二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエスト—Original— 漆黒の姫騎士 ( No.125 )
- 日時: 2011/07/18 20:57
- 名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)
マレイヴァに伝わる鐘の音、独特のリズム。危機感を見事に人に与える。
それを実際に聞いたことのない二人だが、それの意味するものは知っている。
それは、平和すぎたマレイヴァとはあまりにも無縁だと思っていたもの——
—————敵襲。
二人は足を止め、はっと天を仰ぐ。いつも屋上で見張りをしていた退屈顔以外を見たことのない兵士が、
困惑か、焦心か、あるいはそのどちらもか——そんな顔で、必死に鐘を鳴らしていた。
「敵襲! そんな、まさか」
一生来ることなど思ってもいなかったそれに、シーナは戦慄を覚える。どうすればいいのかが分からない。
けれど、逃げていいはずがないということだけは分かった。
練習用の細剣を放り投げ、シーナは兵士用の鋼の剣目がけて走ろうとする。
が、その前に、腕を強くつかまれる。セファルだった。
「行くな、シーナ!」
「なんでよ、敵なんでしょ!? 戦わなきゃ——」
「駄目だ!!」
初めて聞く彼の怒声に、シーナはびくりと身をすくませ、止まった。
セファルはつい出てしまったその行動を後悔しながら、だが静かに、厳かにシーナへ語る。
「シーナ、よく聞け。遂に来たんだ。阻止せねばならなかった者たちが」
さっきまで笑って、冗談を言っていた者と同一人物とは思えない。訳が分からなくてシーナは黙る。
「お前は逃げなくてはならない」
いやだ、と言おうとして、シーナは彼の口の動きがまだ何かを告げようとしていることに気付いた。
「・・・巻き込むわけには、いかないんだ」
聞こえづらかったが——彼は確かに、そういった。
「何を知っているの!」叫んだ時、上空に魔物の集団が現れる。書物や図鑑でしか見たことのなかった
異形の姿に、シーナは一瞬身体を硬直させる。が、セファルが咄嗟に転がっていた細剣を拾い上げ、
シーナを背に油断なく構える。隙を見て突破するつもりだった。が、万が一に備えてのことだ。
しかし、敵はそんなに甘くはなかった。呪文を詠唱する。上空から生じた氷の刃が、二人を襲った。
二人は別方向に散り、難を逃れる。セファルはその際に、立てかけられた兵士用の剣の中の、
自分の愛用する一つを手に取った。
「ねぇ、お兄ちゃん!」
「話している暇はない!」
叫んで、彼はシーナの手を取り、引きながら走る。辛うじて、敵のさらなる攻撃が来る前に逃げ切ることができる。
「ヴェルシーナさま!」
「セファルさまっ!」
どうやら兵士や女中たちは自分たちを探していたらしい。やけにてきぱきと、シーナがとるべき行動を指示してくる。
「どうぞこちらへ!」
「私が案内いたします」
低い声でそう言ったのは兵士長ヒールである。
意識がついて行けず、思考を働かせることを無意識のうちに諦めかけている。シーナは、言われるままに動いた。
「セファルさまも」
「・・・・・・・・あぁ」
セファルは、何かを決意するように、何かに祈るように、胸の前で強く拳を握りしめた。