二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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薄桜鬼 追憶録
日時: 2012/04/20 18:52
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

はじめましての方、そうじゃない方もこんにちは。
さくらです

ここでは薄桜鬼の小説を書いていきます
特別このキャラの話を書く、というわけではありません
薄桜鬼にでてくるキャラクターの色んな視線から色んな話しを書いていったります
興味のある方は駄文ですがどうぞ温かい目で読んでやって下さい^^

薄桜鬼 沖田総司と同時進行なので、ぼちぼちやっていきます
では、はじまりはじまり


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Re: 薄桜鬼 追憶録 ( No.1 )
日時: 2012/04/30 17:30
名前: さくら (ID: MOENhrWN)



『望月との出逢い』



夜空を穿ったようにぽっかりと月が浮かんでいる。満月である今夜は部屋の中まで明るかった。土方は筆を置いて障子の間から見える満月に目を奪われていた。

「月が綺麗な晩だな・・・」

ぽつりとそう呟いた。
土方は月が好きだった。特に満月を好んでいる。闇夜に屈せず優しい光で地を照らす。その月光は惑う己を正しい道に誘ってくれるような、そんな魅力を感じていた。いつかあの月を手に入れたい。幼い頃はそう思って月に手を伸ばしていたこともあった。
月をこよなく愛する土方はいくつか月を詠んだ歌がある。だが、決してそれを口外できない。
あの鬼副長が月など眺めて歌を詠っているなどと知れたら示しがつかないからだ。隊士達に妙な誤解を与えてしまうことはなるべく隠している。
そんな土方の頭に歌が一つ浮かんだ時だった。
板張りの廊下が大きな音を立てて軋み始めた。その大きな足音は土方の部屋の前で止まった。月光で薄く障子に影が映った。それを見止めて土方は苦笑する。
影は遠慮がちに口火を切った。

「トシ、いるか?」
「いるよ」

土方が短く答えると声の主はすっと障子を開けた。

「どうだ、少し休憩しないか。島田君からかりんとうをもらったんだ」

そう微笑む近藤は土方の傍で腰を下ろした。手には紙包みがある。

「かりんとうって・・・値の張るもんじゃねぇか」
「嫌いだったか?」
「いや、食う」

島田が類を見ないほどの甘い物好きであることは屯所内の者全員が知っている。その島田が近藤に菓子を贈るところは、気心の優しさがうかがえる。
近藤が紙包みを広げる。土方はかりんとうを一つ手にとって口に運んだ。

「なぁ、トシ。もう年の瀬なんだ。今日くらいゆっくり休んだらどうだ」

なるほど。近藤がわざわざ部屋に来た理由は土方の手を休めさせること、つまり暇を取らせることが目的らしい。
土方はそれがわかっていて苦笑した。

「今休憩していたところだよ、近藤さん。あと少し仕事は残ってるがな」
「・・・すまんなぁ、トシ。俺はこういうことが苦手でな。隊士の面倒もお前に任せっきりで・・・」
「何言ってんだよ、近藤さん。お偉方に頭を下げて回ってくれてるのはあんたじゃねぇか。あんたは十分役目を果たしてるよ」

目を伏せる近藤に土方は笑みを向けた。近藤には近藤にしかできない仕事が。土方には土方にしかできない仕事がある。つまり適材適所なのだ。そうやってこれまでも、これからもやっていくつもりだ。

「それに、新選組もこれからだ。あんたにはもっと働いてもらうことになるな」
「これから・・・か。長かったな」

近藤の言葉の意味が土方にはわかった。
つい最近の出来事だ。今の新選組になる前。組内は二つの派閥に分かれていた。芹沢派と近藤派。この芹沢という人物が厄介だった。商家を意味なく襲ったり、理不尽な殺生を繰り返すなど、その行いは目に余るものだった。このままでは新選組として、組織として立ち行かないと判断した近藤派は芹沢派の抹消という選択を取った。

「やっとここまできたんだ。長かった、なんて言うなよ近藤さん。これからだよ、新選組は」

派閥がなくなり、一枚岩となった新選組はこれからだと土方は言う。
だが、近藤の表情は晴れなかった。

「そうだな。お上からの命もまた考え直さなくてはなぁ」

近藤の呟きに土方は眉を動かした。
お上からの命。それは“変若水”という媚薬を研究せよ、とのお達しだった。その薬を服用すれば、人ならざる力が手に入る代わりに血に狂ってしまうという代償を払わなければならなかった。
その効果、改良を一任されていた研究者、雪村綱道が姿を消してしまった。研究者がいなければ実験も難しく、結果をお上に報告できない。
厄介な薬な上、研究者の失踪と困難に今立たされている状況なのだ。
土方は深い溜息をついた。

