二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   空 【銀魂】 偉薔薇様アンケリクup!! アンケ ( No.421 )
日時: 2010/10/26 15:32
名前: アリス (ID: /jbXLzGv)

—特別番外編 月は赤く、雪は降る—


あの日は確か、よく雪の降る日だった。
私はいつも通り、悪友の彗(スイ)とばか騒ぎして、危うく真選組に補導されかけたのだ。
私達は捕まると色々厄介事が多く、必死で逃走した。

息が切れ、足が動かなくなった時———。
ふと辺りを見渡すと、私達は真選組の奴等に囲まれていた。
“陽動作戦”というヤツだ。


「チィッ…嵌められた!!」

「黒山 夜、そして彗!!神妙に縛に付け!!」


付けと言われて、付くバカがいるか?
無論、いる筈も無い。
しかし、逃げる隙間など無い。
最早此れまでかと観念しようとした時。
彗が私の肩を叩き、ニコリと微笑んだ。


「夜、こういう作戦はどうや?」


彗が私に突き付けた作戦内容はこうだった。

『夜が一人逃げる。
きっと、真選組は夜を追い掛け始める。
其処で半分になった戦力を二人でぶち壊す』

———そういう作戦だったんだ。

私は頷き、実行した。
隙間を縫う様に逃走し、私は振り返った。
其処に、真選組の姿など無かった。


「彗…っ!?…まさか!!」


私は今更ながらに彗がわざと私を逃がしたのだと悟った。
私は急いで元の場所に戻る。
其処には、彗がいた。


「す………っ」


叫ぼうとして、止めた。
彗が折角助けてくれたのに、其れを無駄には出来ない。
歯を食い縛り、自らの弱さを悟る。

私は守るどころか、守られることしかしなかった———。


「あんさん等に夜は渡さへんでぇ?夜はまだまだ伸びる奴や。きっとウチなんかより、強なる。其の若い芽を摘ます訳には、行かへんやろ」

「………ッ……初めから、こうするつもりだったのかッ!!」

「よっぽど…あんさん等の相手なんぞ、ウチ一人で十分や思うてな。来たいなら早く来ぃや?」


彗は真選組相手に手招きする。

彗は、強い。
私なんか、簡単に捻り潰せるぐらい。
だから、大丈夫だと思いたかった。


「なら、俺が相手しまさァ」

「ほぉ?あんさんみたいなひ弱そうな男が出て来るとは、真選組も落ちぶれたなぁ」


彗は小刀二本を構え、ひ弱そうな男は刀を構える。

———駄目…!!

本能的に奴をヤバイと感じながらも、彗を止められない。
だって、今出てしまったら———…。
彗の気持ちを裏切るかも知れない。
けれど。
私は、彗が死ぬのなんかみたくない。

私は咄嗟に物陰から飛び出し、叫んだ。


「私は此処だ!!早く捕まえれば良いだろう!?」


瞬間。
彗の手の動きが止まり、彗はひ弱そうな男の太刀を浴びた。
血が吹き出し、地面の雪が赤く染まって行く。

———嘘、だ。

全てがスローモーションに思えていた。
ゆっくりと倒れて行く、彗。


「う、あアアアアアアアアアッ!!」


私は急いで彗に駆け寄り、上半身だけ抱き上げた。
彗は瀕死の状況で、かろうじて生きているだけだった。

私が、飛び出さなければ。
彗は、きっと助かった。
のに…私のせいだ。

彗は私の頬にそっと手を添えた。


「………だ、から……逃げろ……ちゅーた、のに……」

「彗ッ!!彗ッ!!」

「あんさん……に、は……………刺激強い……んや…」


つぅ、と彗の頬を涙が伝う。


「逃げ………や…」


彗は微かに言った。

こんな状態の彗を残すなんて、出来る筈が無い。
只でさえ、彗を此の様な状態にさせたのは私なのに。
逃げられる筈が無い。


「今度……こそ…言うこ、と………………聞いて、や………“最期の願い”……や、から………」


彗はそう言って、私の頬から手を離した。

ごめんなさい。
私が、悪かったんだ。
彗の言うことを聞かなかったから。
彗の言うことを聞いていれば、彗を信用出来なかったから。

私は涙を手で拭いて、駆け出した。
真選組はあまりの速さに対応出来ず、呆然としていた。


「何ボーッとしてんだ!!速く行け!!」


涙がボロボロと零れる。

彗。
彗。
彗…ッ!!

真選組は追い掛けては来なかった。
立ち止まり、空を見上げる。
見た時の月の色は、赤かった。
雪が静かに降る。


「彗…死ぬなアアアアアアアアア…ッ!!」


私はまた走り出した。

約束だぞ?
お前は、死ぬな。
また、再会しよう。


———————————


ウチの命なんか、いらん筈やったのに。
あんさんの叫び聞いたら、急に死にたく無くなったやないか。

ウチは最期の力を振り絞り、雪の上を這い回る。

誰か、ウチの存在に気付いてくれへんやろか。
気付く訳が無いわな。
むしろ、気付く方がおか………しい……。

…アカン。
意識が朦朧としてるわ。
死ぬ訳には行かへんのに…。

其の時。
ウチの目の前に誰かの影。

助かった…んか…?

地面に這いつくばったまま、上を見る。

銀色の長い髪。
赤い縁の眼鏡。
忍者姿の、女の子。

声を出す気力さえ無く、ウチは静かに其の子を見た。
其の子はニッコリと微笑み、ウチをおぶってくれた。
ウチは其処で意識が飛んでしまい、其処からの記憶は無い。

けど、助かったんや。
奇跡的にも、致命傷やったにも関わらず、ウチは何とか死なずに済んだ。

夜、待っとれや。
必ず会いに行ったるさかい。


(そう、約束したのは随分前の話)
(会いたいのに、会えへんねん)