二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 34章 立ちはだかる壁 ( No.69 )
日時: 2020/08/24 23:48
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

リオは唖然とするレイドの隣に腰掛ける。

「私、明日ヒウンシティのジムに挑戦するの。でもその前に、色んな人とバトルしたくて」
「別に僕じゃなくても」
「貴方が良いの。お願い!」

目をキラキラと輝かせ、リオは躊躇い無くレイドの手を握る。
突然の行動にレイドは驚きを隠せない。

「貴方、強いんでしょ?さっきの話を聞いてそう思ったの!」
「確かに僕は強いよ。だけど僕は手加減する程、お人好しじゃない」
「上等。手加減なんていらないわ」

不敵な笑みを浮かべるリオに、レイドは目を細める。

(変な子……さっきまで僕に苦手意識を持ってたのに。僕が、そうなるように振る舞ったのに)

沈黙するレイドに、リオは期待と不安が入り交じった表情で返事を待つ。
会って間も無い男の隣に座り、手を握って距離を詰めて来る無防備な少女にレイドは息を吐く。

「今更やめてって言っても、やめてあげないよ?」
「それじゃあ……!」
「バトルのお誘い、受けてあげる。裏庭にバトルフィールドがある筈だから、其処でやるよ」
「ええ!う〜……楽しみ!」

妖艶に微笑み、レイドはリオに背を向け歩き出す──


ピリリリリ。


歩き出そうとした時、電子音が鳴り響いた。

(電話?私のは鳴ってないから……)

「電話、出ないの?」

リオは首を傾げ、背を向けたまま固まっているレイドに声を掛ける。
レイドはリオの方をチラリ、と見てポケットからライブキャスターに似た機械を取り出す。
そしてディスプレイに映し出された文字を見た瞬間、レイドは眉を顰めた。

「こんな時に……!」
「ど、どうしたの?」

何故かは分からないが一気に不機嫌になったレイドに、リオは遠慮がちに声を掛ける。

「急用が入った。悪いけど、バトルはお預け」
「そっか……」

バトルする気満々だったリオは突然のキャンセルに肩を落とす。

「ごめん」
「き、気にしないで!私も突然のお願いだったし急用なら仕方ないわ!」

しかし頭を深々と下げたレイドに、リオは慌てて手を振る。

「じゃあ、今度会ったらバトルしましょ。約束!」

レイドの前に小指を出す。
暫くその小指を見つめていたレイドだったが、目を瞑るとリオの耳元に唇を寄せ──

「会えたらね。それと、僕に会いたいならもっと綺麗にしてきてよね」

小さくそう囁いてリオの頭をポン、と叩いてポケモンセンターを出て行った。

「……意地悪ね」

絡まる事が無かった小指を、リオは静かに見つめるのだった。


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そんなこんなで、次の日。

「……」

リオは3番目のジム、ヒウンシティジムの中に居た。
朝いつもより早く起きてポケモン達と修行に励み、回復と食事を終え、意気込んでジムに乗り込んだ。

しかし、そんな闘志を燃やすリオの前に大きな壁が立ち開かった。

「何かしら、コレ」

言葉通り、5mくらいある大きな金色の壁がリオの前にドーンと立ち開かっていた。
人差し指で壁を押すと、指先に金色の液体が付いた。

「やっぱり。ハチミツだわ」

指先に付着した金色の液体を舐めると、甘い風味が口の中いっぱいに広がった。

「この壁を突破しないとジムリーダーの所に行けないわね。幸いこの壁自体は脆そうだから、
 突っ込めば進めそう」

しかし突っ込めば、確実に全身ハチミツ塗れになるだろう。
普通のトレーナーは勿論リオは(一応)女の子、汚れるのを嫌がって躊躇しそうだが、

「女は度胸!行くわよ!!」

リオは靴紐をきつく締めると、一切躊躇わずハチミツの壁に突っ込んだ。


「到着っ!」
「リ、リオちゃん!?」
「え?」

壁を次々に突破し、ジムリーダーが待つバトルフィールドに辿り着いたリオ。
そしてハチミツで汚れたリオを出迎えたのは、なんとアーティだった。

「ハチミツの壁を躊躇無く突破してる女の子が居るって聞いてたけど……
 まさかキミだったなんてね。驚いたよ」
「埃と砂と正体不明の汁塗れになるよりは、衛生面も安全面もずっとマシですから!」
「汁塗れ……?」

リオの言葉に困惑しつつ、挑戦者用に常備しているのか、アーティは人1人を余裕で包めそうな
大きなタオルでリオの体を丁寧に拭く。

「ありがとうございます、アーティさん」

まだ体はヌルヌルしているが、一通りハチミツが取れたリオは笑顔でお礼を言う。
しかし直ぐに目をパチクリさせる。

「……って、あれ?何でアーティさんがジムに居るんですか?あ、私と同じでジムリーダーに
 挑戦ですか?」
「ボクは挑戦者じゃないよ。だってボクはヒウンシティジムのジムリーダーだからね」





 。


「ええぇぇっ!!そうなんですか!?」

衝撃の告白に、リオは目を見開き数歩後退る。

(面白い反応だなー)

「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ!ヒウンシティ出身っていうのも、今知りましたし!」
「あはは、そうだったかな?」

カラカラと笑うアーティに、リオは額に手をやる。

「それにしても……凄いねリオちゃん」
「何がですか?」
「大体ボクに挑戦しようって子達は汚れるのを嫌がって、中々ボクの所まで辿り着けないんだよ?
 リオちゃんが言う、衛生面と安全面がマシだとしても汚れる事には変わりないだろう?」
「何となく分かる気がします」

未だ滑りが取れない腕を触りながらリオは苦笑する。

「でも……前に進むのと誰かと関わる事に、汚れとか服装の乱れは二の次だと思うんです。
 外見ばかり気にして、本当に大事な物と大切な者を疎かにするのは馬鹿げてます」

握り拳を作って断言したリオにアーティは笑みを漏らす。

「——あははっ!やっぱりキミは普通の子とは違うね」
「それは私が変だって事ですか?確かに女子の思考としては最悪かもしれませんけど」

面と向かって指摘されるのは心外だと言わんばかりに不機嫌な顔になるリオに、
アーティは笑うのを止め首を左右に振る。

「違うよ。面白くて魅力的だという事さ。そんなキミと、ずっと戦える日を楽しみにしていた」

アーティは懐からモンスターボールを取り出す。

「ボクの虫ポケモンがキミと戦いたいって騒いでてさ。早速だけど勝負だよ」
「望む所です。私も早くバトルがしたくて、うずうずしてたんですから!」


逸る気持ちを抑え、リオもまた、ボールを取り出すのだった。



今回、残念ながらレイドとのバトルフラグは、ぽっきりと折れてしまいました。
しかし代わりにアーティが再登場しました。
アーティの台詞がキザっぽいのは、自分の中でアーティは無意識にクサい台詞を言う
イメージがあったからです……アーティファンの皆様すみません!

そんなわけで次回、リオとアーティのバトルが始まります。
それでは次回もお楽しみに!