二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: −あまつき−*あの日の初恋* ( No.20 )
- 日時: 2010/09/01 19:03
- 名前: 涙水 (ID: yxu7BdpM)
【第五話】化物道
「ねぇ紺、あれ何! あれ何!」
「呉服店って書いてあんだろ!」
「わーわーっ、見てあれ朽葉に似合う!」
「似合わんっ、前を見ろ、手を放せ!!」
ひとつひとつの店の商品を指差しながら朽葉の手をひっぱる鴇時と、そんな鴇時をひっぱって早くこの場から立ち去ろうとしている紺と、そんな紺と同じくこの場から立ち去りたい朽葉は、かなり周囲の注目を浴びていた。
平成の世から来たばかりの鴇時には見るもの全てが新鮮であるから仕方がないのだが、外見も輪をかけて目立つことこの上ない。
しかししばらくすると、
「あれ……?」
賑わしかった町はいつの間にか静かになっていて、行き交う人々もいなくなっていた。
『ちゃんと後について来なさい。迷子になったら帰れなくなりますよ』
只二郎が乗る籠から、怪しげな声が聴こえてきた。
只二郎の声だろうが妙に揺れていて、くぐもっている。
籠を運んでいた筋肉隆々の男達は、いつの間にか市女笠を深く被り着物を引きずりながら歩く坊主になっていた。
「いつの間に…おいおい、あのおっさん何者なんだよ」
紺が言うと朽葉が、そういえばと口を開いた。
「昔からたまに沙門様を訪ねてくるんだが、いつも見送りを断られる。
『できないから』って……な」
ぞわっ、と3人は寒気立つ。
鴇時が恐る恐る呟いた。
「悪い人じゃ……ないよね? 沙門さんの知り合いだし」
「…だといいがな」
紺が苦虫を噛んだような顔で応えると、
「ともかく! ついていくしかないだろう!」
朽葉が一喝し、力強く歩きはじめた。
「う、うんっ」
慌てて鴇時は彼女を追いかける。
生温い風が吹き、怪しげな霧が立ち込める。
辺りには弦がないのに音を奏でる琵琶法師や、何を売っているのか分からない店がある。
物珍しそうに鴇時が見ていると、
「見るな鴇。あまり見ていると、引き込まれるぞ」
朽葉が前を向いたまま言う。
「ここは¨化物道¨だ。一度行き先を失えば、二度と出られなくなる。
あの世とこの世をつなぐ道だと聞いたこともある。
……迷いたくなければ…よそ見せずまっすぐ歩け」
彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいた。心なしか顔も青白い気がする。
「…朽葉? なんだか顔色が良くない…よ…?」
「こういう場所は……相性が悪いだけだ」
胸元を巻いたさらしの布に血が染みでた。朽葉の胸の上には獣に噛まれたような跡がある。
それは彼女の身体に犬神が宿っていることの現れなのらしい。
「!? 朽葉!!」
「大丈夫だ! 大丈夫だっ、こんなものは、私と関係ないものなんだからっ……!」
「———! ……うんっ、分かった」
懸命に否定する彼女の姿を見て、それ以上言うのをやめた。そして、手を差し出す。
「じゃあ頑張れ!」
差し出された鴇時の手を見て、朽葉は青い顔をほんの少し綻ばせた。