二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 30章 大切な落とし物 ( No.65 )
- 日時: 2020/08/24 17:17
- 名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)
イッシュ地方には様々な橋がある。
船の運航に合わせて動く別名リザードン橋と呼ばれる跳ね橋や、バランス感覚が大事な一本橋に
上で地下鉄が通り抜けてもビクともしない鋼鉄の橋、等々。
そんな橋の中でも、一際巨大で長い橋が【スカイアローブリッジ】である。
次の町──ヒウンシティに向かうため、リオはこの橋を渡っていた。
「長いけど500〜600mくらいかしら?このペースで行けば10分少しで着きそう」
下を忙しなく走る貨物車と海を滑る様に走る船を眺めながら、ゆったりとした足取りで街を目指す。
暫く歩いて漸くヒウンシティへのゲートが見え始めた──その時。
羽音を響かせて入り口前に何かが降り立った。
鶏の様な姿に、頭部と足がピンク色で短い翼と鶏冠は黒や灰色。
その特徴からそのポケモンは紛れも無く、おむつポケモンの──
「バルチャイ……よね?どうしてここに?」
自分の記憶が正しければ、バルチャイはこんな所には居ないはずだ。
(それに、何してるのかしら?)
バルチャイはこちらに背を向け、キョロキョロと辺りを見渡している。
「探し物?」
気になったリオが声を掛けると、バルチャイは振り向き、静かに頷いた。
驚いていない所を見ると、リオの存在に気付いていたのだろう。
「何を失くしちゃったのかな?」
リオの問い掛けにバルチャイは翼を広げてお腹を叩く。
必死に何かを伝えようとしているみたいだが、如何せんリオはポケモンの言葉が分からない。
(うぅ……一緒に探してあげたいけど、何を伝えたいのか全然分からない)
困り果てていると、凛とした声が響いた。
「ちょっと。通行の邪魔なんだけど」
「!」
後ろを振り返ると瑠璃色の髪の綺麗な顔立ちをした、リオと大して歳が離れてなさそうな
少年が立っていた。
リオは慌てて立ち上がり、道を空ける。
「貴方は?」
「ヒトに訊く前に、まず自分から名乗るのがマナーってモンじゃないの?」
「あ、それもそうね……ごめんなさい。私はリオ、貴方は?」
リオは常時上から目線の姉で慣れているので、少年の態度にも特に気を悪くせず素直に名乗る。
少年はそんなリオをまじまじと見つめる。
「……随分素直なんだね、君。いや、馬鹿正直って言った方が正しいか」
「私は名乗ったわ。次は貴方の名前を教えて」
「やだ。何で会ったばかりで親しくない君に名前を教えなきゃいけないの?」
(我慢。我慢よ、私。初対面の相手なんだから)
小馬鹿にする様に鼻で笑う少年に僅かに笑顔が引き攣るリオ。
そんなリオに興味を無くしたのか、少年はバルチャイを見る。
「そのバルチャイ、君の?」
「違うわ。この子とは今会ったばかりよ」
リオの言葉に(いつもより声音が低いのは気のせいではない)少年は顎に手を当てる。
「ふーん、じゃあ野生のバルチャイなんだ。骸骨が無いと随分貧弱に見えるね」
「骸骨……?」
復唱して、ハッとする。
先程から感じていた違和感の正体──それは、おむつポケモンのバルチャイのトレードマークと
言える、オムツの様な形をした骸骨が無かったからだ。
「それじゃあ、貴女の探し物って骸骨だったの?」
こくり、と頷くバルチャイ。
「バルチャイが下半身に付けている骸骨は、元は親であるバルジーナが巣の基部として使っていた
上顎骨を転用した物で、敵のどんな攻撃にも耐えられる様に丈夫に作られているんだ。
その骨の上から更に自分で骸骨を見付けてコーティングして、外敵から身を守りながら
進化する為に必要な力と経験を身に付ける──それなのに、その骸骨を失くすなんて……」
彼がバルチャイを見たのは一瞬で、直ぐに隣に居るリオを見る。
「ちょっと、そこの君」
「だからリオだってば」
名前を教えても結局名前で呼んでくれない少年に、今度は我慢出来ずリオは頬を膨らます。
「これ以上探しても無駄だよ。骸骨は誰かが持って行っちゃったから」
「どうして断言出来るの?もしかしたら、まだこの橋の何処かにあるかもしれないじゃない」
「無いね」
首を横に振って失笑する少年に、リオは眉間に皺を寄せる。
「原形を留めたバルチャイが穿いてる骸骨なんて、滅多に無いんだよ?
進化すると役目を終えた骸骨の大半は割れちゃうし、特に個体によって色・形・大きさ・強度は
違ってくるから、一種の芸術品として物好きなマニア達の間では高く取引されるんじゃない?」
「そんなっ……!」
「とりあえず、ここに居たら邪魔だから場所を変えるよ」
少年はリオの返事を待たずに腕を掴むと、ゲートに向かって歩き出す。
『!』
放心していたバルチャイも、慌てて2人の後を追って、ゲートを潜った。
ヒウンシティ。
イッシュ一の大都市で彼方此方に上空の雲を貫く様な高層ビルが聳え、多くの人が働き、暮らしている。
「事情は分かりました。責任を持って、この子は預かりますね」
「ありがとうございます、ジョーイさん」
リオは事情を説明して、バルチャイをジョーイさんに預ける。
人通りが多いこの街の中をバルチャイに歩かせるのは、流石に酷だと思ったからだ。
(私に会うまで他の所でも骸骨を捜して疲れてるかもしれないし……)
「私、もう少しこの子の骸骨探してみます。それまでよろしくお願いします!」
「分かりました。頑張って下さいね」
ジョーイさんに励まされて俄然やる気が出たリオは頭を下げると、リュックを背負い直して
ポケモンセンターを出て行った。
「……馬鹿じゃないの」
そんなリオの背中に向かって、少年は消え入りそうな声で静かに呟いた。