二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 20章 シッポウシティ ナチュラル ボーン ママ登場! ( No.43 )
日時: 2020/07/26 16:04
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

リマvsマオの親子対決は、母親のリマの勝利で幕を閉じた。
そして4人はシッポウシティまで移動し、リオとアキラは2人を見送ろうとしていた。


「お母さんもお姉ちゃんも良いバトルだったわ!私、興奮しちゃった!」
「うふふ、ありがとう。2人はこれからジム戦よね?頑張ってね」

興奮気味に握り拳を作る娘を、微笑ましく見るリマ。
そんな母に負けず劣らずの笑顔で返事をしたリオだったが、誰かに鼻で笑われた事に気付いて
その人物を捜すと、案の定笑っていたのは姉のマオだった。

「ふん。それなら良いバトルを見せてあげたのだから、見学料として1人5000円払って貰おうかしら」
「Σごっ、ごせっ……!?」
「もう、マオったら。あまりイジワルしちゃ駄目よ」

邪悪な笑みを浮かべて掌を出すマオと、姉の言葉に固まるリオ、マオを注意しながらも
笑顔を絶やさないリマ。

そんな3人を遠くから見守っていたアキラは、肩に乗っているイーブイを撫でる。

「イーブイ。俺、マオさんを誤解してたよ」
『ブィヤー?』

突然の言葉にイーブイは不思議そうにアキラを見る。

(ドレディアの頭の花は手入れを怠るとすぐ枯れちまう。仮に手入れを毎日やっても、
少しの環境の変化やメシの味、疲れとかで大体色が燻んで、本来の美しさを保つのは難しい。
でも、マオさんのドレディアの花は見惚れるくらい綺麗で……あんな綺麗に咲いてるって事は、
マオさんがドレディアを本当に大切にしてる証拠。滅茶苦茶プライド高ぇ人だからポケモンにも
厳しいのかと思ってたけど、そんな事は無かったんだな。リマさんとのバトルに負けても
特に変化は無ぇし……リオを心配させるような事言ったけど、俺の思い過ごしだったみてぇだな)

「万が一アンタ達がジムバッジを全部集めて四天王を倒したら、チャンピオンになった私が
 潰してあげる。覚悟する事ね」
「じゃあね2人共。家の近くまで来たら顔見せるのよ〜」

そう言ってマオとリマはポケモンに乗って飛び去っていった。

「じゃあ俺達もジム戦しに行くか!」
「そうね!……ところでジムって一体どこにあるの?見た限り無さそうだけど」
「えーと、ジムは……あった。ここみてぇだな」

アキラが指差した先にあったのは、シッポウシティに着いた時からその存在を主張していた
大きな博物館だった。

一瞬冗談かと思ったリオだったが、ジムも一緒に経営しているならこの大きさも理解出来る。

「大きな博物館だとは思ってたけど、まさかジムも兼ねてたなんてね」
「パンフレット見ねぇと分からねぇよな。初めて来たトレーナーとか、ジム探して
 街中駆け回りそうだよな!」

楽しそうに笑うアキラに適当に相槌を打って中に入ると、大きな骨がリオ達を出迎えた。
その大きさと迫力に2人は圧倒される。

「……大きいわね。それになんだか綺麗」
「ドラゴンタイプの骨格だな。どことなくカイリューの骨格に似てるな」
「君達、見る目がありますね!!」
「あ?」
「え?」

興奮気味の声に驚いた2人が声が聞こえた方を見ると、階段を上がった先に眼鏡を掛けた
優しそうな男性が立っていた。

「何だ男かよ」

面倒臭そうな顔で呟くアキラの横腹を軽く肘で突き、リオは早足で来た男性に会釈する。

「えっと、貴方は?」
「これはこれは、自己紹介が遅れました!わたくし、副館長のキダチという者です」

お辞儀をした後にニッコリと笑うキダチ。
自然に差し出された手を握り、リオも笑顔で自己紹介をする。

「私はリオっていいます。今日はジムに挑戦しに来ました」
「……アキラです。俺もジム戦しに来ました」

笑顔で対応するリオとは対照的に、アキラは相手が男だからか、やはり愛想が良くない。
しかしそれに機嫌を悪くする事なく、握手を終えたキダチはリオの両肩をガシリ、と掴んだ。
驚きでリオの肩が微かに跳ね、アキラの片眉が上がる。

