二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 24章 虫の王子様と新たな仲間 ( No.49 )
- 日時: 2020/07/28 21:32
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
(どうすれば……)
リオはどうすればこの状況を打破出来るか考えていた。
助けを呼ぼうにも、ここは町から離れた森の中、きっと大声を出しても届かない。
考えている間にも自分を取り囲むポケモンの数は増えていく。
そして、奥から他のポケモンを掻き分けて1匹のポケモンが出て来た。
茜色がかった頭に緑色の体、小さなムカデのような姿。
ムカデポケモンのフシデだ。
フシデはポケモン達とリオを見渡すと、のそり、のそりと這ってリオに近付く。
靴の上にフシデが乗り、触覚が当たってリオの緊張が高まった──その時。
「《葉っぱカッター》!」
どこからとも無く無数の葉っぱが飛んで来て、リオの動きを封じていた糸を切り落とす。
解放されてホッとしたのも束の間、体勢が崩れて倒れそうになったリオの体を後ろから
包む様に支えたのは、パーマがかった髪に緑を基調とした服装、そして蝶のベルトが特徴的な
顔立ちの整った男性だった。
「あ、貴方は?」
「ん?ボクかい?ボクの名はアーティ。虫ポケモンに純情ハートを奪われた男さ!」
「は、はぁ……そうなんですか」
正直「純情ハート」が何なのか理解出来なかったが、今自分を支えている彼が拘束を解いて
絶体絶命だった状況を変えてくれた事に変わりは無い。
「アーティさん。助けていただき、ありがとうございます」
立ち上がりアーティと向き合ってお礼を言うリオに目尻を下げ、アーティが手を伸ばした。
リオの汗で頬に張り付いた金色の髪にアーティの長い指が触れ、そのままリオの耳に掛けられる。
「なに、礼には及ばないよ。ボクはただ、囚われのお姫様を救い出しただけだからね」
『……』
「お、お姫様って」
自分には似合わない甘い言葉に恥ずかしさ半分、困惑半分でアーティを見上げる。
アーティの足元で無言で頷くのは、葉っぱを着込み、ジト目が魅力的な葉籠りポケモンのクルマユ。
先程の《葉っぱカッター》は、このクルマユが繰り出した技らしい。
「ここ最近、変な連中がこの辺りをウロウロしてるみたいなんだ。虫ポケモンはデリケートだからね。
自分達の住処を散策されて、皆気が立ってるんだ」
「変な連中……」
「変な連中」と聞いて、以前戦ったサパスとマアトが頭に浮かんだが、すぐに頭を振る。
アーティとクルマユの登場に怯んでいたポケモン達が、再びリオ達を囲み始めたからだ。
「さて。ここはキミを連れてこの場を突破したい所だけど」
「だけど?」
「正直、この数のポケモンを相手にするのはちょいと骨が折れるんだよねえ。キミ、ポケモンは
持ってるかい?」
「それが……チュリネの《眠り粉》で私のポケモン達は皆寝ちゃったんです」
「成る程。やっぱり空気中に漂っていたのは《眠り粉》だったんだね」
【ヤグルマの森】は風が吹き難いのか、ヒトモシ達を眠らせる時に使った《眠り粉》は
今も尚、辺りに漂っている。
その所為でリオとアーティ、そしてクルマユは口と鼻を抑えるしかない。
特にクルマユは包まっている葉っぱの片方で口を抑えているので、バトルに支障が出るだろう。
(空気中に漂っているこの粉をなんとか出来れば……!)
