二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ハリーポッターと無名の生き残り
日時: 2013/08/04 09:05
名前: プリア ◆P2rg3ouW6M (ID: 7EYM.IE5)

はじめまして^^ プリアと申します。
この小説はハリーポッターを原作とした二次小説です。
出てくる登場人物はほぼ原作どおりのキャラクターですが、一部オリキャラも混ざっており、主人公はオリキャラです。
なるべく原作どおりにキャラクターたちが成長するよう、描写していけたらと思っています。

感想・批判・アドバイスは大歓迎です^^

※注意※
・この小説は基本映画のハリーポッター沿いです。
設定上都合があわなかったり、話があわなかったりすると、書籍の方に沿うこともあります。
・文章の転載、複製は禁止です。参考にする場合は、一言ことわってください。
・作者は多忙のため、急に更新が止まったりすることがあります。



炎のゴブレット
>>4 >>5 >>6

Page:1



Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.4 )
日時: 2013/03/26 20:13
名前: プリア ◆P2rg3ouW6M (ID: 3TVgjhWp)

この話はすでに皆がミーシャの動物もどきは狐だと知っているパターンですが、完全に動物もどきとして完成するまで皆が狐だと知らないパターンもいいかも。炎のゴブレットでセドリックの守護霊が狐ということにして、不死鳥でミーシャが狐だったと伏線回収するのもいい。



 ロンでさえすでにはっきりとした足取りで歩いているというのに、ミーシャは今だよたよたと歩いている。
 ハーマイオニーがみかねたように声をかけた。

「もう、ミーシャ! あなた大丈夫?」
「あー、眠い……私、今何してる?」
「歩いてるのよ! ほんとにもう……」

 ハーマイオニーの声をきき、景色を眺めるうちに徐々に頭がはっきりしてきた。と同時に、ロンの余計な声が聞こえる。

「見ろよハリー。ミーシャの寝起きは最悪だな。あれで女の子なんて」
「はいはいどうも。寝言ボーイさん」

 ミーシャの声に、「ゲッ」とロンが声をあげた。

「起きてたのかよ」
「起きてますよ! 歩いてるもの!」

 ふんっとミーシャが鼻を鳴らしたところで、アーサーが手を挙げた。どうやら、誰かと合流するらしい。

「アーサー!」
「エイモス!」

 エイモス……アーサーの知り合いだろうか。
 と、ふいに木の上からざっと人影が降りてきた。

「おや、このたくましい若者はセドリックかな?」
「あー、そうです」

 ああ、セドリックか。ハッフルパフのシーカーだ。
 去年、ハリーが箒から落ち、おまけにミーシャたちチェイサーの点数稼ぎもままならず、敗退したハッフルパフのシーカーだ。

 苦い気持ちでセドリックを見ていると、セドリックがふいにこちらを振り向いた。ミーシャは慌てて目を逸らす。

「おっとどっこい! 君はハリー・ポッターか?」

 エイモスに聞かれ、ハリーがとまどったように答えた。
 こうして有名人扱いされるのは、いつまでたっても慣れないようだ。

「あ、そうです」
「会えて嬉しいよ!」
「ボクもです」

 そのままミーシャはスルーするかと思いきや、目ざとくエイモスはミーシャの方を見た。

「君は……ああ、例の有名じゃない方だね! 知る人のみ知るミーシャ・ライリーか!」
「あ、は……どうも」

 有名じゃない方と言われると、なんだかしっくりこない。
 はにかみながら返事をすると、ハハッとエイモスが笑い出した。

「今日は実にいい日だ! 君たちに会えるなんてな!」
「私も嬉しいです」
「君たちはグルフィンドールだったな? そうかぁ、セドリックはこの二人がいるチームに勝ったんだったな! それはすごい!」

 ロンがチッと顔をしかめ、ミーシャも顔を曇らせた。
 去年のクディッチの試合のことを言っているのだろう。

 セドリックがうんざりしたようにため息をついた。

「だから父さん、何度も言ったじゃないか。あれはハリーがディメンターに襲われて箒から落ちたんだ。グリフィンドールが弱かったわけじゃない」
「でもお前のチームが勝ったことにかわりはないだろう!」
「だから……」

 有頂天のエイモスをさしおき、セドリックはハリーたちに向き直った。

「あー、ごめんよ。父さんいつもこうなんだ」
「気にしないで」

 ハリーの言葉に、ロンがへっと息をついた。

「おいミーシャ。噛み付いてやれよ」
「あのネズミはおいしそうじゃない……って、あのね。私、まだ動物もどきは取得中なんですけど」
「悔しくないのかよ、君は」
「くやっしいに決まってるでしょ。でも仕方がないよ。ハリーが気にしていないのに、私たちがいつまでも言っていてもしょうがないじゃない」

 ごちゃごちゃ言っているうちに、見晴らしのいい高台についた。
 風がそよぎ、草花が揺れる中に、古びたブーツが置いてある。

「さあみんな! この周りに立って!」

 アーサーによって、ミーシャたちは円を書くようにブーツの周りに並んだ。

「これ、なんのためにこんなことをしてるの?」

 ミーシャの言葉に、アーサーがおどけたように言った。

「もうじきわかるさ! さあ、みんな! ブーツをつかんで! 一、二の三で出発だ!」
「出発!?」

 声をあげたミーシャに、双子たちがからかった。

「なんでもいいからブーツをつかみな!」
「こんこんミーシャ!」
「こんこーん! こーん!」

 むーっと顔をしかめ、ミーシャもブーツをつかんだ。

「さあ行くぞ! 一、二の……」
「ハリー!!」

 アーサーが直前にハリーに声をかけ、ハリーが慌てて手を出した。

「三!!」

 とたん、ブーツを中心に全員がぐるぐると空へ浮かび上がった。
 雷が鳴っているような感覚とともに、景色が見えなくなる。
 
「どうなってるのー!」
「ハハッー!! ヤフーッ!!」

 おじさんたちは騒いでいるが、ミーシャは何がなんだかわからず、足元すら見ることができなかった。
 下は……下は……何も無い!

「手を離せ!」
「はっ?」
「聞こえたろう、ほら!」

 ぱっとミーシャたちが手を離したとたん、そのまま真下へ急降下していった。

「キャァァァ!!」
「ウワァァァァ!!」

 もみくちゃにされて落ちた後、ドサッと地面に打ち付けられた。

「うっ、痛ぁ……」

 仰向けに空を見ると、おじさんたち二人、セドリックが面白そうに空を歩いて下りてきているところだった。
 
「どうだ、頭がすっきりしたろう!」

 眠気の代わりに痛みに襲われたけど、とミーシャは苦笑いし、起き上がろうとした。と、ふいに手を差し出され、見上げてみれば、セドリックだった。

「あー、ごめんなさい」

 差し出された手をつかまないのも悪い気がしたので、つかむだけつかみ、すぐに手を離してハリーたちの後に続いた。





 薄暗い部屋の中、ゴブレットの青白い辺りだけが辺りを照らしている。
 多くの七年生がゴブレットに名前を入れていく中、ミーシャたちはただ回りに群がって眺めているだけだ。
 こんな時でさえ、ハーマイオニーは読書をしている。

 にわか雨に降られたのか、名前を差し入れる生徒たちはみなずぶぬれだ。誰かが名前を入れるたび、ミーシャたちは必然的に拍手をする。

「おい、行けよセドリック!」

 雨に打たれたびしょぬれの姿のまま、友人たちに背を押され、あのセドリックがやってきた。緊張した面持ちで、ゴブレットに名前を差し入れる。

 ああ、そうか……。成績優秀なんだった、セドリック・ディゴリーは。なにより、ミーシャが一年の時、一年生の変身術の過去最高得点は現在三年生のセドリック・ディゴリーだとマクゴナガル先生が言っていたじゃないか。あの言葉は、ミーシャが四年生になった今も、忘れたことがない。

 セドリックは年齢線の外へ出るなり笑顔になって、再び友人たちにこづかれはじめる。戻って行く刹那、ロンが気を惹こうと、さりげなく手を降った。
 セドリックがふと一瞬こちらを振り返り、ロンがふんっとため息をつく。

「永久の栄光かー。いいよな、ああいう奴は」
「何? ロン、クラムLOVEじゃなかったの?」

 ミーシャがからかうと、ロンがふーっと息を吐いた。

「違うよ。ああいう学業優秀、友達も多い、容姿端麗って、ずるいって思っただけさ。どうしてこう、世の中は不公平なんだろうな」
「そうだけど……でも元々のレベルの高い人が強いモンスターに勝つより、元々レベルの低い人が強いモンスターに勝つほうが嬉しいと思うけど」
「なんだそりゃ?」
「たとえ話だってば!」

 ミーシャは制服の腕をまくり、「ねぇ?」とハリーに話を降った。

「えっ? ああ、そうだね」
「まあ、レベルが高かろうが、私たちはそもそも年齢制限に引っかかっているから。ねえ、ハリー?」
「ぼくよりロンだろう。代表の素質は」





 なぜ、ハリーが呼ばれたのだろう?
 ハリーが規則を破り、ゴブレットに名前を入れたとは思えない。ハリーに対する批判が、あちこちで上がっている。
 先生たちもうろたえている中、またしてもゴブレットの炎が燃え上がった。

「何? また何か出るの?」

 と、ミーシャが呟いたとたん、ボッと炎が広がるとともに、紙切れがヒラヒラと舞い出てきた。
 腹立たしそうに紙切れをつかむなり、ダンブルドアは顔をあげた。

「ミーシャ・ライリー……」

 今、自分の名前が聞こえたような……。
 ひやりと汗がつたい、ミーシャは身を縮めた。

「ミーシャ・ライリー……!!」

 ダンブルドアの怒鳴り声に、ハーマイオニーが早口に言った。

「ミーシャ……行かなくちゃ……」
「……そ、そんな」
「行くのよ……!」

 震える足で立ち上がり、ハーマイオニーに背を押され、歩いた。





 代表の部屋へつくと、ハリーが真っ先にこちらを振り向いた。

「ミーシャ……?」
「ハ、ハリー……」

 ハリーの名前を呼ぶ声が、震えた。
 再び口を開こうとすると、ガヤガヤ話しながら大勢の先生方がやってきた。
 真っ先にダンブルドアがやってきて、ミーシャとハリーの肩をつかんだ。

「ハリー! ミーシャ!」

 有無を言わせぬ声で、早口に言う。

「炎のゴブレットに名前を入れたのか!? 上級生に頼んで入れてもらったのか!? 二人で協力して入れたのか!?」
「いいえ!」
「違います!」

 ハリーとミーシャが口々に言うと、吊るされたランプを放り、ボーバトンの校長が言った。

「ウソをついてまース!」
「それはない!」

 マッドアイが割り込んだ。

「炎のゴブレットの魔力は強大なものだ。欺くには強力な錯乱の呪文しかない。四年生に操れる魔法ではない!」
「この件に関しては随分詳しいようですな、マッドアイ!」

 カルカロフが憎憎しげに言うと、ギッとマッドアイがカルカロフを睨んだ。

「闇の魔法使いの考えを見抜くのがわしの務めだった。忘れたか?」
「それでは解決にならん!」

 ダンブルドアがさえぎった。

「十七歳に満たぬ魔法使い、魔女が代表に選ばれてしまうなど、言語道断じゃ」

 カルカロフがチッと舌打ちをした。

「四人目とまで行かず、五人目の代表など聞いていない! ホグワーツから三人も代表が出るなど! しかも、前もって引いておいた年齢線の効果も、これではないに等しいではないですか!」
「ダンブルドアの年齢線に効力がなかったと言うのか?」

 マッドアイが言うと、すかさずマクゴナガル先生が言った。

「彼はアルバス・ダンブルドアですよ! 彼の魔法の腕に間違いがあるはずがありません」
「まったくそのとおりですな。第一、ポッターとライリーは今までにさんざん規則を破っている。今回はそれが年齢制限だっただけのこと」

 スネイプの相変わらずの皮肉げな言い回しにひるむこともせず、マクゴナガル先生はくってかかる。

「セブルス……あなたはこの二人が自ら進んでゴブレットに名前を入れたと?」
「少なからずその可能性はあるということですな」
「私はこの二人が自らそんな行為をしたとは思っていません。いいえ、するはずがないという確信があります! そうでしょう、アルバス」

 マクゴナガル先生の剣幕に、ダンブルドアはため息をついた。

「そうじゃのう。じゃが問題はハリーとミーシャを競技に参加させるか否かじゃ!」

 そうして、バーティに振り返った。

「君の意見を仰ごう」
「……炎のゴブレットは魔法契約ですから……ミスターポッターとミスライリーは引き下がれない。二人もたった今から……代表の一員だ」

 




 それから先は、もうミーシャ自身何がなんだかわからなかった。
 グリフィンドールの中にはハリーやミーシャを讃えてくれる人もいたが、どこか様子がしらじらしい。

「やったな! ハリー、ミーシャ!」
「お前らワンセットでグリフィンドールの代表だ!」

 双子二人のつっかかりに、ミーシャは微笑んだ。

「……今日はこんこん言わないの?」
「そうだった! こんこんミーシャ!」
「おいハリー、もっと喜べよ!」

 ジョージの言葉に、ハリーはただ無表情で答えた。

「嬉しいよりも前に、ミーシャだって困ってるじゃないか」
「こんなに笑ってるのにな!」
「だってこんこんうるさいもの!」







 部屋に入るなり、ミーシャはぼんやりとベッドの上に倒れこんだ。
 なぜ私が選ばれたのだろう? なぜ?
 ……フレッドとジョージはともかく、みんな応援の言葉がうさんくさい。きっと内心はずるをしたと思っているのだろう。

