二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 異世界の危機〜魔法募集中!!!〜 ( No.495 )
日時: 2011/08/11 19:41
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)

31 兄妹の約束

「春奈」
「なぁに?お兄ちゃん」

綺麗に輝く月の下、淡い光を浴びながら、少年は彼よりも遥かに幼い女の子を連れて、夜道を歩いていた。

「春奈は……幸せか?」
「うん!お兄ちゃんもいるし、国の人たちもみ〜んな優しくしてくれるから、春奈、すっごく幸せだよ!」
「そうか…」

春奈という名の小さな少女は、少年の大きな手を握って満面の笑みで答えた。その答えに、少年は少し顔を歪ませ、虚しそうな瞳で彼女を見る。
少年——鬼道有人と同じ顔を持つ彼は、春奈が最も謙遜し最愛の兄である。あった、と言うべきか。今、彼はもうこの世界にはいないのだから。

「春奈、一つ頼みごとがあるんだ…聞いてくれるか?」
「うん!」

また元気のいい返事が返ってきた。すると、少年は春奈の顔と同じ高さになるよう、地面にしゃがみ込んだ。春奈もキョトンとして、足を止めた。もう一度、唇を噛んだ。まるで、この少女に何か大事そして、残酷なことを告げるかのように、心は揺らぎ、顔の表情は硬くなる。

「お兄ちゃん、どこかいたいのぉ?」

今、目の前にいる少女の優しさは、彼の悲しみをより一層悲惨なものに変えていく。

「春奈…将来、お兄ちゃんを超えられるほどの魔術師になれ…俺を殺せるほどの…」
「春奈はお兄ちゃんを殺さない!!!」

今、一瞬前までおとなしかった春奈が叫んだ。そして、両手で顔を隠し泣き始めた。

「お兄ちゃんは優しいのに…どうして殺さないといけないの……?」
「……ごめんな、春奈」

必死に涙をぬぐう少女の肩を支え、強く抱きしめた。こんなにも幼くて純粋な少女に大きな使命を負わせてしまった罪悪感が、涙へと形をかえ、頬を伝った。

「いつか、お前にかかった呪いを解いてやるから…それまで、待っててくれ…」





「お兄ちゃん!!」
「春奈!?起きたの!?」

目を覚ませば、広がっているのは見慣れた景色だった。自分の部屋だ。こうなれば、さっきまでのことは夢だと分かる。

「また、夢を見たの?」

夏未がやさしく声をかけると、春奈は小さくコクンと頷いた。冷静になってみると、目じりから、何かが流れている感覚があった。涙だ。

「おに、ちゃん」

ベッドのすぐ横に夏未はしゃがみ込み、春奈の頭をなでると、彼女は泣きながら、夏未に抱きついた。何度も嗚咽を繰り返し、涙を流し続け、夏未の服を濡らしていく。

「いやだよぅ…なんで、なんで、死んじゃうの……?」
「……」
「春奈を助けるって…春奈と一緒にいてくれるって……なのに、どうして…」

夏未は黙って、少女の嘆きを聞き入れた。彼女が泣き止むまで、頭を撫で続ける。少しでも春奈が安心できるように、少しでも楽になれるように。すがりつく少女はいつもの明るさはない。今はただ大好きだった兄の名前を叫び、あとほんの少しの風で折れてしまいそうな弱くて小さな花のよう。




「ごめん…また泣いちゃった…」

あれからどのくらい泣き続けたのだろうか、両目とも赤く腫れあがり、手は涙でびしょ濡れだ。

「少しは落ち着いた?」
「うん、ありがとう…」

明るく笑ったつもりなのだろうか。しかし、まだ表情が寂しくて辛そうだ。自分を心配させないように、必死に偽の笑顔を作り、笑った。

「今日は少し休んでいたら?昨日も大変だったでしょ?」
「ううん、大丈夫。サボるとヒロトに怒られちゃう」

ベッドからゆっくりと足をおろし、立ち上がった。足からは冷たい床の温度が感じられる。

「そっか、朝ご飯できてるよ。遅めのだけど」
「修也たちはもう行ったの?」
「今は修行中。さっきまで、春奈が起きるの待ってたけど、あの二人ああいう性格でしょ?多分はぐらかして、先に出ちゃったよ」
「そっか…あとでお礼言わなきゃ」

