二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 50章 先の見えない線路 ( No.95 )
- 日時: 2018/02/13 19:00
- 名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)
カナワタウン。
カナワとは交差する鉄の輪の意であり、鉄道車両が整備されたり停泊したりする車両基地の街だ。
階段を上がると、まず一両の電車が視界に映った。
その電車を中心に線路が放射線状に伸びている。
「俺は向こうを捜す、リオは橋の上から犯人が居ないか確認してくれ!」
「うん!そっちはお願いね!」
アキラは頷くと民家がある方へと走って行った。
それを見送った後、リオは橋の上から辺りを見渡す。
「この車両はシングルトレイン!バトルサブウェイで最も古い車両で、イッシュ地方をぐるっと回る
環状線なのです!」
その横で、作業員の男性が旅人に電車について説明している。
(犯人に繋がる手掛かりがあるかもしれない!)
リオは話に耳を傾けながら犯人を捜す。
「【シリンダーブリッジ】は知ってますか?あの橋を通っているのは、このシングルトレインなのです」
「ほぅ…」
(──って、終わりかい!!)
旅人は顎に手をやり、興味深そうに電車を見つめる。
逆にリオは思ったより早く終わってしまった話にガックリと肩を落とす。
そこに探索が終わったアキラが戻って来た。
「居たか?」
「ダメ、居ないわ。犯人に繋がる情報も無いし。…そっちは?」
「こっちもサッパリだ。駅員に確認したから、この街に居るのは間違いねぇんだが…」
「…アキラが犯人が映ったカメラを懐から出した時は流石にドン引きしたわ」
リオは顔を逸らしてボソリ、と呟く。
カナワタウンに着いて直ぐにリオは「捜している人が居る」と言って駅員に犯人の特徴を告げ、
ソレに当て嵌まる人物が乗車したか尋ねた。
ポケモンが盗まれた事は話さなかった。
公にすると騒ぎになるし、犯人に勘付かれて再び逃げられる可能性があるからだ。
しかし言葉で伝えるのは限界がある。現に駅員は難しい顔をして唸るばかりだった。
そこでアキラが懐から出したのはカメラだった。
中には犯人の姿が写っていて、カメラを見た駅員が犯人が乗った事を断言したので、
犯人がこの街に居る事を確信した。
アキラの機転が無かったら、進展は無かっただろう。
それは確かなのだが──
「あの短時間で、よくあれだけの枚数を撮れたわね。ご丁寧にアングルを変えた物からアップの物まで」
「いっ、良いだろ別に…人は見る方向によって印象が変わるんだし、色んな角度から撮っといた方が
情報収集に役立つだろ?」
「…」
ジト目になるリオを早口で説得するアキラ。
実際に犯人を捜すのに役立っているが、アキラは気付いているのだろうか。
カメラで女性を撮ったのは事件が起きる前。つまり事件が起こらなかったら、
その理屈が覆されるという事を。
黙り込んだリオの髪を、アキラはぐしゃぐしゃと掻き乱す様に撫でる。
「あー!もうこの話は終わりにして捜索を再開するぞ!」
(……何か腑に落ちない)
乱れた髪を手で直しながらリオは視線を横にやる。
瞳に映ったのは電車と──
「…っ!」
「お、おいリオ!?」
言葉を発するより先に、リオは橋から飛び降りて車両に向かって走る。
幸か不幸か、人々は女性が奏でる笛の音色や物々交換に夢中で、リオが飛び降りた事に気付いていない。
「あの高さから飛び降りて、捻挫でもしたらどうすんだよ!…ったく!!」
アキラは悪態をついて階段を下りると、ホームから線路に降りる。
「ちょっと君!!」
駅員の止める言葉を無視し、アキラはリオを追って走る。
「昔っから……本当に危なっかしいじゃじゃ馬だな、アイツは!」
リオとアキラが半ば転がり込む形で車両に乗り込むと、全てのドアが一斉に閉まった。
乗客の安全を考えたゆっくりした閉まり方じゃない──障子を力任せに閉める様な、
そんな荒々しい閉まり方だ。
「な…何で急にドアが」
突然の事にアキラは周りを見渡す。
「好都合じゃない。これで向こうも逃げられないハズよ」
リオは臆する事なく口許に笑みを浮かべると、前を指差す。
その先には運転席があった。
一方…
「な…何がどうなってるんだ!?まだ車掌は乗っていないのに!」
外では突然閉まったドアに皆、驚いていた。
横に引っ張っても叩いても微動だにしないドアに駅員は焦燥する。
何か特殊な力が働いている──駅員が直感的に感じた、その時。
ガタン!
列車が大きく揺れた。
駅員がドアから手を離すと、列車が独りでに走り出した。
しかし、進行先にはリオ達が乗って来た列車が停車している。
「そ、そこの列車!止まりなさい!」
駅員がマイクで呼び掛ける。列車は速度を緩めるどころか、どんどん加速している。
ある者は目を瞑り、またある者は耳を塞ぎ、悲鳴を上げる。
(このままでは、間違いなくぶつかる…!)
この場に居る誰もがそう思った。
しかし列車はそんな彼等の考えを嘲笑うかの様に目の前の列車を回避した。
──ふわり。
浮いた、のだ。
大きな列車がまるで綿毛の様に宙に浮かび、列車を追い越した。
駅員の手からマイクが虚しく落ちる。
列車は小さくなり、やがて完全に見えなくなった。
あの列車は一体どこに行くのだろうか?
終点はあるのだろうか?
列車に乗り込んだ少年少女は大丈夫なのか?
それは、誰にも分からない……