二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: −あまつき−*あの日の初恋* ( No.14 )
日時: 2010/08/19 14:49
名前: 涙水 (ID: yxu7BdpM)

 【第四話】出立


「やぁやぁ諸君!
 それでは共に行きましょうか!!」

やけにテンションが高い初老の男が、筋肉隆々の男達が運ぶ籠にのって寺に現れていた。

その男の名前は佐々木只ニささきただじろう
鴇時が妖怪になりすましたのを突き止め、それを他言しないことと引き換えに願いを言ってきた張本人だ。
なんでも幕府の陰のお偉いさんらしいいが、見た目は変なおっちゃんにしか見えない。

「では、このたくましい猛者達の背を熱くみつめながらついてきて下さーい!」

ははははは、と高らかな笑い声を響かせながら、只ニ郎を乗せた籠が動き出した。

うわどうしようすごくついていきたくない、なんて鴇時は思ったが約束は約束だし、と腹をくくる。
ふとあることに気がついた。

「あれ、そういえば瑠璃は? さっきまで居たのに」

呟くと答えたのは沙門だ。

「瑠璃なら私用があるとか言って、町へ出ていったぞ。
 見送れないことを鴇に誤っておいてくれと言ってな」

「そうだったんですか、……用事ってなんだろう。
 あの、じゃあいちおう行ってきます」

「ああ。何もないとは思うが、道中気をつけてな」

沙門との会話を終え、只二郎の乗る籠を追いかけようとすると、前に紺と朽葉が歩いている。

「……あれ? 二人共ついてくるの?」

ある人にあってほしいと頼まれたのは鴇時ひとりだ。

「「……う゛」」

濁点がついた呻き声をふたりそろって上げる紺と朽葉。

「だっ、だからだなっ!
 またお前が突っ走らないか監視するためにだな!!」

「そうそう、お騒がせ野郎を一人野放しにできるかっての」

「……なんだ、沙門さんに頼まれたからだと思ってた。違うの?」

鴇時が言うと、朽葉は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「は!? その手があったかっていやっ!! 違っ!! まさかっ!!」

動揺してうろたえる朽葉を紺が笑うと、

「わっ、私が私の意思で行動して何が悪いー!!」

彼の頬に思い切り拳を突き上げた。それをもろくらった紺が抗議する。

「なんでてえめ俺にあたんだ!!!」

そんな二人のやりとりを見ていてふと考える。


むこうの世界で、友達ならたくさんいた

ケンカもしないくらい仲が良くて、気が合って

それが一番だと思っていたけれど

こんなにもでこぼこでギクシャクしているのに

なんでだろう、

こっちの方が、嬉しい


……瑠璃も一緒だったら良かったのになぁ。
















とんっ。

「ん?」

金髪を揺らして青年は物音のした方を向いた。

「ああ、なんだ君か。
 久しぶりだね、いいのかい? 彼のそばにいなくて」

「大丈夫、二人が一緒だもの」

青年の声に応えたのは少女の声。
しかし物影で、彼女の容姿は見えない。

「……それに私は、あそこについていけないわ」

「そう、まあ確かに彼とあそこへ行くのにはまだ早すぎるかもね」

「あなたは行くのよね、ぼん。……あまりいじわるしないでね、鴇君に」

梵、と呼ばれた青年は不敵に笑って少女の名前を呼んだ。

「努力はするよ、瑠璃」