リビングに出ると、室内の中央には大きなテーブルがあり、その周りを六つの椅子が囲んである。その一つに、秋がちょこんと座って、ゆっくりと食事を口へ運んでいた。

「秋、まだ行かないの?」
「まだ7時48分17秒…」

今日の朝食はパイのようなものに、ココアのいたって普通のものだ。そのパイは、「キール」と呼ばれ、この世界の一般的に朝食に持たされるものだ。パイの味はいろいろあるが、秋が今食べているのは、中に芋をすり潰した生地を入れたものであり、冬に食べるととても体が温まる。今の季節は、円堂の世界で言うと秋ぐらい。少し肌寒い日もあり、これを食べるのにはもってこいの時期だ。

「じゃ、私は円堂くん達の様子見てくるね。河川敷で練習してるかもしれないし」
「いってらっしゃい。私は秋と行くよ」

秋が春奈と夏未を交互に見つめ、最終的には小さくコクンと頷いた。
夏未はエプロンをとり、空いている椅子に置いてあった刀を取り上げると、家を出て行った。

「秋…あまり話したくないことかもしれないけど……秋にもお姉ちゃんがいたんだよね?」
「もう死んだ…」
「う、うん。知ってる。秋はさ…そのお姉ちゃんのこと好きだった?」

春奈らしくない質問に、秋はココアが入っているコップをテーブルに置くと、俯いている彼女のことを見つめた。

「何でだろうね……もし、本当に神様がいたとすれば、不公平すぎると思わない?」
「神なんてものはいない…」
「いたとすれば、だよ。私たちってさ、皆、親が死んじゃったり、兄弟に裏切られたり…円堂の世界もそうなのかな?」
「知らない」

わざとではない。彼女の性格が大人しく、無駄なことをしないような人だから、短く答えているだけだ。本当に面倒ならば、彼女は無言で本を取り出す。この返事は彼女なりに思いやりがあると思っている。それは春奈や夏未にもわかっていること。その一言があるだけでも、彼女は優しくしてくれているんだな、と感じることができる。

「ん、ごめんね、秋。変な話しちゃって…私、食べ終わったから、着替えてくるね。後もう少しだけ待って」

キールがのってあった皿と、空っぽになったカップを持ち、キッチンで一洗いすると、濡れた手を自分の服で拭きながら、自分の部屋に入っていった。

「……春奈」

呟き、秋は小さくため息をついた。

Re: イナズマイレブン 異世界の危機〜魔法募集中!!!〜 ( No.496 )
日時: 2011/08/11 19:41
名前: 桜花火◇16jxasov7 (ID: /HyWNmZ0)

「円堂様なら、河川敷で練習をすると、張り切っていましたよ?」
「河川敷ばっかりって、飽きないのかねぇ〜」
「フフッ、夏未様もそろそろお仕事ですか?」
「そう、だるくて仕方ないんだけどね〜情報ありがとう、カリア」
「いいえ、お気を付けて…」

またね、とでも言うかのように、夏未は右手を小さく振って、河川敷へと向かった。夏未は朝から食堂へ向かったところ、円堂の姿が見当たらず、河川敷だとは分かっていたが、無駄足にならないために、ちょうど通りすがったメイドのカリアに話を聞いていたのだ。

《いつまで猿芝居続けるつもりだ?》
「黙れ、円堂守が帰って来てからっつってんの」

相変わらずカリア、いや、フレイミアは自分の影に対しては口調が悪い。体格や顔も鈴ほどではないが、かわいらしいのだが。


「河川敷〜っと、やっぱりいた」
「グラデュースアーチ!!!」
「ゴットキャッチ!!」

円堂は日々、新必殺技—ゴットキャッチの練習に励んでいたが、完成する兆しがちっとも見えない。むしろただ体をいじめてるだけだ。

「あっ!!キャプテン!!」
「あらら〜まだまだね」

虎丸のシュートをまともにくらい、倒れてしまうがすぐにもう一度立ち上がり、チームにシュートを求める。
夏未は練習の邪魔になるだろうと考え、石で造られた階段に座り、上から円堂たちを見ていた。キョロキョロ見渡すと、守と修也の姿がない。一体どこで油を売っているのか、分からないが、あの二人のことだ。また道端で喧嘩しているだろう。

