二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 93章 遊びの時間は、 ( No.174 )
日時: 2018/05/01 20:44
名前: 霧火 (ID: fjWEAApA)

「…子供の遊びに大人も人質もいらないわ」

笑顔のまま近付いてくるAに、リオは後退りしそうになる。
確かにAの言動からは子供らしさを感じた、けれど。
今のAからはそんな物は微塵も感じられない──感じるのは恐怖に似た、もっと別の【何か】だ。

あまりにも雰囲気が変わりすぎて、別人の様だった。
しかしリオは思いきり地面を踏み付ける事で、震えそうになった足と心を抑えた。
それを興味深そうに見つめてからAは口を開いた。


「そう!子供の遊びに大人が口を挟むのは野暮ってもんだ。AもCも、向こうが黙っていれば何もしなかった…
 本当だぞ?でも口煩いし酷い事をしてると知ったから、お仕置きで縛ったんだ」
「酷い事?」
「詳しい事はCか本人達に聞けば良い。それじゃ、遊びの続きしよっか!」

にっこり笑ってリオに背を向けると、Aはスキップ混じりでチルットの元へ向かった。
慌てて小走りで戻ってきたヒトモシを抱き上げると、その身体は震えていた。


「大丈夫よ、ヒトモシ。私が居るから」

ぎゅうっと抱き締めると小さな手が遠慮がちにリオの服を掴んだ。
そのまま暫く抱き締めていると落ち着いたのか、ヒトモシの震えが止まった。
リオはヒトモシの温もりを感じながら、昔の事を思い出していた。

抱き締める代わりに、こちらが望めばいつだって手を繋いでくれた事。
落ち込んだ時や頑張った時には必ず頭を撫でてくれた時の事を。


あの日以来、貰えなくなった優しさだという事も。



「チルット。チルットー?ドラゴンダイブ。ドラゴンダイブだってば」

Aの声でリオは俯いていた顔を挙げた。
視線の先には中腰のAが居て、笑顔でチルットの背中を押していた。
しかし一向に動かないチルットにAは笑顔のまま立ち上がった。


「ねぇ、これじゃあリオと遊べないよ。チルットもヒトモシと遊べないよ?良いの?」

目を逸らして頷いたチルットに、笑顔を崩さず顎に手を当て唸るA。
諦めるのかと思いきや、今度は大きくチルットの身体を揺らし始めた。


「泥なんて後でAが綺麗に落とすからっ!約束するからっ!!だから今は泥だらけの傷だらけになって思いっきり
 遊び尽くそうよっ!!!」
「ちょっと、いい加減に──」

笑顔を消し、目をカッと見開いて大声で叫ぶAにリオが口を開いた、その時。
1匹のメグロコがAの足元に現れ、Aが転んだ。


「ふぎゃあっ!?」

倒れた先に居たチルットが《コットンガード》でAを受け止めていれば問題無かったが、
白状にもチルットはAを避け、その結果Aはその先にあった泥の中に顔面ダイブした。


「……」

両手を使って顔を挙げて、ゆっくり振り返ったAに悲鳴をあげなかった自分とヒトモシ達を褒めたいとリオは思った。
Aの綺麗な髪はフードのお蔭である程度無事だったが、顔は真っ黒で歯も泥だらけ。
目も無事だったが、赤く光る目がこの状況だと不気味さに拍車を掛けていた。

Aは暫くメグロコを睨み付けたが、メグロコが地面を3回引っ掻くと目を逸らした。


「…分かったよ」

Aは唇を尖らせ渋々チルットを戻し、リオに背を向けた。


「すっかり忘れたてけどトレジャーバトルは宝を手にした物が勝者だから長々と遊ぶのは良くないんだった!
 宝が埋もれちゃったら困るし…遊びは終ー了ー!」
「な、」
「じゃあAは先に行っくねー!」

Aは言いたい事だけ言うと階段がある方とは真逆の、奥にある流砂に向かい、そのまま落ちて行った。
メグロコの姿もいつの間にか消えている。


「な、んなの?急に…」

メグロコに転ばされた途端に元に戻ったAにリオは暫し呆気に取られていたが、ずっと気になっていた事を
確認する為、1度上の階に戻る事にした。



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「宝は見付かった?」

そう問い掛けて来たCにリオは首を横に振る。
Cは「そう、」と短く返してリオが来た方向──段差の先にある階段を見る。


「下の階は広いもん。探すのに一苦労でしょ?」
「そうね。下に宝が隠されているなら、確かに探すのは大変だわ」
「喉渇いてる?水、飲む?」
「大丈夫よ。ありがとう」

水を差し出したCにそう断ってから未だ拘束されている人達を見遣る。


「私よりも、あの人達に水を飲ませてよ。もう騒ぐ気は無いみたいだし、それに…これ以上あのままなのは
 可哀想よ」

この遺跡は砂漠に建っている。
建物の中と言っても蒸し暑くて喉が渇くのに、口を塞がれていては大事な水分すら補給出来ない。
これ以上あの状態が続くと命が危うい。

Aとのバトルに集中しすぎて時間を多く使ってしまった事を悔いていたから出た意見だったのだが、
Cはリオの言葉に数回瞬きをして、首を傾げた。


「可哀想?あの人間達が?リオは面白いけど変わった事を言うね」

まるで理解出来ないとばかりに目を瞬かせたCにリオは絶句する。
急に黙ったリオに構わずCは続ける。


「C、知ってるもん。あの人間達が生態系を調査する為と言って、此処に住む子達を捕まえて虐めている事を。
 観光名所だと言って住処をズカズカと踏み荒らすのを黙認しているのを良い事に…皆そっとしておいて
 ほしいのに…そんな連中に同情の余地は無いもん」

無表情で淡々と言うCだが、その目は大人達を嫌悪している様に見える。


(あの人達も限界が近い。一か八か、勝負に出よう。私の考えが間違っていれば、Aの勝利はほぼ確定。
 でも当たっていれば私にも勝機はある!)


リオは天井を見つめ、ゴチミルを見つめ──そしてCを見て、口を開いた。

遊びの時間は、あと少しで終わる。