二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.31 )
日時: 2010/09/05 14:34
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: ubJFnUz6)


 第十六話 triangle

 *
 もう、後戻りはできない。
 *

「リュウジくん! 目を覚まして——そんなことしないで!」

 私に、リュウジくんをとめることなんて出来ない。
 暴走した彼を止めるなんて、至難の技だ。
 いいや、とめることなんてできないのかもしれない。
 ねぇ、瞳子さん。なんで私なの?
 瞳子さんのほうが私より責任感があって、しっかり者じゃない。
 瞳子さんならきっととめられたよ、リュウジくんを。
 だって、瞳子さんって厳しいけど、でも、その厳しさの中に優しさが見えるから。
 所謂「愛のムチ」ってやつだよね。
 血の繋がりもない子どもたちに優しく、厳しく接している瞳子さん。
 瞳子さんなら、とめられたよ、リュウジくんを。
 私には……無理だよ。出来ないよ。
 きっと六年生の時のことだって、何かの間違いだったんだ。
 私が話しかけた時に、偶然直った——それだけのことなんだよ。
 だって、私がいくら呼びかけても、返事してくれないんだよ、リュウジくん。
 
「姉貴、なにもたもたしてんだよ!」

 えっ……?
 カゲトが私の体を揺さぶってた。
 すっごく力強く。

「早く助けに行けよ! 出来なくたってゴリ押しでなんとかしろ! 努力しろよ!」

 ねぇ、いつのまに、こんな風になったの?
 ねぇ、いつのまに、こんな表情をするようになったの?
 ねぇ、いつのまに、こんなに力強くなったの?
 ちっちゃかったのに。私の中で、まだ貴方はちっちゃかったのに。
 いつのまに、こんな大人になったの? いつのまに、男の子から少年になったの?
 私、ずっと知らなかった。
 貴方がこんなに強くなったなんて。
 でも、おかげで目が覚めた。
 そうだよね。最後の一刻まで頑張り続けなきゃね。
 
「ありがとう、カゲト……私、全力でいく!」
「それこそ姉貴だ!」

 ぐっと親指を突き出すカゲト。
 私も親指を突き出す。

「じゃあ、いってくるね!」

 私は走り出した。
 <潜む者>に支配された少年のもとへ。

「リュウジくん!」

 ゆっくりと、実にゆっくりと、リュウジくんの外見を持ち、レーゼの中身を持つ少年が振り返る。
 表情の無い顔はどこか人を見下したみたいに、尊厳な雰囲気を感じさせる。
 姿はリュウジくん。だけど、中身は完全にレーゼ。
 レーゼの行動をし、レーゼの声でしゃべり、レーゼの表情をし、レーゼのサッカーをする。
 姿はリュウジくんでも、中身はレーゼ。
 でも、それはこうとも言える。
 中身はレーゼでも、姿はリュウジくん。
 <潜む者>の冷たさは、怒りの冷たさ。憎しみの冷たさ。
 口元を吊り上げて笑う、レーゼ。
 お前一人になにが出来る。この学校はもう破壊したんだだって、言ってるみたいに。
 まだまだ、終わってない。
 このまま放っておいたら、やがて彼は他の学校も壊すだろう。
 残酷な冷笑を浮かべながら、なんの躊躇いもなく。
 もし、血を見せなければ、元に戻るだろうか?
 心の底から湧き出た、〝のぞみ〟。
 でも、それが間違いだった。
 私は、一歩前に踏み出した。
 彼との距離はあと少し。
 でも、それが間違いだった。
 彼の、小枝のように細い右腕が伸びた。力を入れて叩けば折れてしまいそうなほど、細い。
 その小枝のような腕が、わたしの手首を握り締める。
 その細さからは想像できないような力。
 彼は無表情に戻っている。
 どくんどくんと、私の心臓が高鳴る。
 <潜む者>に支配されたリュウジくんは、どうなるんだろうか。
 きっと、リュウジくんは眠る。意識を失う。
 そして、その代わりに、目覚めるのが<潜む者>——レーゼ。
 つまり、こいつは二重人格と考えていいかもしれない。
 じゃあ、リュウジくんはレーゼである時の記憶を失っているんだろう。
 二重人格とはそういうもの。〝普段の自分〟は、〝もう一人の自分〟の記憶を持っていない。
 彼の腕が、私をひっぱる。左腕が、私の背に触れる。
 解いて逃げなきゃ、と思った時にはもう遅かった。
  
 *
 私のfastkissは、<潜む者>に奪われた。
 *