「綱道さん探しに力を入れるしかねぇだろうよ。研究は難しいだろうな」
「だが、お上も結果を待っている」
「近藤さん。あんたも見ただろう。薬を飲んだ者の末路を。あれは人じゃねぇ。お上も何でこの薬に固執するんだ。もう研究を打ち切ってもいいんじゃねぇのか」

土方の提案に近藤は苦虫を噛み潰したような顔をした。
近藤は人一倍責任感が強く、その上尊敬するお上からのお達しを断るという選択肢は取れないのだろう。土方もそれはわかっているが、今回ばかりは口を出さずに入られなかった。
そんな時だった。障子が静かに開いた。

「絵になる光景ですねぇ」
「・・・何の用だ、総司」

気配を消して表れたのは沖田だった。沖田は土方の問いには答えず、ずかずかと部屋に入ってかりんとうに手を伸ばす。

「ずるいですよ、二人とも。こんないい物食べてるんなら僕もよんでくれればいいのに」
「おぉ、すまんすまん」

かりんとうをむしゃむしゃと口に頬張る沖田を土方は鋭い眼光で睨んだ。

「何の用だ、総司」

再度語調を強めて土方が問いかけた。沖田はその眼光をやんわりと受け流し、二つ目のかりんとうにてを伸ばす。

「実は、まずいことが起きたんです」
「まずいことなら尚更早く言え」

ごっくんとかりんとうを飲み込むと、沖田はけろりとした様子で言いのけた。

「例の薬を飲んだ隊士、二人が外に出て行っちゃったんです」
「大事じゃねぇか」

土方はすぐさま立ち上がり刀に手を伸ばす。羽織に袖を通し、近藤に視線を向けた。

「近藤さんは屯所に残ってくれ。あんたが動くと目立つ」
「わかった」

近藤の了解を確認するとすぐさま部屋を後にした。

Re: 薄桜鬼 追憶録 ( No.2 )
日時: 2012/04/30 23:08
名前: カノン (ID: KjYpxfgY)

こんばんわ。
そして、お久しぶりです。
覚えてますか?カノンです。
先ほど読ましていただきましたが、めちゃくちゃ凄いですね。
私にはとうてい無理。。。。
この神文をいつまでもがんばってください。
ひそかに応援しています。
では、またきますね♪

Re: 薄桜鬼 追憶録 ( No.3 )
日時: 2012/05/02 22:42
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

カノンさん

お久しぶりですね^^
読んでくれてありがとうございます
いや、ただ本作をちょいと変えただけなんで胸を張れるものかどうか・・・(汗
でもありがとうございます
がんばりますね^^ノシ

Re: 薄桜鬼 追憶録 ( No.4 )
日時: 2012/05/02 23:37
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

「組み長級の人間は全員、前川邸の玄関に集合してますから」

沖田に後ろからそう声をかけられ、土方は頷くこともせず黙って玄関に向かう。今、土方の頭には脱走した隊士の確保の策を練っていた。
沖田の言った通り前川邸に辿り着くと、幹部連中の顔ぶれが揃っていた。

「斉藤、状況を報告してくれ。総司は役に立たねぇ」

見慣れた顔ぶれに一番頼りになる人物を指名する。沖田は肩をすくめてひどいなぁと笑った。
名前を呼ばれた斉藤は一つ頷くと、淡々と語りだした。

「前川邸に隔離されていた『新撰組』の隊士、三名が夜の巡察に行くと言い残して屯所を出たそうです」
「総司の話じゃ二人じゃなかったか」

鋭い眼光で沖田を見やる。些細なことだが、情報の誤りが思いがけない落とし穴となることがある。土方は沖田に小言を食らわせたい衝動に駆られたが、今はそれどころではない。頭を一つ振って話を元に戻す。

