二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 80章 親子だからこそ、全力で ( No.153 )
- 日時: 2013/09/03 21:56
- 名前: 霧火 (ID: nYLbaC1V)
勢い良く振り下ろされた尻尾は水と共に弾き返された。
標的のカビゴン、その手によって。
「何で…!?カビゴンは確かに眠ったハズなのに…」
欠伸をしながら起き上がったカビゴンにリオは動揺を隠せない。
(木の実も無いのに、どうやって…?特性の中には眠りから直ぐに覚める物もあるけど、カビゴンがその特性なら
カゴの実を持つ必要は無いし)
百面相をするリオに、リマは口許を隠して笑う。
まるで悪戯が成功した子供の様に嬉し気に、得意気に。
「リオは私が起きたカビゴンに攻撃技を指示したと思っているみたいだけど、そうじゃないわ。
カビゴンに指示したのは《リサイクル》」
「リサイクル…」
復唱するリオだが、初めて聞く技で、その技にどんな効果があるのか見当もつかない。
それが分かったのかリマは《リサイクル》について説明する。
「効果は至ってシンプル。この技は自分が使って無くなった持ち物を、もう1度使える技なの」
「そっか…だからカビゴンの目が直ぐに覚めたのね」
納得するリオだが、内心は
(でもその技って《眠る》とカゴの実と合わせたら反則に近くない?)
…と思うのだった。
「解説終わり〜♪のしかかりGO〜」
「回避よ!地面に向かってアクアテール!」
倒れてきたカビゴンにリオは早口で指示を出した。
そのお蔭か、チラーミィは間一髪でカビゴンの巨体から逃れられた。
水の勢いを利用してチラーミィは後ろの木まで移動し、身を隠す。
「うふふ。隠れても無駄よ〜?木を揺さぶってチラーミィを落とすのよ〜」
リマは何かが蠢く様な、葉っぱが擦れる様な音がした木を指差した。
カビゴンが木を左右に揺らすとポケモンが落ちてきた。
『…カブッ!』
しかし木から落ちてきたのは青い身体に、スパナの様な角を持ったポケモンだった。
「あらあら…カブルモだったわ〜」
予想が外れた事に落胆した面持ちのリマ。
慌てて逃げて行くカブルモには目もくれず、リマは別の木を指差す。
(いくらお母さんのカビゴンが強くても、音だけでチラーミィの居場所を見付ける事は出来ないハズ)
チラーミィの居場所を確認してリオは声を張り上げる。
「スピードスター、発射!!」
リオの攻撃を指示する声にカビゴンは反応し、辺りを見回す。
そんなカビゴンの横っ面に奥の方から出て来た星形の光が命中した。
攻撃を終えたチラーミィは居場所を突き止められる前に別の木に移動する。
「…よし」
ダメージは小さいが、攻撃を受けたカビゴンは一瞬怯む。
その間に別の木に移動して再び攻撃、そして移動する。
時間は掛かるがこの戦法ならカビゴンにダメージを与えられるし、チラーミィも直ぐに戦闘不能になる事は無い。
(問題はカビゴンに《眠る》と《リサイクル》のコンボ技があるって事よね…長期戦になると、回復技も無くて
体力が少ないチラーミィが圧倒的に不利だわ)
これが普通のバトルなら別のポケモンに交代させるが、これは本格的な修行に入る前の、各ポケモンの実力を
見る為のバトルだ。
わざと交代せずに戦わせる事により、そのポケモンの長所や弱点、限界を知り、それを今後の修行で伸ばしたり
克服する──それがこのバトルの本来の目的だ。
そのポケモンの能力を知る為の練習試合。
実力や経験の差があるから負けても大丈夫。
等々、人によって様々な捉え方があるだろう。
しかしリオは今のバトルを大切な一戦として全力で臨んでいた。
(だから──)
「お母さん」
「何かしら〜?」
ふわふわした笑顔を向ける母に対し、リオは鋭い目を向けた。
初めて見るリオの目付きにリマは驚く。
「本気で私と、私のポケモン達と戦ってほしいの」
「戦ってるわよ〜?」
「ううん。お母さんはまだ本気を出していない。カビゴンにもう1つの技を指示しないのが証拠よ」
リオの指摘にリマは苦笑する──どうやら図星の様だ。
「駆け出しのトレーナーが何言ってんだって思うかもしれないけど、手加減されて喜ぶ私達じゃないわ。コレが
練習試合みたいな物だとしても全力で来てほしいの。それに……」
言葉を区切りリオはニヤリ、と笑った。
「お母さん、消耗戦とか長期戦って大っ嫌いでしょ?」
リオの言い方は迷いが無く、確信に近かった。
僅かな沈黙の後、リマが小さく吹き出した。
「うふふ。良く分かったわね〜」
「私もどちらかと言えばそういうの避けたいからね」
「リオにそこまで言わせちゃうなんて、母親失格だわ〜」
肩を竦めるリオに柔らかく笑って、リマは目を細めた。
「分かった。それじゃあ遠慮無く全力で行かせて貰うわ。その方がリオの為だし、お互い気持ち良く
終われるでしょう?」
静かに笑うリマはいつもと雰囲気が違っていて、リオは息を呑む。
「ありがとう。でも私達だってアッサリ負けるつもりは無いわよ?」
しかしそれ以上に母が本気を出してくれる事に喜びを感じるのだった。