二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 1章 出会い ( No.1 )
日時: 2020/06/23 15:10
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

窓を開けると眩しい日差しと風と共に、様々な音と香りが耳と鼻を刺激する。
静かで涼し気な小川のせせらぎ、草原の上を風が駆ける音に混じって届く草特有の
決して不快では無いほんのり青臭い香りと花々の香り、洞穴から聞こえるパチパチと電気が流れて
時折バチッと弾ける音。

そして、彼方此方から発せられるポケモン達の声と香り。

全て自分にとって決して変わる事の無い日常の1つで、風が金色の髪を優しく揺らすのを感じながら
少女はそっと目を閉じる。
そうすれば、音と香りは更に鮮明な物となり……

「前から思ってたんだけどさ、何でこんな不便な場所に家を建てたんだ?」
「……遊びに来て最初の一言がソレ?」


ドアを開けた赤髪の幼馴染──アキラの言葉に、リオは目を開けて眉間に皺を寄せた。


ここはホドモエシティの先にある、自然の魅力が溢れる道路にひっそりと建つ小さな一軒家。
周りは店も無ければポケモンセンターすら無く、あるのは年中季節による自然の様々な変化を
研究している【季節研究所】と、川と草原と……大きな洞窟くらい。
ライモンシティという、リオから見たら都会に住んでいるアキラからすれば、確かに何も無くて
退屈かもしれないけど。

「私はここでの暮らしに不満を感じた事はないよ。大自然の中、のびのびと育ったポケモン達を
 毎日見れるし、近くの研究所で色んな事を勉強出来るから退屈しないわ」
「ふーん……」

(まぁ、家の近くの洞窟に棲むポケモン達の影響で家はよく停電するけど……)

出そうになった言葉をオレンジュースと一緒に飲み込むと、口の中に程よい酸味が広がる。
コップを置くとカラン、と中の氷が涼し気な音を立てた。

「でもさ、やっぱ物足りないな。せめてバトル施設があればなー」
「アキラが住んでる所が色々ありすぎなの。少しは電気を分けてほしいくらい」

ナナシジュースを飲み終えて口寂しかったのか、自分のコップに手を伸ばして中の氷を食べるアキラに
リオは溜め息まじりに、皮肉っぽく言った。
こんな子供らしからぬ会話を繰り広げているが2人共まだ10歳にも満たない、正真正銘の子供である。


「あらあら、喧嘩はダメよ?」

台所からひょっこり顔を出したのはリオの母親のリマだ。
ニコニコと笑うその姿には有無を言わせない迫力があり、リオは喧嘩じゃないんだけどな……と
思いながらも押し黙った。
精一杯反論しても崩れない母の笑顔に結局折れる自分を、容易に想像出来たからだ。
何とも言えない顔をしているリオとは対照的に、リマを見て目を輝かせたのはアキラだった。

「すみませんリマさん、煩くしてしまって。あとジュース、ありがとうございます」
「うふふ、お粗末様です」
「人の母親を口説かないでくれない?」

何時の間に移動したのか、リマの前に立ち手を両手で握るアキラの背中を軽く叩く。
しつこいようだが、2人共まだ10歳にも満たない子供である。
アキラの肩を掴んでリマから離そうとするリオを、リマは微笑まし気に見下ろす。

「うふふ、本当にリオはアキラ君が大好きね〜」
「大好きとかソレは絶対に無い」
「酷くね?」
「あらあら。ところでアキラ君、今日はリオとどこに行くの?」
「そうだ、すっかり忘れてました。リオ!【タワーオブヘブン】に行くぞ!」
「え?あそこに行ってどうすんの?」

急に振り返って顔を近付けたアキラに驚きながらも、リオは冷静に聞き返す。

「塔のてっぺんにある鐘を鳴らしに行くんだ。アレ、人によって鐘の音が変わるらしいから1度リオと一緒に
 試してぇって思ってたんだ。出掛ける準備が出来てるなら今から行こうぜ!」
「……出掛けられるけど、行っても鐘を鳴らすどころか中にすら入れないんじゃない?」
「ははっ、何言ってんだよ。入れないんだったら、何のためにパンフレットに載ってるのか
 分からないじゃねぇか」

笑顔でパンフレットを見せるアキラに、リオは溜め息を吐くしかなかった。


そして数十分後…………


「何で入れないんだよ!」
「もう……だから言ったでしょ」

無事に【電気石の洞窟】を抜け、聳え立つ塔——【タワーオブヘブン】に着いたリオ達だったが、
警備員に止められて中に入る事は出来なかった。

「だって私達ポケモンを持ってないのよ?野生のポケモンがたくさん居る塔の中に入れるわけないわ」
「でも洞窟の中を歩いてても、野生のポケモンに襲われなかったぞ?」
「それは私が洞窟のポケモン達と仲が良いから」

納得出来ないのか、アキラは拗ねたように唇を尖らせた。

「あーあ、何か面白い事無ぇかな。空から珍しいポケモンが降って来るとか」
「そんな漫画みたいな事、あるわけ……ん?」

リオは言葉を止めて空を見上げる。
そんなリオに首を傾げながらも、アキラもつられるように空を見上げる。


何かが落ちて来る。
小さくて、何か光っていて……


「アレは……ポケモンだ!」

そう叫ぶとリオは走り出す。
ポケモンは気絶しているのか目を瞑ったまま動かない。あのまま落ちたら怪我をしてしまう。

リオは両手を伸ばしギリギリの所でポケモンをキャッチする。

「……ったー!」
「大丈夫か!?」
「うん、平気……」

ポケモンを助ける事で頭がいっぱいで、すっかり受け身を忘れてしまった。
そのせいで肘を擦りむき服が泥だらけになってしまったが、どうやらポケモンの方は無事らしい。
安堵した2人は腕の中に居るポケモンを覗き込んだ。


空から落ちてきたポケモン──ヒトモシは、想像してた以上に小さなポケモンだった。



短いですがここで1章は終わりです。
……ポケモンが全然出ていませんが、この小説はポケットモンスターブラック・ホワイトです。
この小説のメインキャラはリオという女の子ですが、実はこの子、色んな方々の所に
登場しています(流石にここまで小さくないですが)。
分かる人は、この小説はリオの過去編として見るといいかもしれません←


ちなみに名前の隣についてしまったシャープですが、アレは文章を打つ際に
誤って付いてしまったものなので気にしないで下さい。
ではあとがき(?)はこれぐらいにして、次回もお楽しみ下さい!