二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【REBORN】ホワイトデーの恐怖、来る!【合作】 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/24 20:14
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: K/8AiQzo)
- 参照: 第二話 地味に長いです。すいません。
「それにしても……何があったの?」
沢田がいかにも心配するような目で獄寺の方を見る。沢田綱吉という人間をよく理解している、自称右腕の彼は誇らしい気分に気持ちを昂ぶらせる。ボスが自分の事を気に掛けてくれている、部下としてこれ以上の名誉はない。
一気に、精神的な活力を取り戻した銀髪の少年は起き上がる。毒素なんてなんのその、肉体的にも回復は訪れていた。会話の余裕も出てきたので、説明を始めた。
「実は、怒り狂った姉貴に、日頃の感謝を込めたと伝えたんです」
「そう言えば、少しは怒りが落ち着いたんじゃないの?」
「えぇ、そこから試練が始まったんです……」
「試練……って何の!?」
「姉貴は昨日、俺にチャンスをやると言いました————」
————初めは、姉貴の言った意味が分かりませんでした。なぜ、一々恩情をあの姉貴がかけるのか。
「チャンスだぁ!? 何言って……」
「ゴーグル外すわよ」
「……すいませんでした」
普段は強気な獄寺も、姉がゴーグルに手をかけると、殊勝な態度に出る。それもそのはず、彼は幼少期の経験により、トラウマが体の芯まで染み付いてしまっていた。ビアンキの顔を見ると彼は、酷い嘔吐と腹痛に苛まれるのだ。ただし、着ぐるみを着るなり、ゴーグルを着用するなりして顔の一部が隠れたら大丈夫なのだが。
「それにしても、なんで試練なんて……」
「弟の成長、姉としてこんなに嬉しいことは無いわよ」
「ハァ……そうかよ。で、結局何すんだよ」
深々と溜め息を吐いた獄寺はビアンキに訊いてみる。どうせろくなものではない、そんな事は納得していながら。
「夜明けまで私から逃げ切りなさい」
「そんだけか? 以外と楽そうじゃねぇか」
「もちろん武器の使用は禁止よ」
「あ"ぁ!? なんでだよ!?」
「あなた、人前で爆弾使う訳にいかないでしょう。それに真夜中にダイナマイトだなんて、近所迷惑にも程があるわ」
普段、呆れるような事ばかり言う姉が、もっともな意見を提示したので獄寺は絶句した。だが何度聞いてもそれは正論であり、反論はできずに了承するしかない。何せ申し出を断れば、それは毒まみれに直結する。抵抗しようものならその前にゴーグルを外されたらジ・エンド。
つまり、獄寺が無事に三月十五日を迎えるためには、恐怖の対象である姉から逃げ切らねばならないのだ。弟だからこそ分かる、いくつもの戦場を生き抜いてきた姉は、かなりの強敵だと。
否応なしに逃走劇の開始は余儀なくされる。ビアンキの設定したルールは、範囲は並盛一帯、時間は十二時から夜明けまで。その決戦を突き付けられたのは八時過ぎ。開始に四時間もかける理由は二つ。一つは姉弟喧嘩を他人に見られたくないため、そしてもう一つはというと……。
「ハァ!? ふざけてんのか! あんた俺に武器を使うなとか言っといて、なんて言い草だ!?」
「五月蝿いわね。ポイズンクッキングなんて、誰にも迷惑かけないじゃない」
肩にかかった長髪を手で払いながら、ビアンキは冷静に言ってのける。真夜中に騒々しい爆音を上げる危険性も、甚大な被害を辺りには出さないと。
詰まるところ、開始までに時間のある理由の中でも最たるものは、ビアンキがポイズンクッキングを作るための時間が要るからだ。もちろんのように、武器を使うなと言われた獄寺は、ビアンキだけが武器を使うことに対して抗議する。
ただ、やはりそこは上下関係、口喧嘩で獄寺がビアンキに勝てる由も無い。一応、最も危ない『千紫毒万紅』だけは使わないという誓約は設けたが。かくして決戦は四時間弱の後に迫ることとなった。
その間に獄寺は逃げるための策を必死に考えていた。武器の奪われた現在、彼が生き延びるためには頭脳を使うしかない。
