうしてか嫌がりテニスの道を選んだ。その時に、玄海を説得したのが母親の花。元々ふたりの結婚を反対していた玄海は、その一件以来、花を更に嫌い遠ざけ、子息である隼人と美波だけを支援することにしたらしい。
 そんな家庭内のいざこざが大きくなるうちに、小南の家が傾き始めた———
 ブン太が知っていたところでどうすることも出来ない、小南の家だけの事情だ。
 

「家、が傾いてるって……」

 
 ブン太は絞り出すような声でやっと、その言葉を言った。美波はそれを聞いて、仕方ないことなの、と言わんばかりに眉を下げて笑った。

「そう。それでね、お祖父様は何か手を打たないと、と思ったらしくてね。私、を使ったの」
「な?! それ、どういう事だよぃ?!」

 思わず肩を掴んできたブン太に、美波は目を丸くする。

「え、えと、落ち着いて」
「……おぅ」

 とても落ち着いて聞いていられるような話では無いことが、少しずつ理解でき始めた。

「跡部…… 知ってるよね」
 
 ブン太の背中を、嫌な予感が駆け抜ける。

「……」
「跡部は、知ってると思うけど…… 跡部財閥の御曹司、で」

 小さな声が紡ぐ言葉に、確かな絶望が隠れている。

「傾いた小南を、安定させるには丁度良い、らしくて」

 彼女の手は、カタカタと震えていた。



「お祖父様と跡部の、———景吾の、お父様は、美波たちの婚約を決めたの」



 頭を粋なり、金槌で殴られたみたいに。思考が停止した。

「嘘、だろ」
「本当」

 美波は、こうなることは、少しだけ予想が出来ていた。
 相手が誰であれ、姓が海神から小南に変わったあの時から、結婚という名の自由は、自分には永遠に与えられないのだと。誰に教えられた訳ではないが、なんとなく理解していた。だから、玄海にそう告げられた時も、「あぁ、そうなんだ」と、思っただけだ。
 相手が跡部だと分かり、少しだけ安心した自分がいるのも事実。跡部に尽くそうと思ったのも事実。同時に、丸井ブン太という少年の存在を、胸の内から切り捨てたのも、事実。
 最後の1つだけは、上手くいかなかったようだが。

「小さい頃から棗ちゃんと美波と、ブン太で、一緒にいて、ふたりはどんな時も一緒にいてくれて、楽しかったよ」

 声が震えている。
 だけど、しっかり、強い目をしている。

「でも、やっぱり、怖くて」


 失うのが。あの暖かい場所を、失ってしまうのが。 
 
 ブン太に連れられて行ったテニスコート。そこで出会った、立海の皆。
 柳は既に美波の事を知っていた。不思議だったけれど、それのお陰で自然にとけ込めた。柳生はいつでも親切で穏やかで、一緒にいると安心できた。ジャッカルは何を言ってもちゃんと受け止めてくれて、真田はお父さんみたいに見守ってくれた。
 あまり話したことがない仁王だったけれど、たまに話すときは誰よりも優しい目をしていたのを覚えている。
 幸村は、ずっとこの手を引いていてくれた。
 棗が隣で笑ってくれた。

 突然海神という家を失った美波にとって、テニス部のトモダチは不可欠な物になっていた。
 そんな彼らを、跡部の処へいくことで失ってしまう気がした。
 氷帝の人間になるのが怖かった。


「もう、立海の皆とは、会えないって思うと、怖くて」

 会うな、と跡部が言った訳ではないのに。むしろ彼は、美波がブン太を吹っ切れないことくらい、理解してくれていたはずなのに。

「それで跡部と揉めてたのか……」

 ブン太がため息混じりに言う。
 調理場での、ふたりの遣り取りを見ていたらしい。

「最低だよね。跡部だって、色々あるのにね」
「お前、何か言ったのかよぃ?」

 美波は笑った。


「触らないでって、言っちゃった」


 気持ちの整理がつかなくて、思わず跡部を避けてしまった。
 そんな美波を、跡部は抱きしめようと手を伸ばした。彼の腕の中に入る時、美波は何故かその手を振り払った。
 彼の手が、微かに震えている事を知っていながら。

「謝らなきゃ」
「美波……」

 名前を呼ぶだけで精一杯。
 離れていく幼なじみ、昔の恋人。だけどそれは、止めることの出来ない事。


「今度こそ、サヨナラをしよう? ブン太」


 美波はブン太の手を取ってそう言った。

「何だよ、それ……」
「もう、美波は跡部のものになるの。だから、ちゃんと終わろう?」


 曖昧に終わって、曖昧に残った感情を、ここで消そう。
 お互いにお互いから消えよう。
 もう二度と、お互いが傷つかないように。


「終わり、なのかよ」
「仕方ないじゃん」
「何でだよ」
「私が‘小南’だから」
「戻れよ、‘海神’に」
「無理」
「何で」
「何でも」
「意味分かんね」
「美波にも解らない」
「じゃ、俺の事嫌いになったわけ?」
「そう言う訳じゃないけど」
「やっぱ、あの日には戻れねぇ?」
「当たり前」
「俺は、お前にとって何だった?」


