二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】 True liar 【inzm】 ( No.7 )
- 日時: 2012/04/05 16:00
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
風風様リクエスト
「隣を歩きたい」
「……今日で終わり、なんですね」
感傷にふけるようにそう言ってみせる。隣にいた先輩はなんだ寂しいのかと面白そうに、茶化すように言ってくる。
あぁ、そうだよ寂しいよ。そう素直に言ってしまえれば楽になるのにと狩屋は考えていた。
今日は、卒業する先輩たちの最後の部活だ。最後だから、校内戦をしようという監督の指示で今日は卒業する二年の先輩たちと在校生という校内戦。
楽しくやることと監督が笑顔で言っていたのを思い出す。松風や西園は楽しみにしていたらしいが、俺はそうもいかなかった。
はっきり言えば、寂しくて、だ。
卒業が近づいて、ただでさえ悲しくて寂しいと言うのに校内戦で締めくくるなんて泣かせる気かこの野郎という話だ。
初めて会って、いろいろあったけど、結局先輩とは仲が良くなれたし、一緒に練習してきて凄く楽しかった。
そんな時間がなくなるのが、どうしても嫌だった。
兄を慕うような感じの意味で霧野先輩が好きだった。ディフェンダーとしての実力も、周りを見て適切な行動をするその判断力も、俺にはできないものばかりで羨ましかったし、それを教わりたいと思った。
先輩と一緒なら、何処までも強くなれると思ったのに。
「たまに、練習見に来てくださいよ」
「う〜ん……時間あるかなあ」
「休みの日でいいんです。ちょっと暇だから来た程度でいいですから」
「でも、高校遠いんだよなぁ」
知ってるよそんなこと。
先輩が受けたのはかなり遠くの高校だった。倍率二倍以上という難関高校に部活推薦で一発合格。伝えに来たとき、そこを受けたと知ってひどく悲しんだのは記憶に新しい。
泣きはしなかったが。
「ホント、出来ればでいいですから」
「あぁ。強くなっとけよ?俺を驚かせるくらい」
そう言って笑う先輩。どちらかと言えば女っぽい容姿なのに、兄みたいな感覚になるのだ、これを見ていると。
桃色の髪も、大きな目も。多分高校に行ったらもてるだろうなとぼんやり考える。いや、今も十分もてているだろうけど。
そう考えていてふと視界に入った時計が集合時間の二十分前を指していた。そろそろ行った方がいいだろうと思い、
「当たり前です。ぎゃふんって言わせてやりますよ」
といいつつ部室の丸椅子から立ち上がる。
そうだなと優しい声を発しながら先輩が立ち上がる。
そして、俺の前に立って歩き出した。
あぁ、そう言えば、いつもこの人は俺の前を歩いていたなと思いだす。話す時とかは隣にいるが、こうやって歩いたり、走ったりするときはいつもこの人は俺の前を歩く。悠々と、当然のように。
年上だし、サッカーの技術の面でも俺より上だから多少は仕方ないと思う。でも。
いつまでも背中を見るのはいやだ。
出来ることなら前に行って、引っ張っていきたいが、先輩が視界に入らないのはそれもそれで嫌だから。
だから、俺は……
少し歩調を速めて先輩の隣にピタリと着き、そこで先輩と同じ歩幅、歩調、速度に合わせる。
隣がいい。
立ってみて改めてそう思った。ここなら、前でも後ろでもないから。先輩と一緒に、ホントに一緒に歩いていけるから。
年ではどうにもならないけど、他のものなら、なんとか隣までいけるかもしれない。いや、かもしれないではない。いってみせるのだ。
この隣に、居心地のいい、この場所に。
「先輩」
「どうした?」
先輩の声が隣から聞こえる。それが少し嬉しかった。
「俺、先輩と同じ高校行きます」
俺がそう言った後に、先輩は少し驚いた顔をして、自分の両腕の二の腕を掴み、
「うわ!怖っ!!なんだよストーカーかよ!!」
と盛大に勘違いをされた。
「え、ちょ!違いますよ!尊敬的な意味で!」
そう言って誤解を解こうとしどろもどろになると、笑って冗談だよと言ってくれた。あぁ、やっぱり笑ってる顔が一番いいななんて考える。
「頑張れよ。おまえの実力ならサッカーでは大丈夫だと思うけど、勉強、やばいかもだぜ?そこそこ頭もいいとこだからな」
「分かってますよ。ちゃんと頑張ります」
「おう、応援してやるよ」
頭に手を置かれ、ぐしゃぐしゃと掻き回される。慌ててうわぁと声を上げればその手は離れていった。髪はぐしゃぐしゃで、見るも無残なことになっているだろうなと思っていると視界に青い何かが入った。よく見ればそれは櫛で、しかもそれを持ってるのは先輩だった。
「……何で櫛なんか持ってんすか?」
「なんだよ、悪いかよ」
「いや、なんか女子みたいだなって」
「おっまえ、気にしてること言うな!!」
女子見たいという発言に思い切り怒られたが、気にしない。怒ってもらえるだけ信頼されていると言うか気がするから。
すいませんといいつつ、髪を直し、櫛を返せば、ぶつぶつ言いながらも受け取ってポケットにしまう先輩。
こんなやり取りを、またできるように。こんなふうに、あなたの隣を歩くために、頑張っていこうと、狩屋は心の中で誓った。