「もう一回!!頼む!!」

ボールが豪炎寺にわたり、円堂は両手を叩き、腰を低くおとし構えた。

「爆熱スクリュー!!」
「ゴットキャッチ!!」

一瞬だけ、背後に魔人が出現したが、豪炎寺の撃ったボールに触れた瞬間、消えた。ボールはゴールには入らなく、フェンスに当たり、フィールド外へ出てしまった。ボールを取ることよりも、円堂が心配で、彼に駆け寄るが、すぐに仲間の手を借りながらも、立ち上がった。

「ハァ…見てらんない…私も入っちゃおう〜」
「あっ、ボール」

木野が取りにおこうと、席を立った直後。夏未がそこに割り込み、ボールを円堂に向かって思いっきり蹴った。とっさに円堂は両手で止めようとするが、手はボールに弾かれてしまった。

「キャプテンがそんなんでどうするの?ほら、立って。キーパー技の習得に付き合ってあげる」
「夏未、すげーな!!こんなに強いシュートできるなんて」
「まだ朝飯前ってとこよ。できれば、私に本気を出させてほしいな」
「臨むところだ!!」

円堂の練習には、豪炎寺、虎丸、ヒロト、吹雪それに夏未が加わった。




「ったく、修也の奴…どこに行きやがった」

剣術の特訓が終わり、周りが分からなくなるくらい没頭していたのか、気が付けば修也の姿がなかった。夕香のところだろうと思い、彼女の家を訪ねてみたが、今日は来ていない、と言われ、思い当るところを一から修也を探していたのである。

「護衛があるってのに…」
「守様、なにかお探しですか?」

声をかけたのは中年くらいの女性だった。この人の店にはよくかよって、食材の調達をしているため、記憶力がない守でも誰なのかはすぐにわかった。

「修也を探してんだ…どっかに行っちまって」
「修也様ならこの道をまっすぐ歩いていったのを見ましたよ?」
「って、河川敷の方かよ…ばあさん、サンキュー!」

お礼を言うと、守は河川敷の方へ走って行った。遅れると、また夏未の長い説教が待っている。それだけは、どうにか回避したい。





「違う!!もうちょっと力入れなさい!!」
「何やってんだ?アイツは…」
「あっ、修也さん」

円堂になにやら指示を出している夏未を見て、今、着いたばかりの修也はため息をついた。
——なんでサッカーなんか……。
サッカーの練習に付き合っている夏未を睨みながら、バカバカしい、と思っていた。

「修也さんはやらないんですか?」
「やるかよ…ボール遊びして何が楽しい…猫じゃあるまいし…」
「修也〜アンタも練習につk「断ると何回言った?」えぇ〜」

拗ねたように顔を膨らませ、何やらぶつぶつと文句を言っている夏未は、どうにかしてこの場に引きずりだそう、と考えていた。

「やらねぇならやらないでいいだろ」
「えっと、染岡くんだっけ?修也たちはね、はっきり言うと、あんた達よりサッカー上手かもね」

人差し指を立てて、なぜかウインクをした。遠くにいる修也はもう呆れて、大きなため息をついている。能天気な女一人に昨日からずっと振り回され、こっちとしては精神的にもう疲れ切っている。

「んなわけねぇだろ。あいつ等はただそこで見てるだけだろ」
「あら、修也じゃなくても、キック力が一番小さい秋でさえも、本気で蹴れば、円堂くんを一発でボロボロにできるかもね」
「だったら練習混ぜようぜ!」
「いや、今の話聞いてた?」

ボロボロになる、と言う意味が分からないのか、それともただ単に強いシュートを受けたいのか分からないが、彼の天然さには夏未も驚いている。

「あの態度だと、やる気はゼロね。今日だけでもどうにかしてボールを蹴らせたいんだけど……サッカーが大嫌いなんだよね。特に守と修也は」
「何で、サッカーをやらなくなったんだ?」

円堂が何気に問うた質問は、夏未の心に針が刺さるようなものだった。円堂に悪気がないのは分かっている、それでも、この質問はあまり聞いてはほしくないものだ。

「……このことは今度話すね。って、ほら!練習練習!ゴットなんとか完成させたいんでしょ?」
「あ、あぁ。って、ゴットキャッチだっ!!」

短い無駄話の後、円堂たちはすぐに練習に没頭した。
その十分後、守と秋、それに元気のなさそうな春奈は、一緒にやってきたが、遅いと言われ、夏未の長い説教を聞くことになってしまった。