二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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つる
日時: 2010/09/19 11:50
名前: ピストン源次郎 (ID: tVjHCvxF)
参照: http://higawari.qee.jp/


 深い雪を踏みしめるようにして山間を行く一人の男がおりました。
 猟師の金蔵です。
 今日もめぼしい獲物が無かったのか、足取りももったりと重たげです。
 それでも、山腹の杉の根元にひっそりとうずくまる白い影を見逃しませんでした。
 金蔵は急いで鉄砲を構えましたが、またすぐに降ろしてしまいました。
 そして、そうっと足音を忍ばせて近寄ります。
 やはり鶴です。
 何故かほとんど羽根が抜け、飛ぶどころか立つこともできないほど弱り果てているようです。
 金蔵は、にたりと笑って、すぐにその長い脚を縄でぐるぐる巻きにしてしまいました。
 殺さずに持ち帰り、食べる直前に絞めたほうがずっと肉が美味いことを知っていたからです。

 で、思いがけない収獲に、鼻歌交じりで家路を急いでいた時。
 金蔵の前に転げるように飛び出してきた男がいました。
 はあはあ息を切らしながらも、男は金蔵が背にぶら下げた鶴を食い入るように見つめて言いました。
 
  「それ、どこで見つけただ?」

  「おめぇ、誰だ? なんでそげなことを・・・」

 金蔵は、いぶかしげに眉をひそめて通り過ぎようとしましたが、男はなおも食い下がります。

  「おら、ふもとの村の与兵ってもんだ。それ、おらに譲ってくれ!」

 金蔵は、相手のあまりの真剣さに何か訳ありだなとすぐに気がつきましたが、それでも何食わぬ顔で歩を進めました。

  「そう言われてもなぁ・・・やっとこさつかめえた獲物だしなぁ」

  「後生だから、おらに譲ってくれ。金はいくらもねども・・・」

 苦しげにそう言いながら、与平はふもとの方角を指差しました。

  「あそこに家がみえるべ。おらの家だ。あれをおめにやる。だから・・・な、な!」

 金蔵は目を丸くしました。

  「おめぇ・・・正気か?」

  「いいんだな? その鶴、譲ってくれるんだな?」と、はやくも両手を差し出す与平。
 
 金蔵は、あきれ果てたように首を振りながらも黙って鶴を手渡しました。
 そうっとそれを受け取ると、与平は目にいっぱい涙を浮かべ、さもいとおしげに羽根の抜けた翼に頬擦りしました。
 鶴も、少し首をもたげて小さな鳴き声をあげたようです。
 金蔵は、そのまま山道を降りていく与平に、こう呼びかけずにはおれませんでした。

  「よぅ!・・・その鶴、いったいおめぇの何なんだ?」

 すると与平は、くるっと振り返り、にっこり笑ってこう言ったそうです。

  「おらの嫁ッコだ」





 その後、下見に行った与平の家で金蔵はまたもや目を丸くしました。
 与平は、この世のものとも思えないほど肌の白い美しい女性を伴っていたからです。
 二人は、すぐにも家を明渡さなければならないというのに、とても幸せそうに見えました。
 そして、どこか行く当てはあるのかという金蔵の問いにも答えず、二人してぺこりと頭を下げると、そのまま出て行ってしまったといいます。
 二人して仲良く前後から押す荷車に、一台の古ぼけたハタ織り機だけ積んで。

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