二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- black and blue. / オレブン ( No.341 )
- 日時: 2011/01/28 18:37
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
@black and blue.
たとえばそれが、身近な人に当てはまってしまったらどうするのだろうか。ぼんやりと、腕にきつい圧迫感と痛みを感じながら毛利は思う。争いごとなどは好まない温和な性格の毛利は、無論自分からもめごとの原因を作るようなことなどしない。それでもどうしても、毛利は動かなければならなかった。その責任感じみた使命は、脳からよどみなく発信され続けている。
自己中心的な考えをする人は嫌いだ。そして、人を躊躇なく傷つける人も好きじゃない。そう表だって主張することは、毛利はしたことがない。友人に苦手な人を聞かれたりするとそう答えることはあるのだが、自分から口にだす——それも、そんな苦手な人の部類に入る人の前で——ことは毛利にとってはありえないことに等しい。どうしてこうなってしまったのか、争いごとを好まない温和な性格な毛利には、中々悟ることはできなかった。
「あたいのこと、馬鹿にしてんの?」
サファイアのような色をした、澄み切った綺麗な舞姫の目が毛利を睨みつける。先ほどからずっと毛利の右腕を掴み拘束している、そして今毛利の頭を悩ませている人物だった。舞姫は淡々と言葉を吐き出すが、その言葉には怒気が滲んでいる。どうしようもない後悔を胸中に孕ませながら、毛利はたどたどしい口調で答えた。
「そういうわけじゃ、ないです」
毛利の敬語は、生粋の癖である。幼い頃はそうでもなかったのだが、頻繁に行っているバイトと持ち前の控え目で温和な性格が重なり、そこまで踏み込んで親しくない人物とは無意識のうちに敬語になってしまうのだ。今この状況での毛利の敬語は、癖などという自然体ではなく、ただ舞姫の威圧感に気圧され無意識のうちに言葉を修飾しているかのように思えた。先生に怒られる生徒が、敬語になるように。
「じゃあ、どういうワケ?」
少々舞姫に押され気味になりながら、毛利はなんとか言葉を返そうとする。ここで黙りこくってしまえば、舞姫との関係は悪化を辿る一方だろう。毎日のように顔を合わせ練習する仲間と、そんな関係になるのだけは避けたかった。
ああ、言わなければよかった。今更ながらに後悔するも、完璧に後の祭りだった。舞姫の言動が毛利の苦手の人の部類に入り、しかもその言動は毛利の少しとはいえ気にかけている人物を侮辱する言葉。どうしても我慢できずに衝動的に舞姫に対し貶すような言葉を投げかけてしまい、それから今に至るのだった。
「……言動を、気を付けて欲しいだけです」
鋭く穿ってくる舞姫の目に気後れしながら、毛利は言う。毛利のその言葉を聞き、舞姫がどこか楽しそうに口元を上げた。生意気そうな、子供っぽい笑みがその口元にかたどられる。しかしそれとは相対的に、舞姫は不穏さを漂わせ、歌うような口調になって言った。
「毛利って、おきちゃんのことが好きなんだね」
ひく、と微かに喉が痙攣するのを毛利は確かに感じた。それと同時に、舞姫の言葉を認めざるおえないということを。不動のことが好きな沖宮を好きであることは、報われない片思いだということを再認識しながら。それでも毛利は臆することなく、淡々と言葉を連ねる。
「だったらなんだって言うんですか」
ここで嘘をつくことも、否定することもできた。そんなことを毛利がしなかったのは、ほぼその自体を舞姫が確信したことを予想しているからだった。先程沖宮のことを侮辱され、思わず舞姫を貶してしまったことにより、恐らく舞姫は確信している。それならわざわざ自滅的な言葉を返す必要はない。それでも、その肯定の言葉を吐き出すのには少々の時間を要したのだが。
「ねえ、毛利」
毛利の言葉を聞き届けた舞姫が、変わることのないきつい視線で毛利の目を射ながら、ぽつりと言葉を洩らした。それはささやきかけているようにも、それともただ単に独り言のようにも聞こえ、先ほどまでとは打って変わった舞姫の様子に思わず毛利は戸惑いを覚える。
舞姫は戸惑っている毛利の様子など全く意に介さず、ただ空中へ、二酸化炭素と共にその言葉を全く表情を変えずに吐き出した。
「あたい、毛利のことが好きじゃ、ダメかな」
躊躇などは一切ない、告白じみた言葉。予想外の言葉に毛利は目を丸くして、何を言えばいいのかと言葉に詰まる。気恥ずかしさとかそんなものは一切なくて、ただ漠然とした驚きだけがじんわりと心内を侵すように広がっている。
そんな呆然とする毛利を楽しそうに眺めてから、舞姫はにかっと破顔した。今まで舞姫が毛利に見せたことのない、純粋な可愛い笑顔。毛利はそんな舞姫の変わりようの意味がわからず、先程にもましてきょとんとした表情を浮かべる。
「あはは! 嘘に決まってるでしょ、そんなの」
そういって舞姫は、ぱっと毛利の腕を掴みっぱなしだった手を放した。片手で掴まれていただけだったが、そこにはくっきりと青痣ができていた。