二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 74章 密かに、 ( No.145 )
日時: 2018/06/09 12:36
名前: 霧火 (ID: RjvLVXA1)

シビシラス達を回復させるべく、ポケモンセンターに向かうリオ達。
その途中でリオは気になった事を聞いてみる事にした。


「ところで…何で直ぐに《水浸し》を使わなかったの?最初から使ってれば、あっという間に
 決着はついたのに」

「命中すれば、ね〜…でも、もし技を躱されたら?リオ達は警戒してママンボウを集中攻撃するでしょう?
 《アクアジェット》で先制攻撃は出来るけど、元々ママンボウの素早さは低いの。最初から使うには
 リスクが高すぎる技なのよ〜」

リオの問いにそう返してから、リマは隣を歩くアヤネを見る。


「そこでアヤネに頼んでおいたの。ママンボウから興味を無くさせる為に、
 バチュルを積極的に動かして…ってね♪」

可愛らしくウインクしたリマにアヤネが頷く。


「私もリマの作戦に乗っかりました。バチュルちゃんが攻撃役に回る事でママンボウちゃんが
 狙われる可能性が低くなり、結果バチュルちゃんの《放電》の威力が上がってバトルが有利に
 進む事は事実だから」


「──そうか」

暫し考え込んでいたアキラが口を開いた。


「母さん…吸い取ったな?」

アキラの言葉にアヤネと、そしてリマは微笑む。


「…私にも分かるように言ってよ」

拗ね気味に袖を引っ張るリオに、アキラはスケッチブックと鉛筆を取り出した。
アキラは鉛筆を握る手を動かしながら続ける。


「バチュルは電気タイプだが、自分で電気を作れねぇんだ。だが、電気タイプのポケモンにとって
 電気は生命線…ソレが作れねぇとなると衰弱して行く一方だ。そこで、バチュルは他から電気を
 貰う事を思いついた。街中のバチュルは民家のコンセントから、野生のは他のポケモンから静電気を
 吸い取って生きて来たんだ」

言い終えるとアキラは鉛筆を仕舞い、スケッチブックをリオに見せる。
真っ白だったページにはバチュルが描いてあって、バチュルの下には枝分かれした矢印が引かれてあり、
その先には家とシキジカがそれぞれ描かれている。


「相変わらず完成度が高い絵ね」
「サンキュ。…で、ここまでは分かったか?」
「ええ」
「じゃあ、問題だ。バチュルがあんな強力な《放電》をブチかませたのは何でだと思う?」

アキラの分かりやすい解説のお蔭で、リオには既に答えが分かっていた。


「シビシラスから電気を吸い取っていたから…でしょ?」
「厳密に言えば電気の他に《チャージビーム》で上がってた力も一緒に吸い取ったからだろうな。
 シビシラスを重点的に攻撃してたのは、接触しねぇと電気を吸い取れねぇから。
 何度もぶつかって行ったのは、1度だけの接触じゃ吸い取れる電気もたかが知れてるから…だろ?」

確認するようにこちらを見たアキラに、アヤネは拍手を贈る。


「正解ですアキラ。良かった、ちゃんと知識は身に付いているみたいね」
「当然だろ?」
「ただ残念なのは、それをバトル中に活かせなかった事ですね」
「うっ…」

鋭い指摘に顔を引き攣らせるアキラに溜め息を吐いてから、リオは先程のバトルを思い返す。


(向かって来るバチュルに対して、シビシラスも迎え撃つ形でバチュルに攻撃をして、
アタッカーであるバチュルを集中攻撃すると決めてからは、必然的に2匹の接触は増えた。
……まさか、)


「まさかとは思うけど、私達がどう動くか最初から分かってて考えた作戦なの?」
「うふふ。さぁね〜」


「アヤネさん!」

リオの問い掛けにリマが笑顔ではぐらかした時、第三者の声が聞こえた。
全員が振り返ると、痩せ細った1人の男が走って来た。
何事かと顔を見合わせるリオとアキラを余所に、名前を呼ばれたアヤネが男へ近寄る。


