二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- コル・レオニスと劣等感 【HUNTER×HUNTER】
- 日時: 2012/06/11 01:49
- 名前: 帚木ちづる ◆iYEpEVPG4g (ID: EbMOb6mj)
( 、さよならさよなら、またいつか、 )
◆◇ きみに会えるまでの一日目
シュガーレイニー【しゅがーれいにー】 >>1 >>2
終焉ミッドナイト【しゅうえんみっどないと】
溺れる淡水魚【おぼれるたんすいぎょ】
◆◇ さあ星達がきらめいた
ささやかなお別れを【ささやかなおわかれを】
子育てin流星街【こそだていんりゅうせいがい】
恋愛猟犬【らぶどーべるまん】
◆◇ 救われることの無い尊いきみのために
喰【たべる】
自己防衛とアイディンティティ【じこぼうえいとあいでぃんてぃてぃ】
逢沢五月【あいざわさつき】
◆◇ 知らないだなんてうそっぱち
◆◇ いまさら後悔なんてあるもんか
H24/04/21 はじめましての誕生日
アテンション、プリーズ!
きみにひとときのとびきりくだらない言葉の夢を。
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- Re: コル・レオニスと劣等感 【HUNTER×HUNTER】 ( No.1 )
- 日時: 2012/06/11 01:49
- 名前: 帚木ちづる ◆iYEpEVPG4g (ID: EbMOb6mj)
シュガーレイニー
— 1 —
それは夏の日の思い出。
ひかる宝石はあまいあまい砂糖菓子のようで、それをみる彼女の目も真ん丸でぴかぴかと光っている。いや、表現を訂正しよう。それはゴミ溜めの中に落ちていたオレンジ色のもので、おそらく硝子の破片か何か。まさか口に入れるなどというバカなことは彼女でもしない、と嘲っていた矢先。あんぐりあけっぴろげにされたその口に、ひょいとそれを持ち上げて、こともあろうにドロップでも投げ込むように、微塵の遠慮もなしに放り込んだ!
「不味い!」
「当たり前だ!」
ごほっ! おうう! ごほげほお! どうにも器官をダメにするのは彼女の特技らしい。ぺっと彼女がオレンジ色の塊をその辺に吐き出して転がっていくと同時に、俺は喉につっかえたわけのわからぬものを吐き出そうとしゃがみ込んで咳き込んだ。きょとんとした表情の彼女の紫色の目が合う。呆れ半分、いや失望全部。
「だんちょー、大丈夫?」
「その呼び方はいつから定着したんだ」
「だんちょーはだんちょーでしょう、もう! あともう少し大人になって、いっぱい強くなったら、流星街の皆で≪りょだん≫をつくるの! りょだんはねえ、かっこよくてすっごく素敵な正義の味方! クロロはそのだんちょーに任命してあげるんだよ! 」
「正義の味方かあ、五月はそんなものになりたいの」
「うん!」
誰にも負けない、無敵のヒーローになるの! 握りしめて掲げた片手が太陽の中で黒い影をつくる。彼女があんまり幸せそうでつい、言いたかったことはくちの中に仕舞い込んでしまって、思わずそうだねと言葉を零した。
ヒーローってなに? 正義ってなに? ささやかな疑問は、まだ年端も行かぬ彼女に訊くのもとはばかられた。ちいとばかしプライドというものが引っ掛かったのだ。その日は前を駆ける彼女の後姿を眺めながら、夕日の中を歩いたことを鮮明に覚えている。
誰にも負けない、無敵のヒーローに。片足の彼女が、笑う。
オレンジ色の宝石は、まだそのあたりに陽の小さな影をつくってころんと転がっていた。
- Re: コル・レオニスと劣等感 【HUNTER×HUNTER】 ( No.2 )
- 日時: 2012/06/13 23:13
- 名前: 帚木ちづる ◆iYEpEVPG4g (ID: EbMOb6mj)
- 参照: 捨てたんじゃない、逃げただけ
— 2 —
きゅーいきゅーい、ちゅん。思わず口真似をしてしまった。辺りに知り合いが居ないかと目を泳がせるが、見知った顔も制服も無いようだ。ああ、なんて可愛いんだろう。あの愛らしくもふくよかさを残すまるで芸術のようなフォルム! やわらかそうでいてふわふわで抱きしめたくなるあの羽毛! ええ君よことりちゃん! そこのもっふもふした彼女!
