二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 45章 切り開く力 ( No.88 )
日時: 2018/02/13 16:47
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


攻撃を決めたダルマッカは後ろに下がり、壁を見つめる。
視界が悪く相手を識別する事は出来なかったが、確かに自身の技は相手に命中した筈だ。
実際に相手が壁に叩き付けられた、大きな音もした。


(ダルマッカちゃんの《フレアドライブ》を、まともに受けたんですもの…)


アヤネは右手に持っていたボールを上げ、ダルマッカに照準を合わせる。


「待てよ」

しかし、アキラの静止に手を止める。


「……貴方も、貴方のポケモンちゃんも強くなった、それは認めます。でも、約束は約束。
 目の前の現実を認めたくないのは分かるけど、戦闘不能のモグリューちゃんにこれ以上無理をさせるのは、
 トレーナーとしてどうかと──」

母の言葉の途中でアキラは気怠そうに口を開いた。


「何を勘違いしてるんだ?まだ俺のモグリューは戦闘不能じゃない」
「!?」

アヤネは大きく目を見開く。
しかし、すぐに冷静さを取り戻して息を吐いた。


「…アキラこそ勘違いしているわ。現にダルマッカちゃんの技はああしてモグリューちゃんに──」

そこで、アヤネの言葉が途切れた。
リオは彼女の視線の先を辿り、地面に落ちている〈ソレ〉を見つけた。


「あれは──」


(…サッカーボール?)


視線の先には半分焦げたサッカーボールが転がっていた。


肝心のモグリューは、居ない。


「それならモグリューちゃんは、「モグリュー、行け!」!!」

突如、真下から回転しながら現れたモグリューによって、ダルマッカは強烈な一撃を喰らう。
宙に浮いたダルマッカの体は、そのまま背中から地面に落ちた。


「ダルマッカちゃん!」

アヤネの声に応える様に、ダルマッカは体を起こす。
起き上がったのが予想外だったのか、アキラは僅かに目を見開いた後に小さく舌打ちした。


「…驚いたな。効果抜群の、モグリューの《穴を掘る》を喰らっても致命傷にならねぇとは……」
「驚いたのは私も同じです」

アヤネは視線をアキラから、転がっているサッカーボールに向ける。


「サッカーボールを囮にして攻撃を回避するなんて、まるで《身代わり》…いえ、この場合──隠れ蓑術と
 言った方が正しいわね。あの状況下でこんな方法を咄嗟に思いつくなんて…言っちゃ悪いけど、
 貴方そんなに頭の回転早かったかしら?」