──カタリ。
その時、リオのリュックが小刻みに揺れ始めた。
逸早く動いているのがタマゴだと気付いたリオは、肩から外したリュックを地面にそっと置き、
片手でリュックのファスナーを開けてケースからタマゴを取り出す。
カタ、カタ。
カタカタカタカタ……
タマゴは一定のリズムで動いていたが、その動きは段々早まり、やがてタマゴが音を立てて割れ始めた。
パキッ、パキパキパキ……
「生まれるっ……!」
タマゴが完全に割れると同時に、眩い光が森を照らす。
そして光が消え、姿が徐々に現れる。
『ラーミィッ』
薄い灰色の体に大きな耳とフサフサした尻尾、そして可愛らしい目。
リオの腕の中に居たのは、チンチラポケモンのチラーミィだった。
「チラーミィ……」
家の周りで野生のポケモンがタマゴを抱え、子が孵る瞬間を何度か遠目で見た事はあった。
しかし、こうして間近で——腕の中でポケモンが誕生するのを見れたのは初めてだ。
感動していたリオだったが、すぐに今の状況を思い出してチラーミィを抱き上げる。
「生まれたばかりのあなたを、いきなりこんな危険な目に遭わせてごめんなさい……でもお願い、
どうか私達に力を貸して!」
『ラーミィ!』
リオの言葉に頷くと、チラーミィは腕から下りると、瞳に闘志を込めてポケモン達を睨み付ける。
「ありがとうチラーミィ!」
「リオちゃん。ボクとクルマユはあのフシデと戦うよ。多分あのフシデはこの森のボスだ。
彼を倒せばこの場を切り抜けられるかもしれない」
「分かりました。お願いします!」
リオとチラーミィはアーティに背を向け、目の前に立ち塞がるポケモン達を見据える。
チラーミィの初陣にしては、あまりにも難度が高いが……
(私が目となってチラーミィを支える!)
「行くわよチラーミィ!クルミルに《くすぐる》!」
チラーミィは素早くクルミルの後ろに回り込むと、尻尾でクルミルの背中と頬をくすぐり、
攻撃と防御を下げる。
『ミルルー!』
くすぐり地獄から解放されたクルミルは、口から粘着性の糸を吐き出す。
「《糸を吐く》ね。チラーミィ、右に避けて《アンコール》!」
右にジャンプして攻撃を躱すと、チラーミィは盛大に拍手をする。
クルミルは呆気に取られるがすぐに攻撃に移る──しかし、口から出たのは又しても《糸を吐く》。
自分の意志と関係無く出る糸に、クルミルは困惑する。
「《アンコール》は相手が最後に使った技を3ターンの間、ずっと出させる技よ。だから貴方は暫く
攻撃に移れないわ……《往復ビンタ》!」
チラーミィは両手と尻尾を使い、クルミルの頬をビンタする。
《くすぐる》で防御を下げられて、攻撃手段も封じられたクルミルはビンタが終わると同時に
目を回して倒れた。
『クルル!』
間髪入れずに、木に登っていた別のクルミルが鋭い葉っぱを無数に飛ばす。
「右上から攻撃が来るわ!チラーミィ、大きく後退!」
チラーミィはリオの指示通りに後ろへ跳ねて《葉っぱカッター》を躱すと、今度は上に
ジャンプして尻尾に渦状の水を纏わせる。
『ラー……ミィッ!!』
そして尻尾を上げて水を四方八方に放出し、木に登っていたクルミルと前に居たチュリネと
モンメンを弾き跳ばした。
(これは、アクアテール!)
タマゴから生まれて来るポケモンは、親の技を受け継いで生まれる事がある。
チラーミィが使った《アクアテール》は、きっと親から受け継いだ物なのだろう。
「よし、これなら!チラーミィ、尻尾にもっと大きな渦状の水を纏わせて!」
チラーミィは尻尾を左右に振り、渦状の水を纏わせる。
その渦は段々と大きくなり、フラフープ程の大きさにまで達する。
(《眠り粉》は確かに強力。でも、植物の種やシャボン玉みたいに粉も空気の流れに乗って飛ぶ物……
それなら空気中に漂っている粉はチラーミィの尻尾に引き寄せられるはず。《アクアテール》は
水と一緒に、空気も渦状に纏わせるから!)
リオの理論を証明する様に、空気中を漂っていた粉は突然発生した空気の流れによって、
全て引き寄せられた──チラーミィの尻尾の周りに。
「アーティさん!」
「よぉし、これで思う存分戦える!クルマユ!《虫のさざめき》!」
クルマユが葉を擦り合わせ、音波を起こす。
それに対してフシデは耳を塞ぎたくなる程の高音の音波を発する。
2つの音波はぶつかり合い、木々を、水面を揺らした──