 伸ばしてくれる手は、いつだった温かかった。




「太陽、かな」

 
 決して届かない、だけどここを照らしてくれる。

「大好きだった」
「うん」
「一緒にいたかった」
「うん」
「離れたくない」
「……うん」

 それでも、きっとあの人は今も、私を待っているから。





「サヨナラ」


 私は今、あの日を越えられたのかな。
 

*

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.160 )
日時: 2011/11/03 16:12
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)

「お前も、俺を1人にするんだ?」


 その言葉は、少女の胸に大きく突き刺さったまま抜ける事なく、彼女にとって最も大切なものさえも貫いてしまった。


—————2年前、冬。



「美波」

 立海大の屋上からは、隼人や、後に幸村が入院した金井総合病院が見える。それを眺めながら、仕事で忙しい母の負担にならないよう、自分で作ったサンドイッチを頬ばる美波。いつもならブン太や、テニス部の面々と共に食堂や誰かの教室で食べるのだが、その日はどうしても、誰かと笑いあう気になれなかった。
 そんな彼女の背中に声を掛けたのは、他でもない、ブン太だった。

「……ブン太」

 いつも通り、黄緑色のガムを膨らませながらやって来た彼は、隣に座った。

「まだ、隼人病院?」

 考えていたことを見透かされていた事に驚いて、美波は一瞬目を丸くしたが、すぐに頷いた。

「うん。まだ」
「……おはさんは?」
「仕事忙しい。全然会えてない」

 当たり前の事を訪ねるブン太。ずっと一緒にいる彼なら、訊かずとも知っているはずのことばかりなのに。そんな疑問を持ちながらも、美波は答えた。聞いて欲しかったのかも知れない。

「行くのかよぃ?」

 ブン太の言葉に、凍り付くそうになる。冷えてきた屋上に、冷たい風が吹き付けた。それが言葉のせいだったのか、ただの風なのか、美波には解らなかったけれど。
 感情の読めない、平べったい声で言葉を紡ぐブン太を、少しだけ怖いと思う。こんな感情は初めてで、手のひらを握りしめた。

「……分かん、ない…」

 昨日病院に、久しぶりに行った。
 色々と忙しかったと言うこともあり、最近は中々会いに行けなかった。元々小南の家に住んでいる隼人には、ただでさえいつも会えるというわけではないのに。仕方のないことなんだ、と兄が理解してくれていると思いこんで、後回しにしていた自分もいる。
 久しぶりに行くと病室が変わっていた。海の見える、日当たりの良い部屋だと思う。行ったのは暗くなり始めた時間だったので、電気の明かりだけだったが。1人きり。1人きりの病室のベットで、ただ空を眺めていた兄の姿を見て、痛感した。

 この人には、もう、自分しかいないんだ——。


「んだよ、それ…」

 どういう答えを待っていたのだろうか、ブン太は不満げに呟く。

「だって」

 少しずつ離れていく幼なじみ。

「行くのかよ」

 ブン太の視線は、厳しかった。
 解っている。行かなくてはならない事くらい。十分。
 美波のアパートに、祖父・玄海からの手紙がやって来たのは二日ほど前の事。正式に、小南の娘になることを薦められた。というよりも、後々の家の発展のために、美波の縁談を使いたいとでも考えているのだろう。なんだか、江戸時代みたいで笑える。
 父はアメリカ。母は多忙。誰も、あの人のそばにいない。幾度の病気を重ね、その弱い身には、更に小南家の家がのし掛かる。祖父は跡継ぎ問題の解決のため、隼人を引き取ったのだ。あの人に、家族がいない。
 それを目の当たりにした今、ここで呑気に過ごしているわけにはいかない。小南だの何だのよりも、あの小さく殺風景な個室に、隼人を1人にしている事の方が辛い。
 小南美波になる。それが1番良い。それは十二分に理解していた。

「分かんない、けど、」

 だけど、ここには大切なものがたくさんある。

「やだよ、私」

 小南に行けば、学校を転校しなければならない。母をおいていかなければならない。何より、隣でいつも笑ってくれた彼を、捨てなければならない。
 失うモノが多すぎる。
 一言で良い。「行くな」と、手を引いて欲しい。

「やだよ、私だって、やだ……っ」

 あぁ、お願い、この手を、離さないで。
 美波は手を振るわせながら、体操座りをしている膝に顔を埋めた。
 ブン太という少年に縋る彼女の手は、あまりにも呆気なく、あまりにも簡単に、ふりほどかれた。


「行けよ」

 耳を疑った。

「え……?」
「だから、行けよ。向こうの家。その方が良いんだろぃ?」

 そんな、そんな簡単に、そんなに、軽く。

「ブン太、は、私が、ここにいなくても、良いの…?」

 美波らしくない質問。自分でも、自分らしくないと思いながら言った。訊かずにはいられなかった。少なくとも美波は、ブン太と一緒にいたい。

「こうする他、ないだろぃ」
「でも、私、」
「—————お前は、また」
「え?」

 ブン太は大きく息を吸った。

「お前はこれ以上、アイツを苦しめるのかよ。また1人にするのかよ!!」

 美波の中の何かがキレた。

「……解ってるよ!!解ってる、あの人、1人にしたらきっと、死んじゃう、だけど、だけど!!」

 少女の中にある全ての感情が、一気に溢れ出す。彼女のこんな大声を、誰か聞いたことがあるだろうか。きっと無いだろう。だって、ブン太ですら、初めて聞いたのだから。啖呵を切ったのは自分の癖に、少々面食らってしまった。
 唇を噛み締めた。

