二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: *狼陛下の花嫁*【原作沿い】 ( No.2 )
日時: 2012/01/14 17:15
名前: 勾菜 (ID: YhNomJ/t)

〜第一話〜

白陽国の王宮——の、さらに奥。
茶髪の少女と黒髪の少女がその場を歩いていく。

「あのー、短期の王宮仕事って聞いて来たんですけど…」
「はい、そのように承っております。さ、こちらの部屋にございます」

そういって黒髪の少女は扉を開いた——…

*   *   *

(——誰か夢か幻だと言って)

「ええ、ですからこの一ヶ月間後宮でお務め頂きたいのですよ、汀 夕鈴殿」

(こんなことありえない)
ドクン、ドクンと心臓の音が響く。
夕鈴の頬につっと冷や汗が伝う。

「国王陛下の臨時花嫁として」

(冗っ談でしょう!?
 聞いてないわよそんな話〜〜!!父さん〜っっ!!)
『知人の紹介なんだが高賃金ですごく割のいい仕事があるらしい!』
(くわしい事は採用後…って、そりゃあちょっとあやしいとは思ったけどっ)
夕鈴の混乱をよそに話は進んでいく。

「詮索は一切無用。
 貴女は雇われている事を伏せ、表面上妃として暮らすだけです。
 そう難しい仕事ではではありません」
その言葉にさらに夕鈴は混乱を募らせる。
(難しくないとかの問題じゃない!あやしすぎる!おかしすぎる!)
彼女の姿ははたからでも分かるほどに小刻みに震えている。
(大体、よりによって相手があの冷酷非情で有名な『狼陛下』!?)
そんな彼女を覚めた目で『狼陛下』は一瞥する。
そして。
「…なんだ手を出してはいかんのか?」
その一言に夕鈴はびくっと体を固める。
李順がそれを丁寧に注意をする。
「短期間でお帰り頂く方です。跡継ぎ問題にでも発展してはのちのちめんどうですので」
そう言うと彼は意地悪く口元に笑みを浮かべ、夕鈴をその瞳にうつす。
「なんだ、つまらんな」

「せっかく愛らしい兎が来たものを」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夕鈴はその言葉に最高潮の混乱に陥っていた。
(肉食なかんじだっ)

放心状態の彼女に代わって説明しましょう。
——『狼陛下』というのは即位後早々に国内で起きていた反乱を鎮圧し、荒れ果てていた中央政治を粛清した若き国王珀 黎翔の通称だ。

「ああ、それから夕鈴殿」
李順が声をかけるとふわりと心地よい香りがした。
その香りに誘われるようにゆっくりと彼女は顔を上げる。
夕鈴の目の前に同じよう跪いた黒髪の少女がいた。
その少女は先ほど彼女をここまで連れてきてくた女官だった。
「彼女は全ての事情を知っている、唯一の女官です。
 他にも女官はいますが、彼女だけ貴女の事情も知ってます。
 相談相手やら話相手やら貴女に付きあってくれますから」
そう言われた女官はゆっくりと顔を上げた。
「はじめまして、夕鈴様。私は杜紫音と申します。
 私でお役に立てることがございましたら、何でも申しつけてくださいませ」
そう言って花のかんばせを綻ばせた。


*紫音の『私』は「わたくし」と読んでください。