「……どうしてこうなったのかしら」

 ハーマイオニーが、ぽつりと言った。
 ミーシャもベッドから起き上がり、顔をゆがめた。

「私、本当にゴブレットに名前を入れてない! 本当だよ」

 必死の形相に、ハーマイオニーは腕を組んだ。

「私、あまり探りたくないから聞かないけど……あなたとハリーが代表の部屋へ行った後は、ひどい有様だったわ」
「聞かなくてもわかる気がする……」

 おおかた、ハリーやミーシャに対する中傷でいっぱいだったに違いない。グリフィンドールの人たちはともかく、スリザリンの連中は、特に。

「私、あなたのことを信じているけれど、もし本当に不正を行ったんだとしたら……」
「やってないって言ってるのに!」

 思わず声を荒らげてしまい、はっと口をつぐんだ。

「ごめん、そんなつもりじゃ……」
「……無理してるのはわかるわ。さっきだって、笑っていたけど本当はそんな気分じゃなかったんでしょ?」
「だって、せっかく応援してもらっていたのに、まさか愚痴を言うことなんて出来るわけないでしょー。別に大丈夫だって」

 ハーマイオニーの心配そうな言葉に、ミーシャはおどけてみせる。
 長々とため息をつき、ハーマイオニーが諭すように言った。

「今みたいに空気が読めないミーシャでいいのよ。ミーシャは相手のことを考えすぎだわ。フレッドたちだって、別にあそこでミーシャが調子を合わせなくても怒ったりしないわ」

 ミーシャは、目をふせて俯いた。
 
「そうかなぁ。だって、マクゴナガル先生とダンブルドアが楽しそうに話している中、スネイプが〝我輩はそうは思いませんがね〟とかなんとか嫌味言いながら割り込んできたら嫌じゃない?」
「そういうことじゃなくて……」

 話を逸らそうとしているのか、ただ抜けているだけなのか、ハーマイオニーは判断しそこねてはにかんだ。
 すかさず、ミーシャはバッと立ち上がる。

「寝巻きに着替えて、動物もどきの練習する!」
「……それはあなたの勝手だけど」

 ぽつりと付け加えた。

「きっと……グリフィンドールはあなたの味方よ」







 グリフィンドールの一部の人たちはミーシャやハリーを応援してくれたが、そのほかの人たちと他の寮の方々は、ミーシャたちをとことん目の敵にした。
 ミーシャとハリーが付き合っていて互いにずるして代表になった、だとか、ハリーとミーシャで生き残った子同士で選ばれた、だとか、さまざまな噂が飛び交い、ミーシャ自身、単独で行動することも多くなった。

 付き合っているという噂はまだしも、ミーシャ自身も本当に生き残った子だというのは、どこから流れた噂なのだろう。一部の人間しか、知っていなかったはずだ。
 ハリーとロンは喧嘩中のようだし、ハリーもなるべく一人でいるようにしている。ミーシャ自身、廊下を歩いている時でさえ、あちこちから中傷が飛んでくるので、ハーマイオニーを巻き込まないためにも、一人で行動するようにしていた。

「おーいライリー! ポッターとはうまく言ってるのか?」
「代表になって、さぞかしいい気分でしょう?」

 怒りを抑えて無言で廊下を進むミーシャだからこそ、さらに声をかける生徒も減っていく。
 みんなしてなんなんだ。信用性の無い噂に惑わされて。ハリーも私も、好きで代表になったわけじゃない。ああもう、早く動物もどきを習得して、化かしてやりたいくらいだ。

 大丈夫なんて言っておいて、ぜんぜん大丈夫なんかじゃない。ハーマイオニーは気づいてくれたみたいだけど、ああ、自分が情けない。
 中傷するのは勝手だけど、言われているこっちの寂しさがわからないのだろうか。ハリーも私も、どれほど不安か……泣きたいか……。

「やあミーシャ!」

 ぱっと振り返ってみれば、はにかみながら突っ立っているネビルだった。

「どうしたの?」
「あっ、ただの挨拶なんだけど……」

 そうだ。今までは普通に廊下でさまざまな生徒と挨拶を交わしていたじゃないか。ここ最近なかったことだから、思わず用事があるのかと思って立ち止まってしまった。

「あー、挨拶ね……こんにちは! やだ、こっちが恥ずかしい」
「そうだ! よかったら、変身術教えてくれないかな?」

 用事がないと言ったはずなのに、気を使ってくれたのだろう。
 ミーシャは顔をほころばせつつ、声をひそめた。

「いいけど、人のいないところがいいと思う」
「それ、ハリーにも同じこと言われたよ」
「ハリーと話したの?」
「昨日ね。……ぼくら、同じグリフィンドールだろう。力になりたくて」

 いくら避難されても、慰めてくれる人がいる。
 もしかしたら避難されていることに気をつかうより、慰めてくれる人に感謝する方が、もっと大切なことなのかもしれない……。

 ミーシャが返事をしようとすると、ネビルが「あれ?」と声をあげた。

「あれ、ハリーとマルフォイじゃない?」
「なんだかもめてそう」

 ミーシャとネビルは、小走りで中庭の大樹のそばにかけよった。
 辺りを見回したところ、中庭にはセドリックをはじめとするハッフルパフ生、大樹のそばにはいつものスリザリン集団がいる。

「ハリー!」

 ミーシャとネビルが駆け寄ると、マルフォイが眉をあげた。

「おや、ポッターのガールフレンドのライリーじゃないか」
「どうもね、フォイベロス」
「その呼び方はやめろって言ってるだろう! 少なくとも、ポッターよりは長い間、お前が試合で戦ってられるだろうと言ってやっていたのに!」

 ミーシャはふんっと鼻を鳴らした。

「だいたい何? そのバッジ!」
「セドリック・ディゴリーを応援するためのバッジさ。正式な代表の、セドリックをね!」
「……〝汚いぞポッター〟……〝汚いぞライリー〟……。汚いのはいつもゴキブリ回収してるフォイフォイ集団でしょ、マルフォイ!」

 なんだと! とマルフォイが怒鳴った時、ハリーがミーシャの腕をつかみ、廊下のほうへ引っ張った。

「こんな卑劣な奴らを相手にしているのは時間の無駄だ。行こう」
「卑劣……!?」

 ミーシャたちがマルフォイに背を向けた瞬間、マルフォイが杖を構える。とたん、ムーディが割り込んできた。

「そうはさせんぞ!」

 ぱっと振り返ると、ゴイルたちの中に白イタチが転がっていた。
 どしどしと近づくなり、ムーディはイタチを杖で持ち上げ、上下に動かす。

「後ろから襲うやつはけしからん! この、腹持ちならない! 臆病で! 卑劣な! 好悪で!」

 キーキーイタチが鳴く中、あちこちの生徒たちが集まってきた。
 騒ぎをききつけ、マクゴナガル先生が走ってくる。

「ムーディ先生! 何をなさっているのですか?」
「教育だ!」
「そ、それは生徒なのですか?」
「ええい、今は白イタチだ!」

 適当に答えるなり、そばにいたクラップのズボンの中にイタチを突っ込んだ。

「わーっ! とってとってよ!!」

 ゴイルがむちゃくちゃに手を動かす中、ドッと笑いが起こる。
 ミーシャもケラケラ笑いつつ、ハリーに笑いかける。

「ざまあみろね!」
「ああ!」
「でもちょっと可哀そうかも……」

 ネビルの言葉に、マクゴナガル先生がしかめっ面で聞いた。

「ロングボトム、あれは誰なのです?」
「あー、ドラコ・マルフォイです」
「後ろから襲おうとしたので、只今ムーディ先生の教育中です」

 ミーシャが得意げに答えたのと、イタチがクラップの足から出てきたのが同時だった。
 マクゴナガル先生はイタチに杖を向けるなり、授業中のように言う。

「よろしいですか、ミスターマルフォイ。後ろから襲うのは魔法使いとして由々しき行為です。決闘を申し出るなら、正々堂々と申し出ること。大体、あなたはクディッチの時もポッターやライリーに後ろから……」
「先生、強制的に動物にされた人間に自我意識はないとこの間授業で……」

 ハリーが言うと、マクゴナガル先生は「それとこれとは話が別です!」と一括した。そうしてイタチに向き直り、杖で諭すように言う。

「わかりましたか、ミスターマルフォイ。わかりましたね? では」








「ミーシャって、怒ると本当に無言になっちゃうから、話しかけずらかったよ」
「でも、わざわざ挨拶してくれたんだ」

 湖の近くで、ミーシャは根気強くネビルに変身術を教えた。

「……そこはもっと感覚を大事にしないと。いきなり変身させようとするから、変な形になるんだって」
「イメージイメージ……」
「絵を描くときと同じ。変身させたいものの特徴や姿をよく思い浮かべて、感覚を掴んで! そうして……〝パンジーナ〟!」

 ミーシャが杖を振ると、ひゅっと本が木箱に変わった。
 
「ほら、ネビルも!」
「……〝パンジーナ〟!」
 





 ミーシャが一人でグリフンンドールの談話室へ戻ろうとすると、グリフィンドールの塔のそばで、ウロウロしているセドリックを見とめた。
 この状況の中、ハリー以外の代表選手には会いたくない。

 どうしたものか、とミーシャがセドリックの顔色を伺っていると、ぱっとセドリックがこちらを振り向いた。
 目が合っては、今更逃げることなんて不審すぎる。こうなったら、と俯いてそばを通ろうとすると、とうとう声をかけられた。

「ミーシャ……ちょっといいかな」

 ひぃーと俯きながら、低い声でミーシャは答えた。

「……何か用でもあるの?」
「あー、ドラゴンのこと聞いた? ハリーから」
「ドラッ、えっ?」

 きょとんとして、弾かれたように顔をあげた。
 セドリックは、若干はにかみ気味に言う。

「第一の課題。一人に一体だ」
「きっ、きいてない……初耳……」

 混乱しておどおどと言うと、セドリックはわざとらしく笑った。

「はは、それならよかった」

 何がよかったのだろうと思いつつ、ミーシャは汗ばむ手を握り締めた。

「このこと、他のみんなは?」
「あー……知ってるって、ハリーが言ってたよ」
「そう……」

 ふいに体の力が抜け、セドリックを通り越して歩き始める。
 後ろからセドリックの呼び止める声が聞こえた。

「あっ、ねえ! ハリーとゴブレットに名前を入れたのって……」

 むっとして、ミーシャは足を止めてセドリックを振り返った。

「私はハリーともつるんでないし、ゴブレットに名前だって入れてない。みんなはちっとも信じてないみたいだけどね。セドリックが信じるか信じないかは、そりゃあセドリックの勝手だけど」

 じっとミーシャがセドリックを睨むと、セドリックは決まりが悪そうに俯いた。

「いや、その……ごめんよ。でも、バッジの悪口は消してあるから……」

 言われてセドリックの胸元のバッジを見てみれば、マルフォイがつけていたものと違い、ミーシャたちの中傷の言葉には切り替わらなかった。

 ミーシャは「そう」とだけ返事をし、そのままセドリックに背を向け、立ち去ろうとした。
 しかし、またしてもセドリックが声を張り上げた。

「待って! じゃあ、もう一人の生き残った子っていうのは……」

 セドリックの方を振り返らず、ミーシャは足を止める。
 お父さんのエイモスはミーシャのことを知っていたみたいだが、セドリックは詳しくは知らないのだろうか。

「いや、父さんが言っていたんだけど、本当か気になって……みんなも噂しているから……」

 本当だ、と答えてしまえば、またしてもハリーと同じ境遇にあるということで、変に勘違いをされるだろう。
 口を開こうとしたが、言葉が出てこなかった。

 これ以上、噂だとかそういうものに縛られたくは無い。
 ミーシャは、そのまま無言で吹っ切るように立ち去った。

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.5 )
日時: 2013/04/01 09:02
名前: プリア@保留 (ID: xYJBB/ey)

 大広間で食事中、ミーシャもハリーも腕を骨折しているので、何かと不便だった。とりわけミーシャは利き手を骨折しているので、ナイフを持つ左腕がぶるぶるしている。
 ハリーは何かとレイブンクローの席の方をよそ見し、こぼしてばかりだが、ミーシャも左腕で食事しているので、少なからずこぼしていた。

「……大変そうね、利き手が使えないのは」

 ハーマイオニーに言われ、ミーシャはふーっとため息をついた。
 ロンは第一の課題を思い出したのか、呆れたように言う。

「ハリーは箒でどっか行っちゃったと思えば、ミーシャときたらドラゴンの背中に乗るなんてさ。二人とも正気かよ」
「偉そうに言うなら、ロンもあの場に立ってみなよ。……いたっ」

