二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 零崎乙織の人間遊戯 ( No.2 )
日時: 2010/04/22 22:05
名前: 零崎狂識 ◆mGDRzMC2dk (ID: vLFo5XnB)

【戯言使イトくらすめいと】


いーいー、いーたん、いの字、いー兄、いっくん、そしていーちゃんこと僕の記憶の中の彼女は殆ど空気と同じだと言っていい

我ながらかなり酷いことを言っているような気がしないでもないけれど、事実は事実

まぁ、そもそも僕の通っていた大学がキャラの濃い人間の集まりだったからだと言ってしまえばそれまでで

実際そのせいだったのだろう

彼女の存在の薄さはそれもそれで濃いキャラだと言えるかもしれない

あれだけ濃いキャラの中で生活できる薄いキャラ

誰にも染まることなく己という薄い色を保ち続けた

彼女の存在はある意味称賛にすら値する

と、ここまで好き勝手言わせてもらったのだが僕自身何を言っているのかさっぱり分からない

だってそれは仕方ない

今までの、いーいーに始まり値するで終わった僕の思考はおよそ一秒弱

つまり一秒もかかっていない

一秒だなんて大量の時間を消費してしまっては僕の時間は永久に止まってしまうかもしれないじゃないか

だって、今僕の目の前にいるのは殺人犯

綺麗な緑の芝生に映える赤い絵の具

いや、それは本当は絵の具なんかではないのだけれど

その絵の具に塗れた男の横にしゃがみ込む一人の女性が、今僕を真っ直ぐに見つめている

気づかれてしまった

僕は関わり合いにならずにこの場を立ち去るつもりだったのに

女性の唇が震えながらも動いた


『いっくん…どうしてここに』


いっくん、それは僕の大学での一般的な呼び名

どうやら僕は関わりの少ない人にも同じ感覚で呼ばれているらしい

傍から見れば交友関係の広い奴だ

本当は友達なんて妄想の産物はいないのだけれど

そして今僕が死んだ魚のような目と称される目で見下ろしている女性は

綾薙 乙姫

僕の記憶にほとんどその存在が記憶されていないクラスメイト

確か巫女子ちゃんあたりは友人だったのではないか

あの子、知り合い多かったからなぁ

けれど今となってはその事実を確認する術はない

確認したければ僕は天国への旅に出なければいけない

いやいや、あの最期を考えれば地獄へ探険に行かなくてはいけないのかな

宗教理念はよく分からない

まぁ、それは頭の隅っこにでも放置して

とりあえず僕は時間稼ぎに口を開いた


『こんばんは、乙姫ちゃん…ここへ来た理由?どうしてかな?何となくここへ来たくなったんだ』


一体どこの色男のセリフだ

しかし、そんな僕の言葉にも反応することなく

乙姫ちゃんは僕を真っ直ぐに見つめて言葉を返してきた


『僕を…通報するの?』


僕という一人称は僕やあの青色と被るから止めて欲しいんだけど

それはそれで個性だから仕方ない

薄い人だからこそ数少ない個性は大事だ

それに加えて、『通報』その言葉ほど僕に縁遠い物はない

過去にはそれを怠って偽装工作を行ったほどですから

というわけで極力安心させるように柔らかい口調で

実際にはただ単調な口調で僕も言葉を返した


『いや?だってそんなことしても僕に得はないじゃないか』


損得勘定で生きる人間、最悪の極み

まぁ僕は本物の最悪ではないけれど

その言葉を聞いて安心しかけた乙姫ちゃんの表情が固まる

その視線は僕の背後を見ていた

僕が不思議に思って振り返ると同時に乙姫ちゃんの声が聞こえた


『…お父様、兄様』