「折角いらしたのですから、わたくしが館内を案内しましょう!」
「え!?あの、私達は先にジム戦を、」
「いやはや……女性で、しかもこの年から化石の良さが分かるとは感心感激です!」
「確かにポケモンの化石とか骨とか、ポケモンに関する事には興味がありますけど、」
「そうですか!ポケモンの化石は勿論、隕石等の興味深い展示物も沢山あるので是非それ等も
 見て行って下さい!」
「ま、また今度、時間がある時に見て良いですか?」
「大丈夫です、時間は掛かりませんから!」

人の話を聞いている様で全く聞かないキダチにリオが困っていると、アキラが前に出て
キダチの肩をぐっと押し退けた。
必然的にキダチの手もリオから離れる。

「キダチさん。俺、化石とかすごーく興味あるんすよ。俺に館内を案内して下さい」
「え、でもリオちゃんにも案内を……」
「  い  い  で  す  よ  ね  ?  」
「…………はい」

有無を言わさないアキラの威圧的な笑顔にキダチは冷や汗を流す。
しかしすぐに気を取り直しリオの方を向く。

「階段を上がった先がジムとなっております。1番奥で強くて優しいジムリーダーが待ってます。
 因みに、ジムリーダーのアロエはわたくしの奥さんなのです」

最後の一言で一気に頬が緩んだキダチを見て、

((惚気か!))


2人が心の中で突っ込んだのは言うまでもない。


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「いらっしゃい!挑戦者かい?」

終わりの見えない会話に終止符を打って助けてくれたアキラにお礼を言い、アキラに強引に
引き摺られて行くキダチを複雑な気持ちで見送って奥に進むと、色黒で大柄な女性がリオを
笑顔で出迎えた。

この人がジムリーダーだと、リオは直感で分かった。

「はい、リオって言います。アロエさんに挑戦しに来ました」
「あははっ!リオ、アンタは運が良いね!」
「え?」

口を大きく開けて豪快に笑うジムリーダー……アロエに、リオは首を傾げる。

「本来挑戦者には本の問題と仕掛けを解いて、あたしが居る部屋に来て貰うんだけどね……
 見ての通り、今日はここにある本を綺麗にして入れ替える、年に1度の特大・大掃除の日なんだ」

そう言われてみれば脚立に乗って本棚から本を取り出す人、同じ様に脚立に乗って空になった
本棚の上と中の埃を箒と掃除機で取り払い雑巾で拭く人、下に落ちた埃をゴミ袋に入れる人、
新聞紙の上に本を広げて扇風機を当てている人、洗剤と消しゴムと紙やすりを使って本の汚れや
黄ばみを落としている人、本をパラパラと捲って選別して仕分ける人、新しい雑巾とゴミ袋を
持って回る人等々……沢山の人が忙しなく動いていた。

「掃除中の皆の邪魔をするのも、掃除中だからって挑戦者のアンタを追い返すのも気が引ける。
 だから仕掛けを解かずに、このままあたしとバトルして貰うよ。ついておいで」

アロエと一緒に地下へと続く階段を下りると、少し薄暗い部屋に辿り着いた。
部屋にはガラスショーケースが2つと、階段を上がった場所には大きな机と本棚があった。
恐らくアロエはこの地下で館長の仕事をしているのだろう。

「ここでバトルをするんですか?」
「ああ。どうしたんだい、そんな不安そうな顔をして」
「……バトルでガラスが割れて中の物が壊れたり、本が飛んで破れないかな、と」

ガラスショーケースの中には何かの骨と研究資料が入っており、どのくらい価値があるのか
リオには分からないが、地下にこうして大事に保管されているのだから大切な資料なのだろう。
奥にある本も先程見た大量の本よりも古びていて分厚く、難しいタイトルが書かれた物ばかりで、
貴重な資料だと分かる。

或いは思い出の品だから地下の、自分の目の届く場所に置いてあるのかもしれない。

(どちらにせよ、資料に傷と折り目の1つでも付けたらアロエさんに申し訳無い……!)