 思わず右手を動かし、ぴきっと痛みが走る。
 ハリーが微笑し、ミーシャを見た。

「でも、ミーシャはぼくよりか考えてたと思うけど」
「結局、ドラゴンちゃんの目当ては私になっちゃったけどねー」
「……ところで、他の三人はどうやったんだ?」

 ハリーの言葉に、ミーシャも身を乗り出した。

「それ、知りたいかも!」

 すると、ハーマイオニーがはにかみながら言う。

「フラーは……ミーシャと同じ、女子の代表だけど……これ言ったら、落ち込みそうね」
「ああ。まあ一つ言っておくなら、ミーシャよりレディらしい戦い方だったよ」

 にやにやと笑うロンに、ミーシャはむくれた顔をした。

「わざわざどうも」

 ハリーが、話の流れを変えようとするように言う。

「あー、クラムは?」
「そう、すごかったよ! 〜〜〜〜で、力で押さえつけててさ!」

 ロンが、瞳を輝かせて興奮して言った。
 ミーシャは呆れ、頬杖をつく。

「そりゃ頼もしいねー。さすがー」
「おいおい、棒読みすぎだよ。なんだよ、クラムはすごいのにさ」

 ロンが唇をとがらせる。
 ミーシャが、あと一人の代表について聞かないので、ハリーが口ごもりながら聞いた。

「あーっと、セドリックは?」
「セドリックはミーシャと同じように、変身術を使って岩を犬に変えてたわ」
「結局ドラゴンに襲われちゃったけどな」

 ロンが言い、ミーシャがふんっとハッフルパフの席を振り返ったとき、急にどこからともなく名前を呼ばれた。

「ミーシャさん!!」
「はい?」

 声変わりしていない、男子の声だ。
 ぱっと見てみれば、一、二年生の男子たちが四・五人、ミーシャの周りにやってきているところだった。その中で、ひときわモジモジと俯いている子が、ミーシャの顔色を伺いながら言う。

「あ、あの、サインしてください」
「なっ、なんでまた?」

 紙を差し出され、ミーシャはきょとんとした。
 すかさずハーマイオニーが耳打ちする。

「ハリーやミーシャ以外の代表の人たち、今までに何度もサイン求められていたのよ」
「ぜんぜん知らなかった」

 ミーシャはうろたえて男子たちを見る。

「お願いします!」
「あー、の……でも、残念なことに今右腕を骨折中で……」
「左手でもいいです!」
「とっても、とぉーっても雑になると思うけど」

 大げさに言ったが、「でもサインはサインです!」と一行に引き下がりそうに無い。
 仕方がなしにペンを受け取り、名前を書こうとしたところで、ふと思いついた。

「ねえ、日本のひらがな文字で書いてあげようか?」
「外国語ですか? ぜひ!」
「了解。……みーしゃ・らいりー……っと」

 ひらがなとはいえ、なんだかふにゃふにゃした字になってしまった。
 紙を一人の男子に返すと、周りの子が覗き込む。

「なんかかっこ悪くないか?」
「うるさい!」

 サインを求めた男子がぴしゃりと言うと、他の男子がにやにやとこづいた。

「ほら、あとバツゲームは?」
「えー、あれもかよ」
「早くしろって!」

 きょとんとして紅茶を飲むミーシャを差し置き、男子が吹っ切れたように声を張り上げた。

「おおお、踊ってください!!」
「ブッ!」

 ミーシャが紅茶を吹きそうになると、周りの男子たちがヒューと騒ぎ立てた。

「こいつ、まじで言ったー!!」
「ごめんなさい! 今のはジョークです!」

 真っ赤になって頭を下げるなり、そのまま他の男子たちとともに駆けていってしまった。
 なんだか白々しい空気だけが残り、ロンもハリーもきょとんとしてミーシャを見ている。

「えーと、コホン……」

 わざとらしく咳をしてみせた。

「……口から火が出そうなほどびっくりした」
「紅茶が出そうだったじゃないか」

 ロンに言われ、ミーシャはぎろりとロンを睨んだ。
 そうして、ハーマイオニーを見やる。

「踊るなんて、どっからそんな言葉が出てきたのやら」
「それは多分……」
「小包が届いてます!!」





「さあ、皆さんも一緒に!」

 音楽がかかる中、先生の言葉に女子はばっと立ち上がった。
 ハーマイオニーが、ミーシャに向かって言った。
 
「あなたは右手は使えないから……私、とりあえず男役するわ」
「あー、うん」

 ミーシャが答えると、ハーマイオニーがそっとミーシャの腰に手を置いた。
 そのとたん、ミーシャが体をよじらせて笑い出した。

「ちょ、ハーマイオニー! ストップストップ!!」
「な、なによ!?」
 
 ぱっとハーマイオニーが手を離し、ミーシャはふーっと息をはく。

「ごめんなさい。私、くすぐったがりやで……」
「そんなこと言ったってどうするのよ。腰に手を置くのは、基本中の、当たり前のことよ」
「と言われましても……」

 もごもごするミーシャに、ハーマイオニーは吹っ切れたように言った。

「どうしようもないわ。もう一回!」
「ちょ、やめっ!」




 ようやく授業が終わり、次々と生徒たちが広間から出ていって行く。

「あー、さんざんだった……」

 どんよりとミーシャが言うと、ロンがニヤニヤと笑った。

「見たぜ! 君のありえないダンス!」
「あれ、わざと?」

 ハリーの言葉に、ミーシャは空笑いした。

「わざとってもんじゃないよ……大真面目。死にそう」

 すると、背後からマクゴナガル先生の声が響いた。

「ポッター! ライリー!」

 ひとまずロンとハーマイオニーは先に談話室に戻り、ミーシャとハリーはその場に残った。いそいそとこちらへやってくるなり、マクゴナガル先生はハキハキと言う。

「よろしいですか。あなたたちは代表なのですから、パーティに一人でくるなんて、みっともないことはしないこと。必ず相手をつれてきてください」

 〝必ず〟という言葉に、マクゴナガル先生は気合を込める。
 ミーシャは、思わず顔をしかめた。

「そんなぁー」
「そうそう、ライリー。あなたはその腕の怪我が治るまで、動物もどきの練習をしてはいけませんよ」
「えっ……私、平気です」
「ダンスまでには怪我を治さなくてはいけませんし、何よりもまだ第二の課題も控えているのですから。よろしいですね」





 談話室に戻るなり、ミーシャはどさっとソファに倒れこんだ。
 ミーシャの言葉に、ハーマイオニーは腕を組んで言う。

「必ず相手をつれてこいって……それじゃあ、男子に誰も声をかけてもらえなかったら、ミーシャが自分で申し込まなきゃいけないじゃない」
「女子の方から誘うなんて、絶対嫌だわー。あー」

 ソファの上で、ミーシャはゴロゴロと体を動かす。
 そんなミーシャたちをよそに、他のグリフィンドールの女子生徒は、キャーキャーと騒いでいた。

「最近、セドリック・ディゴリーがグリフィンドールの塔のそばに、よく来てるんですって!」
「それ、ホント?」
「早く申し込まないと、ああいうハンサムは売れちゃうわ」
 


 ふいに何か思い至ったように、談話室を出て、ミーシャは保健室を訪れた。ハリーたち三人も、付いてきている。
 ミーシャは、包帯を巻いて、首からつるして固定した右手を、早く治したいと思ったのだ。第一、利き腕を骨折してしまっていては、ろくに生活も出来ない。

「マダムポンフリー、これ、早く治りませんか?」
「今日一日医務室ですごせば、治りは早くなるとは思いますが……。とにかく、あなたがはしゃぎまわらないことが大事ですよ!」

 マダムポンフリーに言われ、ミーシャは苦笑した。

「じゃあ、今夜はここで寝ます。泊りがけなら、きっと治りますよね!」
「そんな、今夜だけで治るわけないでしょう! 部屋で暴れない分、今夜ここで過ごしたら、治りが早くなるかもしれない、と言ったんですよ」

 マダムポンフリーは呆れたように言い、ミーシャが寝る用のベッドの準備に取り掛かり出す。
 ふいに、ぶっとロンが吹きだした。

「人の話を聞かないんだなぁ、相変わらず!」
「うるさいな。怪我人なんですよ、こっちは!」

 ミーシャは言い、ハリーに向き直った。

「ハリーはどうするの?」
「あー、ぼくはいいや。左腕だし」
「そういえば一度、ハリーは医務室で寝たことがあったよね」
「あれは、確か二年生の時だわ」

 ハーマイオニーが言い、ミーシャはあの勘違いナルシストの顔を思い出し、ぷっと笑った。

「そうだそうだ! 骨が紛失した時だよね!」
「笑わないでくれよ。あれは痛かったよ」

 ミーシャは微笑み、思い出したように言った。

「ハーマイオニー、花瓶を持ってきてくれる?」
「なぜ?」
「医務室で過ごすのに何かなきゃ退屈でしょ。変身術でもやってようと思って」

 当たり前のように言ってのけたミーシャに、ロンは呆れたように首を振った。

「こんな時でも変身術かよ。まったく、よくやるぜ」





 セドリックが授業を終え廊下を歩いていると、友人の一人が、ふいにニヤニヤと話しかけてきた。

「おい、セドリックー」
「ああ、探してたんだ。どこ行ってたんだよ」
「医務室だよ、医務室」

 セドリックは、いぶかしげに眉をひそめた。

「なんでまた医務室なんだ?」
「お前はもうちょっと俺に感謝してもいいと思うけどなぁ」
「だからなんなんだよ。早く言ってくれよ」

 ヒューと口笛を吹き、友人は笑った。

「さっき、呪文失敗した同僚を見に、医務室に行ったんだけどな……いたんだよ」
「誰が?」
「ミーシャ・ライリーだよ」

 その言葉を聞き、セドリックはぴたりと足を止めた。
 声をたてて笑いながら、友人はセドリックの肩を叩く。

「こんな機会めったにないよなぁ。女子の中に飛び込めない不器用なお前にとって、絶好のチャンスだぞ! しかも、俺が聞いたところによると、ライリーは、授業が終わったら今日一日医務室にいるらしいからな」

 何も言わないセドリックを差し置き、友人はぽんっとセドリックの背中を叩くと、そのまま走っていってしまった。





 左手で杖を持つのは、予想以上に違和感があった。
 花瓶の中の花をさまざまな種類に変えつつ、ミーシャはため息をつく。

 こうして話し相手がいなくなると、思いだされるのは思い出ばかりだ。
 今のように花瓶の花を変えるのは、一年生の頃、よくやったものだ。あの頃はただただ、魔法が面白くて仕方がなかった。今思えば、随分と簡単な魔法で、おおはしゃぎしていたものだ。

 バタン、と扉が開き、ミーシャははっと振り向いた。
 ……ここ最近、会いたくない人にばかり会う。——セドリックだ。

 セドリックはミーシャの姿を見とめると、はにかむように微笑んだ。

「や、やあ」
「……どうも」

 ミーシャは、顔をそむけ、不機嫌に答えた。

 これくらいの怪我で医務室にお世話になるなんて、情けない。
 セドリック・ディゴリーは、少なくとも、ライバルの一人なのだ。

「……それ、ちょっと貸してもらっていい?」
 
 セドリックは、ミーシャが手にしている花瓶を指差した。

「……どうして?」
「君が変身術を使っていたから、あー……僕もやりたくなって」
「じゃ、なんかすごいのをどーうぞ」

 ミーシャがぶっきらぼうに差し出した花瓶を、セドリックは丁重に受け取った。
 しばらく考え込んだ後、杖を出し、花瓶に向ける。

 すると、ふっと花瓶が白鳥の形のガラス瓶に変わり、やんわりと歌い出した。

「……無言呪文で……」

 ミーシャが目を丸くすると、再びセドリックが杖を振り、花瓶は元通りに戻った。
 そういえば、ムーディが、セドリックは四年の時、笛を歌う時計に変えてみせたと言っていた。

「あー、君もなにか魔法をかけてみてよ」

 もごもごとセドリックに言われ、ミーシャはぶんぶんと首を振った。
 不意に自分がこうしているのが恥ずかしくなり、早口に言う。

「わっ、私もあんたみたいに変身術がうまければ、岩を犬に変えられたのになぁ!」
「でも、あー、君の成績ならもう、出来るだろう?」
「出来ないよ! だってほら!」

 やけくそで杖を振ってみれば、花瓶は、口に花をくわえたヒヨコのような陶器になってしまった。嘴の部分がひょこひょこと動き、鳴き声が聞こえる。
 また恥ずかしいことを! と、慌てて杖を振り、元の花瓶に戻した。

「ほ、ほら! 思いどうりの物に出来ないもの!」
「今の、逆にすごいと思うけど……」
「そうやって、自分が、優秀だからって」

 低い声で唸ると、セドリックは苦笑いした。

「あの、そういうわけじゃなくて」
「だって私が一年の時、〝一年生の変身術の過去最高得点は、セドリック・ディゴリーですよ〟って、マクゴナガル先生が言っていたもの」

 驚いたように目を丸くしたセドリックを見やり、ミーシャは再び目を逸らす。

「で、その点数を抜かしたのも、君……と」

 からかうように言い、セドリックはため息をつく。

「あー、思えば、ぼくも含めてハッフルパフはグリフィンドールにやられてるなぁ。君たちが一年生の時も……あー、君たちの十点ずつで、ハッフルパフがビリの得点になっちゃったし」
「それは……」

