二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 少年陰陽師*神将と月将を使役せす者達* ( No.5 )
- 日時: 2012/01/26 20:01
- 名前: 翡翠 (ID: nZ60vFmZ)
〜琥朝〜
「もぅ、何時まで、むすっとしてるつもりなの? 異形さん」
「……」
異形さんの絶叫が屋敷内に響き渡った後、帰ってきたばかりの昌浩ともっくんがこちらに駆けつけてきた。
異形さんのことを見るなり少し驚いていたけど、それも昌浩の発した一言で掻き消された。
「何だか、俺ともっくんの出逢いみたいだね。……姿もどことなく似てるし」
「だから、もっくん言うなと言ってるだろ!」
「俺とそこの白いのを一緒にするな!」
「ほら、話し方までそっくりだ」
「「むむ……」」
そんな三人? のやり取りを見ていたら思わず吹き出してしまった。
「ふふふっ」
「……ふん」
笑う私を無視して何処かへ歩いて行ってしまう異形さんを私は追いかけた。そして、今、現在、安倍邸の中庭で私達は話していた。
「もう、異形さん、じゃなかったら、何て呼んだらいいのよ?」
金の瞳をじっと見つめながら問いかけると、そっぽを向いた異形さんがぼそりと答えた。
「……笙千……」
「えっ……それって」
異形さん……笙千はそれ以上何も言ってはくれなかった。
私は確かに聞き覚えがあったのだ。
“笙千”という名に。
幼い日の曖昧なだけど温かい記憶の中にその名はあって。
先代玉依姫である母様が言っていた、名。
誇り高き十二月将が一人『笙千』
でも、まさか……。
私の知る十二月将とは、十二神将と対の存在で人型だとのことだった。
もちろん、もっくんの様な例外も居るのかも知れない。
だけど、もっくんのあの姿にも意味があってのことだから。
「私……何か大事なことを忘れている?」
呟いてみても思い出せなくて。
隣で寝転んで居た筈の異形さんの姿もなくなっていた。
幻、かとも思ったがそんなことは無いと思い直して、私はその微かな気配を辿って屋敷の外へと出た。
——屋敷を出てから数十分——
気配を感じることは出来るのに姿を捉えることが出来なくて、私は探すのに苦戦していた。
都を走り回る私の姿を不思議そうに雑鬼達が見ている。
その姿を見て、もう日が傾いてきたのだと思った。
走って移動を重ねているうちに体力を消耗してしまい、あばら屋の前で休むことにする。今にも倒壊しそうな場所だったが少し休ませてもらうには申し分ない場所だった。
一息ついて探索を再開しようと立ち上がったときだった。
——人間ダァ……旨そうナ娘……食らってヤルッ——
おぞましい声が地中深くから響いてきた。
と、思った次の瞬間には地面が激しく揺れ、大地に亀裂が走り、その中から大百足が飛び出してきた。
何本もの足をざわめかせ、触手をひくひくと動かし大口を開けながらこちらに突撃してくる。
「……っ!」
咄嗟に印を結ぶがどう考えても間に合わない!
その考えが脳裏を過ぎると同時にぎゅっと瞼を閉じた。
…………しかし、何十秒待とうとも、想像していた痛みが体を襲うことはなかった。おそる、おそる、瞼を開けてみると、目の前には長身の男が立っていた。
そしてその目の前には、大口を開けた大百足が……。
状況が理解出来ず、その場に立ち尽くしていると、男が横目で此方を向き言い放った。
「何をぼさっとしてるんだ? こんな雑魚妖怪に殺されたいのか?」
「なっ……」
助けてくれたらしいことには感謝している。
だけど、どうして初対面の男性にここまで言われなければならないのか。納得がいかなかった。
——何だオマエ……邪魔スルナァァ!
食事を邪魔された大百足が男に飛びかかる。
危ない! そう、言おうとしたときだった。
「黙れ……雑魚が……」
男が大百足の方へと手を翳す。
すると、大百足の頭上に金に輝く雷撃が突き刺さった。
——グギャアアアアアァァァァ!!!
大百足の絶叫が轟いたのもつかの間で雷撃の光が消える頃には、大百足の姿もなくなり、その場には男だけが佇んでいた。
「凄い……」
呟き、見入る様にして立ち尽くしていると男の方から近づいてきて、こう言った。
「お前、本当に俺が誰だか分からないのか?」
呆れた様な表情でそんなことを問われる。
問われた所で、初対面の人間を私が知るはずも無いのだが。
そう思い、そのまま考えたことを口にしようとしてやめる。
……じっと、男の容姿を見つめた。
漆黒の肩につかない程度の髪に額の銀色の冠。程よく焼けた肌と金に輝く瞳。そして、服装はまるで、十二神将の騰蛇の様な……。
そこまで思ってある結論に至った。
……騰蛇に似た格好に雷使い……。
ま さ か
「もしかして……異形さん?」
半信半疑、一か八かで尋ねるとむっとした、低い声で言われた。
「異形さん? じゃない。……十二月将が一人、笙千、だ」
目を見開く。
本当に本当に十二月将の一人だったのだ。
しかも、笙千と言えば……。
「十二月将最強……!?」
「……うるさい」
目を瞬かせる私に呆れた声でそう言うと、私が探していた異形へと姿を転じるのだった。
「本当に異形さんが、十二月将の笙千だったんだ……」
「だから、そうだと言ってるだろう」
その日、私達はそんな会話を繰り返しながら安倍邸へと戻ったのだ。
屋敷へ戻ってからも私はずっとこの調子で、晴明様やもっくん、昌浩達にも笑われてしまった。
浮かれていたからだろうか?
あの、大百足との戦闘を他の十二月将の者達が傍観していたことなど、このときの私が知るはずもなかったのだ。