「そしてあのぽこんとした愛おしさあふれるお腹だというのに、無慈悲にミミズを穿り返して冷徹に啄ばんで巣に持ち帰るまで生かしておくいう腹黒いところがまたい・・・・・・ひっ!」
「クラスメイトにひっ!とは何だ。お前本当に失礼な奴だな」
み、みられた? あのう神様、さっきそんなこと聞いてないですよね。見上げると小枝の上のマイスイートハニーはもう居らず、きっとわたしの品の無い叫び声で飛び立ってしまったのだろうか。フラフラとおぼつかない足取りで近くのベンチに膝を折ってへたり込んだ。わたしと同じ制服姿の彼は相変わらず死んだような目でこちらを見ているので一部始終は観られていなかったのだろうか。だとするならとんだ思い違いだ。堂々と反論しようと口を開く。
「心臓が止まるとかと思いましたよ佐藤くん。そして女性に面と向かってそんなことをいうあなたも十分失礼よ残念ね!」
「校内新聞に一面で貼ってやろうか? 俺報道部だし。でも逢沢ってそんなキャラだと思ってな」
「だあああああああ!! 見なかったことにして! 帰る! わたしもう帰る!」
「おい! お前学校行くんじゃなかったのかー」
ぐるぐるぐるぐる頭がまわる。そして明日わたしは学校でえーキモーいあの人だよあの人鳥に話しかけてたらしーよクスクスとか言われてイジメられるのだろうか。そして佐藤真のイヤらしい笑みを勝ち誇ったように見せられ負け犬のように尻尾を振りながら逃げることを思い描くと、さらに頭はもうなんというかハンマーでぶっ叩かれた如くぐわんぐわんと揺れるのだった。
今朝の最悪な出来事はさておき皆様、此処が何処だかお判りで? いやあそうそう居ないでしょうねーだってもう世界の中心ヨークシンとか交通最大規模ザバン市に比べれば月とスッポン超えてミジンコですよ。こんな島国の田舎なんて観光客は来ない、金も無い、人もない、土地も無いとなんて素晴らしいところなんでしょうね! ・・・・・・本当に。
わたしの住むこの国の名前はジャポンと言います。簡潔に説明させていただくと、国内総面積は38万km。人口はまあ1億2000万人弱じゃないでしょうか。もうとにかく島国で、海は見放題山も行き放題。 一応統治組織や議会政治は存在していて、まあ紛争などめったに起きない平和な土地です。 え? どこかで聞いたことがある? そんなワケないじゃないですか。 まあでもよく海外の方々はじゃぽーん!だとかじゃぱーん?だとかじゃぽんー↑だとかよくわからないイントネーション付け加えてくださるんですけどね。
あ! でもそういえばその業務の特殊性と貢献実績から国際的に絶大な権利を持つ「ハンター」っていうすごい職業の人たちをたくさん輩出しているんですよ。確率で言うと約1800万人にひとり。どのぐらい凄いかっていうと、えーと、実のところハンターなんぞお目にかかったことは無いのでわかりませんが、とにかく凄いんです。これでも一応JAPONクルーズのツアーガイドさん志望なんですよ。まあまだ先のお話なのであまりマジメに考えてはいませんが。
クルーズのツアーガイドさんもいいですが、わたしにはもっと大切な使命があるのでそちらを優先したいのです。教えて欲しいですか? それは、ヒーローになることなんです。・・・・・・今、バカにしましたね? そんなにこらえても、ほっぺがぷるぷる震えていますよ。丸見えですよ。・・・・・・そんなに、笑うほどのことでもないでしょう。
「いいや、笑うほどのバカだ。現に俺はお前のせいで腹筋筋肉痛で動けず学校を三日休んだ」
だん!、机から伝わってきた頭に走った衝撃で、うつろうつろ夢見心地の目をかっと見開いた。
「ひっ! なんだ、佐藤くんか。」
「本日その叫び声リターンズで2回目なんですけど」
「間が悪い」
「そんな理不尽な」
ともあれ、朝でも昼でも夜でもいつ何時でも生気のない彼を見て安心するのがわたしの日課だったはずなのだが、どうやら今日はそうでもない。きっと彼の仕組んだビックリドッキリウェンズデーである。ごしごしと目を擦るが視界はぼやけたままだ。
「そんなに、おかしいかなあ」
「何が?」
「ヒーローになりたいって夢」
「・・・・・・次移動だろ、遅れたら殺されっぞ芦原のヤローに」
