二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第一話『傍観者』 ( No.1 )
- 日時: 2012/03/01 19:22
- 名前: イナバ ◆5VZ6lwsTJw (ID: ugLLkdYi)
ホームルーム終了のチャイムが鳴る。
「最近は物騒だから気をつけて帰るように、以上」
その後に繋げて「日直」と先生が言い、その日の日直が立つ。
「起立、礼」
今日の学校生活を終わる挨拶の後、生徒たちは次々に帰り支度を始め、教室を出ていく。
僕は手早く支度を済ませると、ポケットから携帯を取り出した。
僕の席の近くで何人かの生徒が話している。
一人はボールを持っている。これからバスケでも始めるのだろう。
「今日、開いてるの?」
「使っていいって。でも人数足んねーじゃん」
「良いよ誰でも。面子揃えば……」
別にどうでもいいことだと、僕はその作業に集中する。
「おい天野、お前さ……」
「止めとけって」
一人が僕の名前を呼ぶが、それはすぐに制される。
「何で?」
「付き合い悪いもんアイツ、来ねえよ」
何となく居心地の悪さを感じ、僕は椅子を立ち、教室を出た。
僕はいつも傍観者だ。
これでも、小学校の頃は遊びに誘われたりもしたんだけど、それを断ってたらこうなった。
何もすることがない僕は、日記をつけることが趣味となった。
目にした事をただ書き止める傍観者は、居心地が良かった。
[4/21 15:45 [通学路]
いつもの石が転がっている。
今日は右へ行こう。]
僕にも、友達はいる。
それは、空想の中の存在だけど。
ベッドに座り、毛布を被り、その「友達」の名前を呼ぶ。
「——デウス」
それは、僕の目の前に現れた。
人間とは比べ物にならない巨体。
仮面の様な顔をしたそれが、僕の友達。
『雪輝か、少し待て、今因果律の調整中でな』
「……また何か始める気?」
『たまには世界に刺激がなくてはな……』
「刺激の一言で戦争なんか起こされちゃたまんないよ……」
『そういうな……今度のゲームは、面白いぞ……』
こいつは時空王、「デウス・エクス・マキナ」。
時と空間を管理する、神だ。
早速これを日記に記そうとすると、横から声がかかる。
『また日記か? よくそんなにつけることがあるもんじゃなぁ』
「う、うん、時間と場所と起きたこと、僕の見たものを全てつけてるんだけどって、ボロボロこぼすなムルムル!」
その小柄な女の子の姿をした「ムルムル」は不満げに言う。
『アホじゃな……』
そして食べていたトウモロコシをプププ、と僕の顔に飛ばしてくる。
「……それ、やめて」
ムルムルはベッドに座り直してまたトウモロコシを食べながら言う。
『それでは無差別ではないか』
「そうだね、僕の日記は、目的のない『無差別日記』だからね……」
ふーんとあまり興味無さげにムルムルはトウモロコシを食べ続ける。
夢もなく、目的もなく、僕にあるのは、この日記と空想世界だけ。
『——寂しいのか?」
デウスの声がかかる。
「別に……」
『——しかし、変われるものなら変わりたいと願うか?』
俯く僕に、もう一度デウスは言う。
『——良いだろう、お前に未来を与えてやろう』
それと同時、携帯の着信音が鳴る。
『——これがお前の未来の扉だ』
「……僕の携帯じゃないか」
[Day 4/21 15:50
from Deus ex machine
sub (non title)]
「……何を企んでるの?」
『——面白いゲームだ』
彼が今何を企んでいるか、僕には分からなかったが、
「まぁ、良いか。どうせ空想だしね」
そう、軽く思っていた。
*
「はぁ……はぁ……!」
息を切らし、逃げる女性をただ歩いて追い続ける。
「お願い! 開けて! 誰か、お願い!」
家の裏口をどんどんと叩きその家の人間に助けを請う。
しかし、その扉が開けられることは無い。
そういう「未来」だから。
「嫌……嫌よ、何でこんな……——ッ!」
その女性が次に声を上げることは無かった。
###
あとがき
*は視点変更です