「無断で、だな?」
「まだそう遠くへは行っていないかと」

二人ではなく三人と人数が増えたことで土方は作戦を練り直す。その真剣な表情に誰もが口を開かずにいたところを、優しい声音が響いた。

「その三人というのは、初期に投薬した隊士と思われます。早急に手を打たなければなりませんね」
「・・・そうだな」

土方は一つ頷くと静かな眼差しで山南に向き直る。

「悪いが総長は屯所に残って前川邸の『奴ら』を見張っててくれねぇか。平助も山南さんの補佐に入れ」
「わかりました」

柔らかな笑みをたたえて山南が頷くとは逆に、近くに立っていた藤堂は不服そうに唇を尖らせた。

「捕り物なら俺も参加したいんだけど」
「藤堂君。大人しくお留守番ですよ、今回は諦めましょう」

子供をあやすような口振りで山南が藤堂をたしなめる。藤堂は小さく息を吐いてから、歯を見せて笑った。

「けど、土方さんの命令なら従うって」

薄い笑みを浮かべると、土方は藤堂の隣に立つ原田が気になって視線を彼に移す。
原田は隊士達が出て行ったのであろう方向を目を細めて見つめていた。

「どうした、原田」
「いや、出て行った奴らが『人が斬りたい』とか口走ってたそうだ」

苦しげに呟いた原田は土方に向き直る。

「見つけたらどうするんだ?」

副長の下知を待ちわびていた永倉は早口に土方に問うた。殺してもいいのか、と言葉に含まれている。
土方は瞳を閉じた。しばらくの沈黙の後、その目がゆっくりと開かれる。土方が一瞬目を閉じて黙り込むときは、重い命が下されるときだとそこにいる連中は知っていた。

「あくまで奴らは巡察を行っている」

新選組内部が統制されていない、世間に知らせる訳にはいかない。土方の瞳はただ静かにそう語っている。

「俺達も今から自主的な巡察を始めるところだ・・・何か質問はあるか?」

その冷徹かつ迷いのない言葉にはその場に居た者を頷かせる説得力があった。

「・・・だけど見つけた彼らが、僕達の言うことを聞かなかったら?」
「殺せ。『奴ら』が命令に背く素振りを見せた段階で処断しろ」

間髪置かずに沖田の問いに答えた土方の表情は平然としていた。
この場に土方の判決が非道だと思う者はいなかった。生活が常に命の奪い合いとなるこの組織に、そのような臆病者は新選組の幹部として名を連ねられない。
そして極秘として進められている実験であることと、規律を乱す者に情けは掛けられなかった。

「被害者、及び目撃者の処遇は?」
「何を見たか次第だな。可能なら屯所に連れ帰れ。歯向かうなら斬り捨てろ」

斉藤の確認の後、土方を先頭に次々と幹部達が前川邸の門を出て行った。




「きっと僕達の方が当たりですよ」

何がそんなに楽しいのか、沖田は笑みを絶やさない。原田と永倉が向かった西方を眺め、くすくすと笑っている。
沖田の軽口を否定しないのは土方も同じことをどこかで思っていたからかもしれない。ちらりと視線を向ければ、斉藤も同じように何かを感じているようだった。
足取りも軽やかに沖田は燦々と輝きを放つ満月を見上げた。

「月が綺麗な夜ですねぇ」
「・・・常にも増して饒舌だな」

楽しくて仕方がないというように浮き足立つ沖田に、斉藤は呆れたような視線を向ける。
その言葉には賛成だと土方は密かに思った。月が冴え冴えとした冬の空気をいっそう引き締めているようで、歌の一つや二つ詠みたくなる程だ。だが、今はそんなことを言っている暇はない。一刻も早く隊士達を見つけなければ。

「こんな晩には何か面白いことが起こるんじゃないかと思ってさ」
「面白くねぇことばかり起こってんだよ。いいから普段通りの巡察って顔して歩け」

はしゃぐ沖田を一喝すると、彼は大人しくなった。
土方は何故か逸る鼓動を抑えていた。胸が騒ぐ。ざわざわと何かが背中を這い上がってくるような感覚に、土方はこの先に只ならぬものを感じた。




そして、土方は出逢った。
血の雨が降る中、闇に身を隠していた小さな陰を。身を固め、その影は土方を見上げた。
これが雪村千鶴との出逢い。
後に彼の心を月光のように優しく照らし、導き出す人だとはこの時土方は思いもしなかった。

「運の無い奴だ———」

Re: 薄桜鬼 追憶録 ( No.5 )
日時: 2012/05/08 20:30
名前: さくら (ID: MOENhrWN)




『密かな楽しみ』



返り血を全身に浴びて屯所に帰ってきた土方、斉藤、沖田を出迎えたのは留守を任されていた山南だった。

「ご無事でしたね・・・と言っていいのでしょうか?」
「無事だよ、山南さん。奴らの後始末は山崎に任せてきた」

目にかかる髪から滴る血を拭いながら土方は疲れた声でそう答えた。
無事に逃走した羅刹は片付けられたが、問題が浮上している。土方の憂いにも似た表情を見て、山南は小首を傾げた。

