二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.152 )
- 日時: 2012/07/03 21:29
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
「Family」
episode 14 「煙草の香と狂乱の男」
キラキラと辺りを埋め尽くす蛍光灯の色鮮やかな光。それはとても地下とは思えない空間だった。ザワザワと騒ぐ男や女。奴らがひどく滑稽に見えるのは、きっとこんな馬鹿馬鹿しい場所で悔しがったり、奇声を上げたりしているせいだろう。
「……臭い」
自然とこぼれた言葉に、ユウトは少し申し訳なさそうな顔をした。
ヒョウカは昔から、煙草の匂いが嫌いだ。わざわざ事務所内に喫煙所を設けるくらいに。
「少しの我慢を」
ユウトはそう、ヒョウカに耳打ちをした。顔を顰めるヒョウカだが、カジノを潰したいと言う想いが勝ったらしく、深い深い溜息の後にヒールを鳴らして歩き出した。
「取り敢えず、初めは普通の客を装え。ギャンブルでもしながらここの柱を見つけて、そいつに話をつける。それがとりあえずの目標だ。いいな?」
「「「はい」」」
重なった声が、ひどく勇敢に聞こえた。
* * *
「……フラッシュ」
ヒョウカはそう言って、持っていた五枚のトランプを見せびらかさんばかりに放る。
ダイヤがそろったその五枚に、あからさまに不機嫌になったのはヒョウカと同じテーブルに座っていたギャンブラーたちだった。
ヒョウカの異常な運の強さが、ここにきて発揮されている。
もともと、心臓に毛が生えているんじゃないかというほど強靭な精神の持ち主である彼女だ。こう言ったゲームに向いている。いや、向いているどころの騒ぎではない。もう独壇場状態である。
「くっそ……」
カードを叩き付けんばかりに机に放った男。ヒョウカがこのテーブルに来る前はひどく自信ありげな顔をしていたはずなのに、今は苦虫を噛み潰したような顔になっている。当然だ。ヒョウカが来てからもうこの男は六連敗。賭けられる金はゲーム開始時の五分の一だ。
「おい、お前っ」
男は鋭い視線をヒョウカに向けた。ぎらぎらと光るその瞳は金を欲するギャンブラーのそれで。
「イカサマしてんなら今のうちだぞっ、今ならその持ち金渡せば……」
そう言ってヒョウカを覗き込む男。その男の体中から煙草と強いアルコールの香りがする。ヒョウカが嫌いな、煙草の匂い。
最悪だ、と内心舌打ちをしたヒョウカ。眉間に自然に皺が寄る。
何がイカサマだ、阿呆らしい。そんなことしなくてもこのくらいのゲーム勝てるに決まっているだろう。こっちはお前らみたいな金の亡者とは違ってちゃんとした信念を持ってるんだ。おまえらなんかと一緒にするな。
そう言ってしまえればいい。が、そんなことを言えば暴動がおこる。ここで帰る羽目になるごめんだ。と、ヒョウカは唇を噛んで、出そうになる言葉を抑え込む。
「……そう思うならこのテーブルから離れればいい。それが一番いいだろう?」
ヒョウカは出来る限り冷静を装ってそう言った。眉間の皺は、どうしても消しきれなかったが。
その言葉を聴いた男の様子が一変する。両の手を握り締め、顔を真っ赤にしてぶるぶると体を震わせている。さぞ、怒り狂っているのだろう。
「お前……ふざけてんじゃねぇぞ、このアマぁアァあぁッッ!!!!」
その怒号はカジノ中に響き渡り、誰もが自らの手元やテーブルの上から目を離し、男のヒョウカを捉えた。
フィロメラとシレジアの面々は驚愕の表情である。一番問題を起こさなさそうだったヒョウカが、今、こうやって全員に注目されてしまっているのだから。
しかし、注目されようと男は怯まない。
そして、————————
男は自らの懐から、オートマチック型の銃を出し、ヒョウカにその銃口を向けた。