「…元々この戦法は誰かさんの戦いを参考にした物でね、俺が考えたわけじゃねぇよ」

アキラの瞳がリオを映す。
何故自分を見ているのか分からないリオはこてり、と首を傾げる。
そんなリオを見て、アヤネは口許に笑みを浮かべる。


「成る程。2人で旅して来たからこそ、行き着いた戦法だったのね」
「ああ」

頷くアキラ。
アヤネは口を引き締めて再びアキラを見る。


「でも…だとしたら余計納得いきません。一緒に旅をする事で得られる物がこうしてあるのに、
 どうして貴方は」

「得られるモンがあると同時に、得られねぇモンもある──


 ソレを知っただけだ」


アキラは小さく微笑んだ。
歳に似つかわしくない笑みを浮かべたアキラにアヤネは息を呑む。
しかし自分を落ち着かせる様に息を吐き、言葉を発する。


「…バトルを再開しましょう」
「そうだな。…モグリュー、メタルクロー!」

アキラの声とモグリューの攻撃を受けたダルマッカの声で、静まり返っていた空気が一気にバトルの空気に
引き戻される。


「反撃よダルマッカちゃん!火炎車っ」

ダルマッカは体を丸めた状態で口から火を吹く。
あっという間に炎に包まれたダルマッカは、炎を纏いながらモグリューに転がっていく。
その姿は、まさに〈火だるま〉だ。


「躱せ!」

モグリューは横に飛んで攻撃を回避する──が。


「ダルマッカちゃん、炎のパンチ!」

逸早く攻撃を切り替えたダルマッカの《炎のパンチ》が襲う。
咄嗟に爪で防御するがパワー負けしてしまい、壁の方へ吹っ飛ばされる。


「負けるなモグリュー!穴を掘る!」

目を閉じていたモグリューはカッ、と目を開き爪を回転させて地面の中に潜る。
キョロキョロと自分の前と左右を見るダルマッカの後ろの地面が、小さく盛り上がった。


「!ダルマッカちゃん、後ろよ!!」

アヤネの叫びと同時にモグリューが襲い掛かる。
それを前に跳ぶ事で、なんとか直撃を免れたダルマッカ。
しかし背中にはモグリューの爪の痕が薄ら出来ていた。


「そろそろ、決着つけようぜ」
「…ええ。お互い、限界が近いしね」


(アキラの方から決着を持ち掛けて来るなんて、何か勝つ秘策が…?)


そこまで考えてアヤネは頭を振る。


「フレアドライブ!!」


(もしそうだとしても──私達は彼等の想いに応えるため、全力でぶつかるだけです!)


今までで1番大きな炎を纏ったダルマッカがモグリューに迫る。


「……凄ぇな。炎の大きさがさっきと桁違いだ」

アキラは感嘆する様に呟く。
諦めた様にも見えるその姿にリオは無意識に体を前に出す。


(母さんに同じ手は2度も通用しない。それにこのスピード…避け切れねぇか)


「アキラ!!」
「ハッ…一か八かだがやってみっか。…泥かけ!」

モグリューはダルマッカに向かって泥をかける。
2回、3回、4回……攻撃が当たるまで、ずっと。


「いくら効果抜群の技でも、この火力の前では与えられるダメージは無に等しいわよ!」

言い終えた瞬間、ダルマッカの攻撃がモグリューに決まった。

──直撃だ。


(今度こそ、勝負ありね)


転がったままのサッカーボールを確認し、アヤネは複雑な表情を浮かべる。


「ダルマッカちゃ「確かにダメージは小さい。けどな、」…?」


…ガシッ


「『!!』」


モグリューは体に傷を作りながらもダルマッカの腕を掴む。


「…こうやって、勢いを殺す事は出来んだろ?」
「まさか、そのためだけに!?」
「誰も《泥かけ》でダルマッカを倒そうだなんて思っちゃいねぇさ」

モグリューから逃げようと、もがくダルマッカ。
しかし今まで蓄積されたダメージと今の《フレアドライブ》の反動のダメージで、力が出ない。


「…サンキュ、耐えてくれて」
『……(コクリ)』

モグリューは無言で頷く。
こちらに背を向けているため表情は分からないが、アキラはモグリューが微笑んでいるのが分かった。


「決めんぞモグリュー!切り裂く!!」

モグリューの鋭い2つの爪が、ダルマッカの体を切り裂いた。
お腹に×印をつけたダルマッカは、そのまま後ろへ音もなく倒れる。

戦闘不能だ。


「…よく頑張りました、ダルマッカちゃん。お昼寝してゆっくり休んでね」

ダルマッカを戻し、アヤネはほぅっと息を吐く。


「この勝負、私の負けね。…何でかな、負けたのに不思議と悔しくないの」
「…」
「私に勝ったんですもの。約束通り、貴方の好きにして良いわ」

アヤネの言葉に、アキラの表情が明るくなる。


「母さん…ありがとう!」
「アキラ!」

話が終わったのを確認して、リオが駆け寄った来た。


「リオ。俺、勝ったぜ…と言っても、本当はもっとカッコ良く勝ちたかったんだけどな」

苦笑するアキラにリオは首を横に振る。


「ううん。凄くカッコ良かったよ」
「!リオ…」
「本当にカッコ良かった!アキラのモグリュー!」


ズデッ


「珍しくデレたと思ったら……そーゆーオチかよ!!」


アキラの叫びは、スタジアムに虚しく響き渡った。