二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  **、月を夢見て旅しませう 【小説】
日時: 2014/11/06 22:00
名前: 兎子. ◆.UAIP8bSDA (ID: pvHn5xI8)




♯.説明
好きなものを好きなだけ。
通称:ごみばこ
二次創作(紙ほか)で「も海ず藻く」としていろいろ執筆中
好きジャンル
【BSR、RE!、JOJO、等】



♭.話

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141110 ( No.1 )
日時: 2014/11/10 21:38
名前: 兎子. ◆.UAIP8bSDA (ID: pvHn5xI8)

 桃色のワンピースに身を包み、くるりと一回転をしてみせる愛娘の姿に、自然と頬は緩んだ。ねえかわいいかしら、ママ。そう言って首を傾ける娘を抱き上げて、白くて柔らかな頬に唇を押し当てる。勿論よ、わたしの可愛い子。呟くように言えば、娘は頬を桜色に染めて、嬉しそうに笑った。ああ、本当に可愛らしい。
 この子の父親は早くに蒸発した。いや、蒸発した後に見つけ出して、わたしが殺した。この子には悪いが、この子が出来た切っ掛けというのは一夜の間違いだったのだ。だからこそ、愛しいこの子を汚さないように、あの男を殺した。幸いにもこの子はわたしによく似ている。わたしの髪と同じ金色の髪に、青い瞳。あの男は黒髪に茶色の瞳。ああ、よかった。この子は何も知らないまま、幸せになれるのよ。
 娘を抱えたまま、シン、と静まり返った夜の街を歩く。わたしは、昼間は出掛けることができない。わたしは太陽の下を生きることができない吸血鬼だった。
 容姿こそわたしに似た娘でも、血はあの男の方が濃いらしい。彼女はまだ、吸血鬼にはなっていないようだ。他の子よりは少しばかり歯が尖っていたが、彼女は昼間も平気で出掛けられるし、吸血衝動もない。彼女は吸血鬼にはならないかもしれない。その点でわたしはひどく安堵したと同時に、これ以上隠しきれるのか、わたしのように突然吸血鬼になってしまうのではないか、という不安が頭を過る。
 月を背にゆっくりと歩くわたしの腕のなかで、娘が無邪気にわたしを見上げる。無垢な瞳に見つめられて、胸が軋むような音を立てた。
「ねえママ、ママはどうして、お日さまがきらいなの?」
「……うーんと、ね。ママは明るいところが似合わないから、かしら」
「えーうそだよ、ママ。ママ、きらきらのお洋服がにあうもの」
 ああ、ああ。なんて、なんて、やさしい。
 娘を抱き締めて、涙を必死に堪える。わたしがまだ、綺麗でいられたころ。太陽を背に、笑えていたころ。似合うんじゃないかと笑うあのひとの姿が浮かんでは消えていく。
「ママ、いたいの? なかないで」
 娘が短い腕を伸ばし、わたしの頬を撫でる。大丈夫よ、泣かないわ。わたしはもう、母親になったの。強いから、大丈夫。
 うん、と小さく呟き、どうにか堪えられた涙に安心しながら、ぎこちないだろう笑みを向ける。娘はにこりと笑って、わたしにぎゅっと抱き着いた。今はこうしてくっついてくれるこの子も、いつかは離れていってしまうのかもしれない。それともわたしのように、突然日の下で生きていけない体になるのかもしれない。そう考えると、わたしの血が憎らしくて仕方がなかった。
 しばらくして、やはり昼間に生きる彼女は疲れてしまったようで、腕のなかの重みが増した。すやすやと穏やかな寝息を立てる彼女に頬を緩ませながら、しばらく外を歩く。この辺りは住宅街で、家族連れが多いからか、夜に出歩く人はあまりいない。気が楽だ。
 月が上昇していく。金色に輝くそれを見上げ、ふと足を止めた、とき。ここ数ヶ月は聞いていない声がわたしの後ろから聞こえてきた。
「珍しいこともあるんだな」
「……JOJO」
 心臓が音を立てた。動揺しつつも娘を起こさぬようにそっと振り返ると、仕事帰りなのか、少しくたびれた様子の、高校時代の同級生が立っていた。空条承太郎。JOJO、と呼ばれていた男だ。
 わたしの腕のなかに眠る娘を見て、一瞬眉をひそめた彼は、やはり暫く家に帰っていないのだろう。彼の娘はわたしの娘より二歳上だと聞いている。
「おまえを見れるとは思わなかったぜ」
「引きこもりみたいに言わないで」
「そうじゃねーぜ。おまえはおれが帰ってきたらいつもどっか行っちまうからな」