「何かご不満でも?土方君」
「問題が起きた」

溜息混じりに土方が言うと、彼の視線の先を追った。
今宵は見事な満月で明かりが必要ないほど外にいても見通しが良かった。斉藤と沖田の背に隠れて見えなかったが、小さな影が見て取れた。
目を細める山南に、沖田が小さな影をずいっと前に突き出す。

「目撃者がいたんです」
「この子が、ですか」
「・・・っ」

前に一歩踏み出したその小さな青年は、どんなことを言われたのか想像に難しくないが、半分脅されてここまで連れてこられたのだろう。怯えたような目で山南を見つめる。

「どうしましょうか、副長、総長。この子の処遇」

嬉しそうに尋ねてくる沖田に土方は深い溜息を漏らす。

「とりあえず、今日はもう遅い。明日の朝幹部を集めて追って沙汰を出す。それで構わないだろ、山南さん」
「えぇ、構いません。その方が妥当だと思いますよ。私たちだけで下せる判断ではありませんしね」

そう言って薄く微笑む山南を見つめていた青年は、固唾を呑んだ。

「じゃぁこの子はどこに監禁しておくんですか?」
「監禁・・・はあまり良い響きではありませんね。沖田君。もてなす訳にはいけませんが、部屋で休んでもらいましょう。それでいいですか?土方君」
「部屋に閉じ込めておくのはいいが、俺達が休んでいる間に逃げたら厄介だな」

冷たく硬い声音で土方は青年を睨む。青年は恐怖で声も出ないようだった。ことの成り行きを見守ることしかできないでいた。

「縛っておいたら良いじゃないですか」
「・・・何がそんなに楽しいのだ、総司」
「だって一君、楽しみじゃない。この子が明日どう処罰されるのか。あ、土方さん斬るんなら僕にやらせて下さいね」
「まだそうと決まった訳じゃねぇよ、ったく・・・」

土方が沖田に向き直り静かに命じた。

「総司、そいつを縛っておけ」




余っていた小さな部屋に青年を押し込める。青年はされるがまま、畳の上に座り込んだ。恐怖で顔が強張っているが、瞳はまっすぐに沖田を射抜いていた。

「あの・・・」
「はいはい、ちょっとあーんして?」

声を上げようとした青年に有無を言わさず、口に猿轡をはめる。驚いて目を丸くする青年を無視して、沖田は今度は懐から縄を取り出した。
それを見た青年は身をよじって逃れようとするが、あっさりと沖田の手に捕まった。

「君、男のくせに力ないんだね」
「っ・・・!!」

苦笑しながら沖田は青年の腕を締め上げる。なおも抵抗する青年に沖田は容赦なく胸倉を掴んで力をこめた。

「あんまり暴れるようだと———」

はたとそこで沖田の言葉は途切れた。
そして何かに気が付く。この感触は———。

「君、もしかして———」

確認するまでもなかった。男にしてはやけに華奢な体。細い手足。そしてなにより、柔らかい肌に沖田は冷笑が口からこぼれる。
何より、見上げてくる青年———否、少女の瞳が答えを映し出していた。

「そう・・・どういう事情かはわからないけど、君みたいな子が来る所じゃなかったね、ここは。君本当に運が無いね」

そう言って沖田は縄で彼女の自由を奪う。だが、その手つきからは乱暴さは無くなっていた。締め終わると沖田はうっそりと微笑んだ。

「おやすみ。今はゆっくり休んだほうがいいよ?もしかしたら最後の夢を見ることになるかもしれないけど」

戦慄が走るような捨て台詞を残して、沖田はその部屋を後にした。
障子を閉める間際、少女の表情は絶望の色が浮かんでいることを沖田は目の端で確認した。
そして静まり返る夜空を見上げて、沖田は笑みをこぼした。

「明日が楽しみだね」

あの子はどんな血を流すのだろう。どんな声で喚くのだろう。
思いを巡らせるだけで明日が待ち遠しくなった。






翌朝少女は広間にやってきた。小さな体を精一杯奮い立たせ、立っているその姿は嫌いじゃないな、と沖田はうっそりと微笑んだ。
そして優しすぎる響きを持った声で彼女を迎えた。

「おはよう、今朝はよく眠れた?」


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