二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 8章 サンヨウシティ 三つ子のジムリーダー登場! ( No.20 )
日時: 2020/06/23 21:40
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

サンヨウシティ。

雪除けの階段は住み着いた人が故郷を思い、付けたとされている。
ちなみにサンヨウとは3つ並ぶ星の事を言うらしい。
……だからと言って3つ星レストランは無さそうだが。

リオとアキラは、そんなサンヨウシティのポケモンセンターの中に居た。

「うっ……まだ、世界が、回ってやがる…………」
「だから言ったじゃない、キツかったらすぐに言えって」
『イッブイ!』

ソファーに仰向けの状態で横になっているアキラに、少し怒りながらもせっせと介抱するリオと
情けない姿を見せる自身のトレーナーの額を不機嫌な顔でぺしぺし叩くイーブイ。
因みに2人を送り届けたエアームドは、サンヨウシティに着いた途端に真っ青な顔で背中から
転げ落ちたアキラに申し訳無さそうな顔をしていたが、リオに「私が看るから大丈夫よ」と言われ、
リオとアキラを交互に見た後にお辞儀をして帰って行った。

「リオ、お前よくあのスピードの中で平然としてられたよな……途中欠伸とかしてたろ」
「私は慣れてるから。それにエアームドも叫びっぱなしのアキラを気遣って、何時もより大分
 スピード落としてくれてたからね」
「あれでか!?」

(あ、復活した)

「落ち着きなよアキラ」

ガバリと勢いよく上体を起こしたアキラの肩を軽く叩いて落ち着かせる。
未だ本調子では無いアキラは力無くソファーの肘掛けに肘を乗せると、そのままずるずると
全身を伸ばしながら再び仰向けになった。
リオはそんなアキラを暫し見つめた後、旅立つ前日に買った美味しい水をアキラの前にある
テーブルの上に置いて立ち上がった。

「暫くじっとしてて。ジョーイさんから冷却タオル貰って来るから。他に欲しい物はある?」
「……俺の事は良いから、先にジム挑戦しに行って良いぞ。俺は新しい仲間をゲットして
 レベルを上げてから挑戦すっから」

ヒラヒラと手を振るアキラの声は、エアームドに乗る前と比べて元気が無い。
イーブイはアキラの隣に移動するとその場でくるくる回り、くぁ……と欠伸をした後に
身体を丸めて寝始めた。

「ジョーイさんとイーブイが居るから心配無用だろうけど、ホントに大丈夫なの?」
「リオがどうしても俺の傍に居たいってんなら居てm「そうやって軽口叩けるなら大丈夫ね。
 あ、すみませんジョーイさん!冷却タオルってありますか?はい、1つで大丈夫です。
 忙しいのにありがとうございます。ほら、良かったわねアキラ。冷却タオル貸して貰えたわよ。
 それじゃあ私は先に行ってるわね」……つれねぇヤツ」

ジョーイさんから受け取った冷却タオルを唇を尖らせるアキラに渡し、ポケモンセンターを出る。
そしていざジムへ向かおうとしたら、自分と大して歳が変わらなそうな
(しかし落ち着いた佇まいから恐らく年上だ)緑色の髪にウェイターの格好をした少年が
入口の前に立っていた。

(何してるのかしら?)

中に入るワケでも無く、ただじっと門番の様に入口の前に立ちはだかっている。
これではジムの中に入れない。
正直、ジムに挑戦しに来たリオにとってはかなり邪魔だ。

(戻ってアキラの介抱の続きをしようかな?いやでも、今戻ると絶対からかわれる)

考えた末、リオは少年に声を掛ける事にした。

「あの……貴方は?」
「……え?僕はこの街のジムリーダーですけど、君は?」

(まさかのジムリーダー!?)