 ふいに、何もかも嫌になってきた。
 爆発するような勢いで、ミーシャは声を張り上げる。

「あ、私の友達!! というか、寮の子に、あんたとダンスに行きたい!! って言ってるみたいな人、いたんだけど!!」

 はちゃめちゃなミーシャに、セドリックは弾かれたように目を大きく見開いた。

「何?」
「だから!」
「あー、あの……困ったなぁ……」
「何が!?」

 セドリックは、俯いて、頭に手をやった。

「その……ぼくは、君と……あー、行きたいんだけど」

 ミーシャは、顔をゆがめて俯いた。
 言われるような気はしていた。いつからだろう。わからないけれど、いつか、言われるような気はしていた。
 そういう状況にならないように、していたのに。

 口の中が干上がり、ミーシャは何度も瞬きをした。

「……」
「……?」
「だって、私たち、代表なのに」

 不意に思いがけず、そんな言葉が出てきた。
 なんでもいいが、よし。これでごまかそう。

「あー、代表同士じゃ組んじゃいけないって言われたのかい?」
「そ、そういうわけじゃないけど……代表が一緒になったら、代表ペアが四組になっちゃうでしょ」

 ミーシャの態度に、セドリックは顔をしかめた。

「もしかして、あー……もう他の人に誘われちゃった?」
「ないない」

 あっさりと否定したミーシャにきょとんとしつつ、セドリックは言う。

「でもさ、君とハリーが組んでも、その、四組になると思うけど」
「あっ、あの噂のこと、まだ気にしてるの? 違うって!」

 ミーシャが第一の課題を終えてからというもの、噂はめっきり少なくなった。それなのに、今だセドリックがハリーとミーシャのことを気にしていることに、ミーシャは不安になった。
 ……この間、素っ気無く返事をしたからだろうか。

「とーにーかーく! あの噂のことは忘れて!」
「じゃあ、あの……ダンスは……」

 頭の中が真っ白になった。

「わ、私は只今現在申し込み受付中じゃないから!」
「あー、じゃあ、いつ受付中になるの?」

 すぐに諦めてくれると思ったが、予想以上にしつこい。
 ミーシャは杖を置き、布団の中に潜り込んだ。

「私、怪我人ですから!」
「あー……のさ……」

 布団の中からいっこうに出てこないミーシャに、セドリックは大きくため息をついた。
 しばらく間が開いた後、布団の向こうから、セドリックが言った。

「えーと、それじゃ……お大事に」

 布団の向こうからの声は、どことなくこもって聞こえた。
 バタン、と扉が閉まる音がしたので、ミーシャは布団からこそっと外の様子をのぞく。

 セドリックがいないことを確認すると、布団から出て、ふーっとため息をついた。
 正直なところ、誰ともダンスパーティは行きたくなかった。
 相手がいれば、相手のために綺麗になりたい、と思ってしまう。特にセドリックのような相手なら、余計に。
 人のために何かするのは好きだが、わざわざ自分を醜く見せる相手と一緒にいる必要はない……。

 何気なくそばに置かれた花瓶を見ると、最後に見た花と、その種類が変わっていた。

「この花は……」

 ——リナリア。
 見た瞬間、ふいに喉の奥がはれぼったくなってきて、ミーシャは再び布団に潜り込んだ。

「一生知りたくありませんよーだ!」





 数日後。大広間で勉強中、ロンがハーマイオニーを怒らせた。
 ミーシャも課題を終わらせ、談話室へ向かう。
 グリフィンドールの談話室へ戻ると、不機嫌な様子のハーマイオニーが、暖炉の前のソファに座り込んでいた。

「……ああ、ミーシャね。ロン、どうしてた?」
「もんのすごく! 驚いてたよ。ハリーと、今夜談話室に戻るまでにパートナーを決めるって約束してたみたい」
「そう。驚くなんて、いい気味だわ」

 ハーマイオニーの隣に座ると、ミーシャはにやっと笑った。

「ハーマイオニーのパートナーって、どちら様?」
「……知らないわ」

 ハーマイオニーの素っ気無い態度に、ミーシャはにっこりした。

「さあさあ誰なのか、教えてくださいなー」
「……知らないって」
「ハーミィちゃん、教えましょうねー」
「なんなのよ、急に!」
「ねー?」

 にこにこしたミーシャに、ハーマイオニーは吹っ切れたように笑った。

「教えてもいいけど、お姉さんきどりのミーシャが先よ」
「えっ、あ……その」

 しどろもどろになり、ミーシャはもごもごと俯いた。

「その……私、まだ相手がいないの」
「嘘でしょ!?」

 予想以上のハーマイオニーの驚きぶりに、ミーシャも目を丸くした。

「本当だってば。セドリック・ディゴリーに誘われたけど、はぐらかしちゃったし」
「なんではぐらかしちゃうのよ! 今すぐ謝りなさい!」

 ハーマイオニーの言葉に、ミーシャはきっと言った。

「嫌だ!」
「いやだぁ? ミーシャはバカなの!?」
「バカでもアホでもクズでもゴキブリでもなんでも嫌だ!」

 ミーシャの頑なな態度に、ハーマイオニーはため息をついた。

「なんでもいいけど、なんなのよ。せっかくの誘いを……」
「は、腹立つのよ。きょ、去年クディッチで負けたし、わざわざ医務室まで押しかけてくるなんて……」
「押しかけてきたんじゃなくて、誘いにきたんでしょ、それ」
「そんなの知らないけど……〝喜んで! 一緒にダンス行きましょう!〟なんて言ったら、私の負けでしょ」
「なんの勝負をしてるのよ、あなたは……」

 ハーマイオニーは腕を組み、じっとミーシャを見やった。

「どうするのよ。そんなこと言って、つまらない意地張って」
「意地なんて張ってませーんよ」

 ミーシャの態度に、ハーマイオニーは深々とため息をつく。

「じゃ、他の相手を探すわけなの?」
「……」

 他の相手など、考えてもみなかった。
 むー、と唸り、ミーシャはハーマイオニーを見る。

「一人で踊ったら、怒られると思う?」
「……なんなのよ、あなた」
「どのみち、くすぐったくて踊れないし……」

 ミーシャのその言葉を聞いた瞬間、ハーマイオニーの瞳が光った。

「そ、そうよ! ダンスの練習しておきましょう!」
「いいけど……って、ええ!?」





 同じ頃、セドリックはハッフルパフの談話室でもくもくと読書をしていた。とはいえ、本の内容はなかなか頭に入らず、あのミーシャ・ライリーの姿ばかり浮かんでくる。

 廊下を歩いているたび、男子生徒が女子に申し込んでいるのを見るけれど、みんなすんなり了承を得ている。けれど、あのミーシャ・ライリーは別だ。

「おい、セドリックー」
「ああ……」

 医務室のことを教えてくれた友人が、にこにこしてやってきた。
 セドリックは唸るように返事をする。

「なんだよその顔。どうだ? 成功したのか?」
「しょっぱな断られそうだったよ」
「断られそうになった!? 結局どうだったんだよ」
「はぐらかされた」

 友人は驚くどころか、感心したようだった。

「お前の誘いをないがしろにするなんて、どんな勇敢な女子だよ」

 すると、盗み聞きしていた男子たちが、セドリックの周囲にやってきた。

「なんだよ、振られた話か?」
「違うよ。ダンスの誘いをはぐらかされたって話」

 無言のセドリックをさしおき、友人が言う。

「誰に?」
「ミーシャ・ライリー」

 すると、男子たちが口々に話し出した。

「ライリーって、ドラゴンの背に飛び乗った女子だろ。そりゃ勇ましいわな」
「グリフィンドールの獅子寮女子って、皆そうなのか?」
「そんなわけないだろ。ジニー・ウィーズリーとか美人じゃねえか」
「それだったら、ライリーのこともウィーズリーの双子がヒューヒュー騒いでるじゃないか」
「こんこん言ってるよな。狐みたいに」
「紫の目だもんな! 俺も隠れファンだし」

 友人が、呆れたように話を制した。

「おいおい、こっちは困ってるんだぞ」
「でもさ、ライリーとセドリックって、ライバルの関係だよな。代表のことも、クディッチのことも。あと、ライリーって変身術もやばいんだろ」
「やばいってどっちの意味だよ」
「出来るってことだよ。セドリックも変身術得意だしな」

 その言葉を聞き、セドリックが低く唸った。
 友人がため息をつき、セドリックに言う。

「んでセドリック、諦めたのか?」
「いや……」





 廊下を歩いていても、最近は申し込みの様子ばかり見る。特にダームストラングの連中は、申し込みを了承された後は、女子の手にキスまでしていた。

 あんなのは絶対に嫌だ!

 ミーシャは早足に廊下を歩いていく。

「あー……ちょっと」
「はーい? なにか……」

 歩きながら振り返ってみれば、またしてもセドリック・ディゴリーだ。
 とたん、ミーシャはむっと顔をしかめ、足を速めた。

「何か用でもあるの?」
「あー、いや……その……」

 ミーシャに歩調を合わせつつセドリックは口ごもる。
 ミーシャは仕方がなしに足を止めると、俯いた。

「……何?」
「あー……」

 セドリックが周りを気にしているのに気づき、ミーシャも顔をあげて辺りを見る。予想以上に、周りの生徒にちらちらと盗み見されていた。

「あ、あんた目当ての人でしょ」
「き、君を追いかけている人もいると思うけど……えーと、あとでいいや。あの、後でフクロウ小屋に来れる?」
「……月が昼間に見えるようになったらね」

 そういい残し、歩き出したミーシャだが、歩きながらまたバカなことを言ってしまったと後悔した。
 月なんて、いつでも昼間に見えるじゃないか。薄く。
 まあいい。どのみち、後でリーマスからの手紙を受け取りに、フクロウ小屋へ行くところだった。



 ピィーピィーと、フクロウたちの鳴き声が響いている。
 ミーシャがそろそろとフクロウ小屋へつくと、じっと空を眺めているセドリックの後姿があった。

「あー、月が見えているから……その、来てくれると思った」

 言いながら、はにかむような笑顔を向け、セドリックが振り向いた。
 ミーシャはふーっとため息をつき、素っ気無く言う。

「わ、私は、手紙のために来たんだから。ちょっとでも〝僕のために〟なんて思ったら、あんたの髪を蛇に……」
「何?」
「あー、今のは取り消し」

 また余計なことを言うところだった。
 小さく深呼吸をし、低い声で尋ねた。

「なぜ呼び出したの?」

 理由はなんとなく察しているが、聞きたかった。
 セドリックは俯き、口ごもりながら言う。

「あー、その……君もお察しのとおりだよ。ダンスパーティのこと」
「だから、私もあんたも代表……」
「そのことなんだけど、あー……聞いたんだ。先生に」

 どきりとして、ミーシャはバツが悪そうに顔を背けた。
 セドリックはミーシャの顔色をちらちら伺いながら言う。

「だ、代表同士だから組めないってことはないらしい。それにさ、あー……言われなかった? 先生に、必ずパートナーを連れてこいって」
「言われたけど、それは先生が思っていることで、私はそう思ってないから……いいの!」

 やけくそでミーシャが言ったところで、足音がした。
 振り返ってみれば、ビクトール・クラムが無表情でフクロウに手紙を預けている所だった。

「あー……こんにちは、クラム」
「……」

 なんともいえない空気に嫌気が差し、挨拶をしてみたものの、クラムがじっと黙りっぱなした。
 ミーシャはセドリックに向き直ると、早口に言った。

「じゃ、じゃあ、この辺で! さよなら!」
「あ、ちょっと……」

 逃げるように去っていくミーシャの後姿を見やり、セドリックはクラムの方を振り返った。

「……」
「……」
「……やあ」

 はにかみながら話しかけてみたものの、クラムはじっとセドリックを見つめるばかり。

「……」

 深々とため息をつき、セドリックフクロウ小屋を後にした。




Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.6 )
日時: 2013/08/04 09:06
名前: プリア@保留 (ID: 7EYM.IE5)

ロンと踊るver ドレスは決まっていません;


 どうせ相手がいないのに、と思いつつも、ミーシャはハーマイオニーとともに、ダンスのために美しくめかした。
 
「もっとドレスが似合えばなぁ」

 ハーマイオニーのように、お洒落なクセ毛だったら。
 ジニーのように、燃えるような赤毛だったなら。
 もやもやした気分が晴れないのは、相手がいないからだろうか。
 もっとドレスが似合えば、と思っているからだろうか。

 ため息をつきつつ扉を開けてハーマイオニーの方へ行くと、ミーシャは息を呑んだ。

「ハ、ハーマイオニー……?」
「ああ、ミーシャ。私の髪って、どうしてこうクルクルなのかしら……って!」

 ハーマイオニーが鏡から目を話し、ミーシャを振り返った。
 とたん、ハーマイオニーの目が丸くなり、ミーシャの手を握った。

「あなたミーシャよね! そうよね!」
「そ、そうだけど……」
「私、今日からあなたのファンになるわ!」
「はぁ?」

 ミーシャは思わず声をあげ、苦笑いをした。
 ハーマイオニーはじっとミーシャの目を見つめている。

「その髪と紫の目がとっても綺麗。いつも同じ髪型しかしないから、びっくりしたわ。黙っていれば、本当に清楚で綺麗……フレッドとジョージは早々見抜いてたのね」
「黙ってれば、って何よ、それ」
「いいのよいいのよ! しかもいい匂いもするわ。狐のミーシャの嗅覚に間違えはないわね」
「そりゃあ、私の鼻に間違えはないから! まあ、好みの問題だと思うけど」