「姉貴から逃げるためには……やっぱ道を塞ぐより気を惹いた方が良いな」
そして、でき得る限りの逃走経路の確保と、どこでどのように追ってきた時に、どう対応するのかのシミュレーションを重ねる。いくら相手が強敵であろうと、決して負ける訳にはいかない時がある。特に……生死に関わる場合は。
◆時間経過◆
「三……二……一……スタートだな」
腕時計を、穴が開くほどにじぃっと見つめながら、彼はカウントダウンを始める。秒針は動く度に、真っ暗闇の静寂の中で、小さな音を大きく反響させている。その動きは普段見ているよりも、ずっと速く感じられた。まるで、時間が、ゲームの開始を待ち侘びて早足になっているように。
秒針が十二の文字に近づいていく度に、獄寺の緊張感は高まっていく。最初はトクトクと落ち着いていたが、ドクドクと五月蝿くなり、十一を越える頃には、跳ねるような程になっていた。そして、カウントダウンを一拍置いた後に始めたのだ。
かくして、開戦の火蓋は切り落とされた————。
「先手必勝よ、隼人!」
「なっ……いきなりかよ」
いきなり、塀の上からビアンキが強襲する。どちらから来てももう一方に逃げられるように、左右両方が開けた大通りで逃走準備に入っていた獄寺は面食らう。しかし、理性が吹き飛びそうになるも、危機察知能力が警告音を荒げた。咄嗟に跳び退き、とりあえず道の右側の向かって走る。
ビアンキが手に持っていたのは、パーティー用のホールケーキ(?)だった。(?)が付いている理由は必然的にポイズンクッキングのためだ。紫色のクリームが全体的に塗りたくられて、やはり紫色の煙が上がっている。一体材料に何を使ったのか分からないが、蛆虫が波打っている。
そしてやはり、それはもはや食べ物とは呼ぶ訳にもいかず、兵器だ。地面に叩きつけられたそのホールケーキは、その瞬間に強酸に金属を浸けたような音がする。その音に弟の彼は身震いする。そんなものを弟に投げ付けようとしていたのかと。
持ち前の身体能力を生かして、全速力で彼はビアンキから遠ざかる。冷や汗を流し、背筋に悪寒を走らせながら。もうすぐ春に入ろうとしているのに、真冬のように寒かった。そして、獄寺は苦情を一つ叫んだ。
「もろに道路壊してんじゃねぇか! 何が、周囲に迷惑かけねぇだぁあぁぁあぁっ!」
コンクリートに大絶叫をこだまさせながら、今も尚走る。このままでは本当に死にかねないという恐怖に苛まれながら。
もう一度、考え直す必要があると踏んだ獄寺は非常事態用にいくつか用意しておいた小道具を活用する。サッと懐に手を突っ込み、一枚の紙片を取り出す。よく見るとそれは、十年後のランボが写った写真だった。
「これを……反対側に……」
すぐそこに現れた交差点で獄寺は右折する。左側の道に写真を投げ捨てて。写真に写った人物を見るや否や、ビアンキはそちらに反応した。「ロミオ」と、誰かの名前を、憎々しげに呟きながら。
ロミオとは、ビアンキの昔の恋人である。しかも、ビアンキと大喧嘩したままこの世を他界した。そのせいか今でもビアンキは、ロミオへの憎悪と怒りを持っている(その死因が食中毒のため、獄寺はビアンキの仕業だと思っている)。その容姿は十年後のランボとそっくりで、時折呼び出された大人ランボは逃げる羽目になる。
獄寺の予想通り、一旦彼女は写真側に走る。これで時間を稼いだ獄寺は、入り組んだ路地に入り込み、適当に曲がったり、塀を乗り越えて行方を暗ませた。
……なんだかんだでビアンキは、写真を二時間かけて拷問にかけたのだとか。嵐の去った後、もはや写真の中のランボは原形を留めていなかった。
「……くそっ、まだ三時かよ……」
開始前のカウントダウンの早さに比べて、開始後の時間経過の遅さに、獄寺は軽く絶望する。まだそれほど息は上がっていないが、服や額は汗でじっとりである。少々喉の渇いた獄寺は、ポーチからペットボトルを取り出した。自分で沸かしたお茶なので、毒は無い。
一口二口だけ口内に含み、喉元の潤いを取り戻すようにゆっくりと飲み込む。キャップを閉めて、ポーチに収納した後に耳を澄まして目を凝らした。