彼はわたしの頭にぽんと手を乗せて、それから少しくしゃくしゃと撫でてそう言った。
繰り返される日常に、わたしは満足して安堵して、何ら気に病むことなどなかった。何かありがたいと思えば幸せだし、嫌なことなんてそう思わなければいいだけのこと。遠い国のニュースは他人事のように映し出され、なーんにも変わることない日々を送る。わたしの毎日は、ヒーローなんかとは程遠いように。それでもわたしには、捨てられない大切なものがたくさんあるから、なんだか躊躇してしまっている。
「次ィ、逢沢!」
「はい!」
ようい、合図と共に深く息を吸い込む。静かに静かに、肺に全身に広がる。それから赤く燃える地につけられたわたしの手のひらへ。ひとみが映すその青は、いつだってどんな景色より綺麗だ。前へ、空へ。限りないその場所へ! 高い笛の音が響いた。誰よりも速くその音をとらえる。息を止めて、右足を踏み出したその瞬間から、わたしはすべてから自由になる。
——逢沢五月は中学陸上の全国進出を果たしている、当校始まって以来の天才エースである。無論トロフィーや賞状なんぞ腐るほど戴いているのである。それがどういうことを意味するのか。それも分かりきったことであろう。
そして先日行われた中学女子100メートル走では大会記録を更新してみせた。逢沢五月、きっと彼女は時代の先にいる。この小さな小さな国の中で、きっと世界へ飛び出せる。誰もがそう思っていた。
「11秒78!」
歓声が上がった。息を整え女子の列に戻ってくると、毎度ながら賞賛の嵐だ。ヒーローたるもの、日々の鍛錬は欠かせないのだ! ってハイとんだウソつきですごめんなさい。ペットボトルの水を本当は良くないのだけれどがぶ飲みすると、さんさんと照りつける日差しのせいでべたつく髪をといた。ゴムを口にくわえて頭上でくくり直す。
「さーちゃん」
「なに?」
「今年の夏、どっか行っちゃうの?」
「なんで?」
「なんとなくね、きっとさーちゃん、すっごく変わる。すごく遠くへ行っちゃいそうな気がする」
「怖いなあ、でもわたし今年の夏は勉強も陸上も大詰めだし。そんな変わる暇なんてないよ。それにわたしはどこにもいかない」
「みっちゃんは十分ヒーローなのにね、佐藤くんに言ってほしかった? 」
「え、ちょ、見てたの……。わたしはここではヒーローかもしれないけど、それは一部の人にそう見えるだけで、直接的に語りかけることもできないし受ける感情は人それぞれでしょ。褒められるためにやっている訳ではないけど、速くなりたいと思うこととそれが同意義って、なんか腑に落ちない気がするの」
「ふーむ、じゃあ、万人に愛されるような存在になりたいってこと?」
「ううん、それも違う。べつだん誰かに尊敬されるためにやっている訳でもない、かといってそれが嬉しくないわけじゃない。両方手にできるのは矛盾してるなって。でも、そんな小さな枠の中だと、きっと終わりがどこかにある。皆わたしのための速くなる準備をもう前に用意してあるもの。わたしの思い描くヒーローは、真っ直ぐで、どこまでも強くて。そうして人をすくう人。自分の可能性が、どこにでもあるって思える」
「さーちゃん」
「ん、」
「ごめん、私さーちゃんのことバカだと思ってた。でもさーちゃんはそんな予想はるか斜め上の想像以上のバカだった、もちろん良い意味で。でも、思い描くことは自由だけれど、実現するには犠牲が多いよ? ほら、例えば陸上部マネージャーの私とかね。こんなに愛情込めたトレーニングを指導してくれた子を捨てていくつもりかな」
「うぶ、うーあー、そんなこと言うからまた。愛情……? あ、夏の大会前のあの恐ろしい悪夢か。確かに、夢は所詮只の夢。今本当に目指していると言えるのかといったらそうじゃない。……自分の夢が、どこまでの思いか、確かめたことなんてなかったから、だから今はね、ちゃんと測ろうとしてる。うん、だから色々、まだまだ準備できてないんだよ」
「……ほんとかなあ?」
舞の勘はよく当たるから、ちょっとだけ、ほんのちょっぴり不安になった。そしてわたしは頭の中で、子供の頃のある大切な約束を思い出していたのだった。
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