二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 90章 クマシュンの弱点 ( No.170 )
日時: 2018/05/01 20:35
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

暗かった場所から明るい場所に出た。
瞼を通して光を感じて目を開けたと同時にリオの体はゆっくりと後ろへ傾く。


「わっ、わゎっ…!」

バランスを保とうと足に力を入れようとしたが、何故か足が動かない。
手でバランスを取りたいが腕にはバルチャイを抱えているし、疲れて動けないバルチャイを手放す事なんて
出来ない。

葛藤するリオ。しかし時間は待ってくれる筈も無く──リオの体は後ろへと倒れた。


「…っ」

次に来る痛みに備えて目を瞑り歯を食いしばったリオだったが、痛みは無く、
耳に届いたのはボスッ…という鈍い音だけだった。


(積もりに積もった砂がクッションの役目をしたみたいね)


髪に付いた砂を見て赤面する。
足が動かなかったのは砂に足を捕られていたからだし、倒れても問題なかったのに、1人慌てていた自分が
恥ずかしくなり無言で砂の中から出る。

冷静になったら急に靴の中に入った砂を感じて、些か気分が下降する。


「靴は後で良いわね。バルチャイ、羽休め」

真上から攻撃されては堪らない。
落ちて来た場所から少し離れた所でバルチャイを降ろす。
バルチャイは翼を畳んで深呼吸すると、回復に専念する為目を閉じる。

バルチャイの傷が少しずつ塞がり、目に活力が戻って来た──そう思った矢先、


「そのままずっと休んでて良いよ!冷凍ビーム!」

そんな叫びと共に先程まで居た場所から冷気が飛んで来た。
《冷凍ビーム》が下方に発射された事に気付き、リオはバルチャイのボールを掲げた。


「戻ってバルチャイ!」

瞬時にバルチャイを戻した事で《冷凍ビーム》は地面に当たり、バルチャイが居た場所を凍らせた。


「むむっ…!人の厚意は素直に受けないとダメなんだぞっ」
「その厚意で脚を氷漬けにされたくないも…のっ!」

不機嫌顔で歩いて来たAとクマシュンにそう返すと、用意していたボールを投げる。
ボールの蓋が開きクマシュンの前に現れたのはヒトモシだ。


「お願い、ヒトモシ!」

頷き返したヒトモシに親指を立てるリオ。
Aは傷が付いたクマシュンの身体を見た後に無傷のヒトモシを見る。


(ただでさえ熱くてクマシュン本来の力を発揮出来ないのに、相性最悪の相手と戦えるワケない!)


「火の用心だよクマシュン!一時退却!」

そう判断したAはパーカーの中からボールを取り出してクマシュンを戻そうとする。
しかしボールの赤い光──正確には赤い光の影がクマシュンの影と重なった、その瞬間。

赤い光は弾かれて、消えてしまった。


「戻せない!?」

初めて見る現象に驚きを隠せないAに、リオが簡単に説明をする。


「私のヒトモシの特性は【影踏み】。残念だけど一部の技や持ち物を持っていないポケモンは交代出来ないわ」
「ぐぬぬ…しまった!ボスの話をすっかり忘れてた!」
「ボス?」

Aが口にした第三者の存在に首を傾げる。
トレジャーハンターの世界の事はリオにはよく分からないが、AとCにはボスが居るのが分かった。
しかし同時に、何故今このタイミングでその名前が出たのか、という疑問が生まれた。


「こうなったらヤケだよ!傷口…は無いけど、染みちゃえ!塩水!」

詳細を聞こうとしたがAが早口に攻撃を指示して、クマシュンも鼻水をすすって塩水を噴射して来たので
リオも思考を切り替える。


「対抗して!目覚めるパワー!」

冷気を帯びた水色の球体が塩水とぶつかり、水は急激に冷やされて氷へと変わり、音を立てて地面へと落ちた。


「一方的に炙られて堪るかー!!染みちゃえ!塩水!」

出て来た鼻水を再度すすり塩水を噴射したクマシュン。
間一髪攻撃を躱したヒトモシを褒めながら、リオの中である可能性が確信へと変わった。


「目覚めるパワー!」

数個の球体全てがクマシュンの顔に当たったが、クマシュンには効果はいまひとつで、鼻水がカチコチに
凍っただけだった。


「ふっふっふ!残念、クマシュンには効果はいまひとつだ!」
「本当にそうかしら?」

意味ありげに笑ったリオにAは口を閉ざす。
リオの言葉にどんな意味が隠されているのかは気になるが、攻撃の手を緩める気は無い──そう結論づけて
Aは勢い良くヒトモシを指差す。


「いい加減決めるよ!染みちゃえ!塩水!」




 。


勢い良く言ったのは良いが、クマシュンは一向に攻撃しない。
自分の気持ちとは裏腹に動かないクマシュンにAは頬を膨らませる。


「もう!クマシュン、攻撃だってば!」
「やっぱりね」
「やっぱり?どういう事だリオ!」

「クマシュンは攻撃する前に必ず鼻水をすすっていて、次に繰り出される攻撃は全て口から出されていた…そこで
 私は鼻水が技の源になっていて、鼻水が喉を通り口の中に出る事で、初めて口から攻撃を出せるんじゃないかと
 思ったの。実際に技を出せないみたいだし、私の読みは当たっていたみたいね」

そう言い終えたリオは凍った鼻水をどうにかしようと奮闘しているクマシュンを見遣る──
少しだけ可哀想な事をしたと思うが、このバトルは普通のバトルと違って大人達の運命が懸かっている。

手加減は無用だと考え直した。


「ひっ、卑怯だぞ!」
「相手の行動を把握して利用するのも戦術の1つよ。弾ける炎!」

ヒトモシは火花を帯びた紫色の炎を放つ。
技を出せない上に凍った鼻水の重みで身体がふらついていたクマシュンは為す術無く全身で炎を浴びた。

バルチャイから既に攻撃を受けていたクマシュンは効果抜群の炎技を受けて、目を回してその場に倒れた。


「クマシュンはもう戦えないみたいね」
「おつかれ!寝てて、クマシュン」

クマシュンを戻したAはボールを手に取るが、別のボールに変えた。


「ここはリフォーム対象外だし、この子で勝負だよ!飛んで行くよ、チルット!」

Aはボールを持った腕を振り回し、その勢いのままボールを高く投げた。
Aの2番手はわたあめの様な、綿雲の様なふわふわした白い羽を持つポケモン──綿鳥ポケモンのチルットだ。


「待ってろー、リオ!このチルットで形勢逆転してやるんだから!」

自信満々に胸を張ったAにリオとヒトモシは警戒する。



一方その頃。



「まさかとは思うけどチルットは出してないよね、A…?この場所はあの子にとって物凄く不利な、最悪の
 ステージなのに」


ゴチミルの身体に付いた砂を払いながら、不安そうにCはそう呟いていた。