こう言っては失礼だが格好的にジムにレストランの宣伝をしに来た見習いか、ジムリーダーが
ジムを空けている間に留守を任されてしまった、不運な喫茶店の少年か何かだと思っていた。
つまりリオはこの少年をジム関係者だと全く考えなかったワケだが、まさかガッツリ関係者——
しかもジムリーダーだったとは。

予想外の展開に内心驚きつつ、リオは自己紹介をする。

「私、リオって言います。少し前にこの街に着いて、ジムに挑戦しに来ました」
「そうですか、ジムに挑戦……」

そこで緑色の髪の少年は顎に手を当てて何やら考え込む。

「あの、ジムは今日お休みですか?」
「いえ、そういう訳では無いんです。ところでリオさん。最初に選んだポケモンは何ですか?」
「え?何って……」

突然の少年の質問にリオは答えるのを躊躇う。

優しくて人が好さそうな少年には悪いが、今から戦う相手に手の内を明かす様なマネはしたくない。
そんなリオに気付いたのか、少年は眉を八の字にして苦笑する。

「……すみません。ジムに挑戦しに来た人には必ず訊くように言われてて」

(ジム特有のルールかしら?なら、ちゃんと答えないとダメよね)

「そうなんですか。私の最初のポケモンはヒトモシです」

リオは1人納得すると、躊躇っていたのが嘘の様に素直に答える。
ポケモン絡みのルールは意外にちゃんと守るリオであった。

「ヒトモシか……成る程、水タイプが苦手なんですね」
「確かに苦手だけど、相性だけで決まらないのがポケモンですよ」
「!……フフ、そうですね。ですが、念の為対策をしておいた方が良いと思いますよ。
 例えばこの先にある【夢の跡地】でポケモンを鍛えるとか」
「アドバイスをありがとうございます」
「いえ。それでは中で待っていますね」

笑顔でそう言い残し、少年は綺麗な扉を押し開けてジムの中へと消えて行った。

「対策、か。とりあえず少し鍛えようかな」

(ヒトモシに覚えさせたい技もあるし)


リオはモンスターボールを手に取ると【夢の跡地】と呼ばれる場所へ向け、歩いて行った。


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「……うん、こんなものかしら」

【夢の跡地】で鍛え始めて早1時間。
無事にヒトモシが新しい技を覚えて満足したリオは体力を回復させる為と、ついでにアキラの今の
状態を確認する為に1度ポケモンセンターへ足を運ぶ事にした。
中に入るとグロッキー状態だったアキラの姿は既に無く、ヒトモシの回復を待ちながら
ジョーイさんに尋ねると、ジョーイさん曰く数分前にイーブイと共に外に出て行ったらしい。

アキラが元気になった事に一安心して、リオはジョーイさんにお礼を言って回復を終えた
ヒトモシをボールに戻して、再びポケモンセンターを出た。


「あ、アキラとイーブイ。……と、誰?」

ジムの前でアキラとイーブイ、そして赤い髪の見知らぬ少年が何やら話していた。

(格好はさっきのジムリーダーの人と同じだから、ジム関係の人?でも、格好が同じでも
雰囲気が全然違うわね)

先程の物静かなジムリーダーを静かな草木と例えるなら、アキラとイーブイを見て大きな口を開けて
話している少年は噴火した火山の様だ。
つまり、暑苦しい。

リオが分析していると一通り話し終えたのか、赤い髪の少年はジムの中に入って行き、
こちらに気付いたアキラとイーブイが早歩きで向かって来た。

「聞いてくれよ!今の赤髪、俺のポケモンを訊くまでは機関銃みてぇに喋ってたのに、
 俺の最初のポケモンがイーブイだって答えた途端、急に何も言わずにジムん中に
 入ってったんだぜ!?質問しといて何のリアクションも無ぇとか失礼なヤツだよな!?
 赤い髪のヤツは皆あんな生意気なのか?」
「あんたも赤髪でしょ。……アキラは今から【夢の跡地】に?」

