二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 悪ノ召使 勝手に妄想 ( No.8 )
日時: 2010/02/13 20:18
名前: リリアン (ID: glXVlHlM)


「うわぁ・・・。すごい・・・。」

 レンは、一面の森を見渡した。その中に、静かにそびえる温室は、まるで宝石箱のようだった。
 この温室には、元々、持ち主がいた。だが、今ではその人が亡くなってしまい、誰の物かもわからない。
 だが、元々の持ち主の人とレンは、とても仲がよく、いつも無断で入ってよかったので、今でも時々来ては、あたり一面に咲く花に見とれていた。

「薔薇、コスモス、スイレン、どれも綺麗・・・。」

 まるで女の子のような趣味だが、まだ誰にも教えていないので、問題は無い。それ以前に、レンは、花が好きなのだ。
 その時。

「〜♪〜♪・・・」
「歌声?」

 いつも、誰もいないはずの温室から、声がするのだ。それも、美しい歌声が。
 レンが、奥に進むと、そこには何と、一人の女性が花に水を上げていた。

「あっ・・・。」
「誰かいるの?」

 思わず声を漏らしたレンに、女性は気づき、話しかけた。レンは、何も出来ずに、ただそこに固まっていた。

「あなたは?」
「ぼ、僕は・・・レン。」
「あぁ・・あなたがレン君?おばあ様から話は聞いてるわ。」
「おばあ様って、管理人さんの?」
「そう。私、その孫なの。名前はミク。」
「ミクさん。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」

 ミクは、優しげに笑った。
 レンより、少し年上のミクは、長く、よく手入れされた緑の髪をツインテールというのだろうか、二つに結んでいた。
 その優しげな声と笑顔。話すたび、目があうたび、レンの顔が赤く染まった。
 レンは、恋をしたのだ。
 確かに、ネルの言っていたのと、何かが違う。彼女の美しさ、優しさへの憧れと言ったところだろうか。胸が熱くなった。

「レン君は、花が好きなの?」
「!?・・・えっ、まあ・・・その・・・。」
「男の子なのに?」
「うぅ・・・。」

 かっこ悪い。そう、レンは思った。
 男なのに花なんて、とは、前から思って、ずっと秘密にしてきた。いつかばれるんじゃないかとも思っていた。だが、その相手が、自分の初恋の人だとは、思っても見なかった。

「男なのに・・・変だよね。」
「そんな事無いわ。素敵よ。お花を愛する事のできる優しい人って事だもの。」
「えっ?」

 意外な答えに、レンは、ぽかんとした。

「ほんと、素敵な人ね。」
「・・・す・・」
「えっ?」
「いや、なんでもない。」
「そうだわ。いいところに連れて行ってあげる。」
「いいところ?」

 ミクは、レンの手を引っ張ると、温室の奥の奥へと連れて行った。
 ついた場所は、石で出来た壁の前。なにやら変な模様が書いてあって、小さなくぼみがあった。

「この先よ。」

 そういうと、ミクは首からさげたペンダントをくぼみにはめ込んだ。すると、重そうな石の壁が、向こう側へと倒れ、橋になった。
 奥には、もう一つの温室があった。

『フラワーショップ HATUNE』

そう書かれていた。

「ここわね、普通の花が置いてあるところなの。いわゆる、雑草といわれる植物達。」
「普通の花?」
「どんなに雑草と呼ばれても、名前があって、それぞれ違った花を咲かせる。」

 ミクは、そこに咲くタンポポを手に採ると、レンの後ろで結ばれた髪に刺した。

「あなた、疲れてるでしょ?そういう時は、タンポポがいいのよ。何個もの花が集まって一つになってる。『仲間』の象徴。」
「へぇ・・・。」
「必ず、あなたの事を見てる人はいるわ。だから、がんばって。」
「はい。」

 何か勇気がわいてくる。ミクに言われた言葉は、一つ一つに思いがこめられ、レンを温かく包んだ。
 気がつくと、夕方になっていた。

「もう、夕方。花を見てると時間が早い。」
「そうね。」
「僕は、もう帰ります。また会えるといいですね。」
「えぇ。もちろんよ。」
「それでは。」

 レンは、温室を出た。帰る道が異常に長く感じる。花を見ていたからか、好きな人を見ていたからか。
 お城につくと、家人達があたふたとしていた。その中に混じって、ネルがいた。

「ネル!どうしたんだ?」
「レン。大変なの!もうすぐ戦争になるわ。」
「せ、戦争!?」
「王女様とカイト王様の縁談後、急に王女がそういって・・・。」
「僕、りん王女に会って来ます!」
「えぇ。」

 レンが走って大広間へ向かうと、そこはもう、悲惨な状態だった。
 鏡は粉々にわれ、カーテンは引き裂かれ、あらゆるものがひっくり返っている。その奥に、泣いてるのか、笑っているのか、王女が、何かをつぶやいていた。

「リン様。どうしたのですか?」
「レン・・・カイト様が・・緑の女と・・・。」
「緑の女?」
「私をふって、緑の女と結ばれたのよ!私を捨てて、温室を営む愚民と!」
「温室を・・・営む・・愚民・・・・と・・?」

 そう、ミクのことだ。レンの頭が真っ白になった。さっき会った人は、自分の恋した人は、リンの敵。自らの敵なのだ。

「レン。あの娘を消しなさい。今すぐ!」
「えっ?!」
「あの娘の国を焼き払いなさい。緑の髪の女は全て、殺してしまいなさい!」
「リン様!どうかお考え・・」
「レン!」
「・・はっ・・・・」
「あの女が憎いの・・・あの女が・・。」
「・・・・・。」
「レンだけが頼りよ。」
「・・・かしこまりました。」

 止める事ができなかった。王女の暴政。愛する姉の暴政を。
 レンは走る。さっきの道が、今度は短い。ソードを持った。その手には、汗がにじみ出ていた。
 今から、自分の恋した人を殺しに行く。そんな事、考えたくも無かった。だが、それは事実なのだ。

—君は王女—
       —僕は召使—

—運命分かつ哀れな双子—

—君を守るそのためなら—

—僕は悪にだってなってやる—

 愛する女性と恋した女性。レンの取ったのは、愛する事だった。

「ずるいよ・・・リン。たった一人の家族を・・・姉を・・・裏切る事なんて、できないじゃないか・・・。」


—どうして?—








—涙が止まらない—