二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂] れんれん.  | 特別企画up ( No.97 )
日時: 2010/10/31 12:09
名前: みんと水飴 ◆vBOFA0jTOg (ID: mnC5ySyz)
参照: http://amenomori22.jugem.jp/

  銀魂夢小説,短編
      〓夏、夕暮れ。

気だるい蒸し暑さがまだ残っている。
西空を見上げれば茜色が広がっていて、それからすっとした青色を挟んで、すみれ色、瑠璃、青藍。
だんだんと色を濃くしながら東に向かっていく。
屋台の明かりがようやく付きだした。
日は暮れ始めたばかりで、星が出てくるまでには、まだ時間がかかりそうだった。

時折吹く風が、若干の涼しさと、お囃子の音を運んでくる。
まだ始まったばかりの祭りは、少し物足りなさも感じられる。
しかし、その笛の音、太鼓の音に、心が少しずつ、舞い上がろうとしていた。

「でも、ほんとに……変装しな、くて……良いの?」
「なに、市民祭りの警備に武装警察はいらん。心配は無用だ」

そう言って少し前を歩く桂に、置いていかれないように小走りで夢幻は距離を詰める。
また風が吹いて、彼の肩越しを通っていった。長い髪がなびく。
浴衣の桂は、いつにも増して涼しげだ。

「おっと」

小さな子が駆けてきて、ぶつかりそうになったのを桂が避けた。
その子も、その下駄も、カラカラと笑いながら通り過ぎていく。
祭りの精が楽しんでいる、まさにそんな感じだ。

「あ、……」

ふと、夢幻の視線がその子の背に目がいった。

「あの子、のお面……ス、テファン」

白に、丸くて大きな目とくちばし。
首にかけられたお面が、背中の上で揺れていた。

「なかなか、可愛いな。エリザベスに買っていくか」
「え……、エリーに?」
「なんだ、駄目か?」
「い、や……でも」

エリザベスに同じ顔のお面をさせるつもりなのか。態々自分の顔のお面をして、喜ぶ者もいないだろう。
そもそもゴムが回りきらない。

「まったく」

ふ、と桂が息をついた。

「夢幻、素直じゃないな」
「え? 何、が……?」
「なんでエリザベスじゃなくて私に買ってくれないの!? って、素直に甘えればいいものを。すいませーん」
「えっ、……や、わ、私。お面は……」

別にいらない、と言いたかったところ、すでに屋台のおじさんに声を掛けていたからやめた。
それに、桂に買って貰うのだったら、なんでも嬉しいのが本音。
馬鹿とでも、なんとでも言えばいい。

「こた、ろ……前、全然、見えない……」
「可愛いぞ。少し異様だが」

夢幻は顔面にステファンを装備させられて、少し困る。
さっきの子のように、お面を後ろに回してみるが、子供と違って、そうやると首が絞まるのに気付く。
結局斜めにかぶって、良しということにした。

「次は何をしようか」
「あ、……こたろ、あれ……やりたい」

はずれの一角にあったのは金魚すくい。
店の前に来ると、いらっしゃいと屋台のおじさんがポイとお椀を渡してくれた。
夢幻は桂に目配せして、水槽の前にしゃがむ。ようし、と気合を入れて腕まくりした。

水槽の前にいると、水の匂いがむっとした。
青い水槽の中に泳ぐたくさんの赤い金魚たち。たまに黒、そしてまだら。
夢幻は狙いをつけて、そっとポイを水にくぐらす。
金魚の一瞬の隙をついて、さっとすくい上げた。

「あ゛あ゛……」
「逃げられたではないか」

はぁ、と息を吐いて、金魚に破られて半分になったポイをさめざめと見つめる。
アブナカッタ、と金魚は急いで集団の中に潜っていった。
やっぱり無理だった。大体、金魚の隙なんて分かるわけがない。

「よし。貸せ、夢幻」

桂が夢幻の隣にしゃがむ。
果敢にも、半分になったポイで挑もうとしていた。

「もう……破れてる、けど……大、丈夫?」
「まかせておけ」

桂は、すっと袖をまくる。

「剣は全てに通じている。金魚すくいも例外ではないだろう。金魚の呼吸を読み、隙をついて踏みこめばいい」

侍はエラ呼吸も読めるのだろうか。

「それで、夢幻はどいつが欲しいんだ」
「あ、れ。あの……紅いの」
「よし、見ていろ」

桂が構えた。
構えた腕の先には一振りの刀、ではなく半分のポイ。視線の先には金魚。
時折、髪を邪魔そうにしているので、夢幻は後ろで束ねて持っていてあげることにした。
風通しが良くなるように、髪を少し持ち上げる。首筋で汗がきらりと光る。
どうやら彼も暑いようだ。

桂の腕がさっ、と動いた。

 ◇

「あり、がと……」

でめきんは、大所帯を離れ、ビニールの小宇宙へ越してきた。
おまけでもらったもう一匹と一緒に、右往左往している。

「大事に育てるんだぞ。小さきものとはいえ、大切な命に変わりはない」

説教臭いことを言う彼に、再び夢幻は微笑んだ。
水の入った袋を掲げる。すぐ目の前を、金魚が泳いでいった。
そして、金魚の向こう側には桂。
魚を目で追う振りをして、夢幻は桂の顔をそっと覗いた。
すると、水の中で、やさしく唇がゆるめられる。

「ほら、早くしないか」

祭り囃子、人の声、蝉の声。
空にはまだ太陽の名残がある。


夏、夕暮れ。
(祭りは、これからだ)