二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【REBORN!】 風、来たる。 ( No.1 )
日時: 2010/10/27 18:53
名前: ゆらゆら ◆U4ADJleouU (ID: R3ss0lfj)

−プロローグ−


暗い。
とても暗くて、あったかくて、寒い。

目を瞑っているのか、開いているのかも分からない。
ただ一面、目の前が、酷く暗い黒だった。


——ここはどこだろう。


暗い。とても暗い。自分以外は、何もない。

無の世界というのはこういうことをいうのだろうか、とか。
目が見えない人たちはこんな世界で生きているんだろうか、とか。

全然、全く、関係のないことを考えられるくらい。
ここは、居心地のいい場所だった。


——あったかい。でも、ちょっとさむいかもしれない。


ちょうどいい。だから、居心地がいい。
眠っているときより、気持ちが安らかだった。
ずっとここで過ごせるなら、きっと人間はみんなダメになるだろう。

……でも、それぐらいいいかもしれない。
今日だけ。明日になったら、また学校が始まるから。
だから今日ぐらい、こうやってずっと、寝かせていてくれても——。


——あれ。





ふわふわとした気持ちが、急にしぼんでいく。
一つ、頭の中で、心の中で、引っかかることがあったのだ。

風船が、しぼむ。


——私は、……学校なんて、通っていたっけ。


そうだ。通ってる。
並盛中学校。去年入学した、何の変哲もない学校。
風紀委員長が怖いって聞くけど、まだ会ったことがないんだ。
あと、ボクシング部の先輩。なんだか色々と凄いらしい。
その妹が、同じクラスにいる可愛い女の子で。


——ああ、そうだ。


妹。

私にも、妹がいる。
今年小学校にあがったばかりの、小さい妹。
私に似て頭はあまりよくないし、加えて世間知らず。
でも、それでも可愛い私の妹。

……そういえば、昨日は凄くはしゃいでいたっけ。
はしゃぎすぎて扉に顔をぶつけて、鼻血がでたんだ。
その時のお父さんとお母さんの慌てようと言ったら……。


——そうだ。


お父さんと、お母さんもいる。
そう。私は四人家族。
父と母と、妹と、私の。四人家族。
普通の、幸せな、明るい、暖かい、優しい、家族。



——大好きな、私の家族。



それじゃあ。


——————あそこで燃えている車はなんだ?

暗い、黒の世界に一つ入った色彩。
炎の、紅。

中心にある真っ黒い影は、それは確かに車の形をしていた。
そしてその車の中に、誰だか分からない影が四つあった。
それは確かに人の形をしているが、遠目からでははっきりと認識できない。

どうして燃えている車の中に人がいるんだろう。
そのままじゃ焼け焦げてしまう。
——早く助けなくては。

ゴムが焼けていく、嫌な臭いがした。
鉄が爆ぜ、プラスチックが燃え、黒い煙が立ち上った。

私はその車に近付いていく。熱さは、感じた。でも体は、進んでいく。
陽炎が、揺らめく。

炎に包まれた車体の中を、そっと、覗き込んだ。
これだけ近くにきても、中身は炎の壁に阻まれて、何にも見えない。


見えない。どうして。なんだ。——よかった。


見えなかったことに、どうしてか安堵している自分がいた。
それに驚きつつも、気付かないフリをした。——気付きたくないような気が、した。
燃えている車を背にして歩き出す。その、耳に。






————おねえちゃん。




幼い声が届いた。
舌足らずなその声は、さっきまで聞いていたもの。
——千春?

思わず振り返った先の、燃え上がった車のその中に。



妹の、——千春の体が、あった。
運転席と助手席には、お父さんとお母さんの体もあった。

そしてその、千春の体の隣に。



——わたし。










ああ、そうか。




私は、死んだのか。