二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 68章 リオvsカミツレ⑧ ( No.137 )
- 日時: 2018/02/13 23:07
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
「よーし!スモッグ噴射!」
「!ゼブライカ、ストップ!!」
黒い煙を吐き出したヒトモシに、カミツレは攻撃態勢に入っていたゼブライカを止める。
カミツレの鋭い声にゼブライカは脚を止めて後ずさり、煙から数歩距離を取った。
《スモッグ》と《弾ける炎》のコンビネーション技が余程堪えたのだろう。
双眸は行く手を阻む煙を睨んでいる。
「そのまま待機して、攻撃が来たら避けて。煙が消えたら即、攻撃よ」
『ブルッ』
ゼブライカはいつでも攻撃を躱せる様に身構えるが、ヒトモシからの攻撃は無い。
代わりに少し経って小さな足音が聞こえて来た。
ぽてぽてぽて。
大きく聞こえてた可愛らしい足音が段々小さくなる。
その足音がヒトモシの物で、レールの上を走っているのに気付いたのは直ぐだった。
しかしカミツレは仕掛けない。
(この足音がゼブライカを煙の中へ誘い込む罠の可能性は高い)
下手に攻めて足を掬われては元も子もない。
ポケモンバトルには勢いも必要だが、同時に慎重さも大切だ。
「ここは焦らずに行きましょう」
ゼブライカが頷くのを確認して、カミツレは視線を煙へと向ける。
辺りを覆っていた煙は少しずつ薄れ、やがて空気に溶ける様に静かに消えた。
そして、煙が消えて直ぐにカミツレ達の目に映ったのは、1つめのトンネルを越えた先──足場近くの
レールにしがみついたヒトモシの姿だった。
(一体何を…!?)
訝し気にヒトモシを見つめるカミツレ。
リオは大きく息を吸い込み、声を張り上げた。
「この炎をゼブライカまで導け!
煉獄!!!」
『────ッ』
ヒトモシの身体が大きく脈打った、次の瞬間──荒々しく、しかしどこか神々しくも感じる紫色の炎が
蝋燭から…否、ヒトモシの全身から解き放たれた。
『ブルッ…!』
「……っ」
噴き出す様に前後に放たれた炎は蜷局を巻きながら、物凄い勢いでトンネルを進み、
レールを飲み込んでいく。
その光景はまるで大蛇が餌を貪っている姿のよう。
生きているかの様な業火にカミツレは一瞬たじろぐ。
そうしている間にも紫の炎は唸りを上げながらゼブライカへ迫る。
怖じ気づいている暇は、無い。
「放電!!」
予め蓄積していたのだろう、ゼブライカは指示と同時に稲妻を業火へと放つが、カミツレ自身が
説明した通り、拡散した稲妻がどこに行くか分からない。
まして攻撃を一点に集中させる等、至難の業だ。
現に業火へ向けて放たれた筈の稲妻の何発かは真逆の方向へ行ってしまった。
熱が肌で感じられるまで近付いた業火に、カミツレの頬を汗が伝う。
『ブルルルルッ!!』
しかし運が良かったと言うべきか、残りの稲妻は全て炎へと向かい、次々と炎を切り裂いた。
やがて、ゼブライカの目の前まで迫っていた《煉獄》は火の粉と化し、パラパラと音を立ててレールの下──
暗闇へと落ちていった。
それを目で確認してからカミツレは安堵の吐息を漏らし、口を開いた。
「残念だったわね、リオちゃん」
リオは辺りを見渡した後、カミツレの方へ向き直る。
何かを言うワケでも無くただ目を瞬かせて自分を見つめるリオ。
カミツレは静かに続ける。
「《煉獄》は確かに強力な技だけど…命中率が低いからジム戦とかの大一番で使うのは
ちょっと無謀だったかな」
「カミツレさん」
苦笑するカミツレ。
リオはそんなカミツレの名を呼んだ後、再び辺りを見渡して…こう続けた。
「良いんですか?そんな悠長に構えてて。ヒトモシの攻撃は、まだ終わってないんですよ?」
「…何を言っているの?」
リオの思い掛けない言葉にカミツレは問い返した。
今のヒトモシの最強技と言っても過言では無い《煉獄》を、ゼブライカは打ち破った──
しかもリオ達の目の前で、だ。
普通は絶望する状況だと言うのに、リオは悲観するどころか不敵な笑みを浮かべていた。
(目の前の《煉獄》は確かに破った。目の前、の……?)