 一気に今のミーシャの姿を、すべて解説された気分だ。
 ミーシャは自信ありげに胸を張ってみせ、それから肩を落とす。

「でも、肝心の相手がいないんじゃどうしようもないよ。マクゴナガル先生に、透明人間と踊りますって言ったら、どうなると思う?」
「宿題を白紙で出したロンと同じ目に遭うと思うわ」

 ハーマイオニーが言い、すぐにミーシャの肩に手を乗せた。

「そうよ! あなた、今すぐに会場へ向かって、相手を探すのよ!」
「今更? 直前に? そんなバナナ」
「ふざけてないで、大真面目によ! さあ!」

 ぐいっとミーシャの背を押しつつ、ハーマイオニーは扉を開けた。

「少なからず、日頃あなたのファンがいると思うわ。そういう人で、相手がいない人を探すのよ。こんこん言っていればイチコロよ」
「こんこんとは言わないけど……なんとかする。クラムと仲良くね!」





 恐る恐る階段を下りていくと、大広間の会場に見慣れた四人の姿があった。
 パチル姉妹の片割れのパーバティに、ロンとハリーだ。

「あの子、とっても綺麗ね……」

 ぽつり、とパーバティが呟き、ミーシャがにっこりして手を降った。

「パーバティも!」
「えっおい! その声、まさかこんこんミーシャか?」

 ロンがすっとんきょうな声をあげた。
 ミーシャは階段を下りるなり、ロンへ向き直った。

「いかにも私がミーシャ・ライリーですが、何か?」
「おったまげー。狐に鼻をつままれるってこういうことか」
「ロン、それ意味が違うと思うけど……」

 ハリーが呆れたように言う。
 ミーシャがふんっと鼻を鳴らし、そうしてロンのドレスローブを見やった。

「お、おお……その格好……立派、ね!」
「わざわざどーも」
「ところで、ハリーのお相手はどちら様?」
「私よ」

 パチル姉妹の片割れがにっこりと笑って返事をした。
 ミーシャもこくこくと頷きながら、首を傾げる。

「あれ? パドマは?」
「パドマは、レイブンクローの相手と広間に入っちゃったわ」
「えっ? じゃあ、ロンの相手は……不在?」
「その言い方やめてくれよ。そうだよ、僕には元々いないんだよ。残念でした!」

 悪いことを言ってしまったと思いつつ、ぷっと吹き出した。

「やだ、私、ロンと同類になっちゃったのね」
「同類?」

 ハリーの言葉に、ミーシャはこくりと頷いた。

「私も相手がいないの」
「えっ? それ本当? だってマクゴナガル先生が……」
「ああ、ライリー、ポッターやっと来ましたか!」

 マクゴナガル先生の声に振り返ってみれば、本人がこちらへやってくるところだった。
 ロンが「あー、噂をすれば」と顔をしかめる。

「ポッター、あなたの相手は?」
「あー、ミス・パチルです」
「よかった。ちゃんと相手を誘えたのですね」

 マクゴナガル先生はほっと表情を和らげ、バツの悪そうにしているミーシャを見やった。

「それで……ライリーの相手は?」
「えーっとですね。さまざまな事情によって私の相手はとうめ……」
「まさか、見つけていないのですか?」

 説明以前に問い詰められ、ミーシャは観念して頷いた。
 すると、マクゴナガル先生がうんざりしたように声をあげる。

「あーっれほど連れてきなさいと行ったのに!」
「あの、すみません。ごめんなさい」
「それで? そこに突っ立っているウィーズリーの相手は?」
「あ、僕は一人で踊れますから。相手なんて必要ありません」

 一か八かで言ってのけた発言に、マクゴナガル先生がキーッと顔を赤くした。

「つまり相手がいないということでしょう! まったく、あなたたちは!」

 早口に言い終えた後、マクゴナガル先生はミーシャを見た。

「どうしようもないですね。ライリー、ウィーズリーと組みなさい」
「はぁ?」
「えっ、そりゃないぜー!」
「問答無用です!」

 ミーシャとロンは顔を見合わせ、深々とため息をつく。
 満足げに鼻を鳴らした後、マクゴナガル先生は諭すように言った。

「ポッターもライリーも、準備は出来ていますね?」
「えっ、何の?」

 ハリーが言い、マクゴナガル先生が驚いたように言った。

「ダンスです。代表三人が最初の踊るのが伝統ですよ。今回は五人ですが。言ってあったでしょう?」
「い、いいえ」
「初耳です」

 ハリーとミーシャが口々に言ったが、マクゴナガル先生は即座に答える。

「で、では、今言いました」

 そうして、逃げるように他の生徒たちの方へ行ってしまった。 
 ミーシャとハリーは顔を見合わせ、肩をすくめる。

「なんなの、今の」
「さあ……とにかく、最初に踊らなきゃいけないみたいだ」
「ああ、今日はもうしょっぱなから最悪みたい」
「それを言うならこっちだってそうだよ。だいたい、ハーマイオニーはどうしたのさ?」

 ロンに言われ、ミーシャはにやりと笑った。

「さあね」

 と、何気なく振り返った先に、目に留まるものがあった。
 セドリックだ。結局、お相手は誰なのかと目を逸らしてみると……チョウ・チャン!
 
 私を誘っておいて、結局はあの美少女ちゃんと組んだのか。まったく!
 第一、チョウはハリーが気になっている人のはずだ。
 ハリーは自分が気になっている人といけず、それなのにセドリックは……。セドリックは、私が許可しなかったからチョウと組んだのだろうか。だとすれば、ハリーとセドリックは同じくらい気の毒だが……。

 それにしても腹が立つ。ロンと組んで正解だった!

「ふーっ!」
「な、なんだよミーシャ。動物もどきの練習か?」
「ちーがーいーまーす!!」
「なんでそんなに怒ってるんだよ。僕と組むのがそんなに嫌って?」
「ちーがーいーまーす!!」

 ミーシャの様子に、パーバティはやんわりと微笑んだ。

「女の子はいつだって複雑なのよ」
「……女子ってよくわかんないな、ハリー」
「女子はドラゴンと同じくらい難しいよ」



 パーパカッパー!! パッパカパー!!

 大勢の歓声とともに、代表者が順々に二列になって入場した。
 ダンブルドアから名前を挙げられた者の順なので、ミーシャはハリーの後ろに、ロンと腕を組んで歩いていた。

 歓声の中から、フレッドとジョージの声が聞こえてくる。

「おおっと、女性人は見事に美人揃い!」
「魅惑の妖精女王フラー・デラクール!」
「レイブンの人形姫様チョウ・チャン!」
「大穴ハーマイオニー・グレンジャー!」
「我らが紫の舞姫ミーシャ・ライリー!」
「おい野郎ども! 今夜は美人観戦だ!」
「そして、彼女らのお相手の男性人は!」
「地獄に落ちろ! 呪うぞ! キーッ!」

 ミーシャの隣を歩いているロンが、うんざりとため息をついた。

「なあ、ハーマイオニーの相手がクラムって、夢じゃないよな」
「残念ながら現実のことね。なんなら、ダンス中に足を踏んであげるけど」
「意図的にそうしなくても、君のダンスじゃそうなるだろ」
「おあいにく様! 私、ハーマイオニーと猛特訓したから!」

 そうこう言いあっているうちに、ステージについた。
 歓声がやみ、演奏者の方々と、フリットウィック先生が指揮棒を構える。

 こんなに大勢の人の中で踊るのか……!
 急に緊張してきた。頭の中が、真っ白になる。
 ロンがひそひそとささやいた。

「おい、どうするんだよ?」
「さ、最初は腰に手を……」
「こしぃ?」
「は、早く!」

 演奏が始まり、反射的に手を握って、ロンとミーシャはちょこまかと踊り出した。
 途中、無理にミーシャがロンの手を腰に当てたものの、急にくすぐったさが復活してしまった。

「くっ……ぷっ」
「お、おい、なんなんだよ」
「気にしないで……ひぃぃー、む、無理」
「っていうか、今のところターンだったのに」
「あっ、今のところ私が上がる予定だったみたい……」
「おいおい、なんなんだよ」

 くるくると回るのも、どこかしらふにゃふにゃした動きだ。
 ロンはもちろんダンスはまったくと言っていいほど練習しておらず、ミーシャも今のような状態なので、散々なダンスだ。

「おい、相棒。あれ見ろよ」
「なんだありゃ。ひどいな」
「あそこだけナメクジだな」

 フレッドとジョージが、ミーシャとロンの不自然な動きを見て笑った。そうして、ふんふんと鼻歌を歌うながら、踊るような素振りをする。

「ははっ! ロニー坊やはダメだなー!」
「まったく、ミーシャの扱いが下手だね」
「ああいうおてんばはもっとこう……!」






「どうして全部、ぶちこわしにするの!!」

 ハーマイオニーの怒鳴り声が聞こえたと思い、ミーシャが広間から出たとたん、ハーマイオニーが乱暴な足取りで階段を上っていくところだった。

 階段のそばに、ロンとハリーがぼさっと突っ立っている。
 ミーシャは、スカートのすそをめくりあげて駆け寄った。

「ハーマイオニー、どうしたの?」
「おい、ミーシャ、そうやって走るのやめろって」

 ロンが苦笑いして言い、ハリーが口元で微笑んでからかった。

「相変わらず行動で損しているよ、君は」
「私のことはどうでもいいの! ハーマイオニーは?」
「知らないね。おっかないくらい怒って帰っていったよ」

 やれやれというように首を振りながら、ロンはため息をつく。
 ミーシャがハリーに目を向けると、ハリーは声を潜めた。

「ロンとハーマイオニー、喧嘩したんだ」
「なんでまた?」
「今だから言うけど……多分、妬いてるんだと思うよ」
「やっぱり? もちのロンだけにやきもち? もちのヤキ?」
「ただの嫉妬だと思うよ、うん」

 ハリーとミーシャが声を潜めていると、その間にロンが手を割って入った。

「はいはい聞こえてますけど、お二人さん」
「……まったく、そんなことでハーマイオニーを傷つけるなんて! 私が許さないわよ!」
「許すも何も、君に許しなんかこうてないさ。ナメクジダンスの君にね」

 ミーシャは痺れを切らして、ハリーに向き直った。

「ハリー!!」
「なっ、何ごと?」

 急に太い声で言われ、ハリーはびくりと身を震わせた。
 ミーシャは、じりじりとハリーに詰め寄る。

「ハリーは普通にダンス踊っていたよね。練習したの?」
「いっ、いや……パーバティがリードしてくれたんだ」
「ほら見なさいロン! どっちかがリードすべきだったのに!」

 ミーシャに言われ、ロンはバツが悪そうな顔をした。

「何言ってるんだよ。どっちが女の子だよ。パーバティがリードしてくれたんだったら、ミーシャもリードすべきだろ。だいたい、練習してきたって言ってたのはどこのどいつだよ」
「そっ、それは知りませんよ!」
「なんなんだよ、君は……」
「しょうがないでしょ。全部頭から吹っ飛んじゃったんだから」
「どうせあがっちまって、頭の中でインセンディオでも起こしたんだろ」

 皮肉とからかい混じりにロンが言った時、こつこつと足音が響いた。
 三人でぱっと振り返ってみれば、ハリーもミーシャも会いたくない二人組み……セドリックとチョウだ。

 ハリーは二人の姿を見るなり、「あー……」と顔をしかめた。

「ごめん! 早く戻らないと、ヘドウィグが餌が欲しい欲しいってやかましいんだ。それじゃ!」
「ちょ、ハリーずるい!」

 ミーシャが追いかけようとすると、ロンにぐっと肩をつかまれた。

「一人にしたら僕が困るだろ!」
「あー、それもそうだけど……」

 ごちゃごちゃ言いあっているうちに、ミーシャはチラリとセドリックたちを見やる。

「チョウ、今日はありが………あっ」
「私こそありがとう、セドリック。あら!」

 チョウがミーシャたちに目をむけ、にっこりと手を降った。

「こんばんは! ミーシャ、ロン」
「あ……」

 セドリックがミーシャを見やる。
 チョウは相変わらず可愛いなぁと思いながら、ミーシャも自然と微笑んだ。

「こんにちは! じゃなくて、こんばんは!」
「あなたのその姿、とっても素敵。ふふっ、私、ファンになっちゃうかも」
「チョウもね!」
「でもちょっと動きにくいのよね、ドレスって。クディッチばっかりやってるからかしら……職業病? なーんてね」
「チョウはシーカーだもんね、レイブンクローの華!」

 ミーシャが言うと、チョウはきょとんとして首をかしげた。

「シーカーと言えば……ハリーはどうしたの?」
「ヘドウィグに餌をやらなきゃとか言って、談話室にすっ飛んで行ったよ」
「そうなの。ハリーには悪いことしちゃったけれど」

 チョウが俯き、ロンがへっと鼻で笑った。

「よく言うぜ」
「あ……ロン、その格好……とっても面白いわ」
「言われても嬉しくないけどなー」
「だって、あなたたちのダンス、とっても面白かったもの。ねえ、セドリック」