「解ってんなら、さっさと行けよぃ」
「でも、」

 涙を浮かべる美波に、空港での彼女が重なる。
 まだ幼くて、まだ無垢で無知で、無邪気で。あぁ、今でも十分無邪気だな…。必死に、泣いてた。


「————さっさと、俺の前から消えろよ!!」

 大きな怒声と共に、何かが弾けたような軽い音が、静かな屋上に響き渡った。
 驚いて少女の顔を改めて見た。そこにいたのは、全然しらない女の子だった。




「……さよなら、」

 言葉の意味がよく解らなくて、だけど聞き返す気にはなれなかった。解らないけれど、知りたい訳じゃないんだ。むしろ、知りたくない、耳を塞いで、聞かなかったことにしたい。
 今の遣り取り全て、踏みつぶしてしまいたい。
 バタバタと派手な音を立てて、美波は屋上から出て行った。足の遅い彼女の全力疾走は、決して格好いい物ではないし、ましてテニス部レギュラーのブン太が追いつけないはずがないが——— これも又、追いかける気になれなかった。
 ただ、1人きりになった屋上で項垂れた。思い返した。残酷すぎる自分の言葉を。


「……良かったの? これで」

 透き通った少女の声に気がついて顔を上げた。

「———棗、……幸村くん」

 そこには幼なじみと、どうしてだが部長である幸村も居合わせていた。
 棗はとことん無表情で、感情を表に出さない瞳でブン太を見ているが、対照的に、幸村は寂しげに悲しげに、辛うじて微笑んでいた。

「……ブン太、今ならまだ」
「やめてくれよぃ」

 美波の出て行った方向を指さしながらそう言う幸村を、遮った。

「ブン太、」
「俺は間違ってねぇよ」

 後悔の念を押しつぶすように、自分に言い聞かせるように。

「絶対、」

 

 少女は立海を去った。
 神奈川を去った。
 隣を去った。



「これで良いんだろぃ?」

 誰に訊くワケでもなく、空を仰ぎながら呟いた彼の声は、誰にも聞こえていないだろう。



 あの日。
 戻ることが出来なくて、戻すことも出来ない、取り戻すことも出来ないやり直すことも出来ない、消すことも出来ない。だけど、越えることは出来る、あの日。

 

—————



 ネクタイを上げて、鏡を身ながら髪を整えた。

「よし——…」

 何が待っているだろう。
 そんな期待よりも、残してきた物の事を思う。
 机の前のコルクボードに張られた写真を見て、小さく微笑んだ。


「行こう」

 小南美波、13歳冬。
 ———————氷帝学園中等部1年在籍。




*

Re:   Pure love 君とずっと君と  (テニプリ)  ( No.161 )
日時: 2011/11/06 19:50
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)


 今でもよく、あの時のことを思い出す。

 少女は突然、俺の前に戻ってきた。
 会いたくて会いたくて、心の底ではきっと、ずっと、彼女の名前を叫んでいた。


「美波!」

 迷い無く、彼女の名前を叫んだ。あぁ、やっと、こうして声にして届けられる。俺は、また、彼女をこの瞳に写して、この手で彼女に触れることが出来る。

「……景吾…?」

 驚いたようにそう呟いた。
 抱きしめたい衝動を必死に抑えて、緩む頬も引き締めて、ただ、彼女を見つめた。



——————



「あ—————————!!!!!!」

 午前5時すぎ。
 夕べ遅くまで起きていた少年達にとって、この時間に起きろと言うのは至難の業である。
 だが、どうにも寝られず、起きていた宍戸には関係のないこと。彼の大きな声は、氷帝ロッジだけに留まらず、宿舎全体に響き渡った。

「……死にますか宍戸先輩」
「お、さ、左京っ 悪い……じゃなくて!」

 左京の暗いオーラを感じ取った宍戸は即座に謝る。が、すぐに窓の外を指さして再び叫んだ。

「美波が帰って来たんだよ!!」

 昨夜行方不明になった少女が、自力で帰ってくるなんて考えにくいが、あまりにも宍戸が慌てているので、怪訝な表情を浮かべながらも、左京は窓の外に目をやった。
 するとそこには、確かに彼女がいた。

「み、なみ、先輩」
「だから言っただろ!! おい跡部、美波、が……」

 宍戸が勢いよく振り返り、そこのベットにいたはずの跡部に呼びかけるが———


「出て行ったで、今。飛び出していきよったわ」

 侑士がなにやら意味ありげに微笑んでいるだけで、当人はすでに書けだしていた。



保留


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33



この掲示板は過去ログ化されています。