二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 82章 人差し指の恐怖 ( No.156 )
- 日時: 2014/04/19 10:48
- 名前: 霧火 (ID: SjhcWjI.)
「お願い、バルチャイ!」
高々と投げられたボールから現れたバルチャイは上空から静かにカビゴンを見下ろした。
リマは太陽の光に目を細めながらバルチャイの姿を確認する。
「バルチャイね。身体が重くて飛べないカビゴンには強敵だわ」
口ではそう言っているが、リマの目と口許は笑っている。
これから始まるバトルを純粋に楽しみにしているのか、将又あまりにも手応えの無いポケモン達と、
必死なリオを嘲笑っているのか。
(絶対、一泡吹かせてやるんだから!)
どちらの意味の笑みか分からないが、リオの闘争心に火を付けるには充分だった。
「バルチャイ、風起こし!」
バルチャイが羽撃くと激しい風が岩場に吹き荒れた。
岩場に落ちていた葉や小さなゴミが飛び交う中、カビゴンは涼しい顔で風を受けている。
リマは顔にかかる髪を手で押さえて口を開く。
「残念、今は暑いからバルチャイの《風起こし》もカビゴンにとっては快適な扇風機になっちゃったわね」
「それはどうかしら」
即座に否定され、ムッとするリマ。
「お母さんなら分かるハズよ。岩場で強風が起こるとどうなるか」
「…カビゴン、涼むのは終わりよ。のしかかり!」
リマの静かで、鋭い声が響き渡る──が、カビゴンは攻撃の動作に移ろうとしない。
怪訝な顔をするリマだったが、飛んで来た物とカビゴンの手の動きを見て合点がいった。
「攻撃と同時に目潰しとは、随分とやってくれるわね」
飛んで来た小石を掴み、リマはリオを見つめる。
先程カビゴンが放った《竜巻》で木の枝や葉は落ち、地面は大きく削られた。
そして今、岩場には葉や枝の他に砂利や岩の破片が散らばっている。
そんな場所で相手がこちらに向かって《風起こし》をするとどうなるか──答えは簡単だった。
「《風起こし》は上に巻き上げる《竜巻》と違って横に吹き付ける技だからね。風で浮いた砂利や枝は
自然とカビゴンに向かうってワケ」
リマの視線はリオからカビゴンへと移る。
カビゴンは目に砂が入ったのか、ずっと目を擦っている。
「どう?疑似《砂嵐》の威力は。持続性は無いし真似事だけど効果は抜群でしょ」
「…そうね。リオはフィールドを使った戦略も得意だって事、すっかり忘れてたわ」
どこか嬉しそうに呟いたリマに微笑して、リオはカビゴンを指差す。
「カビゴンが怯んでいる今こそ、流れを変えるチャンスよ!騙し討ち!」
バルチャイは落ちていた葉を数枚咥えるとカビゴンの目の前まで飛んで行く。
そして葉を脚の上に落としてカビゴンがそちらに気を取られた隙にバルチャイの攻撃がカビゴンの後頭部に
鮮やかに決まった。
ちなみにこの瞬間、バルチャイのキレのある動きとハリセンで叩いた様な音に、2人が芸人宛らのツッコミだと思ったのは内緒である。
「指を振る」
カビゴンは目を瞑りながら指を振り始める。
最初の時より指が早く光った、とリオが思った時には既にカビゴンは家の前に移動していた。
一瞬《テレポート》が出てあそこまで移動したのかと思ったが、川で目の砂を洗い流して戻って来たカビゴンの
脚の速さに、リオは自分の甘い考えを笑った。
「《高速移動》…最悪な技が出たわね!」
「私達にとっては最高の技が出たわね♪」
2回目に出た技は《高速移動》──自分の素早さをぐーんと上げる技だ。
攻撃技は出なかったが、カビゴンの唯一の弱点と言っても過言では無い脚の遅さが改善されてしまった。
これでもう、リオのポケモン達はカビゴンから先制を取れなくなった。
「ガンガン行くわよ。もう1度、指を振る!」
カビゴンの指が青白く光る。
すると今度は岩場にあった比較的大きな石がバルチャイ目掛けて飛んで来た。
(あんな大きな岩、喰らったら一溜まりも無い!)
「下に向かって風起こし!」
バルチャイは風の勢いで急上昇、向かって来た岩を回避する。
岩は円を描く様に地面に突き刺さった。
攻撃を躱せた事にリオは安堵の溜め息を。そしてリマは、
口許を僅かに上へ動かした。
「…指を振る」
速く動くカビゴンの指にリオとバルチャイは身構える。
1回目、2回目の時よりも長い指振りに、リオの心臓の音は大きくなるばかり。
そして指の動きが止まり、青白く光った──と同時に、カビゴンが消えた。
(《穴を掘る》で地面に潜った?それとも《小さくなる》や《溶ける》で姿を見えなくした?)
リオは視線はリマに向けたまま、足と耳に神経を集中させて周囲を探る。
(地中と足元をカビゴンが移動してる様子は無いし、水の音もしない。聞こえるのは…)
「…上よ!!」
「遅いわ。《空を飛ぶ》で上昇してからの…のしかかりよ!」
リオ達が空を見上げた時には、カビゴンが両手を広げて急降下して来ていた。
「風起こしで躱「させないわ。翼を掴んで、そのまま叩き付けなさい」…なっ!?」
カビゴンは羽撃こうとしたバルチャイの翼を両手で掴み、そのまま落下する。
地面との距離はあと10m弱。
(あの速度で、翼を広げた状態でカビゴンと落ちたら……!)
リオはボールの標準をバルチャイに合わせて叫ぶ。
「戻って、バルチャイ!」
ボールから放たれた赤い光がバルチャイに当たる。
バルチャイの身体は光に包まれ、吸い込まれる様にボールの中へと入った。
カビゴンはその様子を横目で見てから大きく吸い込んだ息を下へ放出し、勢いを殺して地面に降り立った。
「…バルチャイは試合放棄という事で良いのかしら?」
「ええ。勝ちたいからってバルチャイの将来まで犠牲には出来ないもの」
「そう……良かった」
(え?)
嬉しそうに呟かれた言葉にリオは目を瞬かせる。
リマが何に対して「良かった」と言ったのか、リオには分からなかった。
「これでリオの最後のポケモンはヒトモシね。…だけど残念。この勝負、もう決まったわ」
しかし最後のバトルに集中すべく、リオはその疑問を頭の片隅に追いやった。
お久しぶりです。ストライキ大好きなPCに小説の一部を消されて、予定していた更新が
かなり遅くなった霧火です。
こんな有言無実行な自分の小説を待っていてくれる優しい読者様は、
果たして何人残ってくれているのかってくらい、更新遅くなってすみません…
絶賛《指を振る》回が続いていますが、実はこのカビゴンの《指を振る》で出た技は決して
ご都合主義ではなく、ゲームでカビゴンに《指を振る》を覚えさせてそのカビゴンが実際にチラーミィ達を相手に出した技です。
ご都合主義より、そっちの方が面白いので!
(…その所為で只でさえ遅れてる更新が、戦略と話の展開を作るの考えて更に遅れたなんて口が裂けても言えない)
※因みに延々と補助技ばかり出た場合は流石に電源を切ってやり直し。
そんなワケで今度はヒトモシ相手に指を振ってきます。
では、次回もお楽しみに!