二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 玲瓏カタルシス/第一話 毛並みのぬくもり ( No.8 )
- 日時: 2010/08/08 10:06
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
玲瓏カタルシス / 一章 黒い星は微かに微笑む
(夜空に浮かぶ、暗黒の欠片。)
第一話 毛並みのぬくもり
顔にかかった金髪を払いながら、アイリスは昨夜火事によって家族を失った少女を泊めた部屋へと歩いていく。
アイリスには、親はいない。否、いたはいたのだ。しかし捨てられた、孤児である。
三年前までは施設で暮らしていたのだが、今はエルシアという三十歳過ぎの女性に引き取られて暮らしている。
エルシアは夫に先立たれ、哀しんでいた時にアイリスを見つけたのだという。
こんこん、
目的の部屋までたどり着いたアイリスは、扉を軽くノックする。しかし返事は聞こえてこず、数分の間待っていたがどうにも動いている気配が無かったので、まだ寝ているのかとアイリスは扉を開いた。
桃色の可愛らしいタオルケットを体にかけて、火事で家族を亡くした少女は眠っていた。
元はエルシアの夫が使っていた部屋らしく、部屋の中には男物の服やインテリアといったモノが置いてある。
その部屋の中をアイリスは特に躊躇することなく進み、淡い緑色の髪の少女の頭を何度か優しく叩く。
「アリア、起きて」
ん、と小さくうなってアリアが目を開ける。恐らくずっと泣いていたのだろう、目は赤く腫れあがっていた。
アイリスは目を細めて、昨夜アリアから聞いた話の記憶を辿っていく。アリアが言うには、火事があったのは午後六時半頃。ちょうど夕飯の準備をしていた時間らしく、アリアは牛乳が足りなかったため買出しに出ていたのだという。
帰ってくると、玄関から続く廊下一帯が全て火の海だったらしい。けれど家の中からは家族の声が聞こえ、まだ生きていて気も失っていない状況だったという。
台所から出火したのならば、廊下が火の海となる前に逃げられるはずだ。家族全員一階のリビングにいて、リビングの傍に台所があるのだというから尚更だ。
廊下から出火するわけもなく、ポケモンを使って火を全て消した後に家の中を見回ってみると、どうやら発火するはずがない場所からしかも一箇所一箇所大きく離れた場所から——リビング、寝室、子供部屋、廊下——それぞれ出火していたのだという。
「(……やっぱり、最近の事件と似てる)」
そこまで思い出して、アイリスはふと心の中で呟く。あまりに普通ではない火事の起こり方——このような火事は、最近相次いでいた。といってもまだ二件ほどしかないが、それでも十分連続して続いているといえるだろう。
「……あい、りす……?」
アリアの空色の瞳がアイリスを捉えた。あ、と小さく洩らしてアイリスがアリアのほうへと顔を向ける。アリアは上半身を起こし、少々ぼさぼさになっている肩口で切り揃えられた髪を手で梳いていた。
目は気を抜けば閉じてしまいそうなほどとろんとしていて、どうやらまだ眠たそうだった。
「……眠いんなら寝とく?」
苦笑しながら、アイリスが尋ねた。恐らくこのまま連れ出しても途中で寝ぼけて怪我をしそうだと思ったからなのだが、アリアはぶんぶんと首を振った。
「大丈夫、ちょっと散歩したいし」
少々無理に作ったような笑顔を浮かべて、アリアがアイリスに言った。昨夜家族を亡くしたというのに、そこまでふさぎ込んでいない様子のアリアを見て思わずアイリスは目を丸くする。もっと落ち込んでいるだろうか意気込んできていたアイリスだったため、どこか拍子抜けした感があった。
それでも、アリアが無理をしているのには間違いないだろう。できるだけ気遣いながら接してよう。改めてそう心に決めたアイリスは、アリアに微笑みかけた。
「そうだね。朝ご飯までには後十五分ぐらいあるし、歩こうか」
うん、とアリアは元気よく頷いた。まるで、昨夜の火事は、うっかりと大切にしていたモノを壊してしまっただけの物事のように。
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アイリスちゃんは空梨逢のオリキャラですぜv 有難うございましたv
会話文で一行あけなかったら読みにくかったんで直しましたー。