リオが聞くとアキラは険しい表情を一変させて、満面の笑みを浮かべる。

「ああ。ジムに挑戦する前にポケモンセンターの隣にある【トレーナーズスクール】で
 基本的な事を復習出来たし、街の人の話を聞いてゲットするポケモンも決まったしな!
 リオは今からジム戦か?」
「うん。コンディションはバッチリよ!」
「頑張れよ。試合は最初から最後まで見れねぇけど、出来るだけ応援に行ける様に準備を終えたら
 すぐそっち行くからな!絶対負けるんじゃねぇぞ?良いか、絶対だぞ!?」

アキラは拳を握り早口で捲くし立てると(なんだかフラグが建つ言葉が聞こえた気がする)、
そのままイーブイと一緒に【夢の跡地】へ走って行った。
後姿を見送り、リオは目の前の建物——ジムを見上げる。

「イッシュ地方には、こういうジムが他に7つあるのよね」

初めてのジムに、らしくも無く緊張する。

トレーナーになる前は、早く大きくなって各地のジムや景色を見てみたいとか、沢山のトレーナーと
戦って良きライバルや友達になりたいとか、ジムリーダーと戦ってバッジをゲットしたいとか、
叶うなら四天王やチャンピオンと最高の舞台で全力でぶつかって、どんな結果になっても
最後にはヒトモシと、これから先出会う仲間達と共に「最高のバトルだった」と、心の底から
笑い合える強いトレーナーになりたいとか……

良く言えば前向きな、悪く言えば強欲な事ばかりをずっと考えてきた。


緑髪の少年をジムリーダーだと知る前は、ジムの入口前に門番の様に立っている彼を
邪魔だと思ってしまったし、ジムリーダーだと知った後も心に余裕があった。

こんな、喉が渇いて体が強張る様な形でジムを見た事なんて無かった。


「……ふぅ。よし、行きますか」

リオは深呼吸をしてジムの階段を上がる。
幼馴染であり最高のライバルであるアキラが応援してくれたんだ、何時までもビビって棒の様に
突っ立っているワケにはいかない。
ジムの綺麗な扉をゆっくりと押し開け、リオはジムの中へ足を踏み入れた。

「ようこそ!こちら、サンヨウシティ・ポケモンジムです」
「!」

照らされたステージの上に立っていたのは赤い髪、青い髪、緑の髪をした3人の少年。
その中にはリオがジムの前で会ったジムリーダーと、アキラと話していた少年も居る。

「オレは炎タイプのポケモンで暴れるポッド!」

赤い髪の少年——ポッドが親指で自分を指す。

「水タイプを使いこなすコーンです。以後お見知り置きを」

青い髪の少年——コーンは深々とお辞儀をする。

「そして僕はですね、草タイプのポケモンが好きなデントと申します」

そして緑色の髪の少年——デントは柔らかく笑う。


「あのですね……僕達はですね、どうして3人居るかと言いますと……長くなるんですが、
 あn「だーッ!じれったい!オレが説明するッ!」

デントのゆっくりした喋りに我慢出来なくなったのか、デントを押し退けてポッドが前に出る。

「オレ達3人は!相手が最初に選んだポケモンのタイプに合わせて、誰が戦うか決めるんだッ!」
「つまりデントさんだけじゃなくて全員ジムリーダー!?」
「そうなんだよね。そして貴女が最初に選んだパートナーはヒトモシ……つまり、炎タイプなんだよね」

以前母であるリマから、数年後に息の合った双子のジムリーダーが現れるかもしれない、と
別地方の話を聞かされて驚いた事があったが、まさか最初に双子以上の……三つ子のジムリーダーが
存在するジムに挑戦する事になるとは。

驚愕するリオにコーンは一息置き、歩み寄る。


「そう!水タイプを愛するこのコーンがお相手します!」

先程のクールな印象はどこへやら、高々と宣言するコーンを見て、

(面倒臭そうな人だなぁ……)

緊張と驚愕で硬くなっていた表情が一変、リオはこれから始まるバトルに色々な意味で不安を感じて
苦笑するのだった。