二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 偽りの中の真実と—— ( No.1 )
日時: 2009/12/21 18:08
名前: 唯永 ◆Ub.tayqwkM (ID: T6JGJ1Aq)

第一話


 雨がバスの窓を叩く。雨垂れのせいで窓の外は見えず、代わりに自分の姿が映る。私の瞳は、そのうちの何処を見るでもなく、ぼんやりと虚ろだった。
 その中で、バスの振動に合わせて自分の左耳に付いている雫型でシアン色の硝子が嵌っているピアスだけが微動していた。

「アンタ……何だってあんな村に行くんだべ?」

 それまで何も言って来なかった河童の運転手が重々しく口を開いた。
 私はそれに対し、まだ何処かを見たまま答えた。

「疲れたから。それだけ」
「……噂を知っていて行くんだか? 知らないなら——」
「行くものじゃないと言いたいんでしょ?」

 私は運転手の次の言葉を先に言い、何処かを見るのを止めて前を向き直り、ミラーから運転手の顔を窺った。

「あんな村に行く物好きは私位でしょうね。興味本意で行く様な村じゃないから」

 運転手は黙った。私は続ける。

「運転手さんこそ、よくあの村のバスなんて走らせてるわね」

 運転手はボソボソと答えた。

「あそこは何時も終点。あの村からは出る人間なんていねぇからな。ここ二、三年はあの村に行った事はねぇべ……」
「それはどうもお世話様」

 私の行く村——生贄村——は名前の通りの村。
 この村では年に数回、生贄池という場所で一人生贄が出されると言う。
 勿論村からの外出は一切禁止で、一度入ったら二度と出る事は出来ない。——例外を除いて。

 私はもう人を信じる事が出来ない。もう、この世界を信じたくは無い。
 だから、あの村に行く。

 死ぬ事を覚悟の上で——。

「もう到着すんぞ。悪いが門の手前までしか送れねえんだ」
「分かった」

 雨は小雨になっていた。
 私は傘も差さずにバスを降りた。

「お譲ちゃん……名前は?」

 私は振り返って言った。

歌譜かほ

 バスは閉まり、元通った道をまた戻っていった。
 私はそれを見届けると、一歩前へと動いた。後戻りは出来ない。

 私は大きく息を吸うと、門を二度軽く叩いた。