 急に話を振られ、セドリックはうろたえたように目を泳がせた。

「えっ? あ、あー……そうだね」

 恥ずかしいような腹立たしいような気持ちがわき、ミーシャは思わず俯いた。
 チョウが壁にかけてある時計を見やり、ミーシャたちに向き直る。

「もうこんな時間なのね。じゃあ、この辺で私は……」
「あっ、あー……ミーシャ。あの、話があるんだ。……課題についての」

 もごもごとセドリックが切り出し、チョウがぽんっとセドリックの肩を叩いた。

「そうよ。セドリックとミーシャは、ホグワーツの代表なのよね。二人とも頑張って!」
「ああ、頑張るよ。……ミーシャ、い、いいかな?」
「えー……えーっと、まあ……」

 この場でうまく断ることが出来ず、流れで返事をしてしまった。
 またやってしまった、と思いつつ、ミーシャはロンに向き直る。

「ロン、先に談話室に戻っていて。なんなら、わざとついてきてもらってもいいけどね」
「よく言うぜ。そんなことしたら、そこのセドリックにとっちめられるだろ」


☆   面と向かってセドリックと呼んだことない。


 ミーシャは俯き、ぎゅっと両手を握り締めた。

「それで……話ってなあに?」
「あー、えーっと……君……お風呂に入るのは好きか?」
「いっ……な、急に何?」

 ぎょっとしてミーシャが顔をほんのり染めると、同じだけセドリックもうろたえたようだった。

「あー……へ、変な意味じゃないんだ! とはいえ、女の子の君に聞くことじゃないか……ごめんよ」

 セドリックははにかみ、もごもごと切り出した。

「えーっと、それで……六階の『ボケのボリス』の像の左側、四つ目のドアに、監督生用の風呂場があるんだ。『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』って合言葉なんだけど……」
「……それがどうかしたの?」
「あー……あそこはなかなか良い所だ。卵を持っていって、お湯に使って、じっくり考えるといいよ。えーっと……」

 ミーシャは、目を細めた。
 監督生用の風呂場に、私に入れと? そのために合言葉を?
 なんだかしっくりこない気がする。

「……話ってそれだけ?」
「それって、ダンスのこと? あー……」
「……もういいけどね。こうなったら、今回のトーナメント、意地でも頑張ってあんたに勝つから!」
「……あー、僕も去年みたいにマグレなんて思われないよう……頑張って勝つよ」

 セドリックの言葉に、ミーシャは小さく笑った。

「それはあんたの勝手だけど。あんたとチョウ、とっても綺麗だったもんね。ダンスに関しては、私、もう負けてるわ」
「君とロンも……あーいや、なんでもない」

 最後に話したときより、さらにつっかえながら話している気がする。

「あの……君、その格好……その……えーっと」

 そこまでセドリックが言った所で、しゃがれた声が割り込んできた。

「ほれほれ! 青春を楽しむ前に、さっさと帰れ! どこぞの教授たちに見つかるとやかましいぞ!」
「あっ、先生」
「むっ、ライリーか。ウィーズリーとお前のダンス、呪いのダンスかと思ったぞ!」
「あ、は……ある人にはナメクジだと言われました」

 苦笑いしてミーシャが言うと、ムーディ先生は盛大に笑った。

「はっはっはっ。面白い。今度授業で、ナメクジで相手を呪う呪文を練習しよう! ん? 人が作り出したナメクジより、野生のナメクジのほうが新鮮だけどな!」
「あー、そうなんですか。無駄知識ありがとうございます」
「わしに向かって無駄知識というとは、いい度胸だ! 獅子寮め。ほれほれ、帰れ! あまり残っていると、企みがあるんじゃかいかと思って呪うぞ! それともなんだ? わしと踊るか?」
「えーっと……遠慮しておきます」

 ミーシャは言い、とりあえずセドリックに断りを入れた。

「じゃあ、また今度……ね!」
「えっ、ああ、うん」

 ドレスのすそをめくりあげて歩いていく後姿を見やり、ムーディ先生がにやりと笑った。

「覚えとけディゴリー。ああいうのを無駄美人っていうんだぞ!」
「あー……そうかな」
「そう思うか? わしの経験上の話だ! なんだその疑う眼差しは? 呪うぞ!」





 ダンスパーティの翌日。
 ミーシャはネビルとともに、再び湖のそばで自習を行っていた。変身術をミーシャがネビルに教えた後、ネビルは湖の浅瀬に足まで浸かり、本を片手に植物を調べている。

 ミーシャもネビルと同じくらいに薬草学に興味があるので、ともに観察し、調べるのはとても楽しかった。

「どう? その本、ムーディがくれたんだけど、面白いでしょ?」
「うん、とっても! 特にこの……変身関係の植物・花が!」

 地面にあぐらをかいて座り、ミーシャはばらばらと本をめくる。

「やっぱり、同じ植物系でも伝説や言い伝えがあるものが面白いなー」
「わかるよ! 名づけられた経緯とか知ると、面白いよね!」

 ネビルがいい、急に「ああっ!」と叫んだ。

「何? どうしたの?」
「さっき見つけた植物……落としちゃった。どれだかわからない」
「あー……それなら」

 ミーシャは杖を出し、すっと湖に向けた。

「アクシオ!」

 言ってみたものの、ちっともこちらに向かってくる兆しが無い。

「……」
「……」
「……そりゃ練習してないし、ハリーみたいにうまくいくはずないか! あはは!」

 ミーシャはスカートをまとめて後ろで縛るなり、意気込んで湖の中へ足を踏み入れた。

「えっ、ちょっとミーシャ」
「いいのいいの!!」

 ぬかるんだ底に手を入れて探っていると……。
 ざっとミーシャは手を引き上げた。ばっと泥水が散る。

「とった! これでしょ?」
「あ、ありがとう。でもミーシャ、その服……」





 その日の深夜。
 監督生用のお風呂に入るには、人のいない時間帯に行くしかない。

 意識が消えるまで何とか持つはず……と、ミーシャは夜中に談話室を抜け出し、狐姿で六階へ向かった。ひたひたひた、と、リズミカルで小刻みな足音が響いている。

 『ボケのボリス』の像の左側、三つ目のドアまで狐姿でゆうゆうと進むと、四つ目のドアの前で人間の姿に戻った。
 だいぶ頭がぼんやりしているが、三年の時よりも、長く狐姿でいられていた気がした。

 誰もいない中、監督生だけの特権の風呂に入るのだと思うと、胸が高鳴る。

「……『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』……」

 ギィーっと軋みながらドアが開き、ミーシャは恐る恐る足を踏み入れた。

「わぁ……まさに大浴場」

 白大理石で出来ており、まさにプールみたいに長い浴槽だった。
 そのまま飛び込みたい気持ちを抑え、ミーシャはひとまずバスローブに着替えた。

「そういや、ここに来るまで誰の足音もしなかったな。狐の私の耳で聞こえないんだから、本当に誰も見回りしてなかったのかも……」

 ぶつぶつと呟きながら、卵を片手に、ミーシャは大浴場へと足を踏み入れる。卵を脇に置くと、ひとまず蛇口の前にしゃがみこんだ。

「一、二、三、四……蛇口、これいくつあるの? 百個?」

 蛇口の取っ手にはそれぞ違う色が嵌められている。
 ミーシャはまず、自分の一番好きな色、赤い蛇口をひねってみることにした。

「赤赤……よいしょ」

 すると、赤いお湯とともに青とピンクの泡がもくもくと湧いてきた。

「すっごーい!! ということは、他の色は……」

 次に、目に留まった黄色の蛇口をひねってみる。雪のように柔らかな泡が、ふわふわと湧き出てきた。
 ミーシャは泡を取り、両手ですくって頬に当ててみる。

「んー、気持ちいい。こっちは……私の目の色!」

 紫色の蛇口をひねると、なんともいえない心地よい香りが漂うとともに、雲のように柔らかな泡が湧いてきた。

「ぜんぜん興味なかったけど、このために監督生になっても損はしないかも……!」

 言いながら、緑色の蛇口に目を留めた。

「あのフォイにはムカつくけど、緑色もやっぱり色合い的に必要よね」

 ギュッとひねると、グギィィィィと軋みながらかびたような小さな泡がポタポタと垂れてきた。
 ミーシャは反射的に、素早く蛇口を閉じる。

「何、今の……。……なかったことにしよう」

 言いながら、ミーシャは辺りを見回した。
 もうだいぶ浴槽が泡と水で満たされ、湯気がふわふわと漂っている。
 きちんと閂は閉めたはずだし、誰も入ってこれないはずだ。

「さて……監督生の風呂場、いざ!」

 バスローブを脱ぎ捨てるなり、ミーシャはざっとお風呂に使った。
 そうして、前のめりに泳いだり、バタ足をしてみたりする。もくもくと泡があわ立った。

「小学生のプール以来かも!」

 ハーマイオニーも一緒だったら、さぞ楽しかっただろう。

「ジャパニーズスタイル! って教えたかったなぁ」

 言いながら、持ってきたタオルを頭の上に乗せた。
 そうして、思いだしたように卵に目をむける。

「そうだ。今日の目的は卵のためだった」

 卵を手に持ち、撫でながらじっくりと見つめる。

「あの人、お風呂に入れとしか言ってくれなかったし……回りくどいし、もごもごしてるし……」

 ぶつぶつ言いながら、カチャリと卵をあけた。

 キエエェェギャエェェェェーーーーー!!

「うーひどい!」
 
 ガチャリと乱暴に卵を閉めると、ミーシャはため息をつく。
 お風呂でじっくり考えろなんて……。

「私ならそれを水……」
「よし、もう一度!!」

 キエェェェェェギェェェアエァァァーーーー!

「ちょっと!! 人の話を聞きなさいよ!!」
「えっ!?」

 ミーシャは卵を閉めると、きょろきょろと辺りを見回した。

「どこ見てるのよー! こっちよこっち!」
「……! マートル!」

 声に振り向いてみれば、天井辺りをあの嘆きのマートルがゆらゆらと飛んでいるところだった。にやりと笑い、するするとこちらへ飛んでくる。

「はぁい、ミーシャ。緑の蛇口を開けるのは誰かと思ったら、あんただったのね」
「……相変わらず神出鬼没なのねー」

 ミーシャが言うと、マートルは歌いながら宙を旋回した。

「この間トイレの配水管を散歩していたらポリジュース薬が詰まっているのをみたんだけど、あんたまたワルサしてるんじゃないでしょうねぇ?」
「ポリジュース? あれはもうやめたけど……本当?」
「ええ。あの薬は一度見たら忘れないもーん。またあのトイレに遊びにきてくれればいいのにー」

 ミーシャは思わず、ひひっと苦笑いした。
 マートルはふんふんと鼻歌を歌い、ミーシャの方を見る。
 
「それで? その卵は?」
「あー、これは……」
「この間のハンサムさんが持っていた物と同じかしら?」

 ミーシャは、反射的にマートルを見上げた。

「ハンサムさん?」
「ええ。——セドリックよ」
「……ああ、あの人……」

 ミーシャは、ため息をついて顔をしかめた。

「あんた、いつもそうやって覗き見してるの?」
「時々ねー。セドリックはいつも蛇口を黄色、紫、赤の順にひねるの。でも最近は紫、黄色、赤の順ねー」
「あっきれた! クセまで覚えてるくらい常習犯じゃない」

 ミーシャは言い、足をばたつかせた。

「なんだったのさ。おととし、一人で寂しいメソメソマートルとか言ってたのは」
「あなたたちに会ってから、自信がついたみたいなのよねー」
「自信って……そういうのを自信っていうの?」
「もちのロンよ! ……これ、あの赤毛の子のまね。似てた?」
「……あー、うん」

 マートルは、歯を見せていたづらっぽく笑った。

「最近の趣味はここに来ることと、水道管の散歩よ!」
「はぁ、それはそれはいい趣味でして」
「他の三人に言っといてちょうだい。嘆きのマートルは水道管点検のマートルに生まれ変わりましたってね」

 得意満面のマートルに、ミーシャはぷっと吹き出した。

「水道管点検のマートルって……自分で名付けたの? ネーミングセンスひどいよ、それ」
「うるさいわねー。ほーんと、あんたは二年前とちっとも変わってないじゃないの。私がこぉんなに変貌を遂げたっていうのに」

 その言葉に、ミーシャは少し肩をすくめた。

「みんな変わっていくのに、私だけおいてかれているみたい」

 返事を期待してマートルを見れば、マートルは鼻歌を歌いながら足をバタバタさせている。
 ため息をついたところで、ミーシャはようやく卵の存在を思い出した。

「そうだよ! 元々卵のためにここに来たのに。なんでこんな話になったんだろう?」
「セドリック・ディゴリーの話になって、覗き見っていう話をし出してからよ」
「あの人のことはもういいの! 私は卵の謎を解かないといけないのに……」

 マートルはふわりと飛び上がり、こちら側にやって来た。

「だから、私ならそれを水の中につけてみるけどって、最初に言ったじゃない」
「……水の中ぁ? なんでまた水の中で?」

 きょとんとしてミーシャが声をあげると、マートルはケラケラと笑った。

「あのハンサムさんはそうしてたわよー? 真似するかしないかは、あんたしだいだけどねー」
「真似って……嫌な言い方してくれるねー」

 あのセドリックのことだ。間違っているはずがない。水の中で卵を開ければ、何かヒントが得られるのだろう。
 それでも、「真似」といわれると癪に障る。ただでさえあの人に教えられてここに来たというのに、また方法を真似るなんて。

