二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: −あまつき−*あの日の初恋* ( No.1 )
- 日時: 2010/08/03 15:43
- 名前: 涙水 (ID: WIEYG7CO)
【第一話】 朧夢
———————ばっしゃん。
歪む視界、零れる泡。
もがけばもがく程、身体は沈んで、光は遠のいた。
初夏の冷たい水が目に染みて、瞼を開けつづけることができない。
閉じた瞼に太陽の光が淡く透ける。
ごぼっと音をたてて、肺の中にあった空気が水中に吐き出された。
力無く伸ばされた手は、何を掴む訳でもなく漂う。
不意に手首を掴まれた。
手首を掴んだソレは勢いよく自分の身体を引っ張りあげる。
『ぷはっ……げほっげほっ』
空気を思いきり吸い込んで、むせながら水を吐き出した。
『大丈夫?』
そう言いながら自分をひっぱり、岸辺に上げてくれたのは白いワンピースの少女。
水に濡れたセミロングの髪は漆黒で、水滴を落しながらきらきらと輝いている。
『あなたは川で溺れかけていたの』
私が見つけなかったら危なかったんだから、と言葉を続けながら少女はワンピースの裾を絞って水気を抜く。
『あなた……名前…は?』
急に景色が揺らいだ。少女の姿も朧になって、話す言葉も聞き取りにくくなる。
『…の名前……六合…鴇時…』
自分が話す言葉さえも聞き取りづらい。
『へぇ…あなた…鴇…っていう名前…なの。
私の名…え…はね、……さ』
視界が白んでいく。
彼女の言葉が聞こえない。
『…さ。私……りさっていうの。
…よろ…くね』
「『鴇君』」
「おはよう。
朝餉の準備できてるよ」
「へ…?」
少年が間抜けな声と共に瞼を上げると、にっこり笑う少女が目の前にいた。
しかもかなりの近距離で、少しでも身じろげば口と口が触れそうな程……。
「…っうわぁぁあぁああぁぁっ!!」
叫びながら少女を突き飛ばす。
ぽーん、と効果音がでそうな勢いで少女が転がった。
「…あいたたー。
驚かせちゃったかなぁ?
ごめんね、鴇君」
むくっと起き上がり、後頭部をさすりながら少女が謝る。
「こ、こっちこそ突き飛ばしてごめんっ。
ってそうじゃなくて!
俺はまだ思春期まっさかりの高校生な訳!!
こーいうことにはうぶなの!!」
早口でまくし立てる少年は、名前を六合鴇時という。
茶色に染めた髪に両の目は色違いで、この世界では異人と呼ばれるようななりをしている。まあ、目に関しては現代でも変な目で見られるだろうが。
彼は元々平成の世を生きていた高校生だった。
しかし、大江戸幕末巡回展という最先端のCG技術で江戸時代を体験できるテーマパークで、夜行と鵺という妖怪に襲われ、気づいてみれば本当の江戸時代に似た異世界に来てしまっていたのである。
ちなみに彼の左目の色がおかしいのは夜行に襲われたせいだ。どういう経緯でなのかは今のところ本人にも分かっていない。どうやら視力を取られたらしい。
「ごめん、ごめん。
でも早く食べないと時間ないよ。
今日は早くから出かけるんでしょう?」
一方、鴇時の言葉を軽く受け流した少女の名前は瑠璃。
名前と同じ瑠璃色の髪を肩の高さより少し長く伸ばし、黒の双眸は宝石のように輝いている。
「そっ、そうだった!!」
慌てて布団から飛び出し羽織りの袖に手を通す鴇時。
実はつい先日、現代で得た知識を活用し妖怪に成りすまして侍を脅かした。
しかしそのことをある人物に突き止められ、目をつぶってもらう代わりに願いを一つ聞くことになったのだ。
その願いとは人に会うことなのだが、なんでもその人は偉い人であるらしい。
そしてその人物と会うのが今日で、わざわざ人が迎えにくるのである。
「今朝の朝餉は紺君が作ったからおいしいよ。
急ごう、もうみんな食べ始めてる」
「うん、分かった」
二人は鴇時の私室を後にした。