今、彼が陣取っているのは並盛中学の校庭のど真ん中。ここからならば、三百六十度視界が開けている上に、どの方向にも逃げられる。さらに、もう一つ保険がかかっている。
裏門を含め、全ての出入口にはすでに錠をかけた。さらに、塀の上に油を塗っておいた。これで、手をかけてよじ登るのは不可能。よって、錠を壊す以外に侵入の方法は無くなった筈である。
だが、ビアンキには『溶解桜餅』という、金属を溶かすポイズンクッキングがある。それで鍵を壊して入ってくるだろう。
待ち侘びた音が、獄寺の鼓膜に伝わる。得意げに口の端を上げた彼はポケットから爆竹を取り出した。ダイナマイトではないから、使える筈だ。爆ぜる快音と、網膜を焼くような閃光がグラウンドいっぱいに響き渡る。
「さて……後はアイツの出番だぜ」
門を無理やりこじ開けた長髪の女性は、獄寺に向かい一直線に走る。もしもを考え、撤退の準備を始めた彼の背後から、突き刺すような殺気を感じた。テリトリーを荒らされた、獅子のような殺気。
「待ってたぜ、雲雀……」
校門を破壊されたことに対し、怒り狂った彼がビアンキを足止めすると思っての行動。雲雀を呼び出すために爆竹を鳴らしたのだ。どこから現れたか知らないが、校舎の中から彼はやって来た。
「あなたは……ツナと隼人の仲間の……」
「ふざけたこと言わないで、僕はそんなんじゃない」
見事に怒りがツボに入ったらしく、ビアンキを標的として設定できたことに獄寺は満足する。場合によっては自分がターゲットになったかもしれないのだ。
そそくさと校庭を歩く獄寺に向かって雲雀は冷淡に声をかけた。
「校内に、爆発物の持ち込みは許さないよ。君も後で咬み殺すからね」
その後、妙なプライドで初めの方に手加減して戦ったせいで、雲雀が三時間もの激戦の後に敗北し、拗ねてしまったのは別の話。
◆◇◆
「もう……言ってる間に六時か……勝ちは近づいたな」
全速力で並盛中学から逃げた獄寺は、命からがら一番最初に彼がいた場所の辺りまで帰ってきていた。ここまでの道のりは散々なものであった。ビアンキが設置したであろう、ポイズンクッキングのトラップが至る所に設置されていたのだ。壁やら道端に、無造作に置いてあるのだ。毒霧を噴出させるタイプや、麻酔薬のような毒、果てには睡眠薬までも。
それでも、緊張の中で五感の鋭敏になった獄寺はあっさりと罠を回避してきた。少しでも妙な臭いがするようであればすぐさま息を止めて走り、少しでも怪しげな音を聞き付けたらその道を避ける。時として、第六感も手伝っていた。そして、相当な時間がかかったが初期位置に戻ってきた。
もう一度時計に目をやって確認する。もうすぐ六時、日の出は近い。何度見ても同じ、気の狂った幻などではない。
「姉貴のことだ、そろそろ最後のアクションを起こしても良いだろ。気は抜けねぇな……」
まさか初期位置に戻ってくるとは、そういう風に考えて彼は戻ってきた。だが彼にだって分かっている、人生経験が自分よりも長い姉が、自分の考えに気付かない訳が無いとは知っている。まさかと思ってここを訪れる可能性も充分にあるのだ。雲雀が彼女をいくら足止めできるか、それだけで結果が変わるのだ。
「一時間は潰してくれると思ってたけど、こんなに時間を取ってくれるとはな」
確かに獄寺自身は認めたくはないのだが、雲雀は戦いのセンスにおいては相当の実力者。ビアンキに引けを取らないどころか、圧倒する可能性が高い。……手を抜かない限りは。
開始の瞬間のように、予想外の場所から奇抜なタイミングで飛び出してくることも考えられる。張り詰められた緊迫感の糸は中々切れない、否、切れさせてはいけないのだ。今の自分の立場は、設置地点の分からない爆弾の中で兵隊に襲われる一般人だ。
日の出は近いが、まだまだ暗い中で獄寺は煙草型の物を取り出した。周囲から散々煙草だと指摘されるそれは、本人は発煙型の着火装置だと言い張っている。実際彼はダイナマイトの点火時にそれを使っている。そしてそれが本当に煙草なのかは、本人にしか分からない……。
ただし、常日頃から咥えているのでやはり咥えていないとどうもそわそわする。普段はいつ襲い来るか分からない敵への対策だが、今煙草を口にしている理由は落ち着くためだ。
