二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- それはまるでメルヘンな世界の出来事 / 木→←春 ( No.362 )
- 日時: 2011/02/23 22:50
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
/それはまるでメルヘンな世界の出来事
鮮やかなオレンジ色が澄んだ水に反射して、きらきらと綺麗に眩しく光る。ひどく幻想的で、沈みかけている燃えるような色の夕日をバックにしていて、確かに現実の風景なのだけれど、それはさながら異世界を思わせた。例えるなら、魔法や妖精といったそんなメルヘンなものが溢れる世界。争いはなく、日々ゆったりと過ごしている世界。ひどく素敵だと思う。もちろんそんなものが現実にあるわけなくて、結局は全て私の妄想なのだけれど。
夕日はくすんだ緑色の雑草も明るく照らし出していて、どこか鮮烈な印象を受ける。踏まれるだけの草達も、ああやって輝けるんだ。失礼ともとれるそんな言葉を思わず胸中で呟いて、そういえばこの景色を見るのも久しぶりだと思い出す。
イナズマキャラバンに同行し長い間様々な場所を巡っていて、中々東京には帰ってこれなかった。ましてや、この河川敷に立ち寄ることなんて。やっと全部終わって、ああ、また元の風景になった。今までは様々なことが重なりすぎて、見れたとしてもこのように輝いてなど見えなかったのだ。重苦しい前日までの戦いを思い出すと、たちまちこんな夕日などくすんでしまうように思えた。それでも、もう、その戦いは終わったのだ。哀愁を感じさせる夕日の煌きは、まるで心を浄化させていくかのよう。別に嫌なことが忘れられるとかはないけど、確かにひどく癒されるのは事実だった。
「なあ、オレさあ、」
隣に立って同じ風景をぼんやりと眺めていた木暮君からふとそんな声が洩れて、そちらへと目を向けた。けれど別に木暮君は私のほうを見ているわけでもなくて、それでも私へと喋りかけたということははっきりしていた。今この場には誰もいなくて、二人きりだったから。私よりも少し低いその背は、正直いってしまうとそこまでムードを作るわけでもない。もし木暮君が私より背が高くて、年上で、それでこんな場所に二人きりだったら、きっとなにかイベントが起こるに違いない——というのは、ただ単の私の妄想。それに私は、木暮君が嫌いなわけじゃない。むしろ、好きだったともいえる。色々と世話を焼かされたけれど、それ自体が私と木暮君の関係を繋いでいるように思えて、どうでもよくなった。
明らかに続きがあるとわかるその言葉の続きを木暮君が連ねるまでに、少し沈黙があった。数秒、はたまた数十秒。夕日のおかげでなんだか、脳内まで幻想的に染まっていきそう。簡単なことすらも——時間を数えるとか——満足にできないような気がしてくる。
特に重たいわけでもない沈黙は、淡く私達を包み込んだ。別段居心地が悪いとか感じさせないその沈黙は、どちらかといえば静寂に似ていた。とはいえ鳥の鳴き声や川が流れる音、風にそよぐ草花の音が絶えずかすかに響いているためそんなことはなかった。たっぷりと——少なくとも、私の拙い脳内はそう感じた——間を空けて、木暮君が私のほうへと顔を向けた。
ずっと木暮君を見据えていたから、当然のこと目が合う。そんなにどぎまぎもしなくて、果たしてそれは夕日が脳内をぼかしているからなのか、元から私達はそんな感情を向け合える仲ではないからなのか、はたまた私達がつりあっていないだけなのか、とんと見当はつかなかった。あるいは、もうこれでしばらく逢うことが出来なくなるからかもしれない。イナズマキャラバンは、もう役目を終えたのだから。
「ちゃんと好きだったよ、アンタのこと」
恋慕、あるいは友情。どちらの『好き』かは、はっきりとは木暮君は言わなかった。ただそれだけを、静かに笑んで言ってみせた。今までの木暮君からは想像もできない、凄く落ち着いて大人びた笑顔。私もそれにつられて笑顔になって、特に内容を賞味するわけでもなく、ただ言葉を返した。
「私も、好きよ」