「何よ、珍しく黙っちゃって。つまんない意地でも張ってるのー?」
「……真似じゃない。真似するんじゃなくて、参考にするんだもんね」
「どっちでも同じことじゃないの。何を意地になっているのよ、あんた」
「やぁかましい……!」

 早口に言うと、ミーシャは吹っ切れたように水の中に潜った。そうして卵を手に取るなり、ガチャリと開けた。

「……!」

 開いた卵の隙間から光とともに、歌声が流れている。

 
 探せ 声を頼りに 地上では歌えない
 探せよ一時間 我らが捕らえられしもの

 

「いちじ……っ!」

 思わず口を開いた瞬間、泡が口に流れ込んできた。ぶくぶくと泡を吐き、ミーシャは水面に顔を出す。

「うえっ! 泡が口に入った! ゲホッゲホッ」
「水の中で口を開くからよ! まーぬーけーねー!」

 ゲラゲラと笑いながら、マートルはミーシャに寄り添った。

「あーら。水も滴るいい女かもしれないわねー。ウフフ」
「うー。そんなことより……今の歌って次の課題のヒントなの? わーけわかんない」
「冷静になりなさいよ。あんたってバカだけど、真面目になればまともじゃないの」

 頭を小突かれ、ミーシャは卵をじっと見つめた。

「……地上では歌えないってことは……マーピープル? マーピープルって、確か湖にいるよね。えっ、えっ! いや、そのまさか!?」

 まさかとは思うが……ミーシャはじたばたした。

「何よ? わかったの?」
「いや、まさか……湖の中で一時間……探し物をしろと?」
「だーいせいかーい! さすが、そっちの頭だけはまともなのねー!」

 湖の中で泳ぎながら宝探しをしろとでも言うのだろうか?
 ダンブルドアがこの競技を考えているのだとしたら……ああ、さすが頭のおかしい偉大な魔法使いだ。

「なんでわざわざ湖なんかで……」
「しかも、一時間ねぇ……?」
「そうだよ! 一番重要なのはそこ! 一時間も水の中で息を止めてろって? おかしいでしょ? えっえっ?」

 取り乱して足をばたつかせるミーシャに、マートルは優雅に跳びまわってみせた。

「相変わらずうるさいわねぇー。それを何とかするのが魔法でしょ?」
「そう言われましても……」
「それとも? ポリジュース薬で魚人にでもなるのかしら?」
「んなムチャクチャな……」

 猫の毛で猫人間に変身したハーマイオニーのように、魚の鱗で魚人になることが出来るのだろうか? そんな危険な真似、大事なトーナメントで出来るわけがない。

 放心したように、ミーシャはぼんやりと上空を舞う泡を見つめた。泡にまぎれて、マートルがゆらゆらと飛んでいる。

「でも、リアクションはともかく、あんたはセドリックよりは早かったわ。その歌の意味を理解する時間がね。セドリックの時は、もーっとかかったわ。お風呂の泡がすべてなくなってしまうくらい」
 
 それなら、少なくとも、その部分だけはあの人に勝ったということだ。
 一年生の時から魔法界の生き物に興味があり図書館でさんざん調べたけれど、まさかこんな所で役立つとは思わなかった。

 あの冷静なセドリックも、湖に一時間と聞いて、慌てただろうか……。





 次の日。湖に一時間いるためにどうしようかとミーシャが悩んでいる間、ハリーはまだ卵の謎で四苦八苦しているようだった。ミーシャは図書館で借りてきた本を読みつつ、ソファに寝転んでいるが、ハリーは卵を抱えて談話室をうろうろしている。

 その姿が面白くて、ミーシャはセドリックのようにハリーに助言しようと思った。

「ハリー・ポッターさーん。お取り込み中?」
「……あー、ミーシャ」

 ハリーはぐったりしたように立ち止まり、ミーシャのそばにやってきた。
 ミーシャはにんまりとすると、ハリーの持つ卵を見つめた。

「卵のこと、今どんな感じ?」
「わざわざきかないでくれよ。そういう君は?」
「私はねー、ひらめきがインセンディオして進むべき道がルーモスされてるよ」

 からかいながら言ったが、ハリーは真に受けてミーシャをまじまじと眺めた。

「君、いつもにも増しておかしいよ。大丈夫?」
「まぁ聞いてって。オッホン。六階の『ボケのボリス』の像の左側、四つ目のドアに、監督生用の風呂場があるんだって。『パイン・フレッシュ、松の香爽やか』って合言葉だそうで」
「あー、うん」
「あそこは、もう卵の謎もアロホモーラされるくらい気持ちのいい場所なの! 卵を持っていって、じーっくり考えてみるのがオススメ!」

 ふんふんと頷いていたが、突然ハリーは「えっ?」と眼鏡を上に上げた。

「何? つまり君、そこに行ったの?」
「どーでしょう?」
「その顔! 行ったんだろう! どこで合言葉をきいたの?」
「狐の私に出来ないことはないのでーす」
「……」
「ちょっと、反応してよ! わかったよ、真面目に話すから」
「そりゃありがたいね」

 いい加減呆れたハリーに、ミーシャは咳払いして仕切りなおした。

「セドリック・ディゴリーに聞いた話なの。本当に、卵を持って行ってみて。

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.7 )
日時: 2014/12/08 21:22
名前: プリア@保留 (ID: 3/dSGefI)

 セドリックから第一の課題がドラゴンときいて以来、ミーシャは暇を見つけては図書館に通うようにしていた。調べるのはもちろん、ドラゴンのことだ。元々魔法界の生き物については興味があるのである程度の生き物は調べているのだが、ドラゴンは専用の本があるほど、幅広い。

 ひとまず、ドラゴンの図鑑から生態についての本まで、かたっぱなしから手に取り、机へ山積みに置く。一通り棚の本を見て回ると、次に、山積みになった本の傍らに座った。

「ドラゴンの種類と生態について……」

 本を開き、目次を調べる。ドラコンの種類ごとにまとめられているようだ。

「ハンガリーホーンテール、スェーデンショートスナウト……国を代表するドラゴンかー。日本のドラゴンはいないのかなー、って……ああ、そういうことを調べにきたんじゃないのに」

 ドラゴンごとに生態や気性も違い、第一の課題で戦うドラゴンが判明しない限り、なかなか難しい。

「ドラゴンと屋敷しもべの物語。って、なんでこんな本とったんだろう」

 面白そうな小説だけれど、今は必要ない。戻そうと立ち上がったところで、ドラゴン専用の棚にセドリックがやってきた。

「あ……」

 セドリックが声をあげ、ミーシャはバツが悪くなって座り込んだ。
 セドリックから課題についてきいた瞬間調べにきたなんて……勝ちたくて仕方が無いんだろう、と思われるのが嫌だった。余計に不正疑惑が高まるじゃないか……。

 しかも前に、課題について教えてもらったのにも関わらず、最終的にミーシャが話を無視して、逃げた以来の対面だ。

「……ドラゴンのこと?」
「ん……」

 尋ねられ、ミーシャは唸る。
 セドリックは数秒黙り込んだ後、自分が手に持っていた本を差し出した。

「あー……僕はこれを借りたんだけど、これ、すごく良いよ。なんていうか、ドラゴンの頭から尻尾までわかる」

 むすっとして、ミーシャはセドリックの持つ本を睨んだ。

「頭から尻尾? 中身はちゃんとあるの?」
「え? あー……あるよ。密度もちゃんとぎっしりだ」
「ふーん……じゃあ、早く返せば? もう読んだんでしょう?」
「そうなんだけどさ、君……は、読む?」

 はにかんだセドリックと目が合い、ミーシャは立ち上がると同時に、セドリックに背を向けた。

「私はいらない。ライバルに言われなくても自分で平気」



******



 図書館を出たところでセドリックはハッフルパフの友人たち数人と合流した。いつものようにふざけあっていたものの、ふと、一人の友人が思ってもみなかったことを口にした。

「おいセドリックー! なんでお前、ずるいライリーポッターの相手をするんだよ」
「え?」

 突然の二人の名前に、セドリックはうろたえた。
 その様子を見て、ますます友人たちがからかい出す。

「ポッターと話したり、さっきだってライリーと図書館で話してただろ!」
「ああ、まあ……一応、ホグワーツの代表としては同じなわけだし……」

 セドリックの答えに、友人たちはさらに続ける。

「何言ってるんだよ。ホグワーツの正式な代表はお前だろ」
「だいたい、お前だってズルだ、って嫌がってたじゃないか」
「まあ……」



 一番の親友と二人きりになったところで、セドリックはため息をついた。

「あいつら、ほんと年がら年中元気だよなー」

 親友は返事をする代わりに、セドリックの肩を叩いた。

「……お前さ、ホグワーツの同じ代表として、とか良いこと言ってるけど、ほんとか?」
「ああ、本当だよ。嘘じゃない」

 セドリックは、躊躇わずに答えた。

「僕が優勝しても、ハリーが優勝しても、ミーシャが優勝しても、ホグワーツが優勝したことに変わりはないだろう。これは三つの学校同士の戦いでもあるんだから」
「さすがだな。セドリック。本当にさすがだ」

 ふむふむとわざとらしげに頷くなり、親友は突然、それまでの緊張が切れたようにぷっと吹き出した。

「俺さ、知ってるんだけど。お前が本当はどう思ってるか」
「え?」

 セドリックは顔をしかめる。
 今言ったことはすべて本当だ。三人でホグワーツの代表ということは、事実以外の何者でもない。そう伝えようとすると、親友は口を開きかけたセドリックを制した。

「本当は、っていうか、それに加えて、ってやつだな」
「どうしたんだ? お前」

 親友は、とうとう声を立てて笑い出した。

「だからさ、そういう優等生のセドリック君の気持ちも本当なのは俺だってわかってるって。でも、それに加えて、優等生じゃないセドリックの気持ちがあるだろ?」

 必死に作り笑いをする、彼女の姿が目に浮かんだ。
 セドリックは、腕で目を覆った。

「まいったな……」

 その様子を見て、親友はようやく笑い声を抑えたが、まだ口元の笑みは隠しきれていない。

「優等生じゃない奴でも、誰でも持つ気持ちだぜ? 女でも男でも。お前だって、今までたっくさんの女子から受けていたもんだろ。ま、ああいう女子の気持ちは、誰かが忘却呪文唱える前にころっと消えちまうけどな」

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.8 )
日時: 2015/04/11 20:55
名前: プリア (ID: uiVbj.y2)

「どうやって魔法省に進入するんだ?」

 ロンの問いかけに、三人は黙り込む。ハリーとミーシャが指名手配中の身で、四人そろってそのままの姿で進入することなど考えられない。動物もどきのミーシャだとしても、魔法省内を狐が歩き回っていたら、おかしいだろう。

 ミーシャは必死に考えをめぐらせ、ふと二年生の頃を思い出した。

「ねえ、二年生の時と同じことできない?」
「二年生の時って、ポリジュース薬?」

 ロンがはっとしたようにミーシャを見る。
 ハーマイオニーが首を振った。

「危険すぎるわ」

 じっと黙っていたハリーが、ふーっと息を吐いた。
 そして、ハーマイオニーを見る。

「でも、やるしかない。ハーマイオニー。それ以外に良い方法があるわけでもないし。役員を気絶させて、髪の毛を抜こう」

 ハーマイオニーは小さくため息をついたが、決意したようにハリーを見つめ返した。ロンが、そりゃいいや!と小さく笑う。

「で、どうやって役員に近づくんだよ?」
「……ここはハリーとミーシャね。ハリーは透明マントを使って、ミーシャは狐になって、こっそり近づくの。女性一人、男性二人の役員で十分だわ」
「女性一人?」

 ミーシャが口を挟んだ。

「私かハーマイオニー、どちらかしか変身しないってこと?」
「そうよ。で、今回変身するのは私」
「そ、そんな! ちょっと待ってよ! どうして私には変身させてくれないの? 私の演技力を心配しているのわけ?」

 声を荒らげるミーシャに、ハーマイオニーは首を振る。

「違うわ」
「じゃあ、ミーシャをおいて行くって?」

 ロンの問いにも、ハーマイオニーは首を振る。

「いいえ。ミーシャは狐になって、一緒に来るのよ。バッグの中でね」
「バッグ!?」

 何を言い出すのだろう。ミーシャはぎょっとした。
 さすがに、ハリーもハーマイオニーに言う。

「ハーマイオニー、無理だよ。いくら狐とはいえ、大きさは犬と変わらない。狐が入るだけのバッグを持っていたら、怪しまれるぞ」
「ええ、でも……」

 ハーマイオニーらしからぬ案に、ミーシャは考え込む。バッグの中、というのは、きっとただの言い訳だ。本当は行かせたくないだけだ。ポリジュース薬で変身しないとすれば、一緒に行くなどもってのほか。……なぜポリジュース薬で変身してはいけないのか。

