二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【稲妻】有色透明【話集】 ( No.304 )
日時: 2010/12/05 10:42
名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
参照: ホラーのなり損ないなホラーでございます。




 嘘、う、そ、うそだけど、嘘だ、けど、うそ、嘘、ウソ。
 
 喉が焼けたようにひりひりと熱を持って、じんわりと脳髄を侵していく。風邪をひいた時のようなだるさと頭痛が体中をすっぽりと包み込み、倒れこんでしまいたい衝動に駆られた。
 喉の奥に異物感と、酷い違和感。ぐるぐると頭の中で笑い声やら泣き声やら呻き声やらが交差して、ぶくぶくと増幅していく。それがさらに頭痛に拍車を掛けることになり、ひたすらに不愉快で煩わしかった。
 がりがりと喉を掻き破って、この異物感と違和感を全て流しだしてしまいたい。そんな衝動に駆られて、喉に軽く右手を添えた。冷えた指先の温度で、首筋が急速に熱を失っていくのがありありとわかる。
 
 ここで私が嘘だといってしまえば、断言してしまえば、何が変わる?

 思わず彼女が私のほうへ笑顔を向けてさよならと手を振って落ちていく様を想像してしまい、酷く気分が悪くなった。ぐ、といつの間にか首筋に人差し指の爪が押し込まれていた。がり、と力を込めて掻き、ついで掻き毟る。
 痛みは感じなかった。ただ首筋に伸びていない短かな爪が這う、そんな感覚が存在しているだけだった。彼女の姿を、ぼんやりと思い浮かべる。冷ややかな視線、それでいて温かな笑顔。いつから彼女に依存してしまっているのだろう、まるで他人事のようにぼんやりと思う。
 こんなことじゃ、いけないのに。人差し指の爪はかすかな痛みも伴うことなく、ただ感覚だけを宿して首筋に埋まっていった。どくん、どくん、と静かにそれでいて激しく脈打っているのが不気味なほど伝わってくる。

 ひゅーっ、

 こつ、こつ、こつ、

 喉から息が流れ出るか細い音と、彼女の不規則な甲高い靴音が辺りに反響する。脳内をうるさくかきみだすその音はやむことはなく、むしろ増幅していった。
 ぎり、といつの間にか酷く強く食いしばられていた奥歯が鈍い音を立てた。口内ではじけたその音に、一瞬意識が大きく引き戻された。長く浸っていた生ぬるい夢が、ぱちんと泡が割れるように意識の外へ夢散していった。

 いつも通りの、リアルすぎて吐き気すら催す悪夢だった。世間には正夢という言葉があるらしく、それは夢の中で見たことが実際に現実で起こった場合を指す。そんな言葉があるのならば、この悪夢もいつか現実になるのだろうか——ふと、ひどく幼稚で取り留めの無い方向へ思考が広がっていっているような気がして、ぶんぶんと首を振った。
 何かに恐怖し嘘を吐くか吐かないかで悶絶する私に、何かを手に持って酷く冷めて汚れた目で私に歩み寄ってくる彼女。この先何が起こるのか、私はどうなるのかどうするのか、彼女が手に持っているものはなんなのか——そこまで夢で見たことはなく、まるで図ったように先程の夢が切れる場面でいつも目覚めてしまう。
 あの夢の中では、私は彼女に勝てないだろう。“嘘”という言葉があればなんとかなるのかもしれないが、その言葉を発するのにも酷く私は躊躇し、さらにその言葉はもしかすると何の意味も成さないかもしれないのだ。殴るなり蹴るなりなんなりとできるはずだが、夢の中の私はそれを行おうとはしない。

*展開が行方不明すぎるいちほだよプギャー