二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 25章 クルマユvsフシデ ( No.50 )
- 日時: 2020/07/28 22:02
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
拮抗していた2つの音波は徐々に弱まり、やがて消え去った。
「《嫌な音》で《虫のさざめき》を相殺するなんてやるねえ。クルマユ、次は《草笛》!」
クルマユは葉っぱを口に当て心地好い音色を奏でる。
しかし危険を察知したのか、フシデは地中に潜って《草笛》を躱すと、毒素を込めた尻尾を
クルマユ目掛けて振り下ろす。
フシデの《ポイズンテール》だ。
「それなら……《糸を吐く》!」
クルマユは粘着性の糸を吐くが……
「何で糸を自分に?」
クルマユは糸をフシデに吐き出さず、なんと自分自身に巻き付けたのだ。
糸に包まれ、目だけ出ているその姿はホウエン地方に居る某サナギポケモンの様だ。
リオはアーティの意図が分からずに困惑する。
だが、すぐに答えが分かった。
『!』
クルマユに尻尾を振り下ろしたフシデだったが、体に触れた瞬間に尻尾が糸にくっ付き、
身動きが取れなくなってしまった。
攻撃を受けたクルマユはと言うと、何重にも巻いた糸のお蔭かダメージは少なそうだ。
「糸を自分に巻き付けたのは、効果抜群の技の威力を軽減させる為だったんだ!」
「それもあるけど、このフシデは思った以上に頭がキレてスピードも早いから、クルマユが少々
不利だったんだ。だから、こうして捕まえさせて貰ったよ」
そこで言葉を止め、アーティは暴れているフシデに視線を戻す。
「《虫のさざめき》!」
クルマユは葉を擦り合わせ(糸に包まれているので見えないが)、音波を起こす。
身動きが取れないフシデは至近距離で強力な音波を喰らい、目を瞑る。
「そろそろ終わりにしよう。《葉っぱカッター》!」
クルマユは鋭い葉っぱを一斉に飛ばし、フシデを切り付ける。
その衝撃でクルマユを包んでいた糸は切れてフシデも解放されるが、至近距離からの攻撃を
2度も受け、フシデの体力は既に限界だった。
アーティはクルマユを戻すと、そんなフシデに近付く。
「キミが繰り出す攻撃の数々……どれもキレがあって美しくて、惚れ惚れしたよ」
決して馬鹿にしている訳では無い。
アーティの口から出たのは、純粋な称賛の言葉だった。
「ボクはキミが気に入った!どうだい、ボクのポケモンになってくれないかい?」
モンスターボールを地面に置き、目を輝かせてフシデと目線を合わせるアーティ。
その姿はまるで初めてポケモンと出会った子供の様で、一通りバトルが終わったリオとチラーミィは、
そんなアーティを見て笑顔になる。
フシデは暫く黙ってアーティの目を見つめていたが、やがてコクリと頷くと、ゆっくりと這って
モンスターボールに近付き、ボタンを触覚で押す。
その瞬間、赤い光に包まれてフシデはモンスターボールの中に入っていった。
アーティはボールを手に取り、嬉しそうに微笑む。
「……フシデ、ゲットだ」
「おめでとうございます、アーティさん!」
『チララ!』
「はは、ありがとう」
笑顔で祝福するリオとチラーミィに、アーティもまた、笑顔で応える。
そして未だ自分達を囲んでいる野生のポケモン達を見る。
「キミ達のボスはボクの仲間になった。それでもまだボク達と戦うかい?」
アーティの言葉に、森のポケモン達は犇めき合う。
やがて1匹のクルミルが背を向けて歩き出すと、つられる様に他のポケモン達も動き出す。
そして、取り囲んでいたポケモン達は森の奥へと姿を消した。
「はぁ……一時はどうなるかと思った」
『ラ〜ミィ……』
「ボクは久々にスリル溢れる体験が出来て、新しい仲間も増えて実に良い日だったよ」
力が抜けて座り込むリオとチラーミィに、アーティは花を飛ばしながら笑う──が、すぐに笑うのを止めて、
チラーミィをボールに戻したリオへと振り返る。
「そうだ。リオちゃん」
「何ですか?」
アーティはリオに顔を近付ける。
思わず顔を逸らしたくなる程近い距離にも関わらず、リオは狼狽える事なくアーティを見つめる。
「ボク達、どこかで会った事あるかな?」
「いえ……私、アーティさんと会うのは今日が初めてです」
そこまで言って、リオは先程から気になっていた事を訊く事にした。
「そういえば、アーティさんは何で私の名前を知ってたんですか?私、教えてないですよね?」
「ああ、それはここに来る前に姐さんから電話でキミの名前と特徴を聞いてたからさ。
もし【ヤグルマの森】で迷子にでもなっていたら助けてやってくれ……ってね」
(ねえさん?私、アーティさんのお姉さんに会ったっけ?)
リオは腕を組んで考え込む。
しかし、結局そんな人物に会ったかどうか思い出せずに終わった。
「ポケモン達も回復させないといけないから、1度シッポウシティのポケモンセンターに行こうか」
「はい!あ、れ……?」
アーティの後を追おうとしたリオだったが、急に体が熱く重くなり尻餅をつく。
それに気付いたアーティは歩を止め、リオに駆け寄る。
「リオちゃん!?」
「い、移動したいのは山々なんですけど……何故か、体が重くて。それに凄く、熱い……」
「……ちょっと良いかな」
アーティは顔を赤くしているリオの前にしゃがみ込むと、リオの右の靴を脱がす。
続けて靴下を脱がすと、右足の甲に2箇所に並んだ赤い点状の噛み痕があり、その点を中心にして
赤く大きく膨れ上がっていた。
「あっ……」
「これはフシデの毒だね。フシデは敵に噛み付いて、体が痺れて動けなくなる程の猛毒を
与えるんだ。人によっては発熱も起こって……良かった、左足に異常は無いみたいだ」
「……そういえば、フシデが靴に乗った時に一瞬チクッとしました」
靴の上から噛まれ、靴や靴下を通り抜けて毒が体内に回った──と言う事だろうか。
(噛まれてから10分は経つ……)
正常な左足に比べて大きく腫れた右足を見て、不安な顔をするリオ。
そんなリオを安心させる様に、アーティは熱で火照ったリオの頬にそっと手を添える。
「大丈夫。フシデの毒は確かに強力だけど、あくまで神経を痺れさせる毒だから
命を脅かすような物じゃないよ。発熱が起こっても早く治る場合もあるしね……だけど!」
そこまで言って、アーティはリオをおんぶする。
突然の事にリオの思考は止まる。
「早めに治療した方が良い事に変わりは無いからね。ポケモンの毒に関してはジョーイさんの方が
ずっと詳しいから、早くポケモンセンターに行くとしよう」
「ア、アーティさ、」
「しっかり掴まっててね!」
爽やかだが、どこか有無を言わさぬ笑みに、リオは言葉を摘むんだ。
(アキラ……アロエさんに、勝てたかな……?)
揺りかごの様に揺れる背中の上で、リオの意識は途切れた。
前回はリオがチラーミィを、そして今回はアーティがフシデをゲットしました。
アーティがリオより目立っているのは、今回フシデとのバトルの描写を
書きたかったからです。
長かった特訓・葛藤編は今回で終わり、次回からアロエに再挑戦します。
果たしてリオはアロエに無事、勝てる事は出来るのか!?そして、ヒトモシは……!
それでは、次回もお楽しみに!