「どうでしたか?」
「青年の方は用心深いのか、周到なのか、カメラが粉々に破壊されていて…中央監視室の方も、突然停電が
 起こったとかで、映像が録画されておらず…悔しいですが、青年の追跡は不可能かと…」

「そうですか…お忙しい中、有り難うございました」

長い距離を走って来たのだろう、息を切らして話す男にアヤネが労いの言葉を掛けると、
男は慌てて言葉を付け加える。


「で、でも主犯である少女の方はバッチリですよ!唯一無事だったカメラに顔も服装も映っていましたから!
 捕まるのも時間の問題かと!」
「…顔も、服装もですか」

腑に落ちない顔をしているアヤネに男は不思議そうに首を傾げるが、腕時計に視線を落として目を見開くと
頭を下げて慌てて観覧車の方へと走って行った。


「…アヤネさん」
「何ですか?」

一部始終を見ていたリオがアヤネを呼ぶ。
振り返り、人当たりが良い笑みを向けたアヤネに、リオは意を決して口を開いた。


「防犯カメラに映っていた少女って……もしかして、あの人ですか?」

リオの問いに一瞬躊躇ったが、アヤネは静かに頷いた。



「はい。防犯カメラに映っていたのは2人が相見えた、フェイクという方です」




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地下へと続く階段を降りて行く3つの影。
そのうちの1つの影が、大きく動いた。


「ふぇっくしゅ!…へーっくしゅん!」
「色気がねークシャミだな、オイ」
「誰かボクの悪い噂をしてるなー?むかつくー」
「だ、だいじょうぶですか?フェイクさん」


クシャミをしたフェイクにビッシュは呆れた眼差しを向け、シャルロットはポケットティッシュを差し出す。


「大丈夫じゃなーい。重症、目眩がするー」
「えぇっ!?」
「思いっきり棒読みじゃねーか。シャルロットをからかうな」

ビッシュは額に手を当てて蹌踉けるフェイクの頭にチョップを入れる。
その瞬間、フェイクは頭を抑えて唸り声をあげた。


「頭がっ!脳がっ!割れるー!!」
「いっそ割れちまえ。ライモンで壊したカメラみたいにな」
「…カメラで思い出したけど、あの時は指導サンキューね、シャルロット。ボク機械には疎いからさー、
 どこまで壊せば良いか分かんなくて」


(…痛そうにしてたのはやっぱ嘘か)


何事も無かった様に再び階段を降り始めたフェイクの背中を見つめながら、ビッシュは溜め息を吐く。


「ダミーカメラが1台も無くて焦りました…壊すのに時間が掛かって、その間に中央監視室の停電が
 復旧したらどうしようかと思いましたが、フェイクさんの仕事が速くて助かりました。
 クラッキングして監視室その物を無力化させる事も可能ですが、データに侵入して改竄、破壊…と
 段階を踏まえてやってたら、もっと時間が掛かりますし…」

「おー、頭脳モード入った。とても8歳とは思えないよー☆」
「茶化すな」
「体は子供、頭脳は「  や  め  ろ  」…いっ!」

拳骨でフェイクを黙らせてから、未だ何かを呟いているシャルロットの髪を撫でる。


「シャルロット」
「!…あ、すみません。わたしばっかり、おしゃべりして。…フェイクさんどうしたんですか?」
「気にすんな。そろそろ時間だし行くぞ」

ビッシュは困惑顔のシャルロットの手を引き、本気で痛がっているフェイクの横を通り過ぎる。

数段降りると、銀色の扉が見えてきた。


「でも…本当によかったんでしょうか?フェイクさんが映ったカメラをこわさなくて」
「大丈夫だよ。アイツを捕まえんのは不可能だから」

不安そうに呟いたシャルロットに、ビッシュは軽く言った。
どうして断言出来るのか──それが分からずに、シャルロットはただ首を傾げる。



「……うん。だってボクはフェイク【嘘】だよ?今のこの姿が本物とは限らないじゃん」


後ろから聞こえた声に気付かぬフリをして、ビッシュは扉を開けた。