「大丈夫だよ」

リオの不安を払拭する様にアロエは笑うと、リオに背を向けて階段を上がった。
そして壁に掛けられたジムの入口で見る像と同じ形が描かれた絵をグッと押すと、音を立てて
ガラスショーケースと机と本棚が床下や壁に収納され、障害物が無くバトルをするには充分の
スペース……バトルフィールドが出来上がった。

「凄い、こんな仕掛けが……」
「これで思う存分暴れられるだろう?」

お茶目にウインクしたアロエにリオは胸に手を当て、大きく息を吐きいた。

「良かった〜!これでアロエさんの物を傷付けずに済む……」
「プッ……あっはっはっはっは!」
「!?」

突然大笑いをしたアロエにリオは肩を揺らす。

(今日は驚いてばかりね、私……)

リオはドキドキと脈打つ心臓を落ち着かせながらアロエの言葉を待つ。
リオの視線に気付いたアロエは片手を挙げて「笑ってすまないね」と軽く謝罪をして話を続ける。

「博物館をジムだと気付かない挑戦者は結構多くてね。ジムを探して走り回って、漸くジムに
 着いたのに仕掛けを解かなきゃジムリーダーに挑戦出来ない。しかもわざわざ脚立を使って
 本棚にある本を調べなきゃならない……その所為か、仕掛けを解いて地下に来る挑戦者は
 疲れているか、あたしに対して苛ついている子ばかりだったんだ。過去にはリオみたいに
 すぐにジムを見付けて、仕掛けを解かずにあたしに挑戦出来たトレーナーも数人居たが、
 今日中に次の街に行きたいからとか、この後ゆっくりしたいからとか……色々な事情があったが
 早くジム戦をしようと急かす子ばかりだった」

ふっと笑い、アロエはリオの頭をわしゃわしゃと撫でる。
その力強さにリオは抵抗も何も出来ず、ただされるがままだ。

「まさか、この部屋の仕掛けに大きな目を真ん丸にして驚いてくれるだけじゃなく、
 あたしの研究資料と論文の心配までしてくれるなんてね。こんな面白い挑戦者は初めてだ」
「アロエさん、髪が!髪が爆発します!」
「ああ!すまないね」

やっとナデナデから解放されたリオは安堵の溜め息を吐いた。
しかしアロエ本人が至極嬉しそうなので文句を言う気にはなれなかった。
髪はバトル後にいくらでも整えられるので、とりあえずそのままにしておく。

「さて、と。審判の方はどうしようかね」
「ふむふむ、成る程。では審判は私が勤めましょう」

顎に手を当てて考え込むアロエの近くに歩いて来たのは黒髪で眼鏡を掛けた白衣の女性。

「ああ。旦那は博物館の方に行っちまったからね……悪いけど頼むよサトミ」
「はい。それではシッポウジム、ジム戦を始めます。使用ポケモンは2体。先に2体共、
 戦闘不能になった方が負けです。ポケモンの交代は挑戦者のみ認められます。
 では両者、ポケモンを!」

「それじゃあ、あたしからお披露目と行くよ!出て来な、ハーデリア!」

アロエが繰り出したのは顔に髭が生え、背中の黒いマントが特徴のヨーテリーの進化系──忠犬ポケモンの
ハーデリアだ。

「じゃあ私は……行くのよ、シビシラス!」

それに対してリオの先発はシビシラスだ。

「リオ、愛情込めて育てたポケモンでどんな戦い方をするのか……研究させて貰うよ!」
「望む所です!」


リオとアロエのバトルが今、始まる。