カミツレの思考は途中で中断された。
何故なら──完全に消えた筈の炎が、今度はゼブライカの背後から迫っていたから。
「くっ…隣のレールへ移動するのよ!」
ゼブライカは後ろから来る炎を見て身体を左へ向けると、隣の黄色のレールに飛び移って炎を避ける。
しかし、それは意味を成さなかった。
「『!』」
ゼブライカとカミツレは愕然とした。
避けた筈の炎が火勢を衰える事無く、今度は前から、右から向かって来た。
避けて別のレールへ移動しても、また別方向から炎がやって来る。
まるで時間が巻き戻っている様な感覚に陥り、カミツレは思わず呟いた。
「どうして…」
「このジムの構造は複雑だから、カミツレさんの所まで来るのに苦労しました。でも…だからこそ
ルートを覚える事が出来ました」
リオの言葉の真意が分からず、カミツレは首を傾げる。
「確かに《煉獄》は命中する確率が低い技です。でもカミツレさんの言葉と、周りを見て思ったんです。
無理に《煉獄》をゼブライカに当てる必要は無い…エモンガと違って、ゼブライカは常に、
地に脚を付けているんだから」
「私の言葉とジムを見て…?それに、ゼブライカの脚が……」
復唱した所で、カミツレはハッとしてリオを見た。
「まさか…」
「はい。このジムの造りも仕掛けも複雑だけど、足場とレールが繋がっているから実質は1本の道なんです。
だから《煉獄》をレールに放てば炎はレールから足場へ、足場からレールへ移動して…
いずれその2つの上を移動しているゼブライカへ届く。
つまり、このジムその物が──」
水色のレールに降り立ったゼブライカが目を見開く。
「《煉獄》をゼブライカへと導く導火線です!」
前後左右から襲い掛かった炎がゼブライカの脚に燃え移り、業火はゼブライカの身体を包み込んだ。
「ゼブライカ!!」
カミツレの叫びは炎の音に掻き消される。
《煉獄》を放ったヒトモシはリオ達が立つステージに降り、燃え続けるゼブライカをじっと見つめる。
多くの視線がゼブライカに注がれる中、アキラはヒトモシを見ていた。
(ヒトモシ、強くなったな。ゼブライカの技を至近距離であんだけ喰らったのに、
まだ動く力が残ってんのか。対するゼブライカは、もう…)
…ツン…
カツン…
「「「!」」」
『…モシモ』
静かに鳴り響いた音に全員が体を震わせた。
音の出所は業火の中からで、炎の中の影が大きく揺らめいた。
そして…
「そんな……!」
「ゼブライカ!」
全てを飲み込み浄化する炎にその身を焼かれても尚、ゼブライカは歩いていた。
しかし《煉獄》による追加効果でゼブライカは火傷状態、そう長くバトルは出来ないだろう。
「……まだ戦える?」
カミツレの問いにゼブライカは強く頷いた。
「これで決めましょう!スパーク!!」
ゼブライカは電気を振り絞ってその身に纏うと、雷鳴を轟かせながらレールの上を駆け抜ける。
青い双眸はヒトモシの姿を捉えている。
火傷を負っていると思えないゼブライカの速さと気迫にリオは息を呑む。
「それなら私達だって!弾ける炎よ!!」
ヒトモシが体を捻って炎を出そうとした、まさにその時。
目を逸らしたくなる光景がリオの目に映った。
「嘘……」
迎撃準備をしていたヒトモシが、突然その場に蹲ったのだ。
身体には微量の電気が走っている。
「麻痺状態…!まさか、至近距離で《放電》を喰らった時になったのか?」
(今まで早く技を出せてたのは運が良かったんだわ。でもまさか、この局面で…!)
ゼブライカの脚がヒトモシと同じステージに乗る。
立ち上がろうと痺れる身体を動かすヒトモシに、ゼブライカは脚に力を入れて頭を前に倒す。
(決まった)
心の中でそう呟いたのは、果たして誰だったのか。
そして、その言葉通りゼブライカは、
「ゼ、ゼブライカ戦闘不能!ヒトモシの勝ち!よって勝者……チャレンジャー!!」
ヒトモシに寄り掛かる形でゆっくりと倒れたのだった。
今回遂にリオとカミツレのバトルが決着しました。
無駄に長くなってしまいましたが、その長さに相応しい様に(←?)
「あ、こんな感じでバトルしてるんだ」と、少しでも読者の皆様に分かっていただけたら幸いです。
それでは、次回もお楽しみに!