ただし彼は理解していない、その煙草が自分の居場所を伝えていると。煙草なのだ、やはり煙は出る。白い煙は闇の中では目立つ。それ以上に臭いだ、煙の臭いはかなり鼻につく。料理をする身にとっては敬遠するものだと思われる。
遠くからそれを察知した彼女は、すぐさま反応し、向かう。煙の発せられる大元となる地点へと。
聞き耳を立てている獄寺の耳に、小さいが、それでも確かな足音が聞こえてきた。コツコツと、ゆっくり歩くような。しかしこれはビアンキではないとすぐに判断する。彼女はもっと、足音を殺す、蛇のように。静かに忍び寄り、蠍のような猛毒で仕留めるのだ。
こんなに耳障りなノイズはビアンキの足音ではないため、気にせずに他の音を探る。もっと、風が吹くような微かなものが聞こえたら、逃げないといけない。 何か、それに該当するのが耳に飛び込む。確認のために塀の縁から顔を覗かせると、案の定、奴はいた。
「見つけたわよ! 隼人!」
「やっぱり来やがったか……」
見ると同時に獄寺は反射的に走りだす。その姿を捕えたビアンキは威嚇する。それでも獄寺は冷静に逃げようとする。するといきなり、ビアンキは口に噛んでいたガムを吐き出し、発射した。完璧な狙撃で、獄寺の靴に貼りつく。もちろんポイズンクッキング、ただし今回はただ単に粘着力の強いだけだった。しかし、靴は地面にぴったりと引っ付いて、離れない。
「銃の腕は下手なくせして……くそっ!」
やけくそになった獄寺は靴を脱いで走りだす。そうでもしないと身動きが取れない。もうすでに空は、水平線から徐々に赤みを帯び始めた。思わずそこで浮かれたのが悪かった。彼の足は、溝のようなものに引っ掛かり、転けるようにして吹っ飛んだ。
彼が引っ掛かったのは、一番最初にビアンキがホールケーキで地面に開けた穴だった。そのまま前方に転がる。
体勢を立て直して急いで後ろを振り向くが、まだいない。視線を前に戻しつつ、もう一度走りだそうとした時に誰かにぶつかった。
「見つけたよ。学校に爆発物に持ち込んだ件で君を咬み殺す」
「雲雀……!」
突然さっきのことについて言及する口調で雲雀が現れる。しかし今は構っていられない。逃げないといけないのだ。
「悪ぃけど、そこをどいてくれ」
「嫌だ」
「何だと……」
「今、非常に僕はむしゃくしゃしているんだ。校舎破壊犯にみすみす逃げられちゃったからね」
ここで負けたと言わないのが雲雀なのだが、それにしても不味い。策のせいでこんなに雲雀が苛立つとは思っていなかった。
とりあえず、ギリギリ開いている雲雀の左側を通り抜けようと走りだす。行けるか行けないかギリギリのところ、逃げる意思を感付かれないように直前まで雲雀の真っ正面のコースを走る。トンファーを両手にセッティングした雲雀、その距離およそ二メートル。
今だと思ったその瞬間、右足のアクセルを前回にする。地面を蹴り、道路の左側に方向転換、完璧に抜いたと思ったのだが甘かった。相手は、あの最強の風紀委員、その程度の揺さぶりは意に介さない。
獄寺の右頬を鈍痛が襲う。トンファーに押されるままに彼の体は吹き飛び、塀に叩きつけられた。
その状況を知らないビアンキの行動も悪かった。もうすぐ夜明けなので、最後に残った大量のポイズンクッキング、それらの余りを全て投げつけたのだ。道いっぱい分の大盤振る舞いの毒物で、ビアンキには向こう側の風景は見えなくなる。あれが当たったならば罰は執行完了、外れたなら試練には合格なので、結果を見ずして踵を反した。
皿の向こう側では二人の男子が血相を変えた。途端に雲雀がトンファーを高速旋回、自らの身をあっさりと守る。同様に、獄寺もダイナマイトで吹き飛ばそうとした、が、もちろんルール上持ち合わせていない。懐に手を入れ、それに気付いた後に青ざめる。回避するにはもう襲い。
「うわぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そして……意識は途絶えた。
「そういう訳です」
「そ、そうなんだ……」
沢田は一つ、嫌な予感がした。今日は雲雀の機嫌が悪そうだと。
そして思ったことは一つ…………やっぱり……。
やっぱりビアンキって怖ぇー……。
二話・完