 最後にポリジュース薬を飲んだのは、二年生の時だ。その時と、何か違うことがあるだろうか。

 ミーシャは、はっとした。
 ハーマイオニーは、他の三人にはない、ミーシャ自身の身を心配してくれていたのだ。

「ハーマイオニー……心配してくれてるんだね。ありがとう」
「ミーシャ……」
「何? 何の心配?」

 ロンがハーマイオニーに顔を向ける。
 ミーシャは、ゆっくりと説明した。

「私が動物もどきだから。動物もどきがポリジュース薬を飲んでも大丈夫なのか、心配してくれてるの」

 ハリーが、思い出したようにミーシャを見る。

「確かに、前にポリジュース薬を飲んだ時は、ミーシャはまだ動物もどきじゃなかった。二年生の時だ」
「そう。ただでさえこれからは危険が伴うのだから、できるだけ余計危険を冒すようなことはしたくないし、させたくないのよ。もし副作用でもなんでも、何かミーシャの身に起こってからでは、もう手遅れだわ」
「うん。でもねハーマイオニー。大丈夫なの」

 ミーシャは、ハーマイオニーの肩に手を置いた。

「リーマスに聞いたんだ。動物もどきとなった者がポリジュース薬を飲んでも、大丈夫か。何も問題はないって。実際、シリウスたちもやっていたそうだし」
「本当なの? 副作用もないの?」
「大丈夫、ハーマイオニー! 普通の人となんら変わりはないって!」

 




「じゃあ行けよ!」

 ハリーの一言に、ロンは首からロケットをはずし、地面に投げつけた。

「ロン、待って! ロン!」

 ハーマイオニーがロンの腕を必死につかむが、ロンは振りほどいてしまった。その腕をミーシャがさらに掴んで引っ張ると、ロンは「来るな!」と吐き捨てる。そうして、テントの外へ出た。

「ロン!!」

 ハーマイオニーがロンを追って外へ出る。

「ついてきたければ君も来ればいいだろ!?」
「そういう問題じゃないわ! ロン! お願い!」
「あっそ。じゃあ一生ハリーと一緒にいればいい」
「違うわ! ロン……!」

 ロンとハーマイオニーの口論を聞きながら、ミーシャはハリーを見た。ハリーはじっと地面を睨み付けているのみだ。ミーシャは嫌気が差して唸り、狐へと姿を変え、外へ飛び出した。

 ハーマイオニーを振り払うロンの後姿を見とめた瞬間、ミーシャはロンの背に突進する。とたん、ロンの姿はミーシャもろとも消えうせた。







 ドサッと地面に叩きつけられ、姿あらわしされたことがわかった。自分の下に仰向けに寝転ぶロンを見、ミーシャは、起き上がろうとするロンから転がりざま人間へと姿を変えた。

「ロン!!」
「ばっ! いつの間についてきたんだ!?」

 ぎょっとして退こうとするロンの服を、ミーシャはつかんだ。

「このバカ! アホ間抜け! もちのロンでハーマイオニーについていくんじゃなかったの!?」
「そ……」
「ハーマイオニーがどれほど気遣ってくれていたかわからないの!?」

 有無を言わせず、ロンの胸倉まで掴みかかる。

「あんたが出て行くことによって、ハーマイオニーがどれほどの痛みを背負うかわかる!? わからないのなら、私がわからせてやる!」
「ちょ! おい! 待ってよ!!」

 ロンが、必死でミーシャの腕を掴んだ。
 ミーシャはさらに自分を掴むロンの手に掴みかかる。

「何!?」
「ごめん! 今は正気だよ! ほんとだよ!」

 ミーシャは手を止め、ロンを睨み付けた。先ほどのハリーやハーマイオニーに対しての冷たい眼差しはなく、いつものロンだった。必死の形相でミーシャを見つめている。
 
 息を荒らげながら、ミーシャはロンから手を離した。

「……ごめん」

 ロンも息を深く吐き、上半身を起こした。

「ちょっと……どうかしてた。ぼく」

 ロンは言い、悔やむようにため息をつく。
 ミーシャも、ため息をつきながらかすかに笑い、ロンの手をとった。

「……今すぐ戻りましょう。戻って、謝りましょう」

 そうして、テントがあった場所へ姿くらましをし、愕然とした。




「あんたが出て行くことによって、ハーマイオニーがどれほどの痛みを背負うかわかる!? わからないのなら、私がわからせてやる!」
「ちょ! おい! 待ってよ!!」

 ロンが、必死でミーシャの腕を掴んだ。
 ミーシャはさらに自分を掴むロンの手に掴みかかる。

「何!?」
「ごめん! 今は正気だよ! ほんとだよ!」

 ミーシャは手を止め、ロンを睨み付けた。先ほどのハリーやハーマイオニーに対しての冷たい眼差しはなく、いつものロンだった。必死の形相でミーシャを見つめている。
 
 息を荒らげながら、ミーシャはロンから手を離した。

「……ごめん」

 ロンも息を深く吐き、上半身を起こした。

「ちょっと……どうかしてた。ぼく」

 ロンは言い、悔やむようにため息をつく。
 ミーシャも、ため息をつきながらかすかに笑い、ロンの手をとった。

「……今すぐ戻りましょう。戻って、謝りましょう」

 そうして、テントがあった場所へ姿くらましをし、愕然とした。

 辺りには二人がいた痕跡も、テントさえも消え、後には静まり返った木々が広がるばかりだった。冷たく澄んだ森の大気が、いっそう冷たさを増した気がする。

「いない……」

 ミーシャが呆然とつぶやくと、ぽかんと口を開いていたロンが、我に返ったように声を上げた。

「あの二人どこ行ったんだ?」
「どこ行ったんだって……」

 分霊箱のせいとはいえ、こうなったのはロンの突発的な怒りのせいだ。ミーシャはやるせない気持ちを押さえ込んで、ロンをぎろりと睨んだ。

「そもそも私たちが勝手にいなくなっちゃったから、あの二人は場所を移動しちゃったんでしょ……! ああ、もう、どうやって合流しよう……」

 ロンはダメで元とでも言いたげに、ミーシャの鼻をを見る。

「君の嗅覚でわからない?」
「こんな時に何をとんちんかんなこと言ってるのよ! むちゃくちゃな」
「……狐失格だぜ」

 笑いながら言うロンに、ミーシャは、ロンはせめてもの詫びの印で、わざとこの場を和ませるような冗談を言ったのかもしれないと思った。ため息をつき、肩をすくめてロンを見る。

「手を貸して」
「手? だって、これからどうするんだよ?」
「このままここにいても危険だし、移動しようと思って」

 ロンがミーシャの手を握ったとたん、二人の姿は森から消え、一瞬の間に狭い路地裏へと姿あらわしした。路地を抜けた先の通りから、人々の生活するざわめきが聞こえる。

 ロンは、温度差にふーっと息を吐いて、辺りをきょろきょろした。

「ここどこ?」
「あっちの通りが、私が日本からイギリスに来る時、よく通ってた通り。すぐ近くに寂れたパブがあるから、いいかなと思って」

 ミーシャは言いながら路地裏に人がいないことを確認した。

「ちょっとパブを覗いてくるから、待ってて」
「おい、ミーシャ」






「そもそも私たちが勝手にいなくなっちゃったから、あの二人は場所を移動しちゃったんでしょ……! ああ、もう、どうやって合流しよう……」

 ロンはダメで元とでも言いたげに、ミーシャの鼻をを見る。

「君の嗅覚でわからない?」
「こんな時に何をとんちんかんなこと言ってるのよ! むちゃくちゃな」
「……狐失格だぜ」

 笑いながら言うロンに、ミーシャは、ロンはせめてもの詫びの印で、わざとこの場を和ませるような冗談を言ったのかもしれないと思った。ため息をつき、肩をすくめてロンを見る。

「手を貸して」
「手? だって、これからどうするんだよ?」
「このままここにいても危険だし、移動しようと思って」

 ロンがミーシャの手を握ったとたん、二人の姿は森から消え、一瞬の間に狭い路地裏へと姿あらわしした。路地を抜けた先の通りから、人々の生活するざわめきが聞こえる。

 ロンは、温度差にふーっと息を吐いて、辺りをきょろきょろした。

「ここどこ?」
「あっちの通りが、私が日本からイギリスに来る時、よく通ってた通り。すぐ近くに寂れたパブがあるから、いいかなと思って」

 ミーシャは言いながら路地裏に人がいないことを確認した。

「ちょっとパブを覗いてくるから、待ってて」
「おい、ミーシャ」

 ロンがおろおろと言う声を背に、ミーシャはすでに狐になって歩き始めていた。通りへ出ると、目立たぬよう、壁に身体をこすり付けるように歩き、パブの近くで耳をピンとたてる。おんぼろのパブだから、確か壁のあちこちに穴が開いていたはずだ。周囲をかぎまわりながら穴を見つけ、中の様子をじっと観察する。

 酔っ払った男、女たちがそれぞれの愚痴をほざいているが、どう見てもマグルで間違えなさそうだ。
 
 ミーシャはゆっくりと、来た道を引き返し、路地へと戻った。
 一人で落ち着かなげに顔をしかめていたロンが、狐の姿を見つけるなり、ほっと一息つく。

「おーい……捕まっちゃったんじゃないかと思ったよ」

 狐の姿のままひげを震わせ、ミーシャはくすりと笑った。
 人間へと戻ると、ロンの肘を軽く小突いてみる。

「この私が捕まるわけないでしょ。まったく、もう」
 
 こう見えて、きっとハーマイオニーのことで心を痛めているに違いないだろう。それを隠そうと、ミーシャの心配へと意識を持っていこうとするのがロンらしい。……パブの中で落ち着いたら、話を聞いてあげようか。

 ミーシャは通りの方向へ顔を向けた。

「確認してきた。パブは全員マグルみたい。すごくおんぼろのパブだから、明日まで寝泊りしたって誰も気に留めないと思うし」
「明日までって……パブでそんなに何するのさ?」
「休むところが必要でしょう? それから、これからどうするのかも考えないと。ハーマイオニーなしで、私たち二人だけなんて、きちんと計画を練ったとしても沈没しそうなのに」

 ロンはぷっと笑った。

「そうだな。四人のうち、ダメな方がそろっちゃったもんな。ハーマイオニーと同じ女子でも、君は女子じゃないし」
「女子じゃなくても狐ですからね! これでも狐なだけマシでしょ!」

 

「そうだな。四人のうち、ダメな方がそろっちゃったもんな。ハーマイオニーと同じ女子でも、君は女子じゃないし」
「これでも狐なだけマシでしょ。ハーマイオニーみたいに知恵はないけど、いざって時に融通がきくし」
「ま、土壇場で冷静なミーシャってとこか。僕一人よりは助かったかも」



 パブの中は薄暗く酒のきつい香りがしたが、ざわざわとした空気に溶け込むことのできるこの空間は、かえってミーシャたちにとって気分が休まった。酔った客の邪魔をしないよう、店の端の席に座り、注文した飲み物をちびちびとすする。

 喉が渇いていたのか、ロンはあっという間に飲み干すと、大きくため息をついて、力を抜くように姿勢を崩した。

「……つくづく分霊箱って怖いよな。持ってるだけで、あれを破壊する前に僕自身がおかしくなるんじゃないかって思うくらい。もちろん、自分が持っているうちは自分がおかしくなってるって気づかないけどさ」


 いつになく沈んで見えるロンを、ミーシャはじっと見つめた。

「でも……分霊箱のせいだけじゃないよね……? ああなったきっかけは分霊箱だとしても……」

 ロンは、すねたようにミーシャを睨む。

「君だっておんなじ立場に立ってみたらそうなるだろ! ハリーとハーマイオニー、あんなにベタベタしてさ! 僕の目の前で! 君はさ、そういう風に思ったことないの?」
「ハリーとハーマイオニーがベタベタしていることについて?」
「違うよ。君の場合は……セドリックとチョウだな」
 
 自分の話に持っていきたくはなかったのだが、仕方が無い。
 ミーシャは、降参したように肩をすくめて苦笑した。

「……あるかもね」
「ほらみろ、ほらみろ」

  すぐにいつもの調子に戻りつつあるロンだ。
 ミーシャは、四年生だった頃を思い浮かべた。あの頃はセドリックが好きだという自覚はなかったが、チョウとセドリックの惚れ惚れするようなペアには妬いていた。

 ミーシャはしみじみと言う。

「チョウは本当に可愛いし、妬けちゃうよね。あの二人が並んでいると、まるで物語の中って感じじゃない? しかも、二人とも同じシーカーっていう共通点もあるし、何よりもチョウは女の子らしいし」
「そりゃ、君が女子を捨てた行動ばっかしてるからだろ。今でも思い出すぜ。一年の時の、カエルチョコ対決!」

 ミーシャはぎくりとする。
 ロンはにやっと笑った。

「あの時からすでに完成してたよな、君」
「それを言うなら、賢者の石を探しに行く時、悪魔の罠に引っかかって一人だけ最後まで抜け出せないでいたおバカさんはどこのどいつって話よ。ロンだってあの時から!」

 ミーシャの言葉に、ロンはちぇっと口を尖らせる。
 ミーシャは口元で笑うと、視線を遠くにはせた。

「でも私、ロンとハーマイオニーも羨ましいなって思ったことあるなぁ」
「ハーマイオニーはともかく、僕にも? 頭大丈夫?」

 ロンは、ぽかんと口を開けた。


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