「……そもそもあなたは帰ってこないじゃない」
 娘を気遣い、どことなくいつもより声量を落とす彼はやはり、親なのだろう。だが同時に、子供を持つ親として、彼がなかなか家に帰らないのは納得できない部分がある。溜息と共に吐き出せば、彼はほんの少し罰が悪そうな顔をして、帽子を深く被り直した。小さく動いた唇は、きっとお決まりの口癖を呟いていることだろう。
 わたしと彼の関係は、ただの同級生、というわけではない。高校生から大学生になって少しぐらいまで付き合っていた経験がある。別れた理由は、わたしのせい。わたしは吸血鬼になってしまったことに酷く怯え、嫌悪し、周囲の人間や、わたしを生んだ親にまでも当り散らしていた。わたしはそんな自分に更に嫌悪感を抱き、結局、何も言わないまま家を飛び出し、遠い外国に逃げた、というわけである。海外でわたしを拾ったのはとある研究機関。毎月わたしの血を少し提供する代わりに、わたしの元に金が振り込まれる。そうしてわたしは、生活していた。
 そんなわたしが三年前に日本に戻ってきたのは、娘の父親である男を殺すために他ならない。
 日本に戻ってきて、彼と会うようになった。再会したときには逃げ出そうとして、結局捕まった。ゴメンナサイをすれば、思いの外すんなり彼は許してくれた。彼が結婚していたことにも驚いたが、わたしに娘が居ると知った彼も驚いていたので、お互い様だ。それからは、お互いあまり呼び出すことはなかったが、なんとなく訪れたカフェで会ったり、こうして道端で出会ったりしていた。近所なのだから当然かもしれない。そして近所だから、彼が中々家に帰ってきていない、という情報も耳に挟んでいる。
 娘を抱き直し、目の前で目を逸らす彼の顔を覗き込む。グリーンの瞳が、何となく複雑そうな色を浮かべてわたしを見た。
「あなたが優しいのは昔から知ってるわよ。でもそれが伝わってないんじゃ無意味じゃない。そうは思わない?」
「……ああ」
「あなたって本当、変わらないわよね。……ああもう行かなくちゃ。娘が風邪ひいたら困っちゃう」
 夏といえど、夜はすこし涼しい。ワンピース一枚の娘には些か寒すぎる気温のような気がする。
 腕のなかの娘を見て、すっかり寝入っていることを確認する。わたしにつられて娘を見ていたJOJOは、眠る娘の髪をさらりと撫でて、そのついでとばかりにわたしの頭を撫でた。
「送っていくぜ。どうせ近い」
「……ありがとう」
 何気なく隣に並ばれた。距離感は学生時代の、恋人だったときと殆ど変らなくて、なんだか懐かしくなった。お互いに大事な家族がいて、もうわたし達の間に恋愛感情なんてものはないのだろうけれど、それでも、あの頃に戻りたくなった。
 太陽の下で、堂々と手を繋げていた頃に。彼と同じ時間に起きて、同じ時間に動いて、同じ時間に寝ていた頃に。——わたしが、人間だった頃に。
 あなたは優しいひとよ、JOJO。だからどうか、それを彼女たちにも教えてあげてほしい。あなたの大事なものだというなら、わたしも一緒に、守ってあげるから。
 言おうとして、やめる。わたしは知ってる。彼の大事なもののなかに、わたしも含まれていることを。
 娘をぎゅっと抱きしめて、久しく口にしていない名を、呼ぶ。
「承太郎」
「……なんだ」
 家まであと数メートル。驚いたような彼の表情に小さく笑った。キスのひとつでもしてやろうかと思ったけれど、流石にそこまで悪い女ではない。
 彼との会話で、決心がついたんだ。わたしもあなたと同じだって、気付いた。
「わたしも、正直になろうと思う」
 娘に、ぜんぶ話そう。きっと娘は笑ってわたしを受け入れてくれる。夜もママに似合うもの、すてきよ。そう言ってわたしを抱きしめてくれるの。わたしには、分かる。だって大事な、自慢の娘だから。
 そう言えばJOJOは笑った。悪くねえな、と。悪くない。それは何についての言葉だったのか、わたしにはよく分からなかった。ただ、わたしは思う。わたしのこの言葉で、彼が少しでも素直になってくれるなら。わたしはすごく、幸せになれる。
 玄関先から、家へ帰っていくJOJOを見送る。振り返ることなく片手を挙げた彼に次に会えるのはきっとずっと先なんだろうな、とぼんやり考えた。





××
吸血鬼の一族にうまれた主人公と、元彼承太郎さんのはなし。
原作とか関係